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君の顔では泣けない 君嶋彼方

「私たち(俺たち)入れ替わってる?!」男女入れ替わり作品として記憶に新しいのは映画「君の名は」だろう。「君の名は」ももちろん観に行った。映画館に足を運び、観賞し、「こうきたか」という驚きと後を引く興奮を今でも覚えている。

今あの時の興奮を上回る作品に出会った。それが君嶋彼方作「君の顔では泣けない」である。パステルカラーの可愛い表紙。その中身は私に今年1番の衝撃を与えてくれた。

以下ネタバレあり。ぜひ何も知らないまま、まずはこの本を一読して欲しいと願う。


この話の肝は何と言っても登場人物2人が「十五年間入れ替わったまま」と言うところにあるだろう。女が男になり、男が女になる。ここまではよくある話だが入れ替わったままの生活をなるべくリアルに描いている、そこがおもしろい。

主人公、坂平陸(男)は水村まなみ(女)と入れ替わる。まずおもしろいのは入れ替わったその日に水村まなみが生理だったことだ。男である坂平陸は女独特の不快感が伴う最悪な日に女になる。男女入れ替わりの定番である女の姿になった自分を鏡でじっくり観察している暇などない。こんな斬新な男女入れ替わりものがあるだろうか。

入れ替わり日を境に2人は元に戻ることはできない。問題は山ほどある。親との接し方、家庭の事情、友達との関係性、性の問題、女(男)として生きることの覚悟などなどなど。自分の身体ではなく人の身体を「借りている」という感覚。2人はお互いの情報を交換し合い、話し合い協力して生きていく。

最初は「はやく元に戻りたい」その一心だが話が進むにつれ「戻ってしまったらどうしよう」が上乗せされる。自分が自分として生きてきた年月と入れ替わった年月が同じくらいになる、と考えると当たり前の感情である。

物語は男から女になった坂平陸の視点で話が進んでいく。元男が女としての生きることの生きずらさが綴られる。だから読者である私は陸に深い共感をいだき、「わかるわかる」とうなずきながら読み進めると同時に、女でいる窮屈さが鮮明に描き出され苦しい気持ちにもなる。
一方、陸視点の話であるためまなみの心情は陸を通してでしか描かれない。陸を通して描かれるまなみは男の生活を満喫し順風満帆で充実してみえる。

性格的には男前な元女のまなみと、女々しくてまなみに頼り切りな元男の陸。(ややこしい)もともと2人ともそういう性格なのか、はたまた器が変わると変化するものなのか。陸はとにかくまなみに頼り切りだ。読者である私はもーごちゃごちゃうるさいなあ!少しはがんばれよ!なんて思ってしまう。でもそれって私が女だからなのか。

まなみにももちろん葛藤があり苦しみがある。そんなまなみ視点でのストーリーがカドブンに掲載されている。本書を読んだ人は絶対に読んで欲しい。

本書の魅力は語りきれない。ただひとつ言えるのは今年一番面白かった本だということである。

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