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第6章 商談力の重要性(第二段階)

「月商100万円は、通過点」
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誰もがぶつかる大きな壁「成約に結びつかない」

アナログな人脈営業とデジタルなサイト営業を行っていると、次第に問い合わせが増えてきます。しかし、ここに第二の壁と言うべき難関が待っているのです。それが、「問い合わせがあるのに、なかなか成約に結びつかない」というものです。

これは多くの行政書士が抱える悩みです。問い合わせがあるのになかなか成約しないことは、精神的にも非常にきつく、ここで諦めてしまうケースもしばしば見られます。

この原因は何かというと、コミュニケーション能力である「商談力」の欠如です。

お客様から信頼を得て、仕事を依頼してもらう。たったこれだけのことなのですが、実際は非常に難しいものです。どうすれば成約できるかという方法は、これまであまり語られることがありませんでした。それは、ほかの営業やマーケティングの解説に比べ、非常に地味だからです。

だからといって、異業種の営業ノウハウを学んでも応用が難しい。なぜなら、行政書士の仕事は営業トークで取れるものではないからです。その結果、行政書士の商談をどうまとめればいいのかがわからないのです。

そこで、ここからはあなたの商談力を高めるための考え方とテクニックについて解説していきます。当たり前のことも解説してありますが、当たり前のことができていないから成約できていないことを肝に銘じて、ひとつひとつ実践していってください。

依頼しようとしているお客様は確実に獲得する

まずは考え方からです。行政書士の仕事は、お客様の都合に100%左右されますから、絶対に仕事が取れる方法はないのです。会社の事情で許認可を取らなくなったり、延期したりすることなど、日常茶飯事です。

ですから、「お客様の都合によって依頼が取れなかった」ことは、別に大きな問題ではありません。大切なのは、依頼しようとしているお客様を確実に獲得することです。

そして、一見矛盾するようですが、「仕事が取れなくても大丈夫」と考えてください。なぜこのような考え方をした方が良いかというと、この考え方を持つことによって余裕が生まれるからです。余裕が生まれれば成約率は自然と高まります。ですから、仮に仕事がこなくても大丈夫と思い、商談に臨んでください。

次に重要な考え方ですが、最初からうまい商談ができるかというと、答えはNOです。この商談、コミュニケーションこそ、量稽古が必要になります。たくさんの場数を踏んでこそ、コミュニケーション能力は高まっていくのです。

私も最初の面談は足が震えました。初めてお金をいただいてする相談。何を聞かれても良いように手帳にカンニングペーパーのようなものを忍ばせ、それでも出る想定外の質問に、額から汗が止まりませんでした。しかし、その次から最初の面談よりほんの少しだけ余裕が出て、さらに次の面談はという感じで、地道な成長をしていきます。

ですから、あなたも今日から少しずつ経験を積んでいけばいいんだ、最初からうまくはできないんだと考えてください。その気持ちが心の余裕をつくり、逆に成約率を高めていきます。

問い合わせの目的は、回答ではなくアポイントを取ること

電話がかかってきたとき、またはメールを受信したとき。これらの連絡はおおよその場合、相談や質問に答えてもらうためにしています。ですから、自然と電話対応やメール対応の目的が「相談や質問に答えること」になりがちです。「あなたの場合は会社がつくれる、つくれない」といったことから、「あなたの案件の場合は、これこれこういうことが答えだ」という回答です。しかし、「相談や質問に答えること」を目的にしてしまうと、仕事は取れません。では、何を目的にすれば良いのでしょうか。

答えは、「アポイントを取ること」。これに尽きます。ただ電話やメールで相談に対して、答えてしまい、それで問題が解決してしまえば、ただ便利に使われたとも思われかねません。ですから、会うことを目的にするのが正解です。

会って話をすれば、細かい見積もりや手続きの内容なども解説することができますし、何より会うことによって成約率は飛躍的に高まります。ですから、電話・メールの対応は何よりも会うことを目的にすべきなのです。

ところで、この話をすると必ず「相談は無料で行うべきか、有料で行うべきか」という議論がありますが、1000万円までは無料で構いません。無料にすることによって、本当にお金を払わない真剣でないお客様までとってしまうことになりますが、ここもトレーニングの場と考えれば問題ありません。

まずは量をこなすこと。こちらの方が優先順位が高いといえます。サイトの表記や名刺に「有料相談」を掲載してしまうと、真剣なお客様のみ獲得できる反面、どうしても反応率は下がります。また、無料相談を実施している行政書士事務所は多いので、どうしても他社比較できるサイト集客では、無料の方が高い反応率を誇ります。

また、電話やメールなどで「有料です」と伝え、すぐに支払ってくださるお客様も非常に少ないといえますので、1000万円までは無料で十分です。とはいえ、ずっと無料相談をやっていると無駄な時間も増えてしまうので、年商が2000万円、3000万円などになってきた段階で、有料のお客様のみにするというように方向性を変えていけば良いでしょう。

電話とメールの重要性

行政書士への仕事の問い合わせは、そのほとんどが電話です。ついでメールとなります。ネット営業中心に行っても、その仕事の問い合わせは電話がかけられない時間帯を除き、電話できます。これは、仕事を頼むことを前提にしているお客様は、すぐにでもいろいろと聞きたいことがあるからです。そのため、電話対応とメールの対応は極めて重要なものになります。

逆にいえば、この当たり前のことがしっかりとできれば、自ずと成約率は高まっていきます。正直、業界的な平均を見れば電話対応やメール対応のレベルは高くありません。例えば、私の事務所でもこんなエピソードがあります。ある日、仕事の問い合わせの電話が入りました。少し電話で打ち合わせたのち、今回は見送るということになりました。理由は私の事務所の料金が、予算を若干オーバーしていたからとのことです。

しかし、その数十分後、再度同じお客様から電話がありました。そして、今度は仕事をお願いしたいとのことでした。一瞬状況がわからなかった私は、思わずお客様にこうたずねました「先ほどは確か予算がオーバーということでしたが……」すると、そのお客様はこう答えたのです。「いくつか他の事務所にも問い合わせをしたのですが、どこも電話の対応がよくなかったんです。なんか仕事をやってあげている……みたいな感じで。でも、横須賀さんは対応が良かったので、ちょっと予算オーバーになっちゃいますけど、気持ちよく仕事をお願いしたいんです」

つまり、ここでわかる事実としては、しっかりとした電話対応をすれば、選ばれるということ。そして、他の事務所はまだまだこうした電話対応がおろそかだということです。ですから、あなたが新人だったとしても、しっかりとした対応をすれば仕事は来るのです。

そもそも、この電話ひとつと思われがちですが、こうしたことを大切にできないと、行政書士の仕事は大成できないと私は考えています。なぜなら、結局は近い人に仕事を頼むわけですから、紹介と口コミは重要になります。つまり、ひとりのお客様に対し、良い仕事をすれば、将来的に何百万、何千万円の仕事になる可能性もあるわけです。ですから、電話ひとつと軽視しないで、ひとつひとつの電話対応、メール対応を大切にしましょう。

電話の対応

電話の対応、まずは基本的なところから。まずは元気に明るく。行政書士事務所だからといって、堅物な対応をする必要はありません。「お電話ありがとうございます!○○事務所です」と出てください。意外とこの基本中の基本をやっていない事務所が多いといえます。基本的なことですが必ず実践してください。

また、電話口で名前や住所、電話番号などを最初から尋問のように聞かないこと。なかにはちょっと聞きたいだけという人もいれば、対応がよかったら頼もうと思っているお客様もいるのです。ですから、こういった個人情報を聞くのは最後の最後でかまいません。では、具体的なステップに入ります。

(1)お客様の相談や質問には「ざっくり答える」こと
お客様は何かしらの相談ごとを持っています。「この場合許可は取れるのか?」「手続きにはどのくらい時間がかかるのか」など、質問をかかえているからこそ電話をかけてくるわけですが、悩み事にすべてキレイに答えてしまうと、問題が解決し、手続きが要らなくなってしまう可能性もあります。もちろんそれはそれで解決ということで、良いことかもしれませんが、不十分な情報で断定的に答えてしまうのも、お客様が事故を起こしてしまう可能性を高めてしまいます。もしそうなったらリスクにもなりますので、断定するのは控えましょう。

しかし、まったく答えないでアポを取ろうとするのも営業心が見え見えで、あまりお客様にとっては気持ちの良いものではありません。

そこで、有効なのは「お客様の相談にざっくりと答える」という手法です。法律家とは思えない対応かもしれませんが、何より前述のとおり曖昧な情報で断定するのも、それはそれで法律家として考えものです。しかしながら一方で「何も答えない」というのもお客様のストレスになります。ですから、「この場合、○○だと思います」と「思います」や「おそらく」を使い、おおよその答えを伝えます。そして、「詳しいことを聞かないと、結論的なことは言えません」と伝えましょう。これで、お客様もおおよそのことがわかりますので、安心できます。まずはここが第一段階です。

(2)アポイントを提案する
次に、目的である「アポイント」を提案します。「もしよろしければ、一度お会いして詳しいお話を聞かせていただけませんか?」などと伝え、アポイントをお願いします。ここで重要なのが、いかにお客様に安心感を持っていただくかです。無理にアポイントを推し進めると、逆にお客様に逃げられてしまいます。ですから、余裕を持って「もしよろしければ……」という形で提案しましょう。

その際に、お客様の心理的ハードルになるものが2つあります。ひとつが「お金の負担」です。「もしかしたら、相談料がかかるのではないか?」と思われたら、アポイントの成約率は下がります。ですから、先に「相談料はかかりませんので、ご安心ください」と伝えることが重要です。そうすると、お客様の心理的ハードルは下がり、アポイントが取れる確率は高まります。

こうすることで、「相談料を払わなければならないんじゃないか」という心理的ハードルは下がりますが、一方でまた別の心理的ハードルが発生します。それが、もうひとつのハードル「会ったら仕事を頼まなければならないのではないか?」というものです。

これは日本人特有かもしれませんが、「わざわざ時間をつくってもらったのだから、頼まないと悪い」と思う心理は誰でもあるものです。そのため、「そうなるのは本望ではないから、それなら最初から会わないでおこう」と考えてしまうことがあるのです。

そこで、このハードルに対しては「お会いしたからと言って、依頼をしなければならないわけではありませんので、お気軽にお越しください」と一言足しておくと良いでしょう。これによって、さらにアポイントの確率を高めることができます。

そして最後にダメ押しとして、「当日までに資料などもご用意しておきますので、いかがでしょうか」と付け加えましょう。ここまですると「そこまでしてくれるなら、お金もかからないしリスクもないので、行ってみようかな」というようになります。

この流れができるようになると、アポイントを取れる確率は非常に高くなりますので、ぜひ少しずつ実践してください。

(3)具体的な日時、場所を指定する
日時については、お客様の都合を聞き、自分自身の予定と調整すれば、特に解説することはありません。ひとつポイントとしては、場所です。場所は、基本的には「お客様のご指定の場所に伺います」というスタンスが良いでしょう。いきなり事務所に来てもらえますか? だと横柄に感じる人もいます。ですので、まずはお客様優先にします。自宅兼事務所の場合などは、この方法で良いでしょう。そうすれば場所に困ることもないですし、またお客様の満足度も高まります。

ちょっと考えたいのが、事務所を構えている場合です。この場合、できれば事務所にきてもらう方向も考えたいところです。なぜなら、移動する時間というのはあまり生産的ではなく、かつ疲労も蓄積してしまうもの。ですから、できる限り自分の事務所がある場合には、事務所に来てもらうことも視野にいれます。この場合には、「お客様のご指定の場所に伺いますが、もちろん弊所でもかまいません」と伝え、その上で「弊所の方が資料などもありますし、より良いお話ができるかと思いますが……」と軽めの交渉をしてみましょう。ポイントは、「お客様にメリットがあるから、弊社で打ち合わせを行う」ということです。

これは開業後、仕事が増えてきたあともできるだけ実践してほしい事柄のひとつです。なぜなら、行政書士にとって最大の時間リスクは「移動」だからです。役所に行き、お客様のところに行き……を繰り返しているとそのほかのことに時間を取ることができません。ですから、できる限り「来てもらうこと」がメリットに感じるような提案を心がけましょう。

メールの対応

電話に次いで重要なのがメールの対応。インターネット時代に突入したとはいえ、まだまだ電話対応の方に重きが置かれますが、メールでも当然問い合わせはきますので、きちんとした対応が必要です。

メールの目的も「アポイントを取ること」になりますが、それ以前にメールマナーを覚えることがまず先決です。基本的なルールさえできていない人が多いといえますので、メールはテキスト形式で送る、1行は30~40字で改行する、「前略~」のような前文は省いて良いなどのメールマナーは徹底しましょう。手元に1冊、メールマナーの本を置いておくと便利ですので、市販されているメール文例集などを購入しておくことをお勧めします。

なお、文体のテクニック的なことを付け加えると、漢字の比率を若干落とすと良いでしょう。ただでさえ専門用語がある業界ですから、「この度は」や「有り難う御座います」まで漢字にしてしまうと、非常に窮屈な印象を与えてしまいます。ですから、知性が落ちない程度に、漢字の比率を若干落としてください。

さて、メール対応の本題ですが、メールもアポイントを取ることが目的です。ですから、ただ来た相談に丁寧に答えるだけが正解ではありません。基本的には電話対応と同じく、ざっくり答えて会うことを提案することになります。

ここで気を付けてほしいのが、電話と違いメールでは一度にたくさんの用件を詰め込まないことです。電話と同じ要素をそのまま全て入れてしまうと、ただちょっと相談したかっただけなのに、日時や場所などを指定して会いませんかという提案をされてしまうと、お客様によっては引いてしまいます。ですから、メールでは細かいやりとりを数多くこなしてください。具体的には、次の通りです。

○1通目
はじめてメールをいただいたあとの返信です。まずは質問にざっくり答えて、「もしよろしければ一度お会いしませんか」とだけ提案をします。日時の指定などは後です。

○2通目
最初のメールに返信が来て、「会いたい」とアポイントの了承をいただいたら、次は日時と場所の指定です。この際、必ず日時は3つ以上候補を挙げましょう。日時がひとつですと、その日が開けられない場合、もう一度メールのやりとりをしなければなりません。これを繰り返してしまうと、「要領が悪い人だ」と見切りを付けられてしまう可能性があります。ですから、必ず3つ以上、打ち合わせの候補日時を掲載しましょう。

次に場所ですが、これも電話のときと同じく、まずは「お客様の指定の場所に伺います」と伝える。自宅兼事務所の場合はこれで構いません。事務所がある場合には、「お客様の指定の場所に伺いますが、もちろん弊所でも可能です」と伝える。そしてお客様の返信を待ちます。

○3通目
日時と場所が決まりましたら、最後にこちらの連絡先と待ち合わせ場所の地図を送ります。グーグルマップなど、比較的多くの人が使い地図のリンクをメール内に貼れば良いでしょう。この段階で、あなたの携帯電話の番号を伝えておくと、お互い安心です。さらに、成約率を高めるために相談内容も事前に聞いておきましょう。専門家といえども、突然イレギュラーな相談をされては対応できないことがありますし、そもそも全く専門が違うことがあります。例えば、会社の設立の打ち合わせであっても、節税の相談をされることは多くありますし、事前に聞いておくことが重要です。そうすれば、税理士に同席してもらうこともできますし、お客様の満足度も高めることができます。

なお、事前に相談内容を聞く際に気を付けたいのが、あくまでお客様にとって良いことであるから、事前に聞いているというスタンスを崩さないことです。特に開業間もない場合は、事前に聞いておいた方が安心という点もありますが、あくまでもお客様にとってメリットのある提案に見えるようにしましょう。

具体的には「当日の打ち合わせがスムーズになりますよう、もし現時点でご相談内容がお決まりでしたら、事前にお知らせいただけますと幸いです」と記載することです。そうすることによって、お客様も抵抗なく相談内容を知らせることができます。

そのほかのメールテクニックとしては、もしお客様の情報が少しでも分かった場合には、その情報に触れる、というものがあります。

仕事のメールですが、仕事だけではちょっと寂しいと思うのが人間です。ですから、お客様の住所地が分かり、自分がその土地に行ったことがあれば、行ったことがありますと伝えるなど、仕事以外のコミュニケーションも成約率を高めるためには有効です。

そして、必ず最後に「発展を願う言葉」を入れてください。「以上」などとドライに締めてしまう方もいますが、気持ちが伝わりません。「このご縁が良いものになりますよう、願っております」など、相手が少し優しい気持ちになるような最後の一文を入れてください。

最後に署名です。メールソフトにはほぼ間違いなく「署名機能」というものがついています。この署名機能を使い、自分自身の名前、事務所名、住所、電話番号、FAX番号などを記載し、すぐに連絡ができるようにしてください。

過去あなたが送ったメールを見て、連絡をするというケースに備えての準備ですが、そもそも今では署名を付けるのが一般的なマナーです。ですから、忘れずに署名を付けましょう。

ところで、メールで来た連絡については、原則としてメールで返すのが基本です。また、メールに対して電話で追いかけるように話してしまうと、営業電話のように思われてしまい、成約率が下がることがあります。ですから、基本的にはメールにはメールです。しかし、お客様のメール文面から明らかに「急ぎの案件」であることがわかる場合には、電話をしてしまっても構いません。「メールを拝見させていただきましたが、お急ぎのようでしたので、お電話差し上げました」と一言お伝えすれば十分でしょう。この場合は、逆に電話してしまうことで、成約率が高まります。

実際に会ったときの商談のポイント

次に実際会ったときの商談のポイントを解説します。まずはメンタル的なものからですが、100%決まる商談は存在しません。気楽に臨んでください。ダメでも次があります。余裕を持って臨むことが重要です。

そして実際の面談の際ですが、ポイントとなるのは次の5つ。

(1)段取り、(2)専門用語を使わない、(3)決定権をお客様に渡す、(4)業務以外の話題に触れる、(5)魔法のファイナルクエスチョンをするの5点です。順に解説していきましょう。

(1)段取りを行う
仕事柄、私は多くの行政書士の商談を見て来ましたが、多くの場合この段取りができていません。なんとなく天気の話から、政治経済の話などをし、なんとなく本題に入る、というのが多くの流れです。しかし、相手は行政書士事務所に来て、何もわからないのです。つまり、緊張し、不安になっています。これからいったいどんな話になるのか、何をする必要があるのかなど、今からの小さな未来に緊張しているのです。

ですから、段取りを告げます。今日はこういう打ち合わせ内容で、このくらいの時間がかかります、とこの程度の事でもお客様は安心してくださるものです。具体的には次のような形です。

まずはお礼を伝えます。意外とこのお礼を伝える、ということを忘れてしまう方がいますが、貴重な時間を取っていただいたのですから、必ず最初に「本日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます」と伝えましょう。それから具体的に打ち合わせの内容を伝えます。私の場合、会社の設立手続きがほとんどなので、次のように伝えます。

「本日はお忙しい中ありがとうございます。今日の打ち合わせですが、まずはお客様の会社設立の経緯をお聞かせください。その上で設立が最適がどうか判断させていただきます。次に具体的な手続きの内容と、弊所サービスについてお話させていただきます。最後にご不明な点を聞いていただき、お見積もりを提示させていただきます。お時間は30分から1時間ほどです。では、よろしくお願いいたします」

おおよそこのような形です。状況に応じて形式が変わることはありますが、要素としては、①おおよその流れ、②かかる時間を伝えることが重要です。こうすることによって、お客様は打ち合わせのゴールが見えるようになり、安心して聞くことができます。

ところで、段取りが重要とお伝えしましたが、雑談をしてはらないという意味ではありません。お客様の緊張をほぐすいわゆるアイスブレイク的な意味合いでも、雑談は必要なものです。ですから、状況に応じてこの雑談もうまく取り入れていくことがポイントになります。

(2)専門用語を避ける
実際に具体的な解説をしている際、気を付けてほしいのが「できる限り専門用語使わない」ということです。専門用語を多用すると、お客様は何を言っているか理解できないことがあります。せっかく勉強して、専門知識を披露したい気持ちもわかりますが、そもそも難しいことをわかりやすく伝えるのが専門家。できる限り専門用語は使わないようにしましょう。

「理解できない」「通じない」というのが、専門用語をできるだけつかってほしくないひとつの理由ですが、もうひとつ重要な理由があります。それは、人は「わかったふりをする」ということです。特に経営者となれば、ある程度のプライドは持っています。素直にわからないことをわからないと言える人は限られています。そのため、多少わからなくてもわかったふりをしてしまうことがあります。そうすると、手続きについて理解しないまま話を進めることになり、結果として成約の時に「もう少し考えさせてくれ」となってしまうわけです。人はわからない契約に印鑑は押せません。ですから、このもうひとつの意味でもわかりやすく伝えましょう。

このわかりやすい言葉遣いに加えて、さらに「聞きやすい環境づくり」も有効です。聞きやすい環境であれば、わからないことも素直に聞けるもの。ですから、できる限り何でも聞ける雰囲気にしましょう。

方法としては、次のような2つの方法があります。ひとつは本題に入る前に「もし何か分からないことなどありましたら、途中でもかまいませんので、おたずねください。不明なまま手続きに入ってしまうと、事故になる可能性がありますので、小さなことでもかまいませんので、何でも聞いてください」と聞かないことの危険性を伝える方法。もうひとつは「わからないことがあったら何でも聞いてくださいね。私も今ではこうして行政書士していますが、最初は何もわからなかったものです。ですから、些細なことでも気になったらおたずねください」と質問することのハードルを下げる方法。このどちらかを伝えれば、おおよその場合たずねやすい雰囲気になります。

(3)決定権をお客様に渡す
おおよその商談が終わりましたら、見積もりを提示し、詰めに入ります。この際に重要なのが、成約を迫らないことです。成約は迫れば迫るほど、その確率が落ちます。ですから、お客様に依頼決定権を渡すことが重要です。

具体的には、「本日はありがとうございました。いろいろとご検討されることもあるかと思いますので、もしご依頼が決まりましたらご連絡ください」と伝えます。一見、ここまで話したのだから成約を請求した方が良さそうに見えますが、この「決定権をお客様に渡す」というのが非常に重要なポイントです。

わかりやすくするためにひとつ例を挙げましょう。あなたがアパレルショップで洋服を選んでいたとします。1着のシャツをあなたは気に入りました。サイズもちょうどいいし、デザインも気に入った。その際、ショップの店員に「このシャツとてもお客様に似合うと思いますが、いかがでしょう」と改めてその気に入った服を勧められたらどうでしょうか?

買うと決めていても、なぜか推し進められたような気がして、買う気が失せてしまうことがあると思います。このように、「購買」に関しては、誰もが「自分で決めたい」ものなのです。

したがって、行政書士の成約もお客様に決めていただく、これが最も成約率が高い方法です。お客様に決定を委ねるのは勇気が要ります。しかし、さまざまな手法を試した結果、私の経験から言わせていただくとこの決定権を渡してしまうことが最も成約率が高い結果となりました。もちろんその時点ですぐ頼みたいと思っているお客様は「いやいや、もうすぐお願いします」となりますので、慌てることなく、決定権をお客様に委ねましょう。

この時に重要となるのが、「事務所案内」です。事務所案内を持たない行政書士事務所も多数ありますが、普通の会社がやっていることをしないことは、信用の失墜になります。ですから、事務所案内を必ずつくり、見積もり書とともに渡してください。

事務所案内の内容として重要なのは、ホームページに掲載する情報とほぼ同じと考えて構いません。あなたのプロフィール、お客様の声、提携専門家の声、よくある質問などを掲載しておくと良いでしょう。その他には、手続きの流れ、報酬額、税額、事務所の地図、もしあればマスコミ掲載実績などを掲載しておきます。

仮にその場では決まらず、一度検討のため帰ったとしても、この事務所案内を渡し、お客様に読んでいただくことで成約率は高まります。この事務所案内まで、手を抜かずに実践しましょう。

(4)業務以外の話をする
さて、これまで業務を取るための商談について解説してきましたが、業務だけの打ち合わせですと無味乾燥してしまうものです。ですから、その他の話もするようにしましょう。

お客様が法人の場合、特に経営者・起業家の場合には、私はお客様のビジネスについて必ずといっていいほど聞きます。単純に興味本位というところもありますが、自分自身がやってきたビジネス、あるいは温めて来たビジネスについて尋ねられるのは私も嬉しいですし、お客様もうれしいはず、と考え実践しています。

特に創業時の話などは単純に勉強になりますし、話しているお客様も高揚されます。結果として成約率も高まるのです。

これに対して、相続や民事法務など、相手が個人の場合に重要なのが「承認」です。つまり、相手を理解する、共感するということです。

相続や遺言、民事法務のお客様は一部の定型業務を除き、苦労されたり悩まれたりして、事務所を訪れます。ですから、ただ業務、法律の話だけしてしまうと、「わかってくれない」と思ってしまうものです。そのため、「大変でしたね」や「ご苦労されたんですね」などのねぎらいの言葉が重要になってくるのです。

時に、業務以外の話で盛り上がってしまう場合もありますが、相続や民事法務の場合、お客様のプライベートな人生に一部踏み込むことがあります。そう考えれば、そうした話を聞くのも仕事です。私自身、何度もお客様の愚痴や身の上話などを聞いたことがありますが、そもそも数いる行政書士の中で自分を頼ってくれているのですから、面倒などとは言語道断です。もちろん時間の長さには限度があるかと思いますが、それでも可能な限り大きな承認をするようにしましょう。

なお、経営者や起業家の中には、特に話が好きな方が多いといえます。ですから、なかなか具体的な商談の中身に入れないことがありますが、その際でもなるべく聞くようにしましょう。話し好きにとっては、話を遮られることはストレスです。気分が良くないのに、仕事を頼んだりしません。話が切れるうまいタイミングを待って、気持ちよく依頼してもらいましょう。

ちなみに、行政書士の場合、普段はひとりで仕事をすることが多いので、逆に人に会ったときに話せることがうれしく、必要以上に話してしまう傾向があります。実のある内容だったとしても、一方的に話されるのはあまり心地よいものではありませんので、自覚のない方は気を付けましょう。

(5)魔法のファイナルクエスチョンをする
段取りを話し、業務の話を終え、見積もりを提示して事務所案内も渡した。そしてそのほかの話題でも盛り上がった。ここで最後のポイントです。最後に必ずこの質問をお客様に聞いてください。

それは、「最後に何か気になることはありますか?」という質問です。よく「何か質問はありますか?」と聞くパターンがありますが、専門家を前に堂々と質問できる人は少ないものです。「こんなこと聞いてもいいのだろうか?」「これって質問になるのか?」さまざまなことを考えて「やっぱり辞めておこう」となることもしばしばあります。

しかし、これに対して「最後に何か気になることはありますか?」と聞くと、本当に気になることを教えてくれます。「予算が少しオーバーしているのですが……」や「納期には間に合いますか?」などの本当に「気になること」が出てきます。これは、心配事に近いものです。「質問は?」とストレートに聞かれてしまうと、人は「ちゃんとした質問」を考えます。それが形にならないとなかなか質問しにくいものです。

ですから、「気になることはありますか?」と聞くことで、本当に不安点が出てきます。これを最後に解消させれば、かなり高い成約率になると言えるでしょう。

お客様との打ち合わせが終わったら、その日のうちにできるだけお礼メールを出しましょう。何らかの理由で当日メールが送れない場合には、翌日の早朝に送ります。こうしたフォローも極めて重要です。そして、お客様から正式に依頼の連絡が来ましたら、後日必要な書類や印鑑などを指定し、本題の手続きに入っていきます。

もし1週間経ってもお客様から返事がなかった場合には、必ず1週間後を目安に「あれから1週間経ちましたが、その後いかがでしょうか? こちらとしてはいつでも大丈夫ですので、ご連絡いただけましたら幸いです」と一言だけメールで送っておきましょう。

ポイントは、どんな形であれ、最後は自分が送った形にするのがベストです。私の場合、音沙汰がなくても1週間後にはこの「追っかけメール」を送ります。これを送っておいたあと、数か月後依頼になるケースもあるのです。

例えば、極端な例ですが1週間後追っかけメールを送ったまま、音沙汰のないお客様がいらっしゃいました。もしかしたら何か状況が変わって、依頼しなくなったか別の事務所に行ったのかといろいろ想像しましたが、一向にメールはこない。まあこんなこともあるかと他の仕事をしていた3か月後。そのお客様から依頼のメールがありました。事情を伺うと、急病で入院することになってしまったとのこと。退院したあとに、きちんと追っかけメールが来ていたので、安心したとそのお客様はおっしゃっていました。

ちょっと極端な例ですが、こういったこともあるのです。ですから、必ずあなたから追っかけメールを出したというのが最後になるよう、心がけてください。

このような形で商談をつくっていけば、おおよその場合成約につながるケースが多い、というのが私の経験上の結論です。とはいえ、前述の例のように、お客様によっては延期したり、アクシデントが起こったりしますので、その場合は達観するしかありません。その場合はあれこれ考えるより、次の営業を考えましょう。こうした切り替えの速さも、行政書士にとっては重要なことです。

契約書を交わすかどうか

商談の際に、ひとつ気になる点としては業務の依頼受ける際に、「行政書士として業務を受けることの契約書を交わすかどうか」というものがあります。税理士の場合などは、顧問契約書を交わすことがありますので、行政書士の場合はどうなんだろうか? という疑問です。

結論から言えば、仕事が取れるかどうか心配な方は、簡単な業務委託契約書を作成するのが良いでしょう。例えば、「甲は乙に建設業許可申請に関する一切の業務を委託する」などと書いた簡易なものを用意しておけば十分でしょう。

入金前金主義と中間報告

具体的に依頼を受ける連絡をいただいたら、必ず実践してほしいのがこの「前金主義」です。

完全後払い主義の行政書士もいますが、できるだけ先にもらうのがベストです。なぜなら、手続きによっては「印紙代」という税金が発生するものがあり、場合によっては非常に高額になります。この部分を立て替えてしまうのは非常にリスクです。

ですから、最低でもこの印紙代だけは先にもらう必要があります。また、お客様の状況によって、手続きが延期することはよくあることです。その際に、あなた自身の事務所のランニングコストは待ってくれません。先にお金をいただくクセをつければ、お金が先に入る流れができ、経営のリスクも軽減できます。

お客様によっては、「他の事務所は後払いだった!」と言う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ここは堂々と「他の事務所様のことはわかりませんが、弊社は前払いで行っております。何か問題がなければ前払いでお願いしたいと考えておりますが、いかがでしょうか」と伝えてください。私の場合は、「ご入金をもって正式なご依頼とさせていただいております」と伝えています。このように堂々を前払いでいただく習慣をつけることが重要です。

そして、いざ手続きに入ったら、中間報告をこまめにすること。特に、手続きによってはお客様の目に見える成果物が「紙数枚」ということもありますので、今日は何をした、どこへ行ったというのを適宜メールなどで伝えることが重要です。

最後に、手続きが終わったとき。仕事の内容によっては、書類を郵送でお客様の元に送って終わりというようにできてしまう仕事もありますが、できる限り最後は面談で書類を渡しましょう。なぜなら「終わりよければ全て良し」の言葉のとおり、最後に郵送で済ませると「最後軽くあしらわれた感」が残ってしまうからです。経験上ですが、最後にきちんと時間を取ってお客様と話をすることによって、リピート率、紹介率が上がります。

このように、最後まで気を抜かずに対応することが仕事を増やしていくポイントです。

なお、言うまでもありませんが、依頼が取れたときには「依頼ありがとうございます」のメール。入金いただいたときには入金お礼のメール。すべての業務が終わったときにも「この度は依頼いただきましてありがとうございました」のメールを出しましょう。最後の最後まで良い印象を残すことが、仕事を人脈から広げていく重要なポイントになります。

※掲載されている内容は、作品の執筆年代・執筆された状況を考慮し、書籍販売当時のまま掲載しています。

本書「行列のできる行政書士事務所の作り方」は、当初「Marketing Grip」と改題し、POWERCONTENTSPUBLISHINGより加筆編集の上再出版される予定でしたが、現在の刊行が未定となったため、現在は横須賀輝尚オンラインサロン四谷会議でその改変原稿を読むことが可能になっております。

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四谷会議は横須賀輝尚が考えていることの公開と実践と結果、検証、問題勃発などを一番近くで見られるところです。リアルタイムの舞台裏とでもいいましょうか。そのうえで考える力を身に付けてもらえるよう、毎日記事を投稿しています。コンセプトはGet "Think more."です。


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