自作ステム

キーボード Advent Calendar4日目を担当します銀鮭です。

突然ですが、今のキースイッチで本当に満足していますか?

自作キーボードと言っても様々なアプローチがあります。既存の配置に満足せず基板を製造する、打鍵感に満足せず金属プレートを発注する、ProMicroに満足せずマイコンボードを自作、発光パターンを自作する……とソフトウェア、ハードウェアもしくは感触、視覚、聴覚あらゆる方面の研究が進められています。エンドゲームに辿り着いた、そういう方もいるかもしれません。

キースイッチについてはどうでしょう?

エルドラドに辿り着いたものは誰一人としていないはずです。スイッチの自作には多額の費用がかかり、個人では不可能だったからです。

歴史学者は土に埋もれた古代のスイッチを探し求め、錬金術師は合体により禁断の合成獣を作ろうとしました。

これらは大変素晴らしいアプローチであり、彼らの貢献度は計り知れません。今の文明は先人たちの金銭的な犠牲の上に成り立っているのです。

19世紀の社会哲学者でジョン・スチュアート・ミルはこう言いました。

「満足な豚より不満足なソクラテス」

キメラスイッチで満足するのもいいでしょう。否定はしません。でも皆さん、不満足なソクラテスになりたくないですか?そうです、現状に満足せず、不満感を持つのです。スイッチを探し求めているうちに、ある事実に気付くでしょう。

「do it yourself」

っていうか前置き長いですね。本題に入りましょう。

ステムを作る

光の民の間では、LEDの性能を限界まで引き出すために様々な議論が交わされています。その中の一つに、「ステムが透明ならもっと光るのに」というのがありました。

DMM.makeが提供している3Dプリント造形サービスの中に「マルチマテリアル」という素材があります。これは複数の素材を組み合わせる事により、フルカラー印刷が可能なプリンターを用いた造形方法です。素材の1つに透明なものがあり、精度が高く、値段も手が出る範囲で、それなりに頑丈です。

これらが実際にマルチマテリアルで作られたモノです。(他の方が制作したモノも混じっています)

特にぜろけー氏制作のHelixキーキャップ、ものすごい精度ですよね?これが作れるんなら、ステムだってイケる気がします。


1.  採寸する

まずは私が好きなT1スイッチのステムを取り出し、それを見て適当な三面図にします。CADソフトとかよくわからんのでフォトショです。三面図が出来たら計測です。デジタルノギスなんてなく、手元にあるのはJLCPCB発注時にもらったおまけ定規と、大学時代に授業で何故か使った三角スケールのみです。0.5mm単位までしか測れないので、目を凝らしてそれっぽい値を入力します。とにかく辛い作業ですが、ビールを飲んで誤魔化しましょう。

画像1

本当にいい加減ですね。そもそも三面図じゃなくて四面図です(そんな言葉あるんでしょうか)

2 モデリング

blenderでひたすら頑張ってモデリングです。計測した値は結構怪しいので、作りつつ、たまに目で見てそれっぽいか確認します。「それっぽい」はとても重要です。なんか作業が進んでる感じがするので。

コメント 2019-12-02 005323


2 家庭用の3Dプリンターで印刷


モデリングを終えましたが、所詮はバーチャル上の存在。現実空間に召喚してみましょう。いきなりDMM.makeに依頼してもいいのですが、家庭用の3Dプリンターで印刷するのがおすすめです。精度はそんなによくありませんが、構造的な箇所の確認には問題なく利用できます。実際、ミスがあってハウジングのフタが閉まらない状態でした。

3 いよいよ発注

試作品を発注するわけですが、DMM.makeは【手数料 + サイズ】 みたいな感じで値段が決定されます。こんなサイズでも手数料1000円がかかってしまうのです。データチェックや発送作業があるので当たり前ですね。残念ながら石油王ではないので、他のパーツと一緒に発注して手数料を少しでも浮かせます。1モデルに10個まで独立したパーツを含めることが出来るのです。誤差が出るかもしれないので2つくらいは印刷しつつ、他の8個を別ので埋めていきます。

コメント 2019-12-02 010028


マルチマテリアル用のデータ作成方法については、とりあえず下のスライドを参考にしてください。(もしかしたら別のアドカレで書くかもしれません)。stlを作った後、専用ソフトで色をつけますが単色の場合は対して苦労しないと思います。(windows専用ですが)

4 届く

1週間から2週間、最短で3日ほどで届きます。いつも通りのダンボールにいつも通りの赤い袋。どうやら折れてはいないようです。さっそくスイッチに装着し試し打ちです。1発目はメカニカルとしては失敗でした。普通のキーボードにつけても動きません。唯一動いたのは、静電容量無接点方式対応に対応した、自作の基板infinity_plus3を、静電容量"有"接点方式対応に改造したという謎のキーボードのみでした。

ようするに接点が作られてないんですね。まぁ「スイッチ」ではあるので失敗でない事は確定的に明らかでしょう。とりあえずちゃんと入った事と、壊れずに送られてきたことに安堵です。造形にあたっての最小幅以下ですからね。データチェック時点で担当者からもちろん確認が来ましたが、リスク承知で印刷をお願いしました。

5 施策を繰り返す

爪を長くしたり、真ん中の足を太くして折れにくくしたり、いろんな改良をして次の発注です。2,3個作るだけではもったいないので、いろんなステムを作っていきます。太さや長さ、突起を変えてとにかくいろいろ作ります

3回目の発注で、ようやく1種類動きました。動かなかった子も、駄犬感の参考になるので廃棄せずかわいがってあげましょう。

ありとあらゆる場所で大騒ぎして自慢しつつ、とりあえず今回動いたダブルタクタイルこと「shiny_yohane」軸を9個モデルに入れて発注します。天キーで出す為です。透明なので良く光るという意味でshinyという名前をつけました。シャイニーといえばラブライブサンシャインのマリちゃんですが、「shiny_mari」軸は残念ながら動きませんでした。

4回目の発注では、動いたshiny_yohaneを参考に、友人にプラネタリウムで試し打ちしてもらって評判の良かったshiny_rubyを改良していきます。星もキーボードもキラキラ光ってとても綺麗ですよね。ビートマニアも光ると嬉しいですし、ドラクエXでもずっとキラキラマラソンをしていた記憶があります。脱線しましたが、このままでは高すぎて流通などとても無理なので、低価格化出来るように工夫します。独立していない1パーツとして、底面の一枚板からステムを大量に生やします。私はこれを、「アンリミテッドステムワークス」と呼んでいます。嘘です今適当に考えました。比較のため、普通に10パーツだけ入れた奴も作ります

コメント 2019-12-02 012712

届いたのをみたところ、「アンリミテッドステムワークス」のほうはステムと板に分離された状態で送られてきました。ご丁寧に別々の袋に入っています。ステムが20個くらい造形されてるので、この作戦は成功かとおもいきや、不自然な位置で真ん中の軸(バネの内側に入る部分)が折れてるステムがあり、失敗です。選別したところ、何個かは使えましたが、普通に作った方が安かったです。ちなみに、その前にもこういうズルをしたことはありますが、その時は全て切り離された状態で送られてきました。調子にのって18個入れた結果断られてこういう手段になってしまったので、やっぱり悪いことはいけないんだとおもいました。(この辺担当者によって判断が異なると思います)

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ちなみに、ステム判別のため毎回刻印を入れていますが、小さすぎて基本反映されません。面と造形方向との兼ね合いによっては反映される場合があり「YohaneのYが埋まっててOhaneになってるが問題ないか?」というメールに対して「問題ないっすw」と返したらOhaneが刻印されてしまったこともあります。

造形方向、かなり大事です。

この2つ、ほぼ同じモデルですが造形方向の違いにより

「よ方向に透明」「横方向に透明」と差が出てしまいました。

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こういう風に、空間費節約のためズルしたら造形方向が変わってしまったこともありました。

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6 選別

先ほどもちょろっと出ましたが、選別、ようするに動作確認が大事です。まぁ普通のスイッチを購入したときもみなさん必ず行っているとは思います。(T1のチャタリング問題とかありましたね)。とくに3Dプリンターは射出成型より個体差が出ます。これが本当に辛い作業で、ぶっ壊れたステムを入れるとスイッチの板バネが曲がり、スイッチ自体が壊れてしまいます。入れる角度を間違えて真ん中の軸が折れたステムも発生しました。スイッチを5,6個、ステムを4つくらいは壊したような気がします。とても辛いです。まぁネジを削るとか夜通しキーキャップを磨くとかよりはマシな気はします

7 ルブする

超高精度で印刷できる3Dプリンター様と言えど、射出成型にはかないません。そのままだとちょっとザラザラした感触です。造形方向を変えて接触面の方向を透明にすればいいんでしょうが、光の民としては縦に透明は譲れません。Lube未経験だったため、遊舎工房にかけこみ「一番強いのと弱いの!!!」をお願いしました。流石に百戦錬磨の店員さん。どんな初心者にもやさしい。見事に一番ねっちょりした奴と、一番なめらかな奴を用意してくれました。こいつらを「shiny_yohane」と、何個か成功した「shiny_ruby」に塗ってテスターにセットしました。天キーで人気投票を行ったのはこの子たちです。正直なところ、lubeの知見とか全然なくあの塗り方で良かったのか全くわかりません。

8 売る

そういうわけで、天キーで販売しました。early birdと銘打っている通り、まだまだ途上段階の技術です。そんなものを1つ250円という、赤字ではあるものの、スイッチの1パーツとしては法外な値段で売り付けてしまったので若干申し訳なさを感じています。リスク承知で買ってくれた2名の方に対しては、感謝の言葉しかありません。1名についてはどなたか判明していないので、もし問題や感想等あればtwitterなりで文句を言っていただければ幸いです。なんらかの対応を行おうと思ってます。人気投票にも多くの方がご協力いただきありがとうございます。今後も開発を継続していこうと思っています。ちなみにこういう結果でした

9 今後とか

とりあえず、動いたことに大満足です。普通に試作すると、型を取ってプラスチックを流し込んで……と数万~数十万しそうな感じですが、今回は2万くらいで3種類のなんとか動くスイッチが出来ました。これって結構やばい事だと思います。テンプレートは出来たので、今後は様々なスイッチを試作出来るでしょうし、完全透明とかダブルタクタイルとか誰もやっていない事だと思います。まだまだ失敗率が高く、あの値段になってしまいましたが、3つほど思いついた改良点を試して値段を下げれればと思っています。データ公開については、正直悩んでいます。自作ステムの発展を考えると公開したほうがいいのですが、お金を出して買ってくれた方もいるなか無料で出すのもアレなので、多分数か月後に、ちょっと前のバージョンのデータとかを公開する感じになると思います。

10 ステマ

天下一キーボードわいわい会で頂いたこちらのキーボードがステムの動作確認に滅茶苦茶便利でした。机の上はステムやスイッチが転がっており、スペースはあまり取れません。3キーというのはちょうど良く、ProMicroではなく極小マイコンなのでとても省スペースです。スイッチはもちろんソケット式、最初から全部ハンダ付けしてあるのでスイッチを差すだけです。自作ステムをやりたい方がいたら、こちらのキーボードの購入を強くおすすめします。いやホントマジで便利です。イベント限定らしく、現在は手に入らないらしいですが、次入手機会があったら購入する事をおすすめします。hsgwさんありがとうございました。


この記事はLibertouchで書きました。素晴らしいメンブレンキーボードなのでおすすめです。

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