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「質問通告」は、なぜ必要? #25歳からの国会

物事を深めていく、議論を深めていく上においては、前もって質問通告していただかないと、これがどういうものであったのか、あるいは政府側がどういう答弁をしていたかということを確かめさせていただかなければ、それは答弁のしようがないわけでございます。
安倍晋三総理大臣 参議院予算委員会 平成30年3月26日

冒頭、安倍晋三総理大臣の、予算委員会での福島みずほ参院議員への答弁を紹介しました。

正確なデータは有りませんが、近年「通告がないから答えられない」というケースが増えているように感じます。

「官僚の負担」と槍玉に挙げられがちな質問通告ですが、そもそも質問通告とは何で、なぜ必要なのか皆さんはどの程度御存知でしょうか。


質問通告は、国会法に決められたルールではなく、あくまで与野党間の慣習に過ぎません。しかし、質問通告はこの数年、常に与野党間の大きなイシューとして取り上げられてきました。


質問通告の遅れが省庁にいる官僚の労働環境を悪化させているという批判は、野党批判の文脈で取り上げられることが多くあります。BuzzFeedの取材に答え(*1)、このように述べています。

すべての議員から質問通告が出揃うのは、平均で午後8時41分。もっとも早く出揃った日は午後5時50分だった一方で、もっとも遅かった日は日付が変わった午前0時半だった。
資料作成をする担当が決まったのは、平均で午後10時40分。もっとも早かった日は午後6時50分で、もっとも遅かったのが翌日午前3時だった

このような現状を踏まえて、若手官僚からは「霞が関の働き方改革を加速するための懇談会」という提言がなされています(*2)。

 

今回は、そもそも質問通告とは何か、それはどうあるべきなのかについてまとめます。

そもそも開催日程が決まらない

そもそも、日本の国会においては、本会議や委員会の開催が前日に決まることも珍しくありません。2日前に通告しようにも、開かれるのかわからないのでは物理的に難しいのが現状です。

この点は、与野党問わず様々な形で提言がなされています。新潟2区の細田健一議員(自由民主党)は、ブログで(*4)このように述べています。

国会の日程は基本的には前日まで決まりません。前日になってようやく「明日13時から本会議、所要時間2時間」というような予定が飛びこんできます。

地方議会は予め会期中の予定がきっちり決まっているため、地方議会の議員経験者の1年生議員の方々は、相当違和感があるようです。当方も、正直、前日まで日程が決まらないというのは参ります。

なぜこういう状況になるのか、というと、与党が多数を占めている衆院の下、内閣提出の予算や法案は、基本的には(衆院においては)修正が行われずに成立するという暗黙の前提があるため、野党が中身の議論よりも日程闘争に重きを置いているからです。(「予算の成立を遅らせて内閣を窮地に追い込む」というような、新聞紙上でよく見かける類のものです。)

近年の国会においては、法案成立のための日程がタイトになり、いわゆる「職権立て」(理事会の合意ではなく、委員長の職権で委員会を開催すること)が増えています。

入管法、委員会審議へ 委員長職権で決定、野党反発(*5)

衆院法務委員会は15日、外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法(入管法)改正案について、16日に審議入りすることを葉梨康弘委員長(自民)の職権で決めた。野党側は反発を強め、15日も各党国会対策委員長が成立を阻止する方針を確認した。

このような傾向も、委員会の日程が決まらなくなる要因の一つとなっています。

 日本が会期制の議会制度を採用しることで、会期末までに審議未了で廃案にすることが野党の目的になっている、という批判は当然あります。

大臣が官僚に依存している

そもそも、質問通告は森羅万象においてなされるべきなのでしょうか。そうではありません。「爆弾質問」と呼ばれるようなネタが、通告なしに飛んできて閣僚が慌てる、ということもときにはあります。

 

通告しない例としては、下記のようなものがあります。

・速報的な事柄に関する質問(朝刊の特ダネなど)
・通告するまでもなく答えられるであろう質問
・人間性・資質などに関する質問
・やり取りの中で出てきた疑問

そもそも、国会質疑というのは生き物です。全部通告して全部答えがわかっているなら、すべて質問主意書にやりとりすればよいわけです。

だからこそ、とりわけ内閣の資質を問うような質問に関しては、通告せずに質問することはおかしなことではありません。


細かい予算の細目などは当然通告しなければ答えられませんが、基本的な質問に対して「通告がないから答えられない」と答えるのは単純に大臣としてその職責を果たせないと判断されてもやむを得ないのではないでしょうか。

日本の質問通告が曖昧であることに関しては「曖昧な質問は残業を激増させる」というような批判(*7)がありますが、そもそも通告から想定問答を組み立てるのは行政の役割であり、通告をしないのもまた立法府の一つの権利です。


日本でも、期限が定まらない曖昧なやり方をやめ、質問取りという風習をなくし、答弁能力が高く、様々な専門事項に対応できる人間を大臣にするという当たり前のことを内閣が行わなければいけないのではないでしょうか。

そもそも、細かい数字の部分は別にしても、省内の方針や政府としての統一見解を理解してその場で答弁できない人間が大臣になることは、本当に正しいのでしょうか?

3. 野党があえて遅らせている?

「野党が質問通告を遅らせている」という批判も存在します。河野外務大臣は自身のブログでこのように述べています(*8)。

現在のように国務大臣が国会に貼り付けになる、しかも極端な時はその日の未明に質問通告が出され、そのために、すべての日程がそれでガラガラと変わるというのは、合理的とは言えません。
特に外国の閣僚が来日し、閣僚間の会談が設定されているにもかかわらず、質問通告があればそれを変更しなければならないというのは、外交にも影響が出てきます。
予算委員会ならば、どの省庁の予算の審議は何日に行うということを決めればそれに応じて大臣の日程を事前に確保できます。
大臣が質問通告に振り回され、行政のトップとしての仕事をする時間がきちんと事前に決められないということは、官民合わせてものすごく多くの人の時間を振り回していることになります。 

いくら日程がタイトとは言え、未明に質問通告が出るような状況は、当然野党議員にも責任の一端があるでしょう。

3つの問題

こうしてまとめてみると、大きく3つの問題がありました。

・前日に委員会開催が決まる、国会の日程制度
・官僚に依存せざるを得ない閣僚の資質
・ギリギリまで通告をしない野党

一般的には、3番が最大の要因と考えられているかもしれないが、より比重が重いのは1と2になるでしょう。 

質問通告は必要か?

 フランスでは、システマティックな質問通告制度がないため、逆に、閣僚は一般的な準備を行った上で、その範囲内で答えるしかない。そのため、時には不正確な答弁を行ってしまうこともやむをえないものと、受け止められているようです(*8)。

国立国会図書館によると(*6)、イギリスの議会制度における(クエスチョンタイムの)質問通告は、このようにあります。

質問者が与党議員の場合、質問の背景や補充質問の内容といった情報が事前に大臣側にもたらされることがしばしばある。一方、質問者が野党議員の場合、通常、大臣を窮地に陥れるために予想外の補充質問をしようとするので、大臣は内容を推測して準備を行う。

通告に関しては2日前を期限として、下院議長か事務局あてに紙・もしくはイントラネットによる提出を行うようです。

 

海外ではこれほど官僚が手取り足取り、場合によっては質問に対する返答だけではなう、質問そのものを作ってしまう状況というのは考えづらい。

野党の質問通告ばかりに文句がつくようだが、小泉進次郎議員を始めとした議会制度の改革論者は「我々は官僚の働き方改革をするために、国会答弁書については縮小する。具体的な数値に関しては通告いただきたいが、それ以外は閣僚の言葉で答弁をする」と答えればいいのではないだろうか?

 

自民党の小林史明衆院議員は、ブログでこのように述べています(*9)。

イギリスの下院では、“閣僚級”同士のクエスチョンタイムは月曜から木曜まで1時間実施されます(参照:国立国会図書館『英国における政権交代』)。
同じようなシステムをもし日本に導入したら、野党側はいまよりも専門的で、かつ実のある政策論で追及し、法案の修正や廃案を迫るようになります。当然のことながら、野党としては政権担当能力を示す方向にインセンティブが働くようになるでしょう。
これは政権側にとっても厳しいながらメリットがあります。本質論で攻められるとなれば、矢面に立つ閣僚は、付け焼刃の勉強では対応できなくなります。

小林議員が書いている通り、与野党の健全な議論のためにも、また本質的には最も官僚の負担を減らすためにも、閣僚がその言葉で語ることはとても重要ではないでしょうか。

(もっとも、そこで問題発言をすればその尻拭いをするのは官僚である、という堂々巡りの問題もありますが)

日程闘争を超えて

質問通告問題というのは、本質的には日程闘争の問題であり、それを(立法府の権限を縮小しない形で)改善しようとすると、会期制度自体、あるいは委員会中心主義自体を再考せざるを得ません。

しかし、現状の官僚への政府の負担を考えて、今の質問通告のあり方のままに国会を通年化することは、いたずらに負担を増やしてしまうことが予想されます。


河野外務大臣や、小林前総務政務官などが主張されているのも、いわゆるイギリス型議会への転換であり、それは必然的に委員会を縮小した上で本会議の権能を強化するという議論につながります。

そもそも、クエスチョンタイムの導入、政府委員制度の廃止などをこなった「国会審議活性化法」は、そのような議会制度のあり方、政治家が自分の声で語る国会の実現を目指して導入されたのではないでしょうか。 

これからどうするべきか

人手不足である霞が関に対してしっかりと予算をつけることが重要であることは間違い有りませんが、諸外国のように政党や議員のスタッフを増強し、政策立案や答弁作成の補佐をさせるという考え方もあるでしょう。

あるいは、立法府側の予算を増やし、事務局の対応能力を増やす、という手法もありうるかもしれません。


「質問通告が遅い」という事象だけを見れば野党の責任であるように見えるかもしれませんが、まずは一歩立ち止まり、国民的な合意の取れない政策や、説明不足のままに立法府を軽視する政府、答弁能力に欠ける閣僚、そして、日本の特殊な議会制度について考えてみてはいかがでしょうか。

脚注

*1 https://www.buzzfeed.com/jp/kensukeseya/parliament-answer-problem

*2 http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/jinji_hatarakikata/pdf/teigen.pdf

*4 http://hosoda-kenichi.jp/2013/05/02/580

*5 https://www.asahi.com/articles/DA3S13770764.html

*6 https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11195783_po_IB1028.pdf

*7 https://news.yahoo.co.jp/byline/murohashiyuki/20191021-00147301/

*8 https://courrier.jp/news/archives/44322/

*9 https://fumiaki-kobayashi.jp/archives/1601

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