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参議院比例区って、人気投票? #25歳からの国会

国民の皆さんかどういう参議院を望んでおられるのか、参議院で論文を公募しまして、これは相当集まりました。拝見して感動したのは、皆さんまじめに書いてくれまして、いまのままの参議院では困るよということをおっしゃりたいのだろうなとつくづく思いました。
ただ、その意見の中を見ますと、十人が十人と言っていいほど口をそろえてこうした参議院がほしいと言っているのは、党議拘束の緩和、政党化ではなくて非政党化なんです。
衆議院の場合にはこれは政党化はやむを得ないと思うんです。ところが、それに対してチェック機能の役割りを果たす場所にいる参議院が衆議院以上により完璧に政党化する形になる。拘束名簿式の場合になります。それが果たして国民が願っている方向なんだろうか。

栗林卓司参院議員
昭和56年3月27日 参議院公職選挙法改正に関する特別委員会

冒頭紹介したのは、参議院比例区が改正された際の委員会においてなされた質疑です。かつて、参議院は「全国区」と呼ばれる制度があり、それが「比例区」に変わりました。

参議院比例区は、どうしても「人気投票」だと思われがちです。全国区時代から、上位当選には有名人が多いのも事実です。

しかし、参議院比例区は全国区とは全く違うものです。本記事では、この点について記載します。

非拘束名簿式とは?

参議院比例区は、「非拘束名簿式比例代表制(特定枠を除く)」です。非拘束名簿とはなにか。そもそも、比例代表というのは政党ごとに「当選順位」を決める必要があります。

この当選順位を、「拘束」つまり、名簿を提出する時点で決めるのか、決めないのか、によって、比例代表制度は大きく分けられます。

衆議院の事例

衆議院選挙は、拘束名簿式比例代表制です。例えば、2017年の衆議院選挙を見てみましょう。

日本共産党の例
日本共産党は、全員比例代表の名簿順位が違うため、1位の笠井亮さん(比例単独)・2位の宮本徹さんの二人が比例代表で当選しています。
自由民主党の例
自由民主党は、比例代表の名簿順位1位として当選したのが、越智貴雄さん・山田美樹さん・小田原潔さん・松本文明さんの4人で、名簿順位24位の安藤高雄さん・25位の高木啓さんの二人も合わせて当選しています。
名簿1位の4人はすべて小選挙区との重複立候補で、24位以降は比例単独の候補です(小選挙区の選挙区がない)。

自民党のように、衆議院選挙においては(特殊なケースを除いて)小選挙区で出馬した人が「比例復活」出来るように、同順位にすることが通例です。

とはいっても、同順位では当然全員同じ順位なので、比例で復活するのが誰か決められませんよね。

ということで、ここで「惜敗率」という別の指標が出てきます。

惜敗率とは
小選挙区で当選しなかった候補の得票を、その選挙区の当選者の得票で割ったもの。
例わずか50票差で現職・黒岩宇洋さんに破れた2017年の斎藤洋明さんの惜敗率は【95,594票 ÷ 95,644票】 で、99.94%(史上最高)。

2009年の渡辺喜美さんが当選した選挙区では、得票数2位の候補者(自民党・民主党などの主要政党が擁立しなかったため)である斎藤克巳さんの惜敗率は【7,024 / 142,482】で惜敗率は4.93%です。

このように、惜敗率は同一順位の際に当選するものを決める「党の中の仕組み」です。惜敗率が高いからと言って必ず復活するわけでは有りません。

日本共産党のように、惜敗率に関係なく政党主導で順位を決める政党もあれば、自民党・立憲民主党など基本的に小選挙区の候補者を名簿順位1位にして、惜敗率によって復活候補を決める政党もあります。

また、自民党や立憲民主党など主要政党でも、小選挙区で出馬できなかった候補者をあえて比例代表で確実に当選する順位において、優遇するケースがあります。

参議院の非拘束名簿式とはなにか

さて、参議院の非拘束名簿式とは、この「名簿順位」がない状態だと考えていただけるとわかりやすいです。衆議院選挙は重複立候補がベースになるため、惜敗率という指標がありますが、参議院選挙では「個人名の投票」が基本になります。

政党が獲得した議席数に合わせて、その中で個人名の得票が多かった順番に当選するのが、この参議院の全国比例区です(ちなみに、比例区というのは便宜上名付けられているだけで、あくまで比例代表制であるため「区」は存在しません)

ただし、第25回参議院選挙より「特定枠」が設置されたため、特定枠に関しては、一部が拘束名簿式、ということになります。

特定枠とは
参議院の「一票の格差」をめぐり、鳥取・島根、徳島・高知の2つの県をまたいだ合同選挙区が出来たことに合わせ、自民党内から、合区で外れてしまう候補を救済するという意図のもと導入された選挙制度。
比例名簿の内最大2名を「特定枠」として指定することで、個人名の得票に関係なく上位当選させることが出来る。

制度が改正される以前の参議院の全国区とは、同じようでも全く違います。参議院の全国区はあくまで「ものすごく大きい選挙区」であって、得票数の多い上から順番に当選していきます。

一方、参議院の比例区は「政党が獲得した議席数の中の順位を決める」ために得票数があるに過ぎません。

参議院全国区
1947年の参議院発足から1980年まで、参議院選挙で設けられていた選挙区。定数100で全国どこからでも投票できる選挙区だった。広い選挙区であるため知名度が重要であるほか、選挙戦は金と体力が必要な過酷を極めるものとなった。(はがき代だけでも、優に1億円がかかった)

ちなみに第一回参議院選挙でのトップ当選者は、作家・星新一の父親である星一(ほしはじめ)候補。
史上最多の得票者は石原慎太郎候補(元東京都知事・運輸大臣)で、300万票を獲得している。

全国的な知名度が必要な選挙区で、かつ政党に紐付いた比例代表制でなかったため、現在のように組織内議員がトップ当選することも少なく、多種多様な議員を排出した。

・タレント、歌手、後の東京都知事の青島幸男候補
・太平洋戦争での失策で悪評高い「作戦の神様」辻政信候補
・元343航空隊の隊長で航空幕僚長の源田実候補
・戦前から婦人参政権運動の中核として活動した市川房枝候補
・落語家、タレントで立川流家元の立川談志候補
など、様々な経歴の候補がおり、かつ当選後も無所属として活動する議員が少なくなかった。

全国区と違い、個人名の投票がゼロでも理論上当選するときは当選しますし、個人名の投票でトップでも、落選する可能性はあります。

実際に、第25回参議院選挙では、公明党の塩田博昭候補は15,178票の個人票で当選し、れいわ新選組の山本太郎候補は(特定枠で2名の候補が当選した後ですが)991,756票の個人票を集めたにも関わらず、落選しました。


そういう意味で、タイトルの質問に答えるなら、「かつての全国区制度は人気投票であるが、参議院の比例代表制度は、人気投票ではない」という回答になります。

むしろ、全国区と違い、比例区というのは個人名の得票も政党の得票として扱われるため「政党が、個人の力を政党の得票につなげようとする」制度であると言えるでしょう。

人から党へ

参議院の全国区から比例代表制への変更、そして特定枠の設置という流れは、歴史的に見れば緑風会のような「衆議院の政党政治と関係のない、参議院の独自制を」という流れが消えていった過程と無縁では有りません。

比例代表制の導入の際には、冒頭のように「参議院は政党政治ではなく、党より人の選挙であってほしい」という声も多数あり、その結果投票率の低下が見られたことも事実です。


他方、全国を一つの選挙区とする「人気投票」はいびつな制度であり、候補者に金銭的・体力的に大きな負担をかけるものであったことも事実です(現在の参議位比例区も、負担の点では大きいものがありますが)。

ともあれ、参議位比例区は本質的に比例代表制であることを理解すれば、これが単なる人気投票ではなく、また個人票を多く獲得した議員であっても、「政党の代表として」当選したことがご理解いただけるのではないでしょうか。

参考文献

中原精一「参院比例代表制選挙とその評価」1984
堀江湛「参議院選挙制度の検証」2005

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