【怖い話】ゴールテープ

Iちゃんが亡くなったのは1996年の夏だった。

その年、オリンピックが開催され、日本でもテレビ中継や録画が連日放映されていた。
Iちゃんも毎日オリンピックの映像を見て、金メダルを日本人選手がとると、「すごいねぇ」とお母さんと顔を見合わせたものだった。
Iちゃんは陸上競技のゴールテープを持っている人が好きだったという。
頑張った選手の中でも特に1番の選手を讃える姿が好きだと言っていた。
Iちゃんも小さな妹を相手に、「妹ちゃん、1番でゴール、おめでとう!」と言い、折り紙で作った金メダルを妹にかけてあげる遊びをしていた。

ある時、Iちゃんは頑張っている大人を褒めてあげたら喜んでくれるんじゃないか、と思い立ち、家から長めの紐を持って、道路に出た。
普段は車1台通らない田舎の道で、案の定、道路には誰もいなかった。Iちゃんは道路の金網に紐の端を結び、もう片方を持って道路の反対側に出て車を待った。

何も通らないと思われた10分後に、1台のダンプカーがものすごいスピードで、Iちゃんの張った紐に突っ込み、Iちゃんはダンプカーに轢かれ亡くなってしまった。小学2年生の夏休みだった。

反対車線でそれを目撃していたという、Sさんはその瞬間がトラウマになっている、という。
「あの時、Iちゃんに何もできなかった無力感で、ずっとどうかなりそうなんだ。Iちゃんが持っている紐がダンプカーにかかって、Iちゃんがダンプカーの横っ腹にぶつかって、そのまま道路に落ちてしまって、っていう瞬間が頭から離れないんだよ」と事故のことを語る。
その様子はTVでも再現VTRとして放映された。

それから、「夢にIちゃんが出る」という人が続出した。驚いたことにTVの再現VTRを見た人ばかりだった。Rさんもその1人だ。「ダンプカーの横っ腹にIちゃんがぶつかって、道路に落ちて、右前輪で轢き潰されるんだ。その映像がずっと頭に残っていて、夢にまで出てくる」とRさんは話す。
ほかの人も同じような状況だという。

ところが、警察はIちゃんが轢かれた状況について、事実と異なる、という。
「Iちゃんが持って行ったのは紐は紐でも、『ゴム紐』だった。ダンプカーが前に引っ張る力と、ゴム紐が縮む力に引っ張られ、Iちゃんはダンプカーの前に踊り出て、左前輪のタイヤで轢かれてしまった」と話す。

Iちゃんの夢を見た人を多く診断した精神科医のTさんは「TVで放映された再現VTRのインパクトが強すぎて、事故の瞬間を見ていない人にも、事故を見たようなインパクトを与えてしまった」と話す。

それからしばらくして、Iちゃんの夢を見ると言っていたRさんは、Iちゃんが事故にあった道路と同じ場所で、事故に遭い、亡くなってしまった。何もない道路でRさんは急ブレーキを踏んで追突されてしまい、フロントガラスを突き破り、外に放り投げられてしまったそうだ。事故直後は意識があったが、病院に運び込まれてから意識がなくなり、しばらくして亡くなってしまった。意識があるときにRさんは「あの道路でIちゃんがゴールテープを持っているように見えた。だから、急ブレーキを踏んでしまった」と言っていたそうだ。

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