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ニンジャスレイヤーというBar

 ニンジャスレイヤーを今まで読んだことがない人に対してとある一編を紹介するということは、例えば、これからアルコールを嗜もうとする若者に一杯薦めることに似ているかもしれない。事実、ほんやくチームも杉ライカ先生はニンジャスレイヤーの読み味を、アルコールの飲み口に例えたのだった

さらにそれ以前に、ほんやくチームはキャラクターをカクテルに例えたこともある。

アイコンを見ての通り、私は酔っ払うことが大好きだ。これは、私の独断と偏見でニンジャスレイヤーのエピソードをアルコールに例えるものである。

初めの一杯だけに、飲みやすいものが良いかもしれない。甘くほろ苦いカルーアミルクのような「ラスト・ガール・スタンディング」? フレッシュ・オレンジジュースをたっぷり使ったワインクーラーこと「キック・アウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」? だし巻き卵を肴に日本酒を呑むように「レイジ・アゲンスト・トーフ」を読んで貰うのだっていい。焼酎によくよく潰した梅干しを混ぜてお湯をたっぷり注いだ「フィスト・ウィズ・リグレット・アンド・オハギ」も美味しいでしょう?

2部ならそう――、紅いあかいカンパリを丸氷と一緒にロックスタイルでいただく「ビガー・ケージス、ロンガー・チェインズ」ちょっと濃いよねえ。大量生産の(決して田舎のおばあちゃんが庭先に成った木の実をもいで軒先に吊るしたようなのではない)ドライフルーツをつまみながら年季の入ったウイスキーをちびちびやっつけるような「リブート、レイヴン」――これも初心者にはきつめじゃないかな? ちょっともったいないけどハイボールにしてしまおうか。「リキシャ―・ディセント・アルゴリズム」アルコールの苦みを、炭酸に痛めつけられる喉を、レモンの酸っぱさを、ここに登場するアナカさんの慟哭の味だと思って。それから、「ナイト・エニグマティック・ナイト」ならどうだろう。オリオンビールとジンジャーエールのシャンディガフなら、喉を通しやすいか。

私と一緒で1部を読んでしまってから、3部にいきなり入ってきてしまうのでもいい。あれにだってオイシイのはたくさんある。まずは陶器のビアマグ一杯のサッポロクラシックをお供に桶寿司。「ファスト・アズ・ライトニング、コールド・アズ・ウィンター」麦に米が合わないはずがない。お代わりするなら、鉄火丼にしよう。「レプリカ・ミッシングリンク」鮪をさばくのは、とっても楽しいことなのだから。

始まったばかりの第4部は、これからいくらでもこなれていく自家製の果実酒。二か月、三か月目、半年、一年、五年、十年……。ただの酒精と果実と氷砂糖だけなのに、時間を経たというだけで、それぞれに違った味わいを楽しめる。


もし、もしもでいい。今挙げたような酒、今挙げたニンジャスレイヤーのエピソードが気に入ったのなら、ぜひ読み進めて欲しい。その先には魔酒がある。「レイズ・ザ・フラッグ・オブ・ヘイトレッド」と言う魔酒が。これはアブサンだ。アルコールを嗜み始めた若者に薦めるものではない。人ひとりを狂わせるのに余りある。それでも、私はこれが大好きだ。

私は未だかつてアブサンを呑んだことはなくても、「レイズ・ザ・フラッグ・オブ・ヘイトレッド」なら読んだのだ。今でもニンジャ、デリヴァラーのことを思い出すだけで、血圧が上がる。今、こうしてタイピングするだけで目元に涙がたまる。この作文ですら、デリヴァラーことニスイ・タニグチに出会っていなければ、書いていなかった。

「それは俺の世界を変えた」と彼の科白にある。物理書籍次巻に載るはずだ。私の世界も少し変わった。このエピソードから、私にとってのニンジャスレイヤーはただのツイッターのタイムラインに時々出てくる少し面白い文章だけではなくなったのだ。

どんなに凄い話なのかと問われて、私にはただただ目を潤ませて「読んでみてくれ」と、まとめURL指し示すことしかできなくてもだ。(アブサンなのでなかなかできることでもない)

更新を心待ちにする、実況せずにはいられない、血沸き肉躍る。そんなエピソードが誰にでもあるはずだ。幸い、ニンジャスレイヤーは短編集でもある。少しでも美味そう、面白そうだと思うなら、是非とも試してほしい。例えアルコールに対して下戸であっても、ニンジャスレイヤーになら酔える。私はそう思う。