贈り物上手って、想像力が豊かな人なんだと思う。【#私とヨックモック 長谷川あかりさん】
ヨックモック公式noteでは、お菓子を愛する方々によるエッセイ企画「#私とヨックモック」もお届けします。
今回のゲストは、料理家/管理栄養士の長谷川あかりさんです。私生活はもちろんのこと、雑誌やテレビ番組などの撮影現場でたくさんの差し入れや贈り物のやりとりをしてきた長谷川さん。「贈り物は、もらうより贈るのが好き」と語る彼女と、お菓子の関係とは?
贈り物は、もらうより贈るのが楽しい
贈り物が好きだ。もらうほうではなくて贈るほう。
旅行先で友人を思い浮かべながら選ぶ土産物、初めてお仕事をご一緒する方に渡す小粋な手土産、大人数が集まるシーンでの気の利いた差し入れ。身近で軽やかなものから、誕生日プレゼント、結婚祝い、出産祝いといった少々気合いを要するものまで、とにかくタイミングさえあればいつでも贈り物がしたい。
どんなものを選んだら相手に喜んでもらえるだろうかと悩みながら、ああでもないこれでもないと品物を選ぶ過程が好きなのだ。
贈り物の中でも、手土産と差し入れは特に選ぶのが楽しい。渡す場所やシチュエーション、予算、人数、対象が1人であればその相手との関係性、目的。自分らしさを印象付けられる意外なチョイスでいくべきか、あえての王道できちんと感を演出すべきか……考えるべきことが山積みだからだ。山積みであればあるほど、わくわくする。
たとえば、お家にお呼ばれした場合の手土産を考えてみる。お家ということは、普段なかなか選ぶことができない冷蔵品をお渡しできる絶好のチャンス!! 焼き菓子もいいけれど、せっかくであればとっておきのケーキやシュークリーム、プリンといったリッチな生菓子をお渡ししたいところ。生菓子って、自分の生活圏内にある洋菓子屋さんでしか買うことがあまりないから、自分がもらう立場だったらかなり嬉しいのだ。
しかし、自分が考えることはたいてい他の人も同じことを考えているもの。他の来客者がいる場合、その人が自分と同じようにケーキを持ってくる可能性があるし、なんなら家主がその日食べるデザートとしてケーキを準備してくれているかもしれない。
せっかくの手土産がありがた迷惑にならないよう、当日消費の生菓子を持っていく場合にはきちんと事前に確認をしておくか、そうでなければ1日から数日間日持ちするマカロンやバターサンドといったものを選ぶ方が無難だろう。
相手の好みがある程度わかっていれば、別にお菓子にこだわらなくたっていい。お酒が好きな方であればワインやおつまみ系(瓶詰めのいくらは誰に贈っても喜ばれる)、飲まない方であればちょっと高級なボトリングティーなんかも素敵だし、既に何度かお邪魔していてお部屋の雰囲気を知っているのであればインテリアに合う花束を贈るなんていうのも粋だと思う。ああ、めちゃくちゃ楽しい。
贈り物上手はきっと想像力が豊かな人
そんな、もらうよりも贈りたい派の私だが、料理家として仕事をするようになってからは編集者さんから差し入れや手土産をいただく機会もかなり増えた。
編集者さんは、みんな贈り物上手だ。情報通だし、トレンドのキャッチも早い。これに加え気遣い上手でもあるから、こちらの状況や、その時その時の撮影内容に配慮したちょうどいい品をすっとさりげなく渡してくれる。
炊き込みごはんを炊きまくるような重たい撮影の日には旬のフルーツ、軽めのおかずが続く撮影ではちょこっとつまめる笹巻寿司や、パウンドケーキといったしっかりめのお菓子。まさに、かゆいところに手が届く絶妙なチョイス……!
余談だが、夫もかなりの贈り物上手だ。たとえば、遠方から東京にいらしたお客様には、スーツケースに入れて帰ることができるように軽くて薄い箱に入ってお手土産を選ぶそう。最悪箱からだしてバラバラにして持ち帰れるように個包装もマストである。
まあ、ここまでは私でもなんとなくイメージできるが、ビジネスシーンではある程度の“重量感”も大切になるそうで(初めて知った)、お渡しする際には「お持ち帰りやすいように軽めのものを選ばせていただきました」と必ず一言添えて渡すことで相手の気持ちに配慮することを意識しているらしい。
また会食の帰りに渡す手土産であれば、そのお客様本人が喜ぶものではなく、家で待っている家族が喜ぶものを選ぶという。遅くまで拘束してしまいご迷惑をかけたご家族へ謝罪の意味も込めて贈り物をすることで、お客様の家庭内での印象が悪くならないようにケアをする。贈り物上手な人ってきっと、想像力がとてつもなく豊かだ。勉強になります……。
困った時には頼れる存在・シガールを
手土産や差し入れを選ぶとき一番困るのは、手土産を贈る相手のことをまだよく知らない時ではないだろうか。
人となりもそう、好きなものや苦手なものもわからない、どんな生活をしていてどんな家族構成かもまだ知らない。想像力を膨らませる手がかりが少ないと、途端にどうしていいかわからなくなってしまう。
差し入れの場合には、とにかく人数がわからないと辛い! 不特定多数の大人数、それもそれぞれがいつどんな場面で食べるのかがわからないと、何を差し入れるべきか決めるのがかなり難しくなる。いつでもどこでも誰にでも喜んでもらえる品を、確実に全員に行き渡るように用意しなくては……。
こうなると、もうあれしかない。ヨックモックのシガールだ。いつだって頼りにしている、私にとっての絶対的存在。
思えば私が手土産・差し入れの文化をはじめて理解したのは、ヨックモックのシガールだった。子役をしていた頃、楽屋に来た大人の人が置いて帰る何やら高級感のある青い缶。蓋を空けるとそこには、ぴしっときれいに整列したシガールが入っていた。さくさく、バターの香りがふわり。その時初めて食べたわけではなかったけれど、楽屋で食べるシガールはいつも以上に特別感のある味わいがして、自分が少し大人になったような気がした。シガールを食べた日は、収録もより一層頑張ることができたのだ。
誰もが知っている“ヨックモック”。「老舗ブランド」「定番」の安心感は絶大だ。シガールは48本入まで売っているから、人数がわからない場合も「みなさんでどうぞ」と自信をもって差し入れることができるし、万が一余ってしまっても個包装で日持ちするから問題ない。それにシガールって、ひとつ食べたら必ずもうひとつは食べたくなる。だからきっと余らない。
私は家にシガールがあると置いてあるだけ食べたくなってしまって、いつも困っているくらいだ。軽い食べ心地で飽きがこない、この中毒性もシガールの魅力である。仕事中のちょっとつまむのにも、食後にも、小腹が空いた夜中でも、シーンを選ばずに食べられるのもいい。シガール、最強じゃないか。
そういえば、シガールには初夏限定の抹茶味があって、これがまた抜群においしかった……! 6月頃、編集者の方から「これ、期間限定なんです」と差し入れていただいて初めて食べたのだけれど、ほろ苦く香り高い抹茶の香りに驚いた。驚いて、そのまま手が止まらないずどんどん食べていたら夫にあげる前になくなったので後日すぐ差し入れ用と自宅用にひとつずつ買った。すっかり大ハマり。来年も売ってくれますように……。
ちなみにシガール以外にもお気に入りがあって、そのひとつがドゥーブル ショコラブラン。サクサクのラングドシャーにホワイトチョコレートが薄くサンドしてあるお菓子で、撮影後にコーヒーと一緒にいただくのがたまらない。
料理撮影はパズルゲームのように段取りを考えながら次々にタスクをこなす必要があるから、実は身体よりも脳が疲れる。そんな時にこの上品な甘さがダイレクトに効くのだ。ドゥーブル ショコラオレというミルクチョコレートのサンドもあるが、私は断然、ホワイトチョコレートのドゥーブル ショコラブラン派。忙しそうな友人へのちょっとした差し入れにもおすすめだ。
誰かの笑顔を思い出した時、贈り物を買える自分でいたい
以前友人から「あかりは“貢ぎ体質”だ」と言われてどきっとしたことがある。確かに、自分がほしいものを見つけるよりも友人が好きそうなものを見つけた時の方が嬉しい。昔から、特に理由はなくてもちょっとしたお菓子やら小物やらを買っては贈りを繰り返していた。確かに“貢ぎ体質”っぽい。
やり過ぎないように気をつけなくちゃと思いつつ、最近では素敵な贈り物を贈りたい時にためらいなく贈れる人生はすごく素敵な人生なんじゃないだろうかとも思うようになった。海外旅行でも、友人に似合いそうなコスメやお菓子を見つけると、つい大量に購入してしまう。
自己満足かもしれないけれど、相手の喜ぶ顔を浮かべながら贈り物を選び、これだと思うものを手に取ってお会計する瞬間がものすごく幸せなのだ。こういう消費をするために私は働いているんだとすら思える。贈り物は私の生きるモチベーションになっている。
<書いた人:長谷川あかり>
料理家、管理栄養士。1996年生まれ、埼玉県出身。子役としてデビュー後、俳優として活躍。芸能活動を休止後、大学で栄養学を学び、2022年から料理家・管理栄養士として活動を始める。著書に『つくりたくなる日々レシピ』、パーソナルムック『長谷川あかり DAILY RECIPE Vol.1』(ともに扶桑社)などがある。
<編集:小沢あや(ピース株式会社)>
#私とヨックモック その他のエッセイもお楽しみください。
(おわり)