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もう、資格だけでは食べていけない

「資格起業家」は、進化する。
2011年、すばる舎より刊行された「もう、資格だけでは食べていけない」を全文無料公開中。「資格起業家になる!成功する『超高収益ビジネスモデル』のつくり方」(日本実業出版社)の続編として執筆された。2019年、全文無料公開。

「もう、資格だけでは食べていけない」は本記事ですべて読むことが可能ですが、書籍でも販売しています。手元に置き、書籍として読みたい場合は、こちらからお買い求めください。

もう、資格だけでは食べていけない?
それとも、まだまだ資格で食べられる?

正解はどっち?
正解は……

どちらも正解。

ただし、正確に言えば

「資格だけでは食べていけない時代がそう遠くない将来やってきます。
今から対策が必要です」

「まだまだ資格で食べられますが、世の中のほとんどの士業が、仕事の取り方を間違えています」

です。

では、どうしたらいいのか?

その答えが本書にあります!

はじめに

「本当に仕事が取れました! 資格起業家メソッドのとおりにやっただけなんです!」

私は、こういう感想を読者の方やコンサルティングのお客様から聞くことが、本当に何よりの楽しみです。努力をすれば必ず成功できます。しかし、その一方で世の中、士業で同じように努力をしている人は多数いますが、成功する人と成功できない人がいるのも事実です。

あなたの周りの士業でもいませんか? バタバタしている割にはあまり売上が伸びていなさそうな事務所。それとは正反対に、スマートに売上を伸ばしている事務所。この違いはいったい何なのでしょうか?

本書では、その違いを明らかにし、士業ビジネスの「真実」と「本当に結果が出る経営方法」を伝えることを目的にしています。最初はもっとオブラートに包んで解説しようと考えていたのですが、止めました。本書では劇薬のように、無駄なものを省き、すぐに結果が出ることのみを解説しています。

なぜかというと、ある意味個人的な事情なのですが、世の中には本当に間違った士業・資格業のノウハウ本や開業指南書、ビジネス系セミナーが乱立しているからです。もちろん真っ当なことを伝えている人もいることにはいるのですが、偽者やまがいもののノウハウも多く、正直うんざりしていました。そこで、もう本当のことを言おうよ、と。そんな経緯で、本書は世の中に出ることになりました。

『もう、資格だけでは食べていけない』これが本書のタイトルですが、正確に言うと「もうすぐ、資格だけでは食べていけない時代が来ます」というのが真実です。私自身が士業ビジネス経営者として8年実践し、そしてこの直近の4年間、1000名を超える同業者の方たちと情報交換したり、相談を受けてきたりした結果、現在の士業ビジネスの本当の姿と、今後の流れが見えてきました。

今はまだ、資格だけでも何とかなる可能性があります。しかし、いずれ近い将来、資格だけでは食べていけない時代がやって来ます。私は、すでに2006年に「このままでは多くの士業が食べていけなくなる」と感じ、『資格起業家になる! 成功する超高収益ビジネスモデルのつくりかた』(日本実業出版社)を出版しました。士業の新しい経営スタイルとして、「資格起業家メソッド」という方法を提唱し、基本的なことは、この本で解説したつもりです。また、各士業独自の成功法については、著者・監修者として『行列のできる行政書士事務所の作り方』(ぱる出版)をはじめとした、「行列ができるシリーズ」で伝えています。

このように、私としては正しい情報を世の中に送っているつもりなのですが、まだまだ正しくない方法を、実際に士業をやったこともないコンサルタントがわかったような顔で解説していたりして、前述のとおり正直うんざりしてきたのです。そこで、本書を通じて、士業ビジネスの「真実」と「本当に結果が出る方法」を解説することに決意したのです。

本書では、23歳でまったくのゼロから独立開業し、年収1000万円超を実現した私の実体験を中心に次のことを解説します。

・社会人経験なし、人脈なし、資金なしから年収1000万円以上のビジネスモデルをつくる方法
・行政書士などのスポット(単発)業務が多い士業が、安定的収益を出す方法
・積極的に攻めて「待ち」の資格業にならない方法

そしてさらに、「お金をいただきながら、士業の営業ができてしまう方法」もお伝えします。お金を払って広告を出すのではなく、「お金をもらいながら」営業ができる方法です。

これらの方法は、決して難しいものではありません。注意すべきポイントはたったの3つです。
①資格業の客層にあった1段階目のビジネスをつくる
②結果的に、資格業の仕事も受ける
③同時に、紹介で業務受注と顧問契約を増やす
 基本的にはたったこれだけなのです。

本書の方法は、少しずつ士業業界に浸透していますが、まだまだ業界的には革新的な方法とされています。ただ、数年先には間違いなくこれがスタンダードになります。「まだ資格起業家じゃないの?」と言われる時代が必ず来ます。

その理由を、まずは第1章から明らかにしていきましょう。

第1章「資格起業家」で新しい時代を生き抜こう!

士業で成功するには、まずは士業の業界が今どのようになっているのか、これを知っておくべきです。

士業だけではなくどのような業界でも、事前にリサーチせずに戦いを挑むのは、丸腰で戦いの場に向かうようなもの。今、士業の業界でどのような業務が流行しているのか、報酬の相場はどうなっているのか、こうしたことを事前に調べておきましょう。

すでに開業している人も、もう一度若い年代の士業が何をしているのかなど、あらためて業界を調べておくべきです。20代の士業は増えています。こういった年代は、インターネットに関することをはじめとして、非常に嗅覚が鋭い世代です。彼らのことを知ると同時に、大きな器で学ぶ姿勢を身につけましょう。

開業や経営が失敗してしまう大きな原因の1つが、このリサーチ不足です。いわゆる士業の開業本から得た情報で、例えばAという業務が20万円の相場だと思い込んでいたら、実際は価格競争によって5万円になっていた、というのはよくあることです。本当に、価格の相場は数年で変わりますし、地域によってもまったく変わってきます。例えば東京でも、23区と東京都下では価格に大きな違いがあります。

実際のところ、本などに出ている情報はごく表面的なものに過ぎず、今この瞬間にも業界は動いているのです。

私も開業した当初、このような考えからとにかく行政書士という業界を知らなくては話にならないと考え、多数の行政書士に取材をし業界についてリサーチしました。私は東京都の調布市という場所で開業しましたが、調布以外のさまざまな行政書士にも直接会いに行き、その結果いくつかの事実を把握しました。

それは、行政書士で成功している人が現実に多数いること、実際の業務は紹介で来ることが極めて多いこと、業務価格が徐々に落ちていること、そして業界全体がネットに弱いという事実などです。これらを踏まえたうえで、ビジネス戦略を考えてきました。後述しますが、最初にインターネット(特にビジネスブログ)に特化したコンサルタントを目指したのも、このリサーチを元にしたからです。このときのリサーチの結果が、私の事務所経営戦略の原点になっています。

では、まず2011年現在、最新版の士業業界の状況について解説しましょう。

これから業界の真実をお話ししていきますが、悲観的になることはありません。まずはあくまで冷静に、客観的に事実を知ってください。

士業全体は、今もっともつらい状況にある ~崩壊した価格~
結論から言えば、士業業界は今、史上もっとも苦しい状況にあります。

過去には、「開業すればそれだけで儲かる」という時代も確かにありましたが、現在はまったくそういった状況にはありません。もし、今でも「年収ウン百万円は堅い資格である」などと士業の年収を解説している資格図鑑のような本があれば、相当な時代遅れか、士業の業界を知らない人がつくっていると断言できるでしょう。辛辣なようですが、現場を知っている者だからわかる事実です。

では、現在の業界事情をより正確に捉えるために、まずはこれまでの士業の歴史を整理してみましょう。

前世紀、資格によっては報酬額が法律で決まっていたものもあるなど、士業業界には価格競争がほとんどありませんでした。ほかの業界では当たり前である「相見積もり」のような値段比較の習慣も、まったくと言ってよいほどありませんでした。繰り返しになりますが、かつて士業は「資格を取れば仕事が来る」状況だったのです。

では、なぜこの夢のような状況が実在したのでしょうか?

それは、現在と違い、お客様が士業の情報を手に入れることが難しかったからです。例えば、インターネットがなかった時代には、必要に迫られて専門職を探そうした場合、知り合いに頼る傾向が非常に強くありました。それしか方法がなかったのです。どうしても人づてで探せない場合には、ほかにはタウンページなどで探すぐらいかしか手段がなかった、とさえ言えます。

つまり、少ない情報のなかから、クライアント側が必死で士業を探す必要があったわけです。ですから、たとえお客様が「この先生に頼む手続きって、こんなに高いの?」と感じても、そもそもほかに選択肢がないので、「“先生”の仕事なんだから、そのくらいは普通なんだろう」と勝手に納得してくれていたのです。別の先生の報酬額と比べるなんて「もってのほか」ですし、「相見積もりを取るのは礼儀に反する」なんて意見さえありました。

士業は、独立したら「開業はがき」をこれまで会った社外の人や、家族・親戚に送ればそれで営業完了。あとは、司法書士なら法務局の周りに、行政書士なら陸運局や警察署の近くに事務所を借りてぼちぼちやっていれば、周りが仕事を持ってきてくれる。そんな「古きよき時代」があったのです。

そんな時代から数十年。現在では、お客さまはインターネットで簡単に士業を探せます。値段もサービス内容も丸裸ですし、同じ地域の同じ資格の士業を、マウスの操作1つで山のように探し出せます。要するに、士業は「多数の選択肢のなかから、シビアに選ばれる存在」に変化したのです。

顧客が事前に情報を入手してから相談に来るようになったので、相見積もりのなかった士業業界にも急激に価格競争が広がりました。

価格競争の結果、最終的に業務報酬が10分の1以下に落ちてしまった業務もあります。行政書士や司法書士が取り扱う「会社設立業務」などはよい例でしょう。2004年頃には15万円前後いただくことができた報酬が、今では1万円なんて事務所もあるほどです。10万円でなく、1万円です。ここまで来ると、本当に驚きです。

また、それまではブラックボックスになっていて、どのような手続きかお客様が理解しないままに依頼されていた仕事も、インターネットがある今、それが複雑な業務かどうかはお客様にもすぐにわかってしまいます。

結果、裁判事務や法人税の申告など、お客様が自分でやるには難易度が高い業務は別として、「自分で頑張れば、ギリギリなんとかなるレベル」の業務(例えば、行政書士が取り扱う「許認可の更新手続き」や、前述の「会社設立業務」など)は、経費削減のためにお客様が自分自身で行う傾向が強まっています。

そうした傾向も値下げ合戦に勢いをつけたために、士業業界全体で酷い価格破壊が進みました。特に、この業界に新しく入ってきたいわゆる「新人」は、仕事が取れないと何も考えずに値下げをしてしまうため、この低価格化に拍車をかけています。

ちなみにこの場合の値下げは、「コストカットに成功したから」や「原材料が安くなったから」のような理由のある値下げではありません。「単なる理由のない値下げ」なので、結果として相場価格を下げることになり、ただただ業界全体を苦しめてしまっています。

さらに問題なのが、士業では労働集約型の業務が仕事のほとんどを占めている点です。つまり、士業が報酬をいただくには、書類をつくる、入力作業をする、役所に行くなど、多数の手間を掛ける必要があるということです。

大量生産できる「商品」ならば、値下げに対応できる可能性もあるでしょう。しかし、値段が下がっても仕事量が減らない士業の仕事では、価格競争の結果、「忙しい割には儲からない」状況になりやすいのです。

労働集約型ではない仕事をどこかに取り入れていかない限り、従来のやり方では本当に沈没してしまう恐れがあります。

そのほかに、士業が今もっともつらい状況にあることの顕著な証拠として、ベテランの士業が今になって苦しんでいるという状況があります。

事務所を15年も20年も経営している士業が、長年のクライアント企業の経費削減や倒産の影響で売上が下がり、挽回のために営業をしようとしています。しかし、これまで碌に営業を行ってこなかったので方法がわからず、途方に暮れてしまっているのです。

新人もベテランも、士業業界全体が価格破壊に苦しんでいる現状が、少しは見えてきたでしょうか?

急速に沈みゆくマーケット。しかし……
値段の急落とは別に、「今後、士業のマーケットそのものが大きく伸びない」という事実もあります。日本では人口が減少しているため、長期的に見れば士業に仕事を頼む依頼者も減っていくからです。

もちろん、将来のことは誰にもわかりませんから、今後好景気になれば、人口が回復基調に戻ったり、人口は減っても法人数や業務の依頼数が増えたりすることはあるかもしれません。

しかしながら、人が大人になるには20年程度の時間を必要とします。たとえ今後人口が回復基調となっても、今後の十数年について言えば、日本の人口が減っていくのはすでに確定しています。となれば、人口は減少していくのに、法人数だけは増え続ける、なんてことはちょっと考えにくいでしょう。

つまり、士業業界では報酬額が全国的に下がっているのに加えて、そもそもの仕事数も次第に減少していく可能性が高い状況なのです。

さらに、長引く不況がこの仕事数の減少に拍車をかけます。

不況になれば、誰しも「手に職をつけよう」と考えます。そして、具体的な「職」として資格取得にたどり着きます。

資格スクールなどの会社は、こうした潜在ターゲットの心の動きを見逃しませんから、不況になればなるほど、CMを打つなどして資格取得の有効性を世間に訴えます。

その結果、より多くのライバルが縮小する士業市場に新規参入してくるのです。例えば、現在でも行政書士は毎年2000名から多いときには6000名を超える合格者を出していますし、社会保険労務士も毎年3000名を超える合格者を出しています。税理士に至っては、登録している人だけでもすでに7万人を超えています。

また、最近ではいくつかの資格(公認会計士や弁護士など)で、政府の方針として有資格者を増やしている、という事情もあります。
 そうしてライバルが増えれば、士業1人あたりの仕事数も当然減少します。結果、過当競争となって、ますます価格破壊が進む、という悪循環になっているわけです。

この「士業ビジネスのマーケット減少」は、あくまで将来的な話であり、現状ではそこまで大きな影響は出ていません。既存の士業の仕事はこれまでどおりに存在していますし、まだしばらくは、退職した高齢者からの依頼などで減少分が相殺されていくでしょう。
 しかし、今後の中長期的な展望を考えれば、マーケットそのものが大きく伸びる可能性は低いということを率直に認め、より厳しくなる経営環境のなかで、自身が選ばれるために何らかの営業努力が必要であることを正しく認識すべきでしょう。

士業の仕事にだって流行り・すたりはある
士業の業界が、現在のような状況になってしまったのには理由があります。

1つには、士業の仕事はそもそも国がつくったものであるため、商材や事業の流行り・すたりが意識されてこなかったことが挙げられます。つまり、「国がつくった資格だから、安定しているはずだ」という間違った思い込みがあるのです。

 普通の商品やサービスには、次のようなサイクルがあります。
・商品が完成し、世のなかに広がっていく「導入期」
・商品の認知度が高まり、何もしないでも売れていく「成長期」
・新規参入も増え、大きな成長が望めなくなる「成熟期」
・最後に、商品が売れなくなっていく「衰退期」

世のなかには永続的に売れ続ける商品もありますが、大多数の商品にはこういった「サイクル」があるため、経営者は売れなくなったときのことを考え、現在の商品が売れているうちに次の商品を開発するなどして事業継続の工夫をします。

これに対して、士業は「自分の資格の仕事は、将来も常に存在するはずだ」と強く思い込んできました。そのため、商品の流行り・すたりに何の対策も取ってこなかったのです。結果として、現在提供する商品が成熟期や衰退期に入ってしまい、新しい商品もないままジリ貧の経営を続けている士業がたくさんいます。

永続的に売れ続ける商品など、ごくわずかしか存在しないのです。今はどんなに安泰に思える商品でも、ほとんどは前述の流行り・すたりのサイクルに乗っています。

例えば、一時は誰でも持っていたポケベルや電子手帳などのアイテムも、携帯電話やスマートフォンなどに変わって、現在ではもう見かけることはありません。もし、ポケベルや電子手帳のメーカーが、それが売れていた時期に次世代の商品の開発を怠っていたら、きっと今ごろ倒産していたでしょう。それと同じことを、多くの士業が今も行っているのです。

「資格さえ取れば人生安泰」という言葉が幻想に過ぎないことに、すでに多くの人はうっすらと気づいています。そんな甘い話はないよね、と。

しかしそれでも、「そうは言っても、やっぱり資格さえ取れば何とかなるのではないか?」というかすかな希望を、多くの人が捨て去ることができないというのが、士業業界やそこへの新規参入を考えている人たちの現状だと言えるでしょう。「自分だけはなんとかなるのでないか」、そんな気持ちの人が多いわけです。

しかし、すでに価格破壊や仕事量の長期的な減少を確認したように、そもそも士業の仕事が安定して存在するという思い込み自体が幻想になっています。10年前、20年前の士業の仕事と、現在の士業の仕事がほとんど変わっていないなんて、客観的に見ればかなり異常な状態です。任天堂が今でもゲームウォッチやファミコンを販売し続け、他のメーカーも「そういうもの」と思い込んで新製品の開発を何十年もしてこなかったようなものです。

やはり士業の仕事も、ほかのほとんどの商品と同じく、流行り・すたりのサイクルからは逃れられないのです。それにもかかわらず、勝手な思い込みで業界全体がビジネス的な努力を行ってこなかったために、現在のようなジリ貧状態を招いたのです。

これは、普通の経営者の感覚からしたら、まさに「ごく当たり前のことが起こっただけ」と言えるでしょう。

儲けることをよしとない業界
また、士業業界全体に「儲ける」ことを忌み嫌う雰囲気があることも、現在の苦境を呼び込んだ原因の1つでしょう。

もともと、士業は難しい資格試験を突破してきた人の集まりですから、真面目な人が多い業界です。そして、それが原因かどうかはわかりませんが、いわゆる「ヒルズ族」のような儲け至上主義を嫌う傾向にあります(私は、ヒルズ族がお金の亡者とは思いませんが……)

業界全体になんとなくそうした雰囲気があるため、営業に熱心な士業に対しても、あまりよい顔をしないわけです。新人の士業がビジネスに積極的に取り組んで、ダイレクトメールを出したりすると、業界の先輩から苦言を呈されたりするのです。

また、新人士業が開業して、業界団体の会合などでベテランの先輩士業にお会いすると、たいてい次のようなことを言われます。

 「○○○士は、3年間は食えないぞ」
 「そもそも独立しても難しい。あきらめなさい」
 「(遠回しに)私の営業先を荒らすんじゃないぞ」
 「あまり目立つ行為は差し控えなさい」

話をわかりやすくするためにあえて極端な表現にしていますが、伝えられる内容はおおむね間違っていないでしょう。

結果として、多くの士業が「もっと儲けるために営業をかけたりするのは好ましくないのかな?」「あまり目立った営業をすると、業界内で目をつけられるかも」と考えるようになってしまいます。

そして、さらにそれに拍車をかけているのが、「士業純血主義」とも言える奇妙なこだわりです。

これは、士業が「士業本来の仕事(法律で定められた独占業務などを指します)」に純粋に取り組むことを「王道」として尊び、それ以外の業務に取り組むことを「邪道」として蔑む考え方です。

ですから、私のように開業から1年もしないうちに、伝統的な士業の仕事に含まれないセミナー事業に取り組んだり、CDなどの教材販売に取り組んだり、あるいはブログなどのさまざまな新しいメディアで積極的に営業活動を行ったりするのは、「邪道だ」「大変けしからん」となるわけです。

この王道を好む傾向を、拙著『ごく普通の人でも資格を取ってきちんと稼げる本』(インデックスコミュニケーションズ)では「悪しき専業理想主義」と名付けました。士業の仕事以外のことをしようとすると、思考がストップしてしまう人がこの業界には多いのです。

こういった「儲け排除主義」とでも言うべき業界の空気が、士業業界全体の縮小を呼び込むばかりか、新しい試みによる士業ビジネスの発展を拒んでいるのだと、私は強く主張します。

 まとめると、2011年現在の士業業界は、長引く不況や人口減少に、士業特有の思い込みやこだわりから来るビジネス上の取り組み不足が加わって、価格崩壊と長期的なマーケットの縮小、ライバルの増加という「疲れ果てた」状況に追い込まれています。

この状況はすぐには変わりそうにありません。ですから結果として、遅かれ早かれ、伝統的な士業の仕事だけで経営を成り立たせていくのが、とても難しい状況がやってきてしまうでしょう。

生き残りたい士業は、その時期に備えて、今から対策を考えていく必要があるわけです。

それでも、士業で成功するのは簡単である
価格崩壊、マーケット縮小、ライバルの増加……ここまで読んできたあなたは、悲観的になってしまったかもしれません。しかし、そんな必要はまったくありません。

これは、私に言わせれば大チャンスです。あえてここまでは「悪い現状」ばかりをお伝えしてきましたが、ここからは、この現状が大チャンスであるポジティブな理由をお伝えしていきましょう。

まず、士業の業界全体が「もう打開策は少ない」と思い込んでいることです。つまり、「もう士業はダメだ」と、勝手にあきらめてくれているライバルが多いのです。

そのため、ほかの業界のように強烈な競合がほとんどおらず、あまり競合を気にせずに、前向きなビジネスに取り組んでいけます。

普通の業界なら、大手企業が市場の専有を目指して物量戦略や圧迫戦略に出てくるため、中小企業は正攻法ではなかなか成果を上げられません。しかし士業業界では、真面目に正直に営業に取り組めば、たとえ個人事務所であってもやっただけの成果が出やすいのです。

私自身、23歳で独立開業した頃には、同業者から見たら吹けば飛ぶような存在だったろうと思います。しかし、どのライバルにもつぶされることなく、今日まで経営を続けてきました。この業界に猛烈な競合がたくさん存在していたら、きっとどこかの時点で大手からの「つぶし」に遭っていたでしょう。

さらに、士業の業界には「実務知識以外のスキル」を持っている方が非常に少ないという事実も、やりようによっては現在の苦境を大チャンスに変えられる理由として挙げられます。

例えば、私が開業後すぐに行政書士会の会合に出席したときのことを紹介しましょう。参加していた先輩方の実務知識は本当に素晴らしく、次から次へと専門用語が飛び交っていて、私にはとてもついていけませんでした。「いつになったらこのレベルに到達できるのだろう…。これは、とても勝てない」と本当に不安になりました。

しかし、多くの先輩方と名刺交換をさせていただき、お話をさせていただくなかで、2つのことに気づきました。それは、「営業やマーケティングの話題を出す人が少ない」ということと、「ホームページのURLやメールアドレスの記載がない名刺が多い(つまり、インターネットに弱い)」ということです。

そこに気づいた私は、インターネットマーケティングを研究し、ウェブサイトのつくり方やインターネットの仕組み、マーケティング、ウェブ上の購買心理学などを必死で学びました。資格の本業の実務知識では、とても先輩方に太刀打ちできないのですから、それ以外の分野で差別化するしかないと考えたのです。

そして、当時流行っていた「ビジネスブログ」の活用に特にフォーカスしました。その結果、上場企業での講演や初めての出版(『小さな会社の逆転戦略最強ブログ営業術』技術評論社)にまで至ったのです。

わかりやすい例として私の実体験をご紹介しましたが、このように士業業界全体が、実務知識以外のビジネススキル、特に営業やマーケティング、ネットの活用などに関して非常に弱い傾向があるのです。

実際のところ、お客様から見た士業は誰でも同じに見えます。例えば行政書士が100人いれば、年齢や見た目の違いがあっても、行政書士としての力量の差はそれほど感じられないものです。言い方を変えれば、実務知識の差はお客様からは見えません。

これに対して、その士業が実務以外の何らかのプラスアルファの特性を持っていれば、それはすぐにわかります。ネットで人気のブログを運営している、人気のセミナーをやっている、使える教材を販売している、コンサルティングに取り組んでいる。あるいは、茶髪のサーファー弁護士とか、私のようにゲーム大好き行政書士など。こういったちょっとした差別化でも、その他大勢から1つ頭を抜け出すことができるのです。

このような考えで差別化を図っている士業はまだまだ少なく、前述の「士業純血主義」や「儲け排除主義」で、「士業の業務範囲のなかで、どうやって差別化をすればいいのだろう」と勝手に悩んでくれています。

士業の独占業務は法律で業務内容が細かく決められていますから、そこで差別化するには得意な分野に特化し、圧倒的な実務知識を身につけるしかないのですが、これは非常に骨が折れます。しかも、たとえ圧倒的な知識を身につけても、お客さまにはなかなか違いを認識してもらえません。

そうではなく、「邪道」といわれる本業以外の部分に取り組んだり、営業活動に取り組んだりすることのほうが、お客さまにはすぐに違いを認識してもらえて、選ばれるチャンスを効率よく大きくできるのです。この点に気が付いた士業のあなたは、すでに大チャンスの扉を半分開けていると言っても、過言ではないでしょう。

これが、私の提唱する「資格起業家メソッド」の現状認識です。

つまり、業界全体として強烈なライバルが少なく(少なくとも、ほかの業界に比べれば弱く)、多くの競合が過去の常識にとらわれていて、まだまだ士業の仕事のみを追うことに必死になっている。

この現状を正しく認識していれば、たとえ実務分野では敵わなかったとしても、突破口を開くことは十分可能、と言うか、成功の可能性大なのです。

「資格起業家」の時代がやってきた
ここで、あらためて「資格起業家メソッド」の解説をしておきましょう。資格起業家メソッドとは、資格業の特性を生かしながら高収益なビジネスモデルをつくる、私が提唱している「士業のための新しいビジネス理論」です。

詳しい内容については、すでに拙著『資格起業家になる! 成功する超高収益ビジネスモデルのつくり方』(日本実業出版社)に収録してありますので、そちらに当たっていただくこととし、ここではその基本となるエッセンスのみを解説します。

資格起業家メソッドでは、まず「士業の商品は、自分からは積極的に売りにくいものである」という点を、しっかり認識します。

そのうえで、「お客様になりそうな人向けに、まずは1段階目のビジネスをつくり、そこから派生する形で士業の仕事を取る」ビジネスモデルを構築します。

例えば、前述した「会社設立業務」という、行政書士や司法書士がお客様の会社をつくる法律手続きがあります。この業務は、お客様の側に「新しく会社をつくりたい」という要望がなければ、どんな営業をしても受注できません。たとえ世界ナンバーワンのセールスパーソンがいても、そもそも仕事がないのですから、強引な押し売りをしない限りは受注不可能です。

そこで、まずは会社設立業務のことは忘れて、新たに会社をつくるという潜在的なニーズがある「経営者・起業家」という客層に向けた、1段階目のビジネスをつくります。具体的に言えば、これらの客層を対象としたセミナーや教材販売、あるいはコンサルティングなどの「邪道」の業務を実施して、それを1段階目のビジネスとするのです。

この1段階目のビジネスでは、できるだけ収益を出すようにします。これによって日銭が入るようになりますから、事務所の経営も安定します。しかも同時に、多数の潜在的な顧客に、自身を士業や専門家として認知してもらえるわけです。

こういう1段階目のビジネスを継続的に行っていくことで、お客様が本当に会社をつくるタイミングになったら、「そういえば、あのセミナー(教材、コンサル)の先生も、会社設立をやっていると言ってたなぁ」と仕事を発注してもらう。こういう仕組みです。

2006年にこのメソッドを公開してからは、多くの士業がこの手法を取り入れ、セミナーを開催したりして収益を上げると同時に、業務受注や顧問契約を勝ち取ってきました。士業という小さな業界ですが、これは革命的な方法だったのです。

なぜ、自信を持って革命的と言えるのか。それは、この考え方が「新しいマーケットを創造する」考え方だったからです。

前述のとおり、士業のマーケットは中長期的に見れば縮小せざるをえません。そのため、今後はこの「新しいマーケットを創造する」考え方を持たないと、縮んでいくマーケットとともに沈んでいってしまう可能性が高いのです。

縮小するマーケットで戦うのか? それとも、まだ誰も競争をしていないまったく新しいマーケットをつくり、そこでビジネスを始めるのか? 勝てるのは、圧倒的に後者のマーケットになります。

極端な言い方をすれば、この方法を知っているかどうかで、10年後、20年後の事務所経営のあり方が変わってきてしまうでしょう。

新しいマーケットでビジネスをすることができれば、そこはこれから伸びていく市場なので、あなたの事務所も大きく成功できる可能性があります。逆に、縮小市場で勝負することを選ぶのであれば、苦しい闘いを強いられるであろうことは、言うまでもありません。

いわゆる「開業本」は、マーケットとともに沈んでいく考え方
ところで、行政書士や社会保険労務士、税理士などの開業手法を解説した、いわゆる「開業本」と言われるビジネス書があります。本書をお読みのあなたなら、きっとこういった開業本の1、2冊はお読みになったことがあることでしょう。かく言う私自身も、2010年に『行列のできる行政書士事務所の作り方』(ぱる出版)を出版させていただきました。ただ、この手の本は読み方を間違えると非常に危険です。

なぜかと言うと、これらの開業本の多くは「今マーケットにある業務をどう取るか」という考え方で書かれているためです。そこに書かれている内容をそのまま実践すると、前述のように縮んでいくマーケットに、自ら入り込んでしまう危険があるのです。

ですから、開業本を読むときには、そこに書かれている内容がすべてだとは考えずに、「マーケットから仕事を取るには、こういう方法もあるんだな」という程度の受け止め方をしてほしい、というのが私の願いです。

もちろん、私たち士業の原点は、それぞれの資格に関連する業務にありますから、当然ながら既存の業務も取っていく必要があります。しかし、その部分だけに目を奪われてしまうと、「士業純血主義」に陥りやすくなります。「資格起業家メソッド」によって新しいマーケットを創造しながら、同時に既存のマーケットからも士業の業務を取っていく、というスタンスが重要になるのです。

広がるマーケットとはいったい何か?
さて、「資格起業家メソッド」が創造する新しい士業のマーケットとは、いったいどんなものなのでしょうか?

結論から言うと、それは「学ぶ人」を対象としたマーケットです。

既存の士業業務のマーケットが、主に法人顧客を対象としているのに対し、「学ぶ人」を対象としたマーケットは、より幅広い層を潜在的な顧客とします。

やはり、企業の経営者層がメインの対象とはなりますが、ほかにも企業のなかで管理的な立場にいる人や、特に意識が高い一般社員、さらには起業を目指しているような人や個人投資家、同業の士業などまでを対象とします。

人口が減り、法人数が減り、さらには低成長が続いて、企業にとっては厳しい状況が続くなかでも、確実に増えているのがこの「学ぶ人」です。なぜなら、こうした「学ぶ人」、特に「切実に学ばなければならない人」は、周囲の状況が悪くなればなるほど増えていくからです。

例えば、会社の経営者などは、会社が苦しくなれば立て直す方法を必死に考えます。そのヒントを得るためにビジネス書を読んで参考にしたり、セミナーに参加して勉強をしたり、コンサルティングを頼んで指導を仰いだりしなければならなくなります。

そこには強烈なニーズ(需要)があるわけですから、この分野に率先して取り組んで、競合に先駆けて自分から仕掛けていくビジネスモデルを構築できれば、それこそ「食えるまで3年かかる」どころか、「3年後には大成功」なんてことも十分ありえるわけです。

実際に、こうした「学ぶ人」を対象としたマーケットは急拡大しています。

例えば、特定のテーマに関する知識をCDやDVD、あるいはPDFファイルなどに収録して販売する「情報商材」と呼ばれる商品があります。この市場は、この5年程度で一気に拡大しました。

なかには詐欺的な商売をしている業者もあり、真面目な士業の先生方からは敬遠されることが多いようですが、それでも、すでに100億円市場に到達したと言われており、現在でも着実に成長を続けています。

また、「学ぶ人」にはセミナーも高い人気を誇っています。「セミナーズ」(http://www.seminars.jp/)に代表されるセミナーのポータルサイトも増えており、これらのポータルサイトへのアクセス数は、月に数十万件もあります。

これらのポータルサイトでは、毎日のように起業家・経営者向けのセミナーが紹介されており、目端の利いた先輩「資格起業家」が、実にさまざまなテーマで「学ぶ人」を取り込もうとしています。

さらには、「学ぶ人」には「講演」も人気です。ここ数年は、さまざまな講演を検索したり、逆に講師として依頼できる人を探すためのポータルサイト等も増えています。

「学ぶ人」を対象とするマーケットは、ここ数年で飛躍的に伸びているのです。

「資格起業家メソッド」では、この「学ぶ人」を対象とするマーケットを創造します。ですから、既存の士業業務の市場縮小や、景気の変動などに左右されずに、あなた自身の努力によって売り上げを伸ばすことが可能になるのです。

どんな方法で「学び」をお客様に提供するのかは、前述の情報商材やセミナー、講演などのほかにも、コンサルティングや動画配信、コーチング、出版、メディアへの露出など、さまざまな方法があります。それは、あなたのビジネス戦略に合わせて、自由に組み合わせていけば問題ありません。

どの方法を選ぶべきか、あるいはどんな内容の「学び」を提供していけばよいかは、第3章や第4章で詳しく説明していきます。

とにかく、大事なのは「商品」を中心に考えるのではなく、「マーケット」を中心に考えてビジネスモデルを組み立てることです。

日本では、とかく「商品」を中心に考える傾向が強く、「よい商品があるから、間違いなく売れるはずだ」という考え方をします。しかし、マーケティング分野に関しては日本の10年先を行っていると言われるアメリカでは、常に「マーケット」を中心に商売を考えます。「人口○万人の都市があり、消費者にはこういった傾向がある。したがって、このような商品がこれくらい売れるだろう」と考えるのです。

私たち日本人は、何も考えずにビジネスを行うと商品中心思考になりがちで、「より良いサービスを、より高度なサービスを」と、どんどん「士業純血主義」に走ってしまうのです。それも大切で、日本人の良いところだとは思うのですが、実際に商品を買うのはお客様であって、販売者ではないことを忘れるとドツボにはまります。

長期的にはどんどん小さくなっていくマーケットのお客様に対して、どんなに商品やサービスの水準を上げていっても、それだけでは次第にジリ貧となってしまうことをよく認識しましょう。

本当に「資格起業家メソッド」は通用するのか?
私の提唱する「資格起業家メソッド」が、本当に通用するのかどうか疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。

結論から言えば、「通用します」ではなく「通用させてきました」。

私自身の経験はもちろんですが、4年前に士業向けのコンサルティングサービスである「経営天才塾」を立ち上げ、延べ1000名以上の有資格者の方に助言をさせていただいています。

結果、多くの実践者の方から、全国で成果を上げているとの具体的な報告を受けています。

そして、そうして多くの士業の方に助言させていただくなかで、成功している資格起業家に共通するいくつかのポイントに気が付きました。メンタルな部分については次章で詳しく解説していきますが、特に重要なポイントを3つだけ、「資格起業家」になるための心構えとして解説しておきます。

①変化することを恐れない
事務所経営、会社経営を成功させるには要因があります。資金、情報、人材とさまざまな要因があるわけですが、こと士業の業界に限って言えば、成功している人に必ず共通していることがあります。

それは「変化することを恐れない心」です。

繰り返しになりますが、士業の業界は今もっともつらい状況にあります。報酬の相場は下がり、人口・法人数も減っている。そのなかで生き残っていくためには、純粋に士業の業務を追い求める「士業純血主義」や「儲け排除主義」とは決別しなければなりません。

そのためには、変化を恐れずに果敢に行動していく心が求められるのです。

実際に、現在大きな成功を収めている「資格起業家」の方は、業界全体の旧態依然とした現状を尻目に、軽やかに「変化すること」を選んできた方ばかりです。つまり、多かれ少なかれ、これまでの士業の常識からはかけ離れたことをしている方ばかりです。

私自身に関しても、恐れずに変化することを選び、「資格起業家メソッド」の研究開発をはじめ、セミナー事業、物販事業、イベント事業、出版事業とさまざまな士業関連ビジネスを展開してきました。その結果として、若輩でありながら安定的に年収1000万円超を実現しているわけです。

言い換えれば、資格起業家として恐れずに変化をし、自分自身でビジネスをつくり出していく気概を持つ人のみが、成功を手にする資格がある、ということです。

②景気や先輩の苦言なんて、気にしない
何度も繰り返しているとおり、士業業界では積極的に営業をすることが嫌われています。現在はそれでもかなり緩和されたほうで、“士業古代”には本気で「士業が営業なんかするもんじゃない」とのたまう先生方が多かったのです。まさに「武士は食わねど高楊枝」の世界です。特に地方都市では、今でもそうした「儲け排除主義」の雰囲気が色濃く残っています。

現在、成功している資格起業家は、共通してこの「士業の常識」を疑い、自分の目で確かめてきた人たちばかりです。

「本当に、先輩の言うことに素直に従うだけでよいのだろうか?」「目立つ営業行為をしてはならないのだろうか?」さらには、「そもそも開業しないほうがいいって、本当だろうか?」と、さまざまな“常識”を疑い、とにかくまずは自分で試してみた人たちだけが、現在成功を手にしているのです。

私自身も、少なからずそうしたプレッシャーを感じてきました。そのとき、私はどのように考えたか?

「行政書士という資格は取ったが、事業は自由である」と考えました。つまり、セミナー事業や物販など、これまでの士業の常識からすれば「邪道」とされる商売をしても、それは自分の責任の下に行えば自由である、ということです。

そうした考えの下で、開業1年目からセミナー事業に取り組みました。これまでの士業の常識で言えばまさに「邪道」ですが、販売しやすいサービスから取り組んだことで売り上げは伸びました。

また、同年からは異業種交流会も主催しました。これも行政書士の業務でもなんでもありません。お客様候補となる経営者や起業家が集まれる場所をつくって、紹介をもらおうと考えて始めたものです。結果、交流会の収益と、そこから発生する紹介で売り上げは伸びました。

周りからの意見や批評などを気にせずに、常識を疑って自分の信じたことをまずは試してみる。この考え方が重要です。本当にダメだったら、問題が起こってからすぐにやめればいいのですから。

③誰にも頼らない、甘えない
そして、今成功している資格起業家は、もう国や業界団体が自分たちを救ってくれないことにも気づいています。

成功できない士業の共通点は、「もっと業界を上げて業務のPRをしてくれないと…」とか、「行政書士の業務範囲を、もう少し国が広げてくれたらなぁ」などと、自力で事務所経営を何とかしようと考えないところです。もし、あなたがこのようなセリフを頻繁に口にしているなら、かなり危険な兆候ですからすぐに改めるべきです。

もちろん、業務のPRや、法改正による業務範囲拡大なども重要なことです。業界全体としては、大変重要な取り組みと言えるでしょう。

しかし、これらの課題は、私たち士業が個人で文句を言ったとしても、現実問題としては何も変わらない性格のものです。

本書を読んでいるあなたの目標は、「士業での成功」のはずです。そういった国や業界団体への依存的な精神は、失敗を呼び込みはしても、成功を引き寄せることはまずありません。ここで、きっぱりと捨ててしまいましょう。

私も、開業したばかりの頃には「もしかしたら、書士会が助けてくれるようなことがあるかもしれないな」と、甘えた感情を持っていたことがありました。しかし、実際に仕事が取れずに月収数万円の苦境に陥っても、書士会、ましてや国が助けてくれるようなことなどありませんでした(当然ですが)。そうして、「自分の手でコントロールできないものに頼るのは、危険すぎる」と決意し、自分の力で仕事が取れるように創意工夫を働かせたのです。

成功している資格起業家から、「法改正があって、この業務ができるようになったらいいのに」といった弱気な発言を聞くことはありません。あなたも、今自分にできる業務はいったい何か、そこから考えられる派生事業は何かないかと、自分の力で道を切り拓く心構えを持ってください。

ちなみに、私も法改正などの情報を押さえるために景気動向はしっかりチェックしていますが、成功している資格起業家は、事務所の経営状況を「景気」のせいにすることもありません。

なぜなら、成功者は、「不景気だから儲からない」というセリフが、「自分は営業努力を怠りました」と言っているのと同じだということに、しっかりと気が付いているからです。

事務所の経営状況を景気のせいにするのは、甘えの一種です。景気に大きく影響されるのは、大きな会社だけです。日本の株式市場が大暴落しても、あなたの事務所にはほとんど影響はありません。目の前にいるお客様をつかまえて、仕事をもらえればそれでいいのです。私たち小さな事業者にとっては、景気とはそのくらい影響が少ないものなのです。

資格起業家メソッドなら価格破壊にも対応できる
資格を取って独立すると、なにか普通の人にはない特別な能力を持った気分になります。これは一面では真実ですが、士業としての成功の観点から見ると、逆の働きもあるので気をつけましょう。

資格を取って独立すると、あなたは「士業」という戦いの場に入るわけです。その業界では、あなたのライバルはみな同じ資格を持った士業ばかりです。

無資格者100人のなかに資格を持っているあなたが飛び込めば、確かにあなたの1人勝ちですが、現実にあなたが飛び込むのは100人の同業者がひしめく戦場です。独立して開業した瞬間に、あなたが自分の「個性」や「強み」だと思っていた違いは、きれいに消え去って無個性化してしまう、ということを認識しましょう。

そうした無個性なライバルたちから際立つために、「資格起業家メソッド」が大いに役立ちます。あなただけの経験やスキルを生かしたセミナー、教材販売、コンサルティング等の派生事業を行い、お客様の目から見たときに「その他大勢とは異なるポイント」をつくるのです。それにより、あなた自身を1つのブランドにできます。

うまく自分をブランド化できれば、もう価格競争を恐れる必要もなくなります。

顧客は、「どうせお付き合いするなら、より得をする人と付き合いたい」と考えます。例えば私の場合なら、「行政書士」という1つの属性しか持っていないその他大勢の士業よりも、「ネットビジネスに強く、メルマガやブログも人気で、本も出している行政書士」と付き合いたいと思うのです。

わかりやすいように私自身の例を出しましたが、同じように「資格起業家」というスタンスを取った瞬間に、あなたも自分を無個性なライバルたちから差別化することに成功します。そして、果てしない競争から解放されるのです。

実際に私の事務所は、報酬額を2006年から変えていません(今後変更する可能性はあります)。比較的高い金額設定だと思いますが、値下げをお願いされることはほとんどありません。

これは、お客様が私のことを「単なる士業ではない」と認知していただいているから、可能になっていることなのです。私のことを、「ほかにもいくらでもいる単なる行政書士の1人」だと思っているなら、ネットの情報で高い金額設定であることをわかっているのに、仕事を依頼することなどありえないでしょう。

さらに言えば、「資格起業家メソッド」を実践することで、最近の価格破壊の影響で次第に安くしてきた報酬額でも、十分にビジネスを成立させることが可能になります。

セミナー、教材販売、コンサルティングなどの第1段階のビジネスで、事務所の運営資金を継続的にまかなえるようになりますから、士業本来の業務については低い金額設定でもなんとかなるケースが多いのです。これまでに不用意に報酬額を下げてしまい、急に上げることが難しいケースでは、この方向を目指すのもいいでしょう。

私の事務所でも、お客様側の事情によって、どうしても報酬額を下げざるをえないことがたまにあります。長いお付き合いのある重要顧客から、困っている知人を紹介されたりするケースです。

こういうケースでは、私もごく低い金額で仕事を引き受けます。ビジネス上の戦略というよりも、人間関係を大事にしたいからです。行政書士の業務では微々たる報酬しか得られないわけですが、結果として、その後に当社のセミナーに参加していただいたり、教材を購入していただいたり、別の顧客を紹介していただいたりして、損得で言ったら得になることが多いのです。

ある意味では、一時話題になった「フリー戦略」にも似ているかもしれません。

「資格起業家メソッド」を実践することによって、従来の常識にとらわれない新しいマーケットを創造できますから、差別化の欠如によって際限のない価格競争に陥ることを防げる、というわけです。

王道の「知識商売」ができる!
また、士業は「知識商売」と言われますが、現状では多くの士業が、自らが持つ「知識」の強みを十分に活かしていません。「資格起業家メソッド」なら、あなたの持っている知識を最大限に活かし切ります。

この「知識商売」という言葉は、「知識を使って商売をすること」つまり、「知識を使ってお金を稼ぐ」ことを意味しています。

従来の士業の業務を行うとき、あるいは顧客の相談に乗るときなどは、あなたは自分の知識を活用していますから「知識商売」をしていると言えます。それが士業の仕事の醍醐味ですし、本分です。

ただ、この「知識」はもっと活用できるのです。業務と相談以外にも、せっかく蓄えたあなたの知識をもっとお金に変えましょう。

例えば、あなたの持っている知識を文字や音声にし、CDやDVD、音声ファイルや動画ファイル、小冊子、さらに言えば本書のような書籍等に変換すれば、事務所で直接クライアントを相手にするよりも、より効率的により多くの人に喜んでもらえます。当然、これらは有料で提供するでしょうから、事務所に日銭を運んできてくれる効果もあります。

それなのに、そのように知識を活用している士業は本当に少ないのです。「学ぶ人」の市場が急拡大しており、士業の情報を欲している人が無数にいるのにもかかわらず、肝心の士業の側は「士業純血主義」で従来型の業務と相談にだけ目を向けています。

実際に専門家に業務を依頼したり、相談にやってくる人は、「情報だけほしいなぁ」と思っている人に比べれば圧倒的な少数派です。法人顧客であっても、税理士の顧問は何人も頼むものではありませんが、節税に関する知識や最新情報なら多すぎて困ることはありません。

「資格起業家メソッド」では、従来の常識では「邪道」とされる教材販売やセミナー開催、コンサルティングの実施等に手をつけていくため、あなたの持っている士業の知識をフル活用し、そうした情報に飢えているお客様のニーズに、まっすぐに訴求していけるわけです。

それは、お客様の側からしても求められていることなのですから、本当は「邪道」でもなんでもない、「王道」の知識商売なのです。

ちなみに、「知識商売」の対象になるのは、なにも士業の業務知識や法律知識だけに限りません。

例えば、もしあなたが営業職を経験したあとに開業したのなら、自分の士業の分野にこれまでの営業スキルの知識を当てはめ、そこに何らかのオリジナリティを生み出せます。あるいは、前職で蓄えた特定業界の知識を、ほかの業界に属するお客様にレクチャーしてもいいわけです。

私の場合も、行政書士とは関係ない「ビジネスブログを使った営業術」や「インターネット上のマーケティング」をメインテーマとしたセミナーをたまに行っており、そこでの参加者から行政書士の業務を依頼されることがよくあります。

そういう機会に、お客様に「なぜ、ほかの方じゃなくて私なんですか?」と聞くと、「どうせお願いするなら、ブログとかネットに詳しい横須賀さんにお願いして、いろいろと情報がほしい」というお答えをいただきます。前述したとおり、どうせ頼むのであれば、法律手続きなどの業務以外にもプラスアルファのお得な面がほしい、つまりは「おまけがほしい」と多くの経営者や起業家は考えるのです。

資格起業家メソッドは、こうしたお客様のニーズによく合致し、士業のビジネスの可能性を広げてくれる方法です。難しいことは何もありませんから、変化を恐れず、自分の力を信じて、まずは騙されたと思って実践してみてください。そうすれば、あなたも大きく成功できるはずです。

第2章「士業ジリ貧時代」には、タフなメンタルが求められる!

資格起業家になる前のメンタルトレーニング
「資格起業家メソッド」は、実践しさえすれば必ず効果が出ます。それを証明するため、私は2004年に「経営天才塾」という日本唯一の士業向け経営スクールをつくりました。

この経営スクールからは、すでに多くの成功者が出ています。セミナーやコンサルティング、教材販売などの副次的な業務を積極的に仕掛けることで、結果として本業でも成功を手にする、というビジネスモデルの有効性が証明されているのです。そうした成功者らの営業場所も、首都圏だけではなく全国各地に広がっています。

そしてこの「資格起業家メソッド」は、ただそのまま実践するよりも、「考え方」や「マインド」などのメンタルな部分を磨いたうえで活用することで、その効果が何倍にも倍増していきます。

なぜ、メンタルな部分が重要になるのか?

それは、どんなに優れたビジネスモデルも、あるいは、効果が極めて高いマーケティング手法も、結局は“心”を持つ人間が使用するからです。

例えば、素晴らしい営業手法が書かれている本を読んでも、あなたの気持ちにやる気がなければ、まったく意味がありません。同じように、素直で謙虚な気持ちを持たず、教えられる内容を常に悪意で解釈するような人も、大きな成果を手にすることはできません。

この章では、本当の「資格起業家」になるために求められる、そうしたメンタル面の資質について解説していきます。ただ、そんなに身構える必要はありません。誰でも、ちょっと考え方や認識の仕方を変えるだけで、「資格起業家」のメンタルを手に入れることが可能です。

ビジネスノウハウは、好意的に受け取り「考えて」実践する
本書のようなビジネス指南書は、世の中に数多あります。士業としての成功法を教える本も、決して少なくない数が世に出ています。

個人的には、市場に出ているこうしたビジネス指南書で、「ビジネスに必要な知識」はほとんどすべてがまかなえると考えています。「何をしていいかわからない」「成功するための方法がわからない」と嘆いている人は多くいますが、こうした人たちのほとんどは、ビジネス書を読む絶対量が足りていない、と言うことができるでしょう。

ただ一方で、熱心にこうした本を読んで学び、知識量は相当蓄積しているのに、なかなか結果につながらない、という人が一定数いるのも事実です。知識量はすでに十分なのに、なぜ成功できる人とそうでない人が出てきてしまうのでしょうか?

それは、知識やノウハウの受け取り方に問題があるからです。

成功する人は、ビジネス書などの知識を「好意的に」「素直に」受け取っています。読んだ内容をまずは実践してみて、その結果を検証していきます。

それに対して、なかなかうまくいかない人は、「どうせ、たいしたことは書いていないだろう」「この知識はもう知っている。この著者はたいしたことがないな」などと、「評論家」的になってしまう傾向があります。

最初はどんなビジネス書も新鮮に見えますが、読書量が増えてくると必然的に「知っている情報」の割合が増えてきます。また、「著者の文章力の違い」などから、「この著者は文章がうまくないな」などと批判してしまうのです。

ビジネス書を読む本来の目的は、「評論家」になることではないはずです。

ノウハウや知識は、素直に前向きに受け取って、とにかく実践してみること。これが極めて重要です。明らかに間違っているものを除けば、とりあえず「実践」してみればよいのです。評論する必要はありません。

実践して効果が出れば、それ以上のことはありません。また、仮に効果が出なかったとしても、「この方法とタイミングで実践しても、効果はない」という「結論」がわかりますから、その手法を実践するかどうか、今後は悩まなくてすみます。

実践するかどうかいつまでも悩み、行動しあぐねている人は、いつまでも「結果」を得られません。あなたのライバルがその手法を試してみて、効果のあるなしにかかわらず「結果」を確認し、とっくに次の段階に移っているのに、いつまでも同じところで悩み続けているのです。

「実践できない理由」を消していこう
新しい知識やノウハウを、素直に実践できない人が少なくないのにはいくつか理由があります。最たるものは、「教えられた知識・ノウハウをすぐには信用できない」ことと、「失敗を恐れて躊躇してしまう」ことの2つでしょう。

前者に関しては、あまり考える必要はありません。信用できてもできなくても、実践によって大きな損害が出るようなものでなければ、まずは実践してみればその正しさが判断できます。

それだけのことなので、例えば本書の内容も、まずは実践してみればよいだけのことです。もし、真剣に取り組んでみて効果が出なければ、もう「横須賀てるひさ」の著書は読まなければよいだけです。

問題は後者のほうで、特に開業間もない頃は、「結果が出なかったらどうしよう」という不安が行動を鈍らせます。やはり、誰しも失敗は怖いのです。しかし、失敗を恐れてばかりいては、行動できません。

では、どうしたらいいのか? 結論から言えば、頭のなかで「失敗」を「結果」に置き換えるのです。

例えば、ダイレクトメールを出したとします。でも売れなかった。これを「失敗」と認識するのではなく、1つの「結果」として認識するのです。つまり、「この方法とタイミングでダイレクトメールを送っても、反応がないことがわかった」というように、頭のなかで認識するのです。

発明王エジソンも、電球の発明の際には完成するまでに1万回の失敗を繰り返したと言われます。しかし、そのことをインタビューされたとき、エジソンは「失敗したわけではない。うまくいかない方法を1万個発見しただけだ」と楽しそうに答えたそうです。

エジソンと同列に語るのはおこがましいかもしれませんが、私の場合も、最初は失敗の連続でした。無駄な飛び込み営業や当たらないポスティング、アクセスのないサイト営業……。数百万円もつぎ込んだのに、まったく効果が出ない手法もありました。

しかし、その失敗という「結果」の積み重ねによって、「失敗しない方法」がわかるようになってきたのです。「失敗」は、頭のなかで「結果」という言葉に置き換えてしまえばいいだけの話なのです。

言われたことに盲目的に従うことを求めているのではない
ただし1つ注意してほしいのは、「素直に実践すること」と「何も考えずにただやるだけ」ではまったく違うという点です。あなたが置かれている状況は、あなただけのものなのですから、本などで得た知識やノウハウの細部は、あなた自身の状況に合わせて“自分で”微調整する必要があるのです。

例えば、「メルマガを出したほうがよい」と本に書いてあったので、そのまま素直に実践しようとしたとします。しかし、その本に書いてある例文等をそのまま真似してみても、おそらく高い効果は望めないでしょう。

なぜなら、その本を書いた著者の状況と、あなたが置かれている状況は、いろいろな面で異なるからです。

その本の著者が、有名な経営コンサルタントで何冊も本を出しているような人だとしましょう。こういう著者には、固定的な「ファン」が数多く存在します。すでにメルマガの読者の多くが、その著者に対して信頼を置いている状況なので、メルマガ内で「今度、僕の新刊が出るので買ってくださいね」と簡単に書くだけで本が売れるわけです。内容はファンにとっては二の次で、とにかくその先生が書いた本なら読みたいと思ってしまいます。ですから、特に細かい説明は必要ありません。

しかし、起業間もない新人士業が、「そうかメルマガか」と同じような説明の仕方をしても、固定的な「ファン」がいないのでほとんど効果はありません。「今度、セミナーを行うので来てくださいね」と簡単な説明のメルマガを書いてしまい、碌に集客できずに焦ってしまうわけです。

要するに、ビジネス書などから得た知識やノウハウは、一度、自分のなかで「何のために実践するのか」と咀嚼し、あなたの置かれた状況に合わせて応用する必要があるのです。

先ほどの例なら、新人士業は次のように新しいノウハウを咀嚼・応用すべきです。

「このコンサルタントの先生が『メルマガを出せ』と言うのは、教材販売やセミナー集客を目的としてのことだろう。私も同じように教材販売やセミナー集客をしたいが、この先生のようなブランドはない。“ファン”と言えるようなお客様も多くない。ということは、メルマガでは商品紹介の前に、まずは自己紹介をしたりこれまでの実績を伝えたりして、読者に信頼してもらう“ブランドづくり”をする必要があるはずだ。そして、その後に商品を紹介するときにも、ずっと詳細な説明が必要になってくるだろう。もしかしたら、別途、販売用のウェブサイトも用意すべきかもしれない」等々新しい知識・ノウハウを「素直に」「好意的に」受け止めることは非常に重要ですが、ただ素直なだけでも結果にはつながりにくい、ということを覚えておいてください。

資格起業家を目指すあなたは、もう普通の士業ではない
「資格起業家」を目指す以上、もう従来の士業とは違うんだ、という自覚を持つことも、「資格起業家メソッド」で成功するためには必要なメンタルです。

すでに何度も述べたとおり、この方法はこれまでの士業の歴史から見ると革新的なビジネスモデルです。ですから、あなたも「変化を恐れず、とにかく行動する『資格起業家』になるんだ!」という強いセルフイメージを持ってください。

これには2つの意味があります。

1つには、私の提唱する資格起業家メソッドは、従来の「士業純血主義」に染まった業界の先輩諸氏からしてみれば「邪道」な方法ですから、どうしても周りから悪く言われがちなためです。周囲から何を言われても、「これがビジネスとしては正しい方法なんだ」、「自分は『資格起業家』として成功するんだ」という強い意思を持って、外部からのプレッシャーに負けないでほしいという意味です。

そしてもう1つは、「人と自分を比べないでほしい」という意味を込めています。士業のモチベーションが急激に下がってしまうケースに、「同じ時期の開業」「同年代」「同じ資格の保持者」と比較をして、自分が劣っていると感じたときに、一気にモチベーションが下がってしまう、というものがあります。この罠にはまってしまうと、最悪、廃業に向かって気持ちが動いてしまうことになります。

しかし、「資格起業家」を目指す以上は、そもそも最初の段階から、従来の士業の成功イメージとは異なる方法で成功を目指すのです。言うならば、同じ土俵で勝負していないのですから、ムリに比べる必要はなくなります。

私も、かつては同じくらいの年齢の方が行政書士として大成功している話を聞くと、自分の苦境と比べてしまって落ち込むことがよくありました。しかし、資格起業家になると決めたときから、「そもそもやっていることが違うのだから、自分は自分のペースでいけばよい」と考えるようになったのです。

あなたも、ぜひ「資格起業家になる!」という強い決意を持って、周りの状況に惑わされずに成功目指して突き進んでください。

モチベーションを維持し続けるには
資格起業家になると決めたら、強い決意を持ってほしいとお伝えしました。しかし、やはり人間ですから、モチベーションの上がり下がりはあります。

私自身も、もちろん意欲は上がったり下がったりしますので、このあたりの対処法を解説しておきます。

まず、モチベーションが下がったら、無理に上げないことです。モチベーションが低いときに無理に仕事をしてしまうと、そのパフォーマンスの悪さに余計落ち込みます。ですから、モチベーションが低いときには無理をしない。むしろ、難しい仕事などからは少し離れてください。

そして、自分に合った気分転換の方法を日頃から考えておき、それを実行するとよいでしょう。

ちなみに、私が個人的にベストだと思っている気分転換の方法は「運動すること」です。なにも激しい運動でなくてもかまいません。ウォーキングなどの軽い運動でも十分です。経験上、作業デスクの前でうなっている状態があまりよくないようです。

ただし、ずっと気分転換していても仕事は進みません。どこかで再度スイッチを入れる必要があります。

そんなときに役立つのが「人に会う」ことです。できるだけ元気な人に会い、一緒にランチでも食べましょう。おいしいものを食べて、明るく元気な話を聞けば、自然と元気が出るものです。非常にシンプルな方法ですが、自己啓発セミナーにありがちな意味のない呪文を唱えるよりは、はるかに効果的です。

また、なかなか人と会うアポイントメントが取れない場合には、「成功者の肉声を聞く」のもよいでしょう。つまり、ビジネス系のセミナーに出たり、オーディオ教材などを聞いたりして、成功者の生の声に触れるのです。

こうした方法で成功者の肉声を聞くことには、大きなモチベーションアップの効果があり、その効果の持続時間も長いようです。これは私の経験からくる持論ですが、それほど「人」の力には大きな影響力があるということでしょう。

特に東京などの都市部に事務所を置いている場合は、セミナーの数も多いので、人脈構築も兼ねて積極的に参加するとよいと思います。また、地方都市でビジネス系のセミナーがそれほど多くないときには、オーディオ教材を活用してください。

たまには遠方のセミナーにも参加すべし!
ところで、地方都市の在住者が東京や大阪などで開催されるセミナーに参加することに意味があるのか、たまに質問されることがあります。この点に関して、私は肯定派です。

近場で参加するセミナーに比べ、遠隔地で参加するセミナーには交通費や宿泊費などの経費がかかります。そのため、近場で受けるセミナーよりも集中力が高まることが1つのメリットです。また、遠隔地のセミナーでは、普段の生活では決して得られない人脈や情報などに触れられますから、非日常的なよい刺激になって、行動を駆り立てられるのです。

実際、前述した「経営天才塾」から出た成功者の方々のなかには、自分が参加したいテーマのセミナーなら、場所がどこであろうとすぐに出かけていく人が多くいます。また私自身のケースでも、独立開業を決意したり、事務所経営の大改革を決意したりする契機のときは、決まって、ギリギリの予算をやりくりして大阪などで行われる高額セミナーに参加したあとでした。やはり、遠方で受ける刺激には大きなものがあるのです。東京に帰ってきてからも、しばらくはその興奮が収まらずに仕事に打ち込んでいた記憶があります。

そんなわけで、地方で開業している士業の方に限らず、都市在住者でも、年に1~2回は遠方のセミナーに参加することをお勧めします。

「先生」と呼ばれるに値する実力を持つ
「資格起業家メソッド」では、資格の本業よりもむしろ副次的な業務を優先して展開することで、お客様を集客し、本業へとつなげることを目指していきます。

では、もし1段階目のビジネスで集客したお客さまが、目論見どおり資格の本業も依頼してくれたとき、あなたが「士業」や「専門家」としてまともなレベルの実務をできなければ、いったいどうなるでしょうか?

当然、お客様は大変失望します。今はインターネット上の口コミサイトなども大きな影響力を持っていますから、今後のあなたのビジネス自体に大きなダメージを与える可能性も否定できません。

私は、士業の方を相手にさまざまなセミナーを行っています。しかし、実務を教えるセミナーはほとんど行ったことがありません。会社設立関係のセミナーであれば、開催しようと思えばいつでもできるのですが、自主開催したことは一度もありません。おそらく今後もやらないでしょう。

なぜ、実務を教えることをしないかと言うと、士業は実務ができることが「最低ライン」だと考えているからです。そして、できることなら自分自身で調べて、実務をどんどん覚えてほしい、と考えているからです。

もちろん、同業者同士の情報交換も重要ですから、そういった交流の場に出ていくこともある程度は必要でしょう。しかし、いつまでも「半人前」の意識で参加するのではなく、独立開業した「プロ」や「士業」としてのプライドを持って、仕事を貪欲に覚えていってほしいと思います。

あなた自身がどう考えているとしても、お客様から見ればあなたは「プロ」です。また、だからこそ、どんな若造であっても企業の経営者の方たちから「先生」と呼ばれるのです。ぜひ、誇りを持って資格本来の業務に取り組んでください。

「資格起業家メソッド」は、士業の仕事の可能性を広げる考え方で、業務知識では敵わないベテラン士業に対しても、互角に戦える可能性を秘めた方法です。しかし、これは資格の本業である実務知識を疎かにしてよい、という意味では決してないのです。

先生」と呼ばれて恥ずかしい思いをしないように、実務知識や経験を積むことにも日々努力してください。

なぜ、頭がよいのに信頼されないのか
「士業」という資格業は、世の中から特別な視線で見られています。この点も、「資格起業家」なら必ず知っておくべきポイントです。

士業は資格を持っていることで、一定の固定観念を持たれているのです。それは、「頭がよい」「社会常識がある」「仕事ができる」というものです。

こうした漠然としたイメージを、お客様はあらかじめ抱いています。だから、何かちょっとした失敗をしただけでも、もともと知性的なイメージが強いために、その失敗が大げさに見えてしまいます。

例えば、仕事上で少しでも融通が利かないと、「あの人は頭でっかちだ」と思われてしまいます。また、身だしなみに少し気を抜いただけでも、「あの人は、“先生”なのに常識がない」と思われたりします。

ですから、士業として活動する際には、人一倍「どう見られているか」に意識を強く向けてください。仕事は完璧すぎるほど完璧に行い、マナーや社会常識には人並み以上に気をつけましょう。スーツなどの仕事上の服装にも、ある程度はお金を遣う必要があります。ある程度完璧に見えて、やっと「普通」と受け取られるのが、士業の宿命なのです。

なお「人からどのように見られているか」と常に考えることは、マーケティングを考える際にも役立ちます。お客様が何を求めているのか、どう見ているのかという視点を持ち、普段の商談などもより有利に進めていきましょう。

資格起業家はお金のリテラシーを身につけよう
士業に必要な知識のなかで、私が特に「足りていないな」と感じるのが「お金」に関する知識です。金融機関の融資制度や企業の資金調達の方法、投資・資産運用の知識など、企業経営や個人の資産運用に必要となるひととおりのお金の知識は、士業であれば必ず身につけておきたいものでしょう。

税理士や公認会計士、中小企業診断士などでは比較的詳しい人が多いのですが、社労士や行政書士などでは、普通のサラリーマンと同レベルの知識しかもっていないような人も少なくありません。また、融資制度や資金調達に詳しければ、投資や資産運用には弱く、逆に投資や資産運用に詳しければ、融資制度や資金調達には弱い傾向があります。

なぜ、こうしたお金の知識が必要かと言うと、士業のお客様としてもっとも多いのが企業の経営者なので、そうした方たちとは結局「ビジネスとお金」の話になることが多いからです。ですから、経営者と高いレベルの話ができるように、これらのお金のリテラシーを高める意識を持つべきなのです。

実際、企業を経営していれば融資や資金繰りの話はそれこそ日常になりますし、同時に一般のサラリーマンに比べて高い所得を得ている経営者は、投資や資産運用に強い興味を示します。株式投資や不動産投資を実際に行え、という意味ではありませんが、知識として持っておくと非常に有利なのです。

私の場合も、株式投資も不動産投資もやったことはありませんが、知識的なことはある程度押さえています。経営者と話をする際、投資が話題になって「私は、何もわからないものですから…」では話になりません。「お金のことがわかっている」ということは、「経営者としてのレベルが少し上がる」のと同じだと考えるとよいでしょう。

それから、士業が投資や資産運用について知るべきもう1つの理由として、あなた自身の資産を増やしていくことも、今後は考えなければならない、ということが挙げられます。

すでに述べたように、士業の業界には「儲け」をよしとしない根強い風潮があります。こうした「財テク」に関しての話題が同業者間で出ることも、ほとんどないでしょう。

しかし、「お金」はビジネスにとっては必要不可欠なものです。稼いだお金をしっかりと運用して少しずつ増やし、将来につなげていくという発想は、士業の経営をしていくうえでも極めて重要になります。

士業事務所を経営する人のなかで非常に多いのが、毎年ある程度売上を上げているのに、税金を支払ったら結局のところあまりお金が残らない、という繰り返しをしてしまっているケースです。これには、個人事業主という経営形態がそれほど節税に向いていないという理由もありますが、なにより「お金」に対する意識が低いことが大きな理由になっています。

将来も病気1つせず、定年もなしで死ぬまで働き続けられるのであれば、こういったやり方でもかまいませんが、人間ですからそれは不可能です。定年はともかく、高齢になったときの健康状態は予想ができません。

常日頃から「お金」のリテラシーを高めて、自分自身の資産についても考えていく必要があるのです。

株式会社をつくり、経営者としての意識を持とう
前述のお金のリテラシーとも多少関連しますが、「資格起業家」としてビジネスを拡大していくつもりなら、早い段階でセミナーや教材販売、コンサルティングなどの派生事業を行うための会社を、士業事務所とは別につくってほしい、と私は考えます。

士業の本来業務についてはあくまで個人事業主として行い、集客やブランディングのための第1段階のビジネスについては、同じ代表者で別の会社組織をつくって、そこで行うということです。

士業ではない一般的な企業の経営者であれば、「稼げているなら、法人をつくるべき」というのは比較的共通した認識になっています。そのほうが、節税の面でメリットが大きいからです。

対する士業の業界では、かなり稼げていても個人事業主のままでいるケースが少なくありません。そのため、お客様である企業経営者の目から見ると、名刺を渡したときに、「この先生は個人事業主だから、それほど儲かってはいないんだろうな」と受け取られるケースが意外に多いのです。

そこで法人も同時に経営していれば、「この先生はやり手だな」と思わせることが可能です。

また、法人はその組織の存在があるだけで、金融機関や取引先企業から一定の信用を勝ち取れます。私自身も、2005年に現在の株式会社パワーコンテンツジャパンの前身となる有限会社パワーコンテンツジャパンを設立したのですが、この法人の設立以後、対外的な信用力が大きく上がったと実感しています。

セミナーやコンサルティングの営業についても成約率が上がりましたし、金融機関からの融資も受けやすくなりました。実際に金融機関から運転資金を借りることで、融資制度や資金繰りについての知識も増えていきます。

信用面から見ても、士業事務所と会社を2つ経営することには大きなメリットがあるわけです。資格起業家メソッドでセミナー事業やコンサルティング事業を伸ばしていくためにも、ぜひ会社を経営してほしいと思います。また、そうした副次的なビジネスで利益が出てきた場合、法人にしておくことで当然節税メリットも出てきます。

設立する会社の種類に関しては、さまざまな選択肢がありますが、士業事務所と別につくる場合にはやはり「株式会社」がよいでしょう。「合同会社」等の会社組織も法整備されていますが、まだまだ一般的な知名度は高くありません。信用面やブランディングの面で最大限のメリットを享受するため、シンプルに株式会社をつくることをお勧めします。

なお、行政書士法人や税理士法人など、士業独自の法人形態もあり、士業の本業を行う部分についてはこれらの法人形態を選択するのもいいでしょう。

ただ、お客様の視点から見ると、「○○士法人」というものはあまり知られているとは言えません。「個人事務所」と同じようなものと認識している社長さんも多いので、やはり別に株式会社をつくっておくことを強くお勧めします。

ちなみに、株式会社を設立することで、スタッフの採用に関しても有利になります。経験上、個人事務所よりも株式会社のほうが、より多くの優秀な人材に応募してもらえるものです。

士業は教養や人間性を身につけてほしい
士業は全員難しい試験を通ってきていますから、特定の分野に関しては豊富な知識を持っています。しかしその一方で、それ以外の分野の知識や常識が欠けてしまっているケースが散見されるのも、残念な現実です。

実際の仕事をするうえでは、確かに実務知識も重要なものですが、それだけの人間には人は「仕事を頼みたい」とは思いません。

ほとんどの士業は、企業の経営者に寄り添い、そのサポートをするのが仕事です。経営者から本当に信頼されれば、法的な相談だけではなく、経営や人生についても相談されることが出てくるでしょう。

経営者にそうした相談をされるのは、単なる知識だけを持っている人ではありません。豊かな教養があり、人間性に優れた人。つまりは総合的に見て「尊敬できる人」だけが、経営者に絶大な信頼を置いてもらえるのです。

ですから、あなたが経営者から真に信頼され、頼られるパートナーになりたいと思っているのなら、単に法律の知識だけではなくて、さまざまな分野の知識や見識を常に深めていく姿勢が必要です。経営やマーケティングなどのビジネス全般の知識はもちろん、さまざまな趣味や芸術的な分野、スポーツや文学など、ジャンルに関係なく自らの教養や人間性を高めてくれるあらゆるものに前向きに挑戦していくべきです。

「これはダメ」「あれはやらない」と自分の可能性を閉ざしていくのではなく、何にでも興味を持ち、日々吸収していく心構えを忘れないでください。

士業はゼネラリストになってほしい
資格起業家メソッドは、従来の士業実務以外のことにも積極的に取り組みます。これまでの士業の経営スタイルとは違った形ですが、今後は、このようにさまざまな業務に対応できる人材が求められるようになるでしょう。

以前は、士業は専門的なことだけをしていれば十分でした。しかし、資格の保持者が増え、情報が自由に手に入るようになった現在では、極端な言い方をすれば専門家は「代えが効く存在」です。会社の設立だけなら、ほかの人にもお願いできます。単に税金の申告をするだけなら、税理士も選び放題です。現状はそこまで来ているのです。

したがって、今後は自分を「代えの効かない人材」に変えていく必要があります。

経営・マーケティングに強い行政書士、コンサルティングができる税理士、組織構築ができる社会保険労務士、セミナー事業ができる司法書士……。

このように、お客様にとって「ただの士業」ではなく、代えがたいほど優秀な人材になっていくしか、生き残る方法はないのです。

結局、お金を支払ってくれるのはお客様です。つまり、お客様から必要とされる人材にならなければなりません。「資格があるから仕事を頼まれている」状態からは早く脱却し、「あなた」が「あなた」だから仕事を頼まれているという状況に変えていくよう大いに努力してください。

資格は、所詮は国がつくった制度です。いつまであるかは誰も保証できません。もちろんすぐになくなるということは考えにくいですが、もしなくなってしまったときに、「あなたから資格を除いたら、何も残らないよね」と言われないように、広い視野のなかで成長していくことを心がけてください。

第3章 稼げる“資格起業家”になる「ビジネスモデル構築法」

「資格起業家としてのビジネス」だけではダメ
さて、資格起業家メソッドの応用編に入る前に、1つ確認しておきたい「前提」があります。それは、「資格起業家」だからといって、士業の本来業務を取ってはいけないということではない、という点です。

すでに何度も述べているように、資格起業家メソッドの基本的な枠組みは、士業本来の業務を取る前にセミナーや教材販売などの1段階目のビジネスを構築し、それによって日銭を稼ぎながら潜在顧客を集め、士業の本来業務の受注につなげる、というものです。

この副次的なビジネス(セミナーや教材販売、コンサルティングなど)のことは、士業本来の業務と区別するため、「資格起業家としてのビジネス」と呼んでもいいでしょう。

この「資格起業家としてのビジネス」は、運営が軌道に乗ってくると、それだけでも会社を回せるほどの売上を得ることが可能です。ただ、そのビジネスにだけ力を注ぐようになると、今度は別の問題が発生してきます。

それは、士業が各資格の本来業務をまったく行っていないと、お客様に信用されにくい、という問題です。

私たち士業の原点は、あくまでもそれぞれが保持する資格にあります。だから、その資格に本来許された業務を完全に手放してしまうと、たとえ会社としての経営はうまくいっていても、「もはや士業ではない」と見なされかねないのです。

そうなると、せっかくの資格の力を活かし切ることができません。1段階目のビジネスが成功したら、きちんとそれを士業の本来業務の受注につなげていく心構えを持つことが、とても大切になるのです。

「士業の本来業務」と「資格起業家としてのビジネス」の両方を、同時に追求していくのが、資格起業家メソッドの基本スタイルです。

士業の本来業務獲得を狙う2つのマーケティング手法
まずは、士業の本来業務に関するマーケティング手法を解説しておきましょう。

士業の本来業務は、そもそもが「売りにくい商品」です。「とりあえず買っておこう」とか、「金銭的に余裕があるから買ってあげる」というような状況は、基本的にあり得ません。

例えば、相続の手続きが発生していないのに(=誰も亡くなっていないのに)、相続の仕事を営業しても間違いなく買ってもらえませんし、会社をつくる気がない人にいくら営業をしても、会社設立手続きの受注をするのは不可能です。士業の本来業務の多くは、こういう性質の商品です。

士業の本来業務は、顧客がそれを必要とする状況になったとき、はじめてニーズが発生するのです。前述の相続手続きで言えば、誰かが亡くなって(あるいは、亡くなりそうになって)、初めて必要に迫られるわけです。

お客様は、そうした差し迫った必要性に迫られて、ようやくその業務を請け負ってくれる士業を探し始めます。逆に言うと、それ以前には、こちらから売りつけることは非常に困難なわけです。

士業の本来業務が持つこうした性質を踏まえると、次の2つのマーケティング手法が有効だと考えられます。

①潜在的な顧客に直接会って、顔を覚えてもらう「アナログ営業」
②ホームページをつくっておき、検索エンジンで探してもらう「インターネット営業」

①アナログ営業
士業の本来業務の内容は、会社の財務を見たり、許認可の手続きをしたりなど、お客様の会社を運営していくうえでは必要不可欠となるものが多いです。そのため、こうした業務を行う専門家には、とにかく法律に則り、適正な処理を行える人材が求められます。要するに、何はともあれ「信頼できる人」が求められるのです。

そして、「業務能力は人並みでもいいから、とにかく信頼できる人を」となると、やはり古い知り合いや有力な取引先、あるいは信用できる関係先などからの「紹介」が、人材選択の一番の決め手となります。

こうした「紹介」を呼び込むには、とにかくいろいろな人に直接会う「アナログ営業」が非常に重要です。どうしても即効性には欠けますが、士業の本来業務を継続的に請け負っていくには、このアナログ営業にもそれ相応の力を注がなくてはなりません。

こうした「アナログ営業」のポイントは、「続ける」ことです。私自身も、開業から数年間は、ひと月100名に会うことを目標にし、それによって「紹介」による業務受注を増やしていきました。アナログ営業では、紹介が発生する確率を高めるために顔を合わせ、言葉を交わす人の絶対数を増やしていくことが求められます。ですから、とにかく継続できた人が成功するのです。

いろいろな人に実際に会うことによって、前述したモチベーション維持の効果も出てくるので、一石二鳥のマーケティング手法と言えるでしょう。

②インターネット営業
そして、人づてでは適切な士業を探せなかったお客様が、次にとる手段は「インターネットでの検索」です。例えば「渋谷区 税理士」「会社設立 港区」といったキーワードを使って、業務を請け負ってくれる士業を探す確率が非常に高いのです。

そして、インターネットで士業のホームページを検索し、ざっと内容を確認したうえで、「ここなら妥当かな」と思った事務所に電話やメールで問い合わせをして業務を依頼します。私自身の事務所に関しても、特にここ数年はこうした流れで業務を受注する割合が増えています。

こうしたインターネット経由の顧客を呼び込むには、自社のウェブサイトをつくり込んで、魅力的なプロフィールやわかりやすい業務の依頼フローをつくる、または検索の際に検索結果の上位に表示されやすくするSEO対策に取り組むなどの、いわば「守り」の手法と、メルマガや各種のSNSサイト(フェイスブックやツイッター、ミクシーなど)を利用した情報発信などの「攻め」の手法をうまく組み合わせ、総合的な「インターネット営業」を推進していくことが求められます。

その細かい手法については、もう少しあとで解説していきましょう。

①の「アナログ営業」と②の「インターネット営業」以外にも、チラシや小冊子を作成・配布し、それによってお客様を獲得するマーケティング手法等がありますが、現状では、まずはこの2つのマーケティング手法にリソースを絞り、集中的に取り組んでいくのがベストだと思います。

士業は4つのレベルに分けられる
アナログ営業を行う場合には、1つ重要なポイントがあります。それは、士業には「レベル」があるということです。

これは私の経験則にすぎませんが、士業は4つのレベルに分けられるのではないかと考えているのです。このレベルが高まれば高まるほど、アナログ営業を通じた士業の本来業務の紹介が増えていきます。

第1レベルの士業
「資格だけ持っている単なる士業」が、第1レベルの士業です。

例えばあなたが社労士なら、「ほかに頼める適当な人がいないので、たまたま社労士資格を持っているあなたに仕事を頼んだ」という状況です。

このレベルの士業は、価格競争をしなければなりません。どこにでもいる普通の士業なので、「ほかよりも安い」という点をウリにせざるをえず、否応なしに価格競争に巻き込まれてしまいます。

第2レベルの士業
次のレベルが「近い士業」です。

この場合の「近い」とは、「事務所の所在地が会社に近い」「経営者の通勤経路に事務所がある」などの、単純な距離的な近さです。

このレベルの士業も価格競争に巻き込まれやすいのですが、人は自分に物理的に近い位置にいる他者に親しみを感じやすく、仕事もより多く頼むという行動特性を持っています。そのため、第1レベルの士業に比べれば多少は有利です。

もし、あなたが現在第1レベルの士業にすぎないのであれば、物理的に潜在顧客に接近していく「アナログ営業」を積極的に行い、最低でもこの第2レベルの士業になれるように頑張ってください。

第3レベルの士業
3つ目のレベルは、「好きな士業」です。

自分と共通点が多い、親切にしてくれる、仕事を紹介してくれるなど、「人に好かれる士業」には「紹介」もたくさん舞い込んできます。

開業からしばらくは、私自身も、お会いした人には必ずお礼のハガキを出す、役立ちそうな情報をこちらからメールで送る、先方に伺うときには手土産を持って行く、仕事を紹介する、などのいわゆる「親切な行為」を、意識して行うようにしていました。

そうすることによって、相手に自分への好意を持ってもらい、結果として「紹介」を増やそうと考えたからです。実際、そのような取り組みを始めてから、士業本来の業務の紹介はスパイラル的に増えていきました。

独立開業したばかりの方は、まずはいろいろな人にたくさんの「親切行為」をするように心がけましょう。すると、結果として相手にも好かれ、この第3レベルの士業に変化できます。そうすれば、事務所経営の最初の足場を固めることにもつながるはずです。

誰にでもできるシンプルな内容ですが、それだけに、意外とできていないのがこの「親切行為」です。特に意識しなくてもこれができるようになると、士業の本来業務を継続的に「紹介」してもらえるようになります。

第4レベルの士業
そして、最後の第4レベルが「得する士業」です。これは、要するに「資格起業家」に相当するレベルということです。

士業の本来業務を完璧にこなせるのはもちろんのこと、それ以外にも、その士業と付き合うことでさまざまなメリットを享受できる人材のことです。

この場合の「メリット」とは、例えば私の場合なら、セミナーや教材を通じて最新のネット営業の手法や各種の法改正情報、今後の組織の改革論などを知ることができる、ということです。こういう士業は、お客様に本当に重宝されます。

あくまでも私の経験則ですが、士業はこのように4つのレベルに分けられます。

第3レベルまでは比較的簡単にレベルアップできるのですが、4番目の「資格起業家」にまでなるには、やはり相応の努力を必要とします。

しかし、いったんそこに到達できれば、あなたが望む年商や年収、あるいは仕事の内容も、すべてを手にすることが可能です。ぜひ、資格起業家メソッドを実践し、このレベルにまで登りつめてほしいと思います。

「資格起業家メソッド」推薦! 4つのビジネスモデル
さて、いよいよ具体的に、「資格起業家」としてのビジネスモデルを解説していきます。成功につながるビジネスの仕組みは、決してひととおりではありません。あなた自身が培ってきたこれまでのキャリアを、最大限に活かせるビジネスモデルを選びましょう。

士業は、いったん開業してしまうと、どうしても「士業純血主義」になりがちです。しかし、せっかくこれまでに積み上げてきたキャリアですから、それをゼロにする必要はありません。独立前に前職があるのであれば、「これまでのキャリアを活かすには、どのようなビジネスモデルを描けばいいのか?」をじっくり考え、「士業純血主義」に捕らわれずにもっとも有利な選択肢を選んでください。

資格に関することであれば、関連ビジネスは何を行ってもかまいません。ただ、「完全に自由です」と言われてもやはり困ると思いますので、いくつかの典型的なパターンを紹介しておきます。どれも多くの成功者を出している、実績抜群のビジネスモデルです。

なお、士業のお客様は、民事法務の仕事を除けば、大半が「経営者」か「起業家」になります。ですから、この典型的な各パターンも、客層は経営者・起業家を中心に考えています。

これらのどのパターンにも共通して言えることは、お客様が欲しているサービスや商品と、自分自身が提供できるサービスや商品とをうまくマッチングさせている、ということです。その点を意識して、自分に合ったビジネスモデルを探してください。

ビジネスモデル①コンテンツ型資格起業家
まずは、資格起業家メソッドの基本形とも言える「コンテンツ型資格起業家」のビジネスモデルです。

このビジネスモデルでは、あなたは主に情報や知識を顧客に提供し、その代価を受け取ります。そして、それによって顔をつないで、本来業務の受注や紹介につなげるのです。

提供する情報や知識は、経営者や起業家がほしがるものに絞ります。つまり、大きく分けると次の2種類です。

(1)お金や売上に直結する情報や知識
(2)組織に関する情報や知識

細かく見ていくとさまざまなサブジャンルがあるのですが、この2種類のテーマに関係する知識や情報であれば、商品としたときに失敗する確率が比較的低くなります。お金や売上に興味がない経営者・起業家はいませんし、会社組織のなかで現に人間関係の悩みをかかえている経営者も、想像以上に多いからです。

参考までに、私の場合は主に次の4つのテーマに沿って情報や知識をまとめ、セミナーにしたり、教育教材にしたりして販売してきました。

(1)ビジネスブログの活用法
(2)商業出版をする方法
(3)インターネットビジネスの法律問題
(4)小さな会社が売上を伸ばす方法

この4つのテーマのなかでは(3)だけが例外で、お金や売上、あるいは組織に、直接関係しないテーマになっています。そのためか、ほかの3つのテーマに比べると売上も伸び悩んでいます。

とにかく、このような情報や知識を総称して「コンテンツ」と呼びます。

これらの「コンテンツ」の販売方法は、セミナーのテーマにする、あるいは講演の題材にするなどして、対面形式で音声として提供する場合もありますし、CDやDVD、あるいは小冊子の形状に編集・加工して、教材として通信販売する方法もあります。

私はあまり活用していませんが、PDFデータや音声ファイル、映像ファイル、電子書籍等に加工し、インターネット上で顧客のパソコンやスマートフォンにダウンロードさせ、それに対して課金する方法もあります。

どんな方法でもかまわないので、とにかく自分が持っている情報や知識を切り売りし、それによって利益を出しながら「士業」としての自分を潜在顧客に広く知ってもらおう、とするビジネスモデルなのです。

この「コンテンツ型資格起業家」のビジネスモデルで、基本戦略となるのは、例えば税理士であれば税金に関するノウハウ、社会保険労務士であれば人材育成に関するノウハウ、公認会計士なら企業会計の知識など、自分が得意としている分野の知識や情報で勝負することです。

いい加減な知識しか保持していない、得意ではない分野に関しては、それを販売することでむしろ不信感を広めてしまう恐れがあります。これまでに培った知識や経験を活かせるようなテーマ設定が重要です。

また、このビジネスモデルは保持している資格の種類に関係なく取り組めるので、比較的採用しやすいモデルでもあります。実際、「経営天才塾」の参加者のなかでももっとも採用する人が多く、その分、成功例も数多く存在しています。

ビジネスモデル② コンサルティング・コーチング型資格起業家
次の「コンサルティング・コーチング型資格起業家」のビジネスモデルでは、1段階目の派生事業として、コンサルティングやコーチングを行います。経営者とコンサルティング契約を結んだり、コーチング契約を結んだりして、継続的に収入を得ていくわけです。

顧客との間に密接な関係を築けるため、それらのお客様に士業本来の業務が発生すればほぼ確実に受注できますし、知り合いを紹介してもらうことも大いに期待できます。

コーチング
「コーチング」とは、「セッション」と呼ばれる会話のなかでコーチが質問を繰り返し、相談者がそれらの質問に応えていくことによって、相談者の隠れていた本心を浮き彫りにしたり、新たな才能を見つけたり、モチベーションを高めたりするコミュニケーションの手法です。

相談者に質問を投げかけていく「コーチ」には、特殊な話術や心理学の知識が必要になりますから、株式会社コーチ・エイに代表されるコーチ教育機関などで学び、技術を身につけることで資格を得ることになっています。

最近では、このコーチングがビジネス界に浸透し始めており、相談者も多くなっています。私自身もすでに5年ほどコーチングを受けていますが、その効果は明らかです。会社の方向性を自覚的に見据えられるようになったり、新ビジネスのアイデアが沸いてきたりします。

コーチングは、ある程度長期の継続契約が基本となっているので、収益を安定させるという意味でも非常に優れたビジネスモデルとなるでしょう。

コンサルティング
もう一方の「コンサルティング」は、誰でもすぐにできるものではありません。

コンサルティングは、主に会社の経営や組織に関してお客様の相談に乗るものなのですが、相談者からの要望は千差万別で決まったパターンがないからです。そのため、コンサルタントとして活動していくには、幅広い知識と豊富な経験が必要になります。

ただ、難しいからと言って早々にあきらめる必要はありません。2年、あるいは3年かけてでも、コンサルタントとして生計を立てられる道筋を今からつくっていけばよいのです。ここでは、経営コンサルタントになるための典型的なステップを、簡単に紹介しておきます。

まず、経営コンサルタントになるために必須の知識は、経営、組織、財務の3つです。これらすべてにおいて優れていればいいのですが、なかなかそれは難しいと思います(特に若い士業の方であれば)。

そこで、最短距離でコンサルタントになりたいのなら、まずは「業界」か「手法」のどちらかに特化することをお勧めします。

例えば、前職が飲食業界で、多少は業界の事情に通じているとしたら、業界の特徴や慣習などをさらに詳しく勉強し、「飲食店のことなら、何を聞かれても大丈夫!」というレベルにまで知識を積み重ねていきます。勉強する内容は、飲食業界特有のマーケティング方法や組織編成、資金のまわり方や人事労務関連、法的リスクや主要競合他社の研究まで、思いつく限りすべてです。

あらゆる業界について詳しい知識を仕込むのは、非常に難しいし不可能です。しかし、1つの特定の業界であれば、何とかなります。特定の業界に特化して知識を増やし、そこをウリにすれば、比較的経験が浅くてもコンサルタントとして契約を取れる可能性があります。

そして、もう1つの方法は「手法特化」です。

マーケティング手法には実にさまざまなものがあります。飛び込み営業やテレアポ、小冊子を使った営業、広告・宣伝、インターネットマーケティング、セミナー営業、マスコミ相手のプロモーションなどなど……。このなかの1つの手法を選び、それに特化して猛勉強し、その手法についての専門家になるのです。

例えば私の場合、行政書士資格を取ってから猛勉強して、「ビジネスブログ・マーケティング」に詳しくなりました。すると、ほかに専門にしている人がいない分野ですから、それほど実務経験がなかったにもかかわらず第一人者としていくつかの媒体に取り上げられ、ビジネスブログでのマーケティング手法を教えるコンサルティング契約を取ることができました。

これも、すべてのマーケティング手法に精通するのではなく、ある特定の手法に特化してしまって、そのなかで自分を専門家にしてしまう方法です。コンサルタントを目指すのであれば、このような方法でまずは突破口を開いてください。

ビジネスモデル③イベント型資格起業家
次は「イベント型資格起業家」のビジネスモデルです。

このビジネスモデルでは、資格起業家は異業種交流会やセミナー等のイベントを主催し、それによって収益を得ながら、参加者に顔をつないでその後の業務受注や紹介を増やします。

このビジネスモデルでは、自分でコンテンツを作成する必要がありません。そのため、独自のコンテンツをまだ開発していない士業でもすぐに取り組めるのがメリットです。

同じセミナーを主催するのでも、前述の「コンテンツ型資格起業家」とこの「イベント型資格起業家」ではまったく違います。「コンテンツ型資格起業家」では、あなた自身が講師としてセミナーを行いますが、「イベント型資格起業家」ではあなたはあくまで主催するだけであって、講師は誰か別の方に依頼します。

あなたがするのは、会場や講師の手配、それに集客です。「興行型資格起業家」と言い換えてもいいでしょう。

このビジネスモデルを採用したときに成功のポイントとなるのは、「集客」がうまくできるかどうかです。お客様をきちんと集められるかどうか、その能力が死活的に重要になってきます。

コツをつかめば、集客はそれほど難しいものではないのですが、これがうまくできない人にはこのビジネスモデルは向いていないでしょう。細かいノウハウは別章で解説しますので、ここでは代表的な成功事例について解説しておきます。

異業種交流会の開催
「イベント型」の代表的な成功モデルに、「異業種交流会」の開催があります。

ビジネスでは人脈が重要ですから、人脈をつくるための場として認知されている「異業種交流会」を開催することは、それほど難しいことではありません。

ただし、ある程度は馴染みがある一方で、「怪しい」「何かを売りつけられることが多い」といったマイナスイメージがあるのも否めません。参加者にもそれぞれに思惑があり、セールスの場として利用しようと考えている人もいるので、主催側として「セールスや勧誘は禁止」などのルールをつくっておくことが重要になります。

さらにもう1つ、「なぜ、その異業種交流会を主催するのか?」という理由づくりも重要になります。「ただの異業種交流会」では、意識の高い人は集まりません。意識の高い人が少ないと、結果としてあなたへの発注や紹介も増えません。

「○○県の中小企業を盛り上げるため、経営者同士の業種を越えた交流を目的にした会」といった感じに、あらかじめ多くの人が賛同できるような開催趣旨を決めておくことが、質の高い集客をするために必要になります。

セミナーの開催
次にセミナーの主催ですが、この場合は魅力ある第三者にセミナーの講師を依頼し、うまく承諾を得られる人脈力やコミュニケーション能力が必要になります。

セミナーの講師は、有名であればあるほど集客しやすいです。また、著名人を講師として招くことに成功すると、「あの○○○さんが、あなたが主催するセミナーに来てくれた」ということで、あなた自身のブランド価値も高まります。したがって、できるだけ著名な方を呼ぶことが、成功のポイントとなります。

とはいえ、有名人になればなるほど講演の依頼料は高くなります。主催者側としては、あらかじめそれなりの予算を用意しておく必要が出てきます。

ただ、こういった講師業をされている方は、有名になればなるほど金額だけで依頼の諾否を判断することはしません。それよりも、主催者側の熱意や、セミナー開催の意義が自分のそれまでの主張等に合っているか、などの視点で依頼を受けるかどうかを決めることが多いようです。

ですから、講師への依頼もメールや電話ではなく、直接会って熱意を伝えるのが一番です。「講師をお願いしたい」と考えている人のセミナーや講演に実際に参加し、講演後の名刺交換の場などでこちら側の情熱を伝えておく。そのうえで、あらためて講師の依頼をするのがお勧めの方法です。

ビジネスモデル④「勉強会・会員制サービス型資格起業家」
最後にもう1つ、「勉強会・会員制サービス型資格起業家」のビジネスモデルがあります。

このビジネスモデルでは、資格起業家は毎月の勉強会を主催したり、会員制の学習&相談サービスを提供したりして、継続的に収益を得ながら士業の本来業務の受注や紹介につなげます。

自分自身が勉強会の講師、あるいは会員制サービスの主催者となるので、すでになんらかの得意分野を持っていることが必須です。営業やマーケティング、ビジネスモデルの構築法などビジネス実務的な内容でもいいですし、税務や法務といった士業の分野でもかまいません。とにかく、「これは私の得意分野だ!」と断言できる確固とした分野があれば、意外に有効に働くビジネスモデルです。

毎月、なにかしらの勉強会を開く、あるいは、得意分野に関して会員にサービスを提供して収益を得る、という仕組みなので、提供するコンテンツはその内容よりも、十分なボリュームがあるかどうかが強く求められます(もちろん、コンテンツの質の高さも重要ですが)。

また、勉強会や会員制サービスの存在意義(テーマ)と、どんな客層をターゲットとするのかを、あらかじめ明確にしておくことも成功のポイントとなります。例えば、「士業業界での営業手法を学ぶ勉強会」とか、「売り上げ1億円未満の小さな会社のための勉強会」などという感じです。この部分が曖昧になっていると、うまくお客様が集まりません。

継続していくのが大変なビジネスモデルでもありますが、その分、積み重なっていくと大きな収益が得られます。「コンテンツ型資格起業家」や「コーチ・コンサルティング型資格起業家」、あるいは「イベント型資格起業家」等のビジネスモデルの発展形として、最終的に目指すべきゴールだと言えるかもしれません。

継続的にお金が入ってくることが大事!
ここまで、資格起業家がとるべきさまざまなビジネスモデルを紹介してきました。このうち、あなたがどのビジネスモデルを選択するにしろ、まずは「継続的に収益が発生する仕組み」をつくることを再優先してください。

士業として独立開業すると、まずは「士業の本来業務をどう取っていくか」に意識が向きがちです。それも大切なことなのですが、少なくとも「資格起業家メソッド」を採用するのならば、いったんは士業の本来業務のことは忘れ、その前の1段階目のビジネスを強固に構築することに意識を向けてください。

強固なビジネスモデルとは、継続性、あるいはリピート性があり、常にお金が入ってくる仕組みのことです。こうした仕組みがあれば、事務所の運転資金も厚くなりますし、その分、より創造的な仕事に投資する資金も増やせます。

資格によっては、例えば税理士や社労士のように、本来業務自体に強い継続性がある場合もあります。しかし、そうした資格であっても、強固な「資格起業家としてのビジネス」を構築できれば、業務に幅を持つことができ、事業を行うときの選択肢が格段に広がります。いわんや司法書士や行政書士のようにスポット業務が多い士業であれば、なおさら必要です。

ぜひ、自分の強みを最大に活かせる、最適なビジネスモデルを選択してください。

第4章 一番成功率が高い!「コンテンツ型資格起業家」のはじめ方

なぜ、コンテンツ型がもっとも成功率が高いのか
前章で、さまざまなタイプの資格起業家のビジネスモデルを紹介しました。どのビジネスモデルを選ぶのか、それはあなた次第ですが、これから「資格起業家メソッド」を実践していこうと考えている人ならば、まずは「コンテンツ型資格起業家」を選択することを私はお勧めします。

なぜなら、「コンテンツ型資格起業家」こそが、前述した各ビジネスモデルのなかでももっともリスクが少なく、キャッシュを生み出すまでの時間も短いからです。

初心者は「セミナー」から始めるのが断然イイ!
前述のとおり、「コンテンツ型資格起業家」のビジネスモデルでは、あなたが持つ知識をコンテンツとして切り売りしていきます。そのコンテンツを販売するための方法がさまざまに存在することも、すでに何度か解説してきました。

そして、これからこのビジネスモデルに取り組んでいくのであれば、まずは「セミナー」から始めるのが一番だと私は断言します。なぜかと言うと、セミナーは経営上のあらゆる面でリスクが低いからです。

CDやDVDの教材をつくるには、事前にスタジオで音声を収録したり、動画を撮影したりしなければなりません。当然、そこそこの制作コストがかかります。紙の小冊子でも編集作業が必要ですし、PDFファイルや音声ファイルなどをつくるにも一定の制作費がかかります。これらの制作費は、「資格起業家メソッド」を始めたばかりの駆け出し士業には、かなり大きな負担となります。

また、これらの各メディアは、一度つくってしまうとつくり直しが困難です。うまく販売できなければ、これらの商品を在庫として抱え続けなければならない、というデメリットもあります。

もちろん、ダウンロード販売にしたり、CD-RやDVD-Rでの販売にしたりすることで、アップデートをしやすくすると同時に、極力在庫を持たないようにすることも可能です。しかしその場合でも、素材の収録や編集などに一定の経費がかかることは、変えられません。

それに対してセミナーでは、たとえ一番のネックとなるお客様の集客に失敗したとしても、セミナーそのものを取りやめてしまえば損失は会場費程度に抑えられます。基本は口頭での説明になりますから、内容もいつでも変更可能。もちろん、在庫リスクもありません。

制作コストに関しても、セミナーの場合はほとんど必要ないと考えて差し支えありません。レジュメを制作しなければなりませんから、それを考える時間は必要ですが、例えば法律を主なテーマとする場合であれば、業界の第一人者が書いている法律書等を参考にできます。もちろん、これまでの自分の経験や、培ってきた各種ノウハウも動員できます。

セミナーは、集客費や会場費、ちょっとした印刷費や飲食費のほかには、ほとんどコストを掛けなくても開催できるのです。もっとも安く、手掛けやすいコンテンツ販売方法と言えるでしょう。

しかも、セミナーはお客様からのお金をもっとも早く回収できるコンテンツの販売方法でもあります。事前の申し込み制とすることがほとんどなので、実際のセミナーを行う前に入金が期待できるのです。たとえお客様の支払いが遅れても、遅くともセミナー当日には代金を回収できます(入場と引換えにしますので)。

お金がかからず、代金の回収も早い販売方法なのですから、商売で最優先に採用すべきなのは、至極当然のことと言えるはずです。

セミナーの準備が、次のステップへの基礎力に
セミナーには、さらなる副次的なメリットもたくさんあります。

まず、セミナーで話をすることによって、話術が身につきます。具体的なトレーニング法は後述しますが、人前で話すことができるようになれば、普段の商談もスムーズになってまさに一石二鳥です。

また、セミナーを行うには、集客のために文章を書かなければなりません。メルマガにしろ、チラシにしろ、ブログにしろ、集客のための文章を必死に考えて作成するわけです。文章力は量訓練で伸びますから、その過程であなたの文章力も必ず向上します。

最終的には、小冊子やネット上の「無料レート」みたいなものまで、自分で書けるようになるとベストです。しかし、たとえそこまでいかなくても、とにかく文章力が上がり、それによってよりよい文章が書けるようになれば、一度に多人数の方に読んでもらえるようになります。つまり、文章力が上がると、あなたから情報を伝えられる人の数が圧倒的に増えるのです。

セミナーでは会場スペースに限りがあるので、一度に話をできるのはおおよそ200人くらいが限度です。それでもかなり多い数なのですが、ネット上で上手な文章のブログや無料レポートを書けるようになると、もっと多くの人にその情報を見てもらえます。例えば私のブログであれば、ここ数年は1日1000人以上の方が見てくれています。

多くの人の目に留まれば、その分紹介も増えますし、自らのブランド構築にも大いに役立ちます。個別のクライアントの相談に乗るだけでは、こうした大人数を相手に自分の主張を伝えることは、決してできません。

こうした「話す力」と「書く力」は、資格起業家にとってはなくてはならない能力です。多くの潜在顧客を相手に自分の強みやウリを正確に伝え、自分をブランド化するのに、「言葉」が大きな役割を担うからです。

この2つの能力を磨いていかなければ、「資格起業家メソッド」を実践していくことは難しい、と言ってもいいでしょう。私自身も、若いうちからセミナーを行ってこの能力を磨いてきたことが、現在の成功の基礎になっていると強く感じています。

セミナーで講師を務めることによって、この2つの能力を少しずつ伸ばしていける、という大きなメリットを享受できるのです。

なお、さらなるメリットとして、セミナーで講師をすることが士業にとっての「ブランド」になる点が挙げられます。

セミナーで講師をしているということは、その分野ではほかの人よりも詳しい、ということです(実態はどうあれ、多くの人はそう受け止めます)。ですから、セミナーで講師をしているだけで、同業者からの差別化に大きく役立つのです。

それ以外のビジネスモデルは、次のステージとして考える
最終的には本人の選択次第ですが、新人士業であれば、最初は「コンテンツ型資格起業家」以外のビジネスモデルを選ぶのは難しいでしょう。

「イベント型資格起業家」は新人であっても成功できる可能性がありますが、このビジネスモデルは、長期間、それのみで続けられる仕組みではありません。

「イベント型資格起業家」では、セミナーの講師を誰か別の人に依頼します。ですから、基本的に自分自身にはコンテンツが蓄積していきません。しばらくはそれでもいいのですが、自分自身でもコンテンツを生み出す力を育てていかないと、永遠に誰かの力を借りることになります。

少しずつでもかまいませんから、自分が講師になるセミナーも開催していき、自分のコンテンツをつくる能力を磨いてください。そうして、少しずつ「コンテンツ型資格起業家」に事業の中心をシフトしていくのが、「イベント型資格起業家」の常道です。

また、「コンサルティング・コーチング型資格起業家」、あるいは「勉強会・会員制サービス型資格起業家」は、ある程度経験を積み、自分をブランド化したあとでないとなかなかうまくいきません。特にコンサルティングについては、非常に高いスキルと知識が求められますから、新人士業ではどんなに営業しても、お客様に見向きもしてもらえないことがあります。

実際にまとまったお金をいただけるようになるまでに、かなりの時間がかかることが多いですから、最初は「コンテンツ型資格起業家」で会社の経営を安定させると同時に、能力を磨き、次のステップとして「コンサルティング・コーチング型資格起業家」や「勉強会・会員制サービス型資格起業家」のビジネスモデルを目指していくのがいいでしょう。

どのようにセミナーを始めたらいいのか?
いったいどのようにセミナーを始めたらいいのか? ここは、私の体験を中心に解説していきましょう。

まだ独立開業したばかりの2003年、都内で開催されたセミナーに参加し、勉強をしたり人脈をつくったりしているときに、私はふと次のように考えました。

「セミナーを受講するのは勉強になるし、楽しいけれど、このままセミナーを受け続けているだけでは自分の収益にならない。やはり、セミナーを開催する側にまわりたい」

セミナー講師になれば、名刺交換もお客様のほうからしてくださるし、何より講師というブランドは大きいだろう。自分のように若い事業者が信頼を得るには、セミナー講師になるのが最適なのではないかと、そう考えたのです。

しかし、当時の私はまだ24歳。社会人経験もほぼ皆無で、セミナーを開催する方法なんて、ちっともわかりませんでした。

しかし幸運なことに、初めて「セミナー講師」になるチャンスが、「依頼セミナー」という形で向こうから勝手にやってきたのです。自社開催ではなく講師を依頼される形で、私の「講師業」はスタートしました。

講師を依頼された経緯はいたって簡単です。自身のブログやホームページに、「講演依頼受け付けます」と記載しただけです。プロフィールをできるだけ詳しく掲載し、講演可能なテーマもいくつか記載しておきました。他人が見たときに「講師を頼みたくなる」ように、少し意識して書いておいただけです。

また、最初のうちは「講師料不要」とも書いておきました。準備などに多少は時間をとられますから、できれば講師料をもらいたいところだったのですが、まずは「セミナー講師」としての実績を積みたいと考えていたので、たとえ無料でも喜んで引き受けるつもりでした。

この狙いがうまく当たって、最初の「セミナー講師」としての依頼を引き出せたのです。

当時の私のように、「無名だけど、おもしろそうな話ができる人」を探している団体や企業はたくさんあります。そのような団体や企業には、セミナーや講演をして社員教育をしたいけれど、予算があまりない、という事情があるからです。

こうした「安くてよい講師」へのニーズは、常に(今でも)存在しています。ですから、これから「講師業」を始めようとする経験の浅い資格起業家にも、ビジネスチャンスはたくさん存在しているわけです。

こうした事情を把握した当時の私は、その後プロフィールをさらに充実させ、講師の依頼を増やすことに成功しました。その内容は次のとおりですから、参考にしてください。

「横須賀・てるひさ(行政書士)……ベンチャー企業に就職するも1ヶ月でリストラ。その後、一念発起して23歳のときに東京都行政書士会最年少で開業。飛び込み営業、チラシ、ネット・ブログなど、さまざまな営業手法で仕事を獲得中。ブログランキング資格系で全国1位。月間アクセス2万超え。得意なセミナーテーマは『フリーランサーの営業術』『ビジネスブログ活用法』など。講師料不要、交通費のみで受け付けます」

最初のセミナーでやっておくべきこと
セミナー講師の依頼を受けた私は、なんとか初めてのセミナーを成立させることに成功しました。

この最初のセミナーの際、必ずやっておくべき重要なことがあります。それは、「セミナーの写真を撮る」ことです。

「セミナーをしています」と自身のホームページに書いたとしても、それが本当かどうか、サイト閲覧者にはわかりません。しかし、セミナー開催時の写真を掲載しておけば、「本当にセミナーをしている」ことが確実に伝わります。

ですから、どんな小さなセミナーであっても、最初のセミナーでは必ず写真を撮ることが重要です。そして、そのセミナーを行なっている最中の写真をブログやホームページに掲載すると、「実績が実績を呼ぶ」効果を見込めます。講師の未経験者に講師の仕事を依頼するのは、依頼する側も怖いものです。しかし、一度でも実績があれば、少なくとも「未経験」ではありませんから多少は安心できます。実際に私の場合にも、最初のセミナーの写真を掲載してから、次々に講師の依頼が入るようになりました。

2004年の6月に初めて講師をしてから、2005年までの約1年半の間に、通算20回以上の講演をさせていただきました。これらはみな依頼によるもので、初めて自主開催をしたのはなんと2005年の12月です。そのくらい、「実績が実績を呼ぶ」効果には大きなものがあります。ぜひ、あなたも挑戦してください。

ちなみに、私は現在でも講師の依頼をコンスタントにいただいており、上場企業での講演も含めて年間で20回ほど講師をしています。

依頼が取れない場合は、自主開催で実績をつくれ
私の場合、幸いにも最初からセミナー講師の依頼を受けることができましたが、なかなか依頼がない、つまり最初の1回目が決まらない場合もあるでしょう。

そのようなときには、関係の深い取引先を集めてセミナーを「自主開催」しましょう。もしお客様を集客できないようであれば、友人や知人、あるいは家族や親戚を呼んでもかまいません。とにかく人をかき集めて、最初のセミナーを開催してしまうのです。そうして、その様子をセミナー講師の実績として写真に収めます。

実際にセミナーを開催しているわけですから、虚偽ではありません。参加者らの目の前で講演をすることによって、修正点が見つかったり、講演の仕方についてアドバイスをもらったりもできます。内容を改善するためにも、意義がある方法です。

もちろん、撮影した写真はブログやホームページに掲載し、「実績が実績を呼ぶ」効果を期待しましょう。

公的機関でのセミナー講師は実績づくりに最高
私の場合は、幸運にも最初から、コンスタントにセミナー講師の依頼をいただけていたのですが、ときには自分でも営業をしました。商工会に入り、講師をさせてほしいと直談判したこともあります。

商工会などの商業団体は、意外にこうした積極的な営業姿勢に好意的です。セミナー講師の件も、あっさりと交渉が成立しました。おそらく、「東京都調布市商工会」では最年少の講師だったと思います。

こうした商工会などのパブリックな団体での講演の実績は、通常の民間セミナーなどより大きな価値があります。パブリックな団体でセミナーをしたということは、講師がパブリックなところに認められたことにもなるからです。ですから、仮に講演料がゼロでも、機会があれば積極的に受けるようにしてください。

参加したセミナーでも営業を忘れないこと
興味のあるテーマがあって、ほかの人が行っているセミナーに参加した場合には、必ず主催者のところに行って挨拶し、「私も講師をやっていますので、お役に立てることがありましたらいつでも呼んでください」と伝えるようにしましょう。

「私にも講師をやらせてください」と言ったのでは、ただの営業になってしまいますから、あくまでも「お役に立てることがありましたら」というへりくだった表現にするのがポイントです。「機会があれば、お役に立ちますよ」というくらいの気持ちで、あまりギラギラせずに近づいていくほうが、むしろ後日の依頼につながるような気がします。

セミナーで重要なのは「目的」
そうしてセミナー講師を続けていくうちに、ある疑問に突き当たりました。

もともと、セミナーの講師業はブランドづくりのために行っていたのですが、徐々に業界での認知度も上がってきて、当初の目的をある程度達成できたのです。それなのに、このまま同じことを続けていって何か意味があるのか? これ以上のブランディングが難しいのならば、この先は何を目的にすればいいのだろうか? このように考えるようになったのです。

つまり、「ブランドづくり」のために開催したり、依頼を受けたりしていたセミナーが、その「目的」を失ってきたのです。

セミナー開催においては、こうした「目的意識」は非常に重要です。この「目的」をはっきりさせないと、ただ漫然と開催することになってしまいます。

あなたも、セミナーを開催する前には、必ずそのセミナーの「目的」を決めてください。大きく分けると、次の3とおりの目的が考えられるはずです。

(1)セミナーを成立させること
講師としての実績をつくりたい、講師としての経験をとにかく積んでみたい。そういった場合には、セミナーを成立させること自体が目的になります。特に、まだセミナー講師をしたことがない方は、この目的を第一にセミナー開催に取り組むべきです。

幸運にも依頼を受けることができれば、講演料はごく低額、あるいは無料であっても喜んで引き受けることです。そうすれば、集客も比較的容易になりますし、セミナー講師としての第一歩として理想的です。

(2)顧問契約を取ること、士業の業務を取ること
税理士や社労士などの場合、セミナー自体で収益を上げるよりも、そこでつないだ人脈等から顧問契約を取ったほうが、利益は格段に大きくなります。そうした顧問契約や業務の依頼に直結させることを目的に、セミナーを開催することもよくあります。

この場合、セミナーの内容や段取り等が優れていることは、最低条件となります。さらに、講師から感じられる人間性や信頼感が、お客様が顧問契約を依頼するかどうかの判断をするときに大きく影響しますから、セミナー中のお客様への態度や話し方にも十分注意する必要があります。また、どんな経営姿勢なのか、仕事や顧客に対してどう向き合っているのかなどを、さりげなくセミナーの内容に組み込んで伝えていくことも必要でしょう。

セミナーへの参加から、すぐに顧問契約や業務受注につなげるのは難しいので、セミナー参加者に対する無料コンサルティングや無料相談などの「つなぎ」の場をつくっておき、セミナー後の接触回数を増やしていくような工夫も必要になります。

(3)収益を目的にする
最終的には、セミナーの開催で収益を上げ、1つのビジネスとして成立させることを目的にするのがよいと考えます。

「セミナー」は、こちらから攻めて(=積極的に営業して)売ることができる商品です。そのセミナーで安定的に収益が上がるようになれば、顧問契約が少なく、単発系の仕事しかない資格でも事務所の経営を安定させられるようになります。売上が足りずに苦しいときには、「とりあえずセミナーを仕掛ければ、利益が取れる」という安心感にもつながります。

もちろん、顧問契約を結べるような資格であっても、同時にセミナー事業で利益を出せるのであれば、それはそれで最高の状態です。

私自身、「今後も士業としてやっていける」と確信したのは、このセミナー事業で安定的に利益を出せるようになったときでした。行政書士としての仕事が少ない月でも、「セミナーを開催すればなんとかなる」という安心感ができ、ビジネスを続けるうえで大きな助けになっているのです。

現在も、私がセミナーをときどき開催したり、依頼を引き受けたりしているのは、主にこの3つ目の目的によるものです。

セミナー受講料の決め方
私は士業の皆さんのコンサルティングを手がけていますから、セミナーに関しても相談をよく受けます。その相談のなかでもっとも多いものの1つが、「セミナー受講料をいくらに設定したらいいのか?」というものです。

外部からセミナーの講師を依頼される場合には、主催者側が料金を決めることになりますから、こちらはその金額で行うしかありません。しかし、自分自身が主催する場合には、この金額を自由に決められます。そのために、金額設定で悩んでしまうようです。

客層から逆算する
受講料の決め方として妥当な方法の1つは、「客層から考える」方法です。

士業がセミナーを開催する場合、セミナーの受講者は経営者や起業家であることが多いでしょう。この層が、いくらくらいまでなら受講料を払うのかを逆算して決める方法です。

特に客層が絞れる場合、例えば「建設業関係の経営者」や「飲食店経営者」などと対象を絞って行うセミナーの場合には、事前にリサーチが可能ですから、同じような客層の他社のセミナー等から平均値を出すのがお勧めです。

私も含め「経営者」という客層は、「必要だ」と感じれば数千円でも数万円でも、たとえ10万円を超えるセミナーであっても躊躇なく受講します。経営を真剣に考えている経営者ほどこの傾向は強いですから、受講料はかなり幅広く設定できることを忘れないでください。

あなたのほしい金額にする
もう1つの決め方は、「あなたがほしい金額」にする方法です。内容やセミナーのボリュームを決める前に、受講料を先に決めてしまうのです。

一見、経験豊富なセミナー講師にしかとれない方法のように思われますが、私はむしろ、まだセミナーの内容に自信を持てない新人の資格起業家にこそ、この方法が向いていると感じています。

例えば、先に受講料を10万円と設定してしまえば、あとは何としてでもその金額に見合う質と量のセミナー内容をつくり上げるだけです。先にゴールが決まっているので、どうにかしてその基準を満たす内容をつくっていけばいいだけです。

確かに多少大変かもしれませんが、それをやらなければ、あなたのセミナーに来てくれるお客様など二度と現れなくなるだけです。

逆に内容から考えて受講料を決めると、例えば3時間のセミナーのプログラムをつくったとしても、つい「本当に、このセミナーに1万円の価値があるのだろうか?」と自問自答してしまいます。

結果、「もう少し安くしたほうがいいだろうか」「1万円も取ったら、クレームが出るのではないか」と、次々と値段を下げることになるケースがとても多いのです。

セミナーは受講料から先に決めるほうが、とにかく前に進みやすい、と言えます。

無料や安すぎる価格設定には注意する
なお、無料のセミナーや、あまりに受講料が安すぎるセミナーは考えものです。

なぜなら、そうした安すぎるセミナーは、お客様に「そもそも価値があるのか?」という疑問を生みやすいからです。自分のノウハウや知識をそうした安い値段で提供するからには、その後の業務依頼や顧問契約などの際にも、価格の切り下げを求められることが増えます。

また、「無料だからキャンセルしても大丈夫だろうと」と、ギリギリでキャンセルされるケースも多発します。

ビジネス系のセミナーを行うのであれば、5000円程度を下限の目安とするのが無難だと思います。

お金が取れるセミナーテーマの決め方
セミナーの金額が決まったら、次はテーマ設定です。

テーマはある程度自由に決めればかまいませんが、前章でも触れたように、「成功する確率の高いテーマ」というものが存在します。それは、次の4つです。

①お金に関するテーマ
②売上を伸ばす方法
③組織に関するテーマ
④最新情報

(1)お金に関するテーマ
経営者にとって、売り上げとお金に関するテーマは非常に重要であり、緊急性も高いものです。そのため、集客の際にも非常に反応がよい分野だと言えます。

具体的には、融資、助成金、税金にからめたテーマが多く、士業が行うセミナーのテーマとしては、もっともストレートな内容でしょう。

これらの内容に反応が薄い経営者はあまりいません。資金調達をしたいと考えている経営者は多いですし、もらえる助成金があるならもらいたいとも考えています。さらに言えば、税金は払わなくて済むなら払いたくない、とも思っています(経営者全員が同じ意見ではありませんが)。

非常に引きがよいテーマですから、ぜひ狙っていきたい分野です。

(2)売上を伸ばす方法
自分の事務所の売上がある程度大きくなってきたら、経営者としての実績ができてきたということですから、これまでに実際に行ってきた営業手法を事例とし、マーケティングやビジネスモデルについて解説するセミナーを行うのも効果的です。

私の場合、「ビジネスブログの活用で売上を伸ばす」というテーマで、過去多くのセミナーを実施し、士業の仕事につなげてきました。

もし、あなたが売上を伸ばすための独自の手法を持っているのなら、その内容は、ほかの業種のお客様や同業者にとっても、非常に魅力的なセミナーテーマになります。

(3)組織に関するテーマ
社員のモチベーションを上げる、組織を円滑に動かす仕組みをつくる、などの人材系のテーマが得意であれば、この分野も大いにお勧めできます。

規模の大小に関係なく、組織とは常に問題を抱えているものです。評価制度や賃金制度、組織論などのテーマでのセミナーには、比較的簡単に集客できます。

(4)最新情報
法律が改正されたり、新しいマーケティング手法が流行ったりすると、経営者はその情報がほしくなるものです。

例えば、法律が改正されて新しい許認可が必要になった場合や、大きな税制改正があった場合には、経営者は最新の情報をほしがるので、ニーズに合わせたセミナーをつくってあげると簡単に集客できます。

新しいマーケティング手法としては、例えば2010年にはTwitterやFacebookが流行しましたが、これらのSNSサイトを使ったビジネス手法を解説したセミナーは、いつも満員御礼でした。私自身が積極的に行ってきたビジネスブログの活用をテーマとしたセミナーも、当時はブログが流行り始めた時期だったので、非常に受けがよかったです。

このように、最新情報に強くなって、それをセミナーのテーマとするのも大変有効な手法でしょう。ただし、これらのテーマは数年もすれば時代遅れになってしまいますから、常に新しいコンテンツの開発に取り組まなければなりません。

注意すべきセミナーテーマは「手続き系」
1つだけ、注意しなければいけないテーマがあります。それは「手続きの解説」をするセミナーです。具体的には、「会社設立の方法」「就業規則のつくり方」といったようなテーマです。

こうしたテーマでのセミナーを開催すると、「自分自身で手続きをしたい」という人ばかりが集まってしまいます。そのため、のちの業務受注等につながりにくいのです。

専門家でなければ対処できないような、難解な手続きに関するテーマであれば、その後の依頼につながる可能性はありますが、そうでない場合には、「手続きの解説」をセミナーのテーマとするのはやめたほうがいいでしょう。

コンテンツのつくり方
コンテンツ自体の内容は、「コンテンツ拡大法」という方法でつくっていきます。

コンテンツ拡大法では、次のような手順でセミナーの内容を考えていきます。

例えば、「売り上げを伸ばす方法」というテーマでセミナーを開きたいとしましょう。この場合、まずは「売り上げを伸ばす方法には、どのような大きな要素があるか」と考えていきます。

結果、例えば(1)ビジネスモデル、(2)マーケティング、(3)組織の3つの大要素が思いついたとします(わかりやすくするために、簡略化しています)。

そうしたら、次はこの3つの大要素に該当するサブ要素を、順番に書き出していきます。

ここでは、わかりやすくするために大要素を3つしか出してませんが、実際には思いつくだけの要素を書き出してください。

(1)ビジネスモデル
・商品単価、継続性、リピート性
(2)マーケティング
・集客、販売、フォロー
(3)組織
・組織図、ビジョン、マニュアル

このように要素を分解したら、さらにその要素を分解していきます。要素を細かくしていけばいくほど、実際にセミナーで話す内容に近づいていきます。ですから、最初はできるだけ細かく分解していくとよいでしょう。

あくまで参考例として、もう一階層分解してみます。

(1)ビジネスモデル
・商品単価…フロントエンドとなる単価、収益を出す高単価商品、割引
・継続性…毎月課金の仕組み、継続率を上げる方法、お客が飽きない方法
・リピート性…消費物を売る、商品が切れる頃にDM、口コミを起こす方法

(2)マーケティング
・集客…客層を決める、顧客リストを集める、広告を出す
・販売…セールストーク、クロージング、決済方法
・フォロー…ニュースレター、販売後訪問、お客様の声

(3)組織
・組織図…理想図を書く、役職を決める、権限を決める
・ビジョン…1年後のプラン、10年後のプラン、会社の存在意義を決める
・マニュアル…フローをつくる、マニュアルにする、社員に浸透させる

このようにテーマを分解していくと、いくらでも「コンテンツ」をつくれます。そうしたら、あとは「この内容をどんな順番で伝えればもっとも効果的か」と考えて、話す順番を決めればいいだけです。

私もこの方法を使っていますが、どんなに長時間のセミナーでも、ネタに困ることがなくなります。いくらでもボリュームが増やせますから、ぜひ活用してください。

取り組みたいテーマをすでにライバルが扱っている場合には?
自分がやりたいと思ったテーマを、別の士業がすでに取り扱っている場合の対処法も考えてみましょう。

実際のところ、十分に集客できるのであれば、たとえセミナーのテーマが競合と重なっていても、あまり影響はありません。

注意すべきは、あなたが地方都市で活躍している場合です。地域にもよりますが、地方では若い士業が何か目立つことをすると、あっという間に同業者にその情報が伝わってしまい、眉をひそめられるようなことがまだまだあります。地元で有力な士業と同じテーマでセミナーを開催すると、「私の市場を荒すんじゃない!」とねじ込まれることも少なくないのです。

こんなとき、「気にせず強行する」というのも1つの方法ではあるのですが、もし揉め事を避けたいと考えているのであれば、次のように工夫すればいいでしょう。

(1)客層を絞る
(2)規模を絞る
(3)セミナー形式を変える

(1)は、同じテーマでも「飲食店経営者向け」「建設業関係者向け」といった感じに、客層を特化して差別化を図る方法です。

(2)は、「従業員30名未満」「売上2億円以下」と会社の規模で差別化する方法です。

(3)は、講師と聴衆というセミナー形式を、ワークショップ形式に変えるなど、受講方法に工夫をするものです。

こうした工夫をしていけば、たとえ同業者と同じテーマになっても、そうそう心配することはないはずです。

また、そうしてとりあえずの摩擦を防いだら、最終的には自分自身のオリジナルのテーマを開発してください。

「節税」などのよくあるテーマでも、「○○式節税法」とあなたのネーミングを取り入れたテーマにして、「あなたのところでしか学べない」とオリジナリティーを持たせられると、非常に強力です。やはり、「どこでも学べるもの」とそうでないものには、商品力の強さに圧倒的な違いがあります。

すぐに開発できるものではないかもしれませんが、経験を積んで勉強を続け、自分だけのオリジナルコンテンツを持つことを強く意識してください。これは、地方在住者に限らず、都市在住者にも共通して言えることです。

満員になるセミナータイトルの考え方
ここまでできたら、あとは「タイトル」です。

セミナーの告知はタイトルだけで行うわけではありませんが、「タイトルだけで満員になる」ことも実際にあります。少しでも魅力的なタイトルをつけられるよう、熟考してください。

魅力的なタイトルをつけるコツとして、もっとも簡単なものは「タイトルのなかに具体的な数字を入れること」です。また、「お客様のメリットを具体的に書く」のも、効果が高いとされています。「1000万円の節税に成功した方法」「御社の売上が2倍になる方法」といった感じです。

このあたりは、魅力的な言葉を操る「キャッチコピー力」次第となります。誰にでもすぐにできるキャッチコピー力の磨き方は、書店に行くことです。書店に行って、目に留まったタイトルや見出しを参考にするのが一番です。もちろん、雑誌や新聞、テレビのテロップなども参考になります。

普段から、時間のあるときに書店をリサーチして、気になるフレーズをストックしておくだけでも、キャッチコピー力は身につきます。キャッチコピー力を磨いて、ぜひ魅力的なタイトルをつけてください。

講師プロフィールを用意する
これでセミナーの「コンテンツ」はほぼ完成ですが、最後にあなた自身の「講師プロフィール」も用意しておきましょう。

「講師プロフィール」は、集客用のサイトやチラシなどに使用するものです。これが単なる自己紹介では、お客様を集められません。プロフィールは、自己紹介ではなく「実績紹介」なのです。お客様は、そのセミナーのテーマと講師のプロフィールを両方見て、講師が「そのテーマの解説をするのにふさわしい実績・経歴」を持っている場合に、「とても話を聞きたい」と感じます。だから、ここはかなり力を入れて作成しなければなりません。

例えば、「節税」をテーマとしたセミナーを行おうとするのであれば、その際の「講師プロフィール」に次のように、「これまで、200社以上の節税コンサルティングを行い、延べ2億円以上の節税を成功させた」などという記載があると、お客様の経営者はその人の話を聞いてみたいと感じるでしょう。ここでも、具体的な数字を入れたり、メリットを明確にしてあげると魅力的なプロフィールになります。

それぞれのセミナーのテーマにふさわしい、魅力的なプロフィールを作成しましょう。もちろん嘘を書いてはいけませんが、逆に、書かなくていいことまで書く必要もありません。

名講師になるための話し方トレーニング
講師をする際には、「話し方」も重要になります。ここでは、セミナーで上手に話すためのコツも簡単に紹介しておきましょう。

セミナーでうまく話すには、まず「緊張」をとることです。私も、最初の頃は緊張してうまく話せないことが多く、非常に苦労しました。

緊張してしまう原因の多くは、「準備不足」と「経験不足」です。

準備が足りていないと、「時間が余ったらどうしよう」「何を話せばいいかわからない」と不安のスパイラルになりますので、事前の準備は非常に重要です。レジュメ、話す内容のメモなどを、事前にこれでもかというくらい入念に作成しておき、それを壇上に持ち込むと、多少は安心でき、緊張がほぐれますから、スムーズに話せるようになります。

また、講師としての経験が浅いうちは、必ず事前に自宅や会社でリハーサルを行います。スタッフや家族などを前にして、本番と同じように話してみて、内容の区切りごとに時間も測ります。これで、内容が多すぎたり少なすぎたりしないかが確認できますし、スタッフや家族におかしなところを指摘してもらうこともできます。

こうしたリハーサルをしっかりやっておくと、これも本番での緊張を大きくやわらげてくれます。

また、本番では焦りから早口になりやすいので、時間が余ってしまわないように、内容を少し多めに準備しておくことも有効です。当日、アドリブでセミナーの内容を減らすことはできますが、増やすのは至難の業ですから、話している途中で内容が足りないことが予想できてしまうと、焦ってしどろもどろになりかねません。多めの内容を準備しておけば、そうした事態も防げます。

ここまで準備してあっても、やはり実際に大勢の人の前に立って、一身に注目を集めると大変緊張するでしょう。こればかりは場数を踏んでいくしかありません。一度準備がしっかりできれば、あとは量稽古あるのみです。

上手な人の真似をするのも効果が高い
緊張の次に問題となってくるのが、実際の話し方です。前職でプレゼンなどをたくさんしていた方はそれほど苦にならないかもしれませんが、士業の多くはプレゼンなど未経験ですから、どうやって話せばいいのかわからず、とても苦しみます。

1つの対処法としては、「話し方教室」などのスクールに通うことです。もちろん有料ですが、具体的な話し方や、話すときのテクニックまで細かく学べるので、一度受講すると非常に役立ちます。プロの助けを借りるというのも、ときには必要です。

また、あまりに我流すぎると聞き取りにくかったり、うまくエッセンスが伝わらなかったりするので、教室に通うまではしなくとも第三者の意見などは常に取り入れていくとよいでしょう。

私の場合、最初は「この人のような話し方ができるようになりたい」と思った講師の真似から入ることにしました。もちろん、コンテンツの内容を真似するわけではありません。口調や、話すときのテクニックなどを真似して実践したのです。

そうやって真似しているうちに、徐々に自分自身のオリジナルの話し方を身につけるようになり、今に至っています。

代金の回収や事務連絡もしっかりと
最後に、セミナーに関する事務的な話です。

セミナーをビジネスとして行っていくときにもっとも大事なことは、受講料をしっかり回収することです。基本は、できる限り「前払い」にすること。

「当日払い」という方法もありえますが、「当日払い」はキャンセルの元です。できる限り、事前の銀行振り込みか、クレジットカード決済にするのがお勧めです。

弊社の場合は、自社サイトのメールフォームで受け付け、お申し込みいただいたあとに振込先をメールでお伝えし、振り込んでいただく方法と、自社サイト上でクレジットカードを使ってそのまま事前決済できる方法の2つを用意しています。

事前に決済をしてもらうことで、代金の回収や当日のキャンセルに頭を悩ませることがなくなります。これはセミナーだけではなく、DVDやCDなどの物販でも重要なポイントです。

また、事務連絡のメールに関しても、お客様が不安や不信を抱く前に早め早めに送るように徹底させています。例えば、弊社ではセミナー開催日の1週間前と前日に、セミナー会場や時間などの詳細についてメールを送っています。そして、セミナー終了後にも、お礼のメールを送るようにしています。

このように事務連絡を徹底することによって、お客様に安心していただくのです。事務連絡のメールが遅いと、お客様は「お金は払ったけど、本当にこのセミナーはやるのか?」と不安を覚えますから、キャンセルが増えたり、顧客満足度が減ったりしてしまいます。こうした細かいところにまで気を遣うことで、初めてセミナー事業を発展させることが可能になるのです。

セミナーが熟練してきたら、教材化しよう
何度かセミナーを開催し、セミナーの内容が成熟してきたら、次はその内容をCDやDVDなどに加工し、教材として販売することを考えましょう。

CD・DVDの作成は、(1)収録、(2)編集、(3)プレスまたはコピー、(4)レーベルデザイン・印刷、(5)ジャケットデザイン・印刷、(6)ケース購入など、さまざまな準備が必要です。

ある程度制作費もかかりますから、最初は受注生産にするとよいでしょう。今はCDやDVDを1枚ずつ生産してくれる会社もありますし、CD―RやDVD―Rにする方法もあります。こうした受注生産制度にしておくと、在庫リスクがなくなるので、同じ内容のものを大量に精算するよりリスクを大きく限定できます。

また、このような「モノ」を制作せずに、音声ファイルや映像ファイルなどをダウンロード販売する方法もあります。ただ、傾向としては「モノ」になっていたほうが、顧客の満足度は高いようです。

ただし、ダウンロード形式で販売すればコストはコンテンツの制作費のみです。物販に慣れるまでは、ダウンロード販売を選択することも1つの方法です。

第5章 マーケティングに本気で取り組むだけで、ライバルに大きく差を付けられる!

士業にもっとも欠けているのがマーケティングセンス
士業は一般的に法律知識に長けていますが、その一方で、圧倒的に足りない知識・スキルが3つあります。

1つは、コミュニケーション能力です。士業の方に独立の経緯を聴くと、「営業が得意ではないから、資格を取って独立しようと思った」という答えをいただくことがよくあります。実際にそうであるかどうかはともかく、自分自身では「コミュニケーション能力が低い」と判断しているケースが多いのです。

ただ、士業の仕事は、本来的には高いコミュニケーション能力を要求されるものです。法律を知らない普通の人にとっては、士業の業務内容をすぐに理解するのは困難ですから、常にその難解な内容をお客様にわかるよう説明しなければなりません。これは、コミュニケーションとしてはかなり高度な部類に入るものです。もし、現在曲がりなりにもそれができているのなら、あなたのコミュニケーション能力は、「自分で心配するほどには低くはない」と言えるかもしれません。

もう1つの足りないスキルは、社会常識やマナーです。私自身も人のことは言えないのですが、士業では社会人としての経験が浅いうちに独立開業するケースが多いです。そのため、社会人として最低限求められる社会常識やマナーを身につけないまま、独立してしまうことが多いのです。

これについてはすでに第2章でも詳述しましたから、ここでは繰り返しませんが、意識的に勉強し、身につけることが大切です。

そして、コミュニケーション能力や一般常識・マナー以上に不足していることが多い知識・スキルが、「全般的なビジネス能力」です。特に、「経営」や「営業・マーケティング」に関する知識・スキルは、圧倒的に足りていません。

士業に多い独立系の難関資格では、一般のイメージでは「資格の取得」と「独立開業」がほとんどイコールの関係として捉えられています。資格試験に合格したら、「独立しさえすれば、あとはなんとかなるだろう」という安易な考えで、すぐに独立開業してしまう人が非常に多いのです。

しかし、実際に事務所を経営するということは、1つの会社を経営するということです。「経営」や「営業・マーケティング」を知らないと、すぐに行き詰ってしまいます。

普通の起業家なら、実際の行動に移る前に経営や営業手法の基礎を学び、自分のビジネスの流れなどをいろいろ構想しておくものです。しかし、士業の場合はその部分を曖昧にしたまま、「なんとなく」独立開業してしまうケースが多いわけです。

私自身の場合も、会社をリストラされて即、独立開業に踏み切ったため、これらの知識・スキルと経験が不足していて大変苦しみました。暗中模索しながら、とにかく我流でなんでも試し、実践しながら経営手法や営業・マーケティング法を勉強していきました。「事前に少しでも用意していれば、もっとラクだったろうに」と、何度も後悔したことをよく覚えています。

実際問題として、これらの知識・スキルを実務と両立しながら学ぶことは、なかなかに大変です。ですから、もし本書をお読みのあなたがまだ独立開業していないのであれば、独立する前に、絶対にこれらの知識をひととおり身につけてほしいと思います。

また、すでに開業している場合でも、今からでも遅くないのでしっかり学んでおきましょう。経営や営業・マーケティングに関する知識・スキルは、「資格起業家としてのビジネス」を構築するときにも欠かせないものになります。

間違えないでほしいのは、これは「MBA」のようなビジネス系の資格を取ってほしい、ということではない点です。むしろ、「お金をもらうためには、何をしたらいいのか」を、シンプルに学んでいきましょう。

そして、最低限のことを学んだら、あとは自分の頭を使って常にその応用を考えていきます。

成功する士業は異業種に学ぶ
具体的なマーケティング論に入る前に、もう少しマーケティングスキルを上げるための考え方について解説しておきます。

結論から言うと、士業こそ異業種に学ぶ姿勢を持つべきです。

私自身、セミナーを通じて全国を回っていますが、未だに多くの士業が「ほかの士業をお手本」にしています。それ以上の発想は、なかなか出てこないようです。

しかし、例えば年商1000万円前後の士業事務所をモデルにしていたら、あなたの事務所がそれ以上になることはまずありません。また、ビジネスモデルなどが似通っているので、うまく差別化することもしにくいでしょう。どうしても、「二番煎じ」の域を出られません。

むしろ士業ではなく、別の業種の事業をモデルにすべきなのです。しかも、できれば数億円を売り上げているような事業です。新しいビジネスアイディアは、常に異業種からやってくるのですから、別の業種の事業をモデルに、「自分のビジネスに応用できないか?」と考えていくことが重要なのです。スケールの大きな視点で、さまざまな業種の成功事例を研究し、そのビジネスモデルのなかに士業の仕事に活かせる部分がないか探していきましょう。

私自身の場合も、教材販売事業はIT企業のビジネスモデルを参考に、「経営天才塾」の事業は通信制資格スクールのビジネスモデルを参考にして、制度をつくったり、考えたりしてきました。同業の士業だけを見ていたら、このような発想には決して至らなかったでしょう。

お金にもっとどん欲になろう
お金を稼ぐこと、あるいはお金自体にネガティブなイメージを持っている方が多いのですが、資格起業家として成功したいのならば、この考え方は改めるべきです。

国民性というか、日本の文化なのでしょうが、日本人は「お金は汚いもの」「お金儲けにこだわるのは卑しいこと」と考えます。企業の経営者でさえ、「あまり稼ぎすぎるのはよくない」と考え、大きな利益を計上することにためらいを感じる人が多くいます。そして、士業の業界には特にこの傾向が色濃く残っていて、前述の「儲け排除主義」が蔓延しています。

しかしながら、これは大きな矛盾です。会社の経営をする以上、その会社のすべての活動は利益獲得を目的に行われるのです。より多くの利益、つまりはお金を獲得し、経営者や従業員でそれを分け合うために会社は存在しています。その本来の目的を否定してしまっては、会社の存在意義はなくなってしまいます。

また、実際にお金がなければ、普通の生活をしていくこともままなりません。私自身、開業してからの1年間は金銭的に非常に苦しみ、電話やガスを止められることもありました。ですから、少なくとも現代の日本社会において、一定のお金がない限りはまともな社会生活すら送れないことを身をもって実感しています。その大切なお金を、低く見積もるのは意味がありません。

お金は、お客様に喜びや満足を提供した対価として支払ってもらうものなのだと、考えを転換させましょう。会社が稼いでいるということは、その分、世の中の役に立っているということです。松下幸之助さんが言う「お役立ち料」です。

お客様に喜んでもらえるからこそ、しっかり稼げる。しっかり稼げれば、自分もスタッフも嬉しい。さらには税金をたくさん納められるから、国や地域にも貢献できる。

お金にこだわるからこそ、自分、従業員、ひいては社会の役にも立つのです。1人の個人としてなら「清貧」を貫くのも尊いことでしょうが、少なくとも自分の事務所を持つ経営者であれば、「積極的に稼ぐ」ことが社会に貢献するための一番の近道です。

「お金」に対してこうしたポジティブな考え方ができないと、いつまで経っても年収1000万円の壁は破れません。自分自身が、内心「大きく儲けるのは卑しいこと、汚いことだ」と考えていては、大きなお金を手にすることなど絶対にできません。また、「ほどよく稼ぐ」というのも、よほどの経営能力がなければ難しいことです。

お金を稼ぐことを喜び、がむしゃらに利益の拡大を目指しましょう。その心構えがあると、各種のマーケティングを行ったときにも、効果が大きく異なってきます。

士業の本来業務のマーケティング手法は2つだけ
さて、本論に入りましょう。まずは、士業の本来業務に関するマーケティング法をおさらいします。この場合、前述したとおり「アナログ営業」と「インターネット営業」の2つをしっかりやっていれば、まずは合格です。

お客様は、業務のニーズが発生したときに、人づての紹介やインターネット上の検索で専門家を探します。士業の本来業務に関して、依頼の前にお客様が起こす行動はこれだけですから、うまくその行動に合わせていくために必要なことは次の2つだけです。

(1)1人でも多くの知り合いをつくる ↓ アナログ営業
(2)お客様の検索に引っかかるホームページ等をつくる ↓ インターネット営業

資格起業家としてのビジネスでは、マーケティングのサイクル確立が重要になる
これに対して、資格起業家としてのビジネス、つまりはセミナーや教材販売、コンサルティング等の副次的な事業では、もう少し複雑なマーケティングのサイクルが必要になります。これは、士業の本来業務の場合、顧客側にどうしてもそれを依頼しなければならない切実なニーズがあるのに比べて、資格起業家としてのビジネスでは、顧客側はそこまでの切実性を抱えていないからです。許認可や法人税の計算・申告などは、それをしなければビジネスを続けられませんが、セミナーや教材は、あったほうがいいけれどもなくてもビジネスは続けられる、ということです。

必要となるマーケティングサイクルの基本構造は、次のとおりです。

(1)潜在顧客の名簿を集める
(2)名簿上の潜在顧客に対し、情報提供をして信頼関係を構築する
(3)信頼関係ができたお客様に商品・サービスを勧め、クロージングする
(4)リピート販売につなげる

「名簿」をつくらないと、始まらない
まず押さえてほしいのが、「名簿」という概念です。「顧客リスト」とか「見込み客リスト」、あるいは「ハウスリスト」などと呼び変えても構いません。士業は、一般にこの「名簿」の重要性がわかっていません。過去のお客様の名簿さえ、整理していないところもあります。

「名簿」は、マーケティングを行う際に極めて重要になります。開業はがきを出すにしても、セミナーの案内を出すにしても、メルマガを送るにしても、名簿がなければ送れません。どんなによい商品・サービスがあっても、伝える相手がいなければまったく意味がないのです。前述のマーケティングサイクルの出発点になるところなので、潜在顧客の「名簿」作成には最優先で取り組んでください。

一般に、企業の創業に必要な要素として、①お金、②人、③名簿の3つが挙げられます。士業の事務所であっても、これはまったく変わりません。

士業は、特に大きな設備投資をしなくても、パソコン、電話、ファックス、一部の業務用ソフトだけ購入すれば、SOHOビジネスのように開業できます。そのため、①のお金については比較的簡単にクリアできます。

②の人に関しても、最初は経営者が1人ですべてを行える仕事ですから、この点もクリア可能です。

しかし、③の名簿に関しては、特に士業ならではのメリットは存在しないので、開業当初から用意できている人はあまりいません。前職での経験が長ければ、多少は名簿を用意できるでしょうが、社会人経験をあまり積まずに独立した人などは、ほとんど名簿がないケースが多いです。

名簿が用意されていない状態では、こちらから能動的に営業をかけることができません。アナログ営業やインターネット営業は名簿がなくてもできますが、この2つはいわば「待ち」の営業手法ですから、基本的には仕事が舞い込むのを待つしかありません。その仕事が舞い込むのが、1週間先か1年先かはわからないのに、です。

これでは、まともな経営はできませんし、そもそも資金が持たないでしょう。計画的に売上を上げ、会社の運転資金を確保していくためにも、常にアンテナを張って潜在顧客の名簿を集めていく必要があるわけです。

なぜ、セミナー集客に失敗してしまうのか? あるセミナーの失敗事例
名簿の重要性は、マーケティングでは「基本中の基本」とされる内容ですが、士業の業界では意外に認識されていません。名簿をしっかり用意しておかないと、例えばセミナーの集客でも失敗する可能性が大きくなります。

ある士業が、「資格起業家メソッド」を実践しようとして、初セミナーの企画を考えました。セミナーのテーマも決まり、コンテンツもできました。会場も押さえることができ、あとは集客するだけです。

あまり予算をかけられなかったため、その士業はインターネットを通じて集客することにしました。まずは自分自身のホームページにセミナーの詳細を記載し、申し込みページをつくりました。そして自分自身のブログと、2010年から流行しているTwitterに、その説明&申し込みページへのリンクを貼りました。また、ソーシャルメディアのなかではもっとも会員数が多い、mixiの日記などにもリンクを貼りました。さらに、知り合いで同じようにブログを書いている人、あるいはTwitterをしている人にお願いし、同様の告知をしてもらいました。

これだけの告知をしたのだから、せめて20人くらいは来てくれるだろうと思っていたのですが、結果は惨憺たるものでした。最終的な集客人数は、なんと2名。2人とも知り合いの士業でした。

この士業のブログへのアクセス数は、1日あたり300件程度で、決して少なくありませんでした。しかしそれでも、セミナーへの集客は失敗してしまったのです。なぜ失敗してしまったのでしょうか?

私には、手にとるように理由がわかります。その理由は、主に次の2点です。

(1)ターゲットにきちんと告知できていない
この事例では、ホームページ、ブログ、Twitter、mixiという4つの媒体で告知をしています。アクセスが1日300件もあるブログであれば、十分に集客できそうな気がします。

しかしながら、その300件のアクセスすべてが、「あなたに興味があって見た」あるいは「セミナーに興味があって見た」とは言えないのです。たまたまネットサーフィンで見かけた人も多いでしょうし、Googleなどの情報収集プログラムがアクセスしてきただけかもしれません。ブログ等のアクセス数には、こうした偶然のアクセスや無関心のアクセスもかなりの割合で含まれているため、あまり当てにならないのです(セミナーの終了後にお知らせを見たという人も多いでしょう)。

本当にセミナーに申し込んでくれる可能性があるターゲットは、アクセス数に数えられているうちの一部にすぎず、無駄が多いわけです。そのため、一見すると非常に多くのターゲットに告知できているように見えるのですが、実際には、告知がそれほど多くのターゲットには届いていなかったのだと思われます。

(2)あなたのことを知らない
また、告知がきちんと届いたその少ないターゲットのなかでも、このセミナーを主催した士業を個人的に知っていた人は、ほとんどいなかったでしょう。

すでにある程度ブランドを築けているならともかく、初セミナーですから、知人のブログやTwitterで紹介されていたと言っても、知らない人のセミナーにホイホイ出かけていく経営者・起業家はほとんどいません(セミナーのテーマがよっぽど斬新だったり、時節柄、求められている内容だったりすれば別ですが)。

実際、本書を読んでいるあなただって、ネットサーフィンをしていて見かけた知らない人のセミナーに、そうそう申し込んだりしないはずです。それなのにこの士業の方は、その情報に触れた人の多くが、「セミナーに申し込む」というところまで踏み込むことを期待しているのです。

集客に必死になっていたのはわかりますが、これではポイントをことごとく外しており、効率が悪すぎます。

では、どうすればいいのか?
こうした失敗をしないためには、次の2点が重要になってきます。

(1)あなたに興味があるお客様に、ダイレクトに告知をすること
(2)あなたのことを事前にもっとよく知ってもらい、信頼を構築すること

つまり、ここでもう一度「名簿」の重要性に立ち戻るのです。すでに過去にお客様になってくれた方や、独立前から引き継いできた太い人脈、あるいは問い合わせがあったお客様、メルマガに登録してくれたお客様などの情報をきちんとデータ化し、不特定多数ではなくこの「名簿」を対象にして、集中的に告知をすることがまず求められます。

名簿に載っているこれらのお客様は、過去に多かれ少なかれあなたについて興味を示してくれた方たちです。そこに告知をすれば、ムダが少ない効率的な告知ができます。すでにあなたのことを知っている人たちばかりですから、セミナーの申し込みに至るまでの心理的なハードルも、ずっと低いでしょう。

ただし、名簿に載っている潜在顧客にいきなり情報を送りつけてはいけません。あなたも、一度資料請求をしたら、その後も延々と営業のメールや電話がかかってきて困った、というような経験があるはずです。

名簿の潜在顧客に対して、こちら側の事情で告知ばかりしていると、潜在顧客の側ではうんざりしてきます。人によっては怒り出すことだってあります。それは社会問題にもなっている「スパムメール」と同じです。当然、「意地でも買ってやるもんか」となりますので、セミナーの集客だってうまくいきません。

それを避けるために、(2)の「信頼構築」が必要になります。名簿に対していきなりセールスをするのではなく、より自然に購入してもらうため、事前にお客様に役立つ情報を提供したり、自分のことをもっと知ってもらう情報を流したりして、お客様側の警戒レベルを下げるのです。

この流れが非常に重要です。

まずは名簿を入手し、次に、信頼してもらうために情報提供などの形で接触をする。そのあとで、潜在顧客に絞った告知を行って、申し込みや購入にまでに持っていくのです。

インターネットを使ったマーケティング手法であれば、まずは既存の顧客や知り合い、問い合わせ客などをメルマガに加入させます。ホームページ上でも、ふらりと見に来た人がメルマガに登録できるようにしておきます。このメルマガの登録者が、あなたにとっての「名簿」となります。

そうして、いったん潜在顧客を名簿に登録したら、次はお客様に役立ちそうな情報をどんどんメルマガで発信していきます。これまでのあなたの実績や経歴、現在行っている事業の内容や請け負っている業務の内容なども、取り混ぜる形で発信していきます。

ここまでできている状態で、メルマガを使ってセミナー開催の告知を打てば、すでに一定の信頼関係ができているので、申し込んでくれる人の比率はずっと高いものになります。それこそ、たとえ数百部程度のメルマガ読者数であっても、50人、60人の集客が可能になります。

潜在顧客に効率よく届く方法で、信頼関係を築いたあとに告知すれば、申し込みにまで結びつけるのは決して難しくないのです。

「販売」は難しいが、「集客」は簡単にできる
ここで、改めて「集客」と「販売」について解説しておきましょう。さまざまな意味合いで使われる言葉ですが、マーケティングではこの2つは完全に異なるものとして扱います。混同してしまうと、痛手を負いかねません。では、いったいどのように違うのでしょうか?

「集客」というのは、言い換えれば「リスト化」です。つまり、名簿を集める行為です。お客様の名前やメールアドレスを取得し、管理するところまでが「集客」です。

これに対して「販売」は、文字どおり「顧客にお金を支払ってもらうこと」です。例えば、無料のメールマガジンに登録してもらった(集客した)あとに、メルマガを通じてセミナーの告知をして、セミナーに申し込んでもらう(お金を払ってもらう)。この最後の行為が「販売」です。

「集客」と「販売」はまったくの別物です。特にインターネット上でいきなり「販売」をするのは、非常に難易度が高いと考えてください。前述の失敗例では、ネット上でセミナーの販売行為だけをしてしまっていたので、ほとんどお客が集まらなかったのです。実際にやってみたらわかりますが、本当に全然お客が現れません。

そのように「販売」が難しい半面、ネット上で無料のメールマガジンに登録してもらうだけならば、それほど難しくありません。つまり、「集客」はそれほど難しくないのです。

まずは「名簿=顧客リスト」を集め、その後に信頼関係を築き、最終的に販売につなげる。この流れを意識的につくることが、資格起業家としてのマーケティング法を考える際に極めて重要となります。

「信頼構築」を成功させる3つのコツ
「集客」によって名簿を集めたあとの「信頼構築」についても、詳しく解説していきましょう。一般のマーケティング書籍では、このステップのことを「教育」と呼ぶことも多いのですが、結局のところ、信頼を得ずして商品やサービスを買ってもらえることはありませんから、私は「信頼構築」と表現するようにしています。

さて、苦労して集めた名簿には、お客様となる可能性のある方々がリスト化されています。この人たちに、あなたのことをもっと知ってもらい、もっと信用してもらわなくてはなりません。

そのためには、「お客様に役立つ情報を送る」「自分のことをより詳しく知ってもらう」の2点が必要であると前述しました。

これはこれで正解なのですが、単に成功事例の情報やお役立ち情報、あるいは自身の過去の業績などを知らせても、それがすぐに販売につながる、とは言い切れません。

ポイントは、「何のために情報提供するのか?」という目的意識です。つまり、「いったいどのようにしたら信頼されるのか」を常に考えながら、情報を提供していかなくてはならない、ということです。

資格起業家が信頼構築に取り組むのは、お客様に自分の商品やサービスを販売するためです。そして、それによってあなたの会社の売上を上げることが最終目的です。

この目的を忘れてはいけませんが、自分の視点で目的を見ると失敗します。大事なのは、あくまで顧客目線で考えることです。お客様に商品を購入してもらうには、何が必要か? 難しく考えなくても、自分がお客様の立場になって想像してみれば、答えはすぐに出ます。

セミナーや教材などのコンテンツを士業から購入するとき、お客様が考えるのは次の2点です。

(1)その士業は、信頼と尊敬に値する人物か?
(2)その士業のことを、人間的に好きになれるか?

突き詰めていくと、この2点だけなのです。この2つの疑問にYesと答えを出してくれれば、お客様は購入してくれますが、どちらもNoならば、商品の購入はしてくれません。

信頼構築に必要な2つのこと
私自身も、この点に気が付くのが遅く、メルマガでのセミナー集客や教材販売に非常に苦しんだ経験があります。

「なぜ、よいセミナーを提供しているのに、集客がいまいちなのだろうか」

そう考えて、よくよく自問自答した結果、「自分の売りたい商品のこと」しかメルマガに書いていなかったことを自覚したのです。お客様から見れば、「毎回、商品の売り込み情報しか掲載されてない宣伝メルマガ」に見えてしまっていたでしょう。この点に気が付いた私は、前述の2点について次のように改善することで、売上を一気に引き上げることに成功しました。

(1)売り込み要素のないメルマガを書く
毎回売り込まれていたら、どんなによい商品・サービスでも食傷気味になってしまいます。やがて、そんなメルマガは登録解除されてしまうでしょう。

そこで、それまでは自分の商品の告知中心だったメルマガの内容を変え、売り込み要素がまったくないメルマガを書くことを心がけると、本当にメルマガを楽しみにしてくださる方が増えました。このように、「信頼構築」のステップでは、売り込み要素がない情報提供が必要なのです。

「それでは、メルマガを出している意味がないではないか」と思うかもしれませんが、読者との信頼関係がいったん構築できるまでは、売り込み要素をかけらも臭わせないほうが、後々の反応が格段によくなります。

(2)自分の体験談を披露して信頼を得る
今は、とおり一遍の知識であればインターネットでいくらでも検索できます。ですから、「お役立ち情報」を送る際には、ウィキペディアに載っているような抽象的な原則論ばかりを書いてはいけません(そういう部分も必要ですが、それだけではダメです)。

そうではなく、自分自身の体験談を中心に、具体的な情報を書くようにすると信頼を得られます(この本でも、「私の場合は…」という表現を多用しています)。

私の場合は、普通の士業の方とはかなり違うマーケティングを実践しているという自負がありましたので、「アナログ営業」や「インターネット営業」など、マーケティング手法に関する情報を具体的に記述するようにしたところ、多くのメルマガ読者から好意的な返事をいただきました。自分の体験談を披露することで、「この人は自分で実践しているから、信頼できる」という気持ちを引き出したのです。

また、例えば節税のノウハウを販売したい場合であれば、実際に指導して節税に成功した事例などを書いていけばいいでしょう。もちろん守秘義務はあるかと思いますが、問題にならない程度に簡略化して伝えれば、「この先生は信じられる」となります。

このように、できるだけ自分の体験談を中心に据え、お客様にとって役立つ情報を送ると、信頼を得られます。そして、あなたの提供する情報のレベルが高ければ、その信頼は次第に尊敬に変わり、結果として商品の成約率が高まっていくのです。常に良い情報を出せるよう、新しい知識を勉強し続け、しかもそれをどんどん実践していくことが、ここでも重要になってくるのです。

(3)人間味を出す
これを書籍に書くのはちょっと恥ずかしいのですが、私は漫画やゲームが大好きで、小さな頃から相当量の漫画読書、そしてゲームをしてきています。どちらも、会社を経営している今でも、趣味として継続しています。

このような趣味的なことや、自分自身の私生活の部分を少しずつ情報として出すようにすると、読者に「親近感」を抱かせることができます。実務上の実績紹介も必要なのですが、それが多すぎると人は嫌味に感じます。ただすごいだけの先生よりも、親近感の持てる先生のほうが好かれるのです。

このように、あえて人間味を感じさせる情報を出していくことで、あなたのことをお客様に好きになってもらい、販売までの心理的なハードルをさらに下げていきます。

まとめると、「信頼構築」のステップでは「お客様にあなたを好きになってもらい、信頼・尊敬されること」が重要なのであって、情報を発信することが重要なのではありません。

資格起業家の場合、お客様の多くは経営者・起業家です。ですから、経営やマーケティング、法律など、お客様のニーズがある分野の情報に、あなたの体験談や人間味を感じさせる情報をからませ、売り込み臭がない形で定期的に発信すれば、比較的簡単に信頼を勝ち取ることができます。つまり、「商品が売れるようになる」のです。

インターネットでセミナー集客を行う場合の「鉄板ステップ」
「集客」と「信頼構築」をしっかり行うことで、はじめて「販売」が成立することは理解していただけたかと思います。では、それを踏まえたうえで、先程のインターネットでのセミナー集客の事例で、いったいどうしていれば成功していたかを具体的に紹介していきます。

インターネットではなく紙媒体を中心に集客することも可能ですが、コストや将来性を考えると、これからはネット中心のノウハウを習得しておいたほうが得策でしょう。

ステップ1 顧客リストを集める仕組みをつくる
まずは、なんと言ってもビジネスの生命線である「名簿」を集める仕組みをつくります。

ネット由来のお客様の名簿に必要なのは、「名前」と「メールアドレス」です。逆に言うと、それ以外は必要ありません。プレゼント送付などの必要性がないのに、住所や電話番号まで求めるようにすると、顧客側が警戒して名簿が集まりにくくなるので、「名前」と「メールアドレス」だけで十分です。

この名前とメールアドレスを、あなたのホームページ上でお客様に登録してもらう仕組みをつくります。登録してもらうための「動機づけ」はなんでもかまいません。資料請求でもかまいませんし、メールマガジンの登録でもいいですが、最近の傾向としては、数十ページ程度の「無料レポート」を提供する代わりに、名前とメールアドレスを登録してもらう仕組みが多いようです。

ネット黎明期の頃は、無料のメールマガジンの発行だけでも物珍しくて効果があったのですが、最近では「メルマガは、あって当たり前」なので、それだけではなかなか登録してもらえません。ただ、メルマガは告知ツールとして欠かせませんので、「無料レポート」のダウンロードと引き換えに名前とメールアドレスを登録してもらい、同時にメルマガへの加入も承諾してもらうパターンが多いです。現状では、このパターンでなければなかなか名簿が増えていきませんから、弊社でもこの形式を採用しています。

この「無料レポート」というのは、一般的にはPDFファイルで作成し、情報量としてはA4用紙30~60ページ分くらいのものが多いです。ポイントは、無料だからといって手を抜かずにつくること。お客様とあなたのコンテンツとの最初の接点になるものですから、手を抜いてしまうとそれが悪い第一印象になり、次につなげにくくなります。一度定着してしまった悪い印象を改善するのは、ほとんど不可能です。

例えば、「助成金がもらえる最強ノウハウ」という無料レポートをダウンロードしたら、PDFで5ページ分程度しかなかった。しかも、基本中の基本の内容しか書いていない。「もっと知りたければ、3万円のDVDを購入してくださいね!」なんて書いてあったら、いくら無料であっても腹が立ちます。当然、DVDなんて買うはずがありませんし、メルマガも速攻で解約です。これが「ファーストコンタクト」になるのだと気合いを入れて、自分のとっておきのノウハウを大盤振る舞いするぐらいで丁度いいのです。

なお、メールアドレスの配信は、「まぐまぐ」などの無料配信スタンドでは自社に名簿を残せませんから、あまり意味がありません。ある程度の投資が必要です。弊社では、「オートビズ」「集客王子」「J-city」などのメルマガ配信システムを利用しています。

ステップ2 メールマガジンを発行する
名前とメールアドレスを取得する仕組みが完成したら、次はメールマガジンを発行します。メールマガジンの発行に決まったルールはありませんが、現在もっとも効果がある出し方が、「週1回の発行ペースを守って配信する」というものです。

毎日配信にしてしまうと、読むほうも大変ですし、書くほうはもっと大変です。逆に月1回ペースでは、年に12回しか配信されないため、購買してもらう機会が少なすぎて効果が薄すぎます。実際に週2回、週1回、2週に1回とさまざまな配信ペースを実験してみましたが、もっとも反応率が高く、しかも継続できるのが「週1回のメルマガ配信」です。

内容はどのようなことを書けばよいかというと、前述のとおり「お客様の役に立つ情報」を中心に、体験談やプライベートな情報を絡めて書きます。自分の得意分野、あるいは得意にしたい分野の情報を、幅広いテーマで提供していきましょう。

例えば、「助成金専門」「節税専門」と特色を出すのも有効な方法の1つです。ただ、あまりテーマが狭すぎると書くネタを考えるのに苦労します。ターゲットを「起業家・経営者」に限定し、ある程度広いテーマを設定して書いていくのがよいと思います。

私の場合、「横須賀てるひさの100倍稼ぐ天才マーケティング」というタイトルにしており、このタイトルの範囲内でビジネスモデルからマーケティング、成功哲学、組織づくりと、ある程度自由にテーマを設定できるように工夫しています。

ちなみに、私の処女作『小さな会社の逆転戦略最強ブログ営業術』(技術評論社)を出版させていただいた頃には、メルマガのタイトルも「最強ブログ営業術」というものでした。しかし、ブログブームが徐々に沈静化するにつれてメルマガに書くネタがなくなり、毎回新しいネタを必死で考えていた時期がありました。それで、途中で現在のようなある程度包括的なタイトルに変更したのです。

ステップ3 販売につなげる
失敗してしまうメルマガの共通点は、「毎回売り込みがあること」です。どんなによいノウハウがあっても、毎回セミナーや教材の宣伝ばかりしていたら、誰でも嫌気がさします。

あくまで「売り込みのない内容」で完結するメルマガを中心に、ときどき「販売」するメルマガを配信していくことが重要なポイントです。割合としては、3~4回に1回程度。これくらいなら、信頼感の喪失や解約にはつながりません。

誰でも知っている超有名人であれば、すでに「その人が書いたメルマガを読むこと」だけで満足度が高いので、毎回売り込みをしても売れる可能性は十分にあります。しかし、まだまだ無名な士業が、あまり知らない相手に毎回宣伝を続けていれば、やはり読み手は嫌な気持ちになってしまいます。

「売り込みのないメルマガ」を中心に、3~4回に1回「販売するメルマガ」を配信する。これが、セミナーの集客や教材販売がもっとも成功しやすいメルマガの出し方なのです。

ブログ、Twitterなどは補助の補助に過ぎない
ここまでの説明ですでにおわかりのように、セミナーの集客や教材販売にもっとも効果があるインターネット媒体は「メールマガジン」です。個人を識別して、相手のパソコンにまでダイレクトに届くツールは、今のところ「メルマガ」以外にありません。

ブログやTwitter、あるいはFacebookやmixiにまったく効果がないというわけではありませんが、その仕組み上、どうしても多くの対象外のターゲットが含まれるので、あくまで補助的に利用するに留めたほうが無難です。

ここでは、念のために各ネットメディアの効果的な使い方を解説しておきます。

(1)ブログ
「ブログ」とは、ネット上で簡単に日記などの記事が書けるツールで、2002年くらいから本格的に普及し、現在では持っていて当たり前のツールになりました。あくまでも補助的にですが、ブログを書くことによって士業の業務受注や教材の販売、あるいはセミナーの集客等につなげることができます。

ブログには、過去の記事が集積されていきます。そのため、丁寧にチェックしていけば、あなたの考え方がかなり細かく把握できます。あなたの商品やサービスを購入しようかどうか迷っているお客様が、念のために過去の記事をチェックする、というケースはかなり多くあるようです。

また、ブログにはプロフィールを掲載するページが用意されていますから、ここもよくチェックされる部分です。

ブログ経由の業務受注や販売を多くするには、次の2点を意識しましょう。

(1)プロフィールを詳細に、魅力的に書くこと
(2)専門家として信頼できる人物であることを推察させる記事を書くこと

特に(2)に関しては、テレビで簡単に流れたニュースを専門家として詳しく解説したり、日々の業務を守秘義務に反しない範囲で公開したりなどすると、読者に信頼感を抱かせられます。

また、メルマガの登録欄も忘れずにつくっておいてください。ブログからメルマガに登録してくれるお客様は、あなたの「ファン」になってくれる確率が高いです。数は少なくても優良顧客になる可能性を秘めていますから、取り逃さないようにすることが大切です。

(2)mixi、GREEなどの日本のSNS(ソーシャルネットワークサービス)
「SNS」とは、個人同士がつながりを持てるコミュニティサイトのことです。日本ではmixi(ミクシィ)やGREE(グリー)などが代表的なもので、この2つは登録者数も非常に多いようです。

これらのSNSに登録しておくと、ごくまれにですが、SNS経由で紹介や業務の発注がくることがあります。ただ、正直最近は、一時期の盛り上がりに比べるとかなり下火になっているのは否めないでしょう。

ポイントはブログと同じで、①プロフィールを詳細に書くこと、②魅力的な記事を書くこと、③メルマガの登録欄をつくっておくこと、の3点です。記事は、ブログの流用でも十分かもしれません。
 なお、それぞれのSNSにはそれぞれにルールがありますから、そのルールを逸脱しないように使用することも重要です。

(3)フェイスブック
基本的にはmixiなどと同じSNSですが、アメリカ発で、原則実名主義なのが特徴です。現在、世界的に大流行しており、登録者数は世界でおよそ6億人。2010年頃から日本でも登録者数が急増し、映画も話題になりました。

私自身も、加入1ヶ月程度でフェイスブック内の友達が1000名を超えました。こうした、その時々で流行っているツールには勢いがありますから、うまく使えば利益につなげやすいと言えます。資格起業家であれば、選り好みせずに積極的に関わっていきたいものです。

使い方のコツは、ブログや国内SNSと変わりません。①プロフィールを詳細に書くこと、②魅力的な記事を書くこと、③メルマガの登録欄をつくっておくこと、です。

(4)Twitter(ツイッター)
2010年に大ブレイクしたのが「Twitter」です。140字以内の「つぶやき」をネット上にアップできる、「小さなブログ」のようなメディアです。

このTwitterも考え方は同じで、詳細なプロフィールと魅力的な見せ方が重要です。つぶやくことができるのが一度に140文字ですから、情報をうまくまとめることが求められます。

「フォロー」という行為で相手のつぶやきを読めるようになり、お互いがフォローし合うことを「相互フォロー」と言います。これらの手段によってフォローしてもらっている人(フォロワー)を増やしていけば、あなたのつぶやきを多くの人に一度に読ませられます。

あえてデメリットを挙げれば、1回あたりに配信できる情報量が少ないので、まとまった情報を提供するには向かないことと、それぞれがフォローしている数が多いとつぶやきがあっという間に流れてしまい、見えなくなってしまうことです。そのため、セミナーの告知などには、あまり向かないかもしれません。

成約率を高める鍵はセールスライティングにあり
集客から販売までの流れを解説してきましたが、どんな方法をとるにせよ、セミナーの詳しい内容や教材の詳細はあらかじめホームページ上に記載しておき、一読して内容を理解してもらってから申し込んでもらいます。

ここで鍵になるのが、いわゆる「セールスレター型サイト」です。これは、文章を中心にして、商品やサービスをより魅力的に説明するウェブサイトのことです。

セミナーの集客や教材販売に際し、ただ「テーマ」「内容」「日時、場所」「申し込み方法」だけを記載して済めばいいのですが、実際にはそれだけで「販売」につながるほど甘くありません。多くの人を集めたり、たくさん売ったりしようと思ったら、「販売するための文章」として魅力的なセールスレターを書く必要が出てきます。

セールスレターのスキルについては、それだけで多くの専門書籍があるほど重要なものです。本書では紙面の都合上詳しく説明できませんから、ぜひ関連の書籍に目をとおし、その技術を身につけてほしいと思います。上手なセールスレターが書けるようになると、それだけでセミナーの集客数や教材の販売数が何倍にも増えることがよくあります。

紙媒体の場合は?
インターネット媒体ではなく、従来型の紙媒体を使って集客したり、商材販売したりする方法も紹介しておきましょう。

紙媒体は、インターネット媒体に比べるとどうしてもコスト高になってしまう傾向がありますから、インターネットと同じような感覚で毎週送ることはできません。そんなことをすれば、あっという間に資金がショートしてしまいます。

紙媒体の場合は、1回で販売まで完結するチラシやパンフレットをつくることがポイントになります。メールマガジンに比べ、紙媒体には表現力があります。一度にセールスに必要な情報をすべて入れてしまっても、デザインを工夫すれば文字だらけになるようなこともありません。しかも、写真やイラストも使えます(ただし、これはあくまで予備知識がないターゲットに出す場合の考え方です。すでに会ったことのある人や知り合いに出す場合には、また違う内容を構築する必要がありますので、気をつけてください)。

紙媒体にもいろいろなパターンが考えられますが、ここでは、名簿業者から名簿を購入して、絨毯爆撃的にダイレクトメールを出す場合を想定してみましょう。

この場合、これまではまったく接点のない人たちにダイレクトメールを送りつけるわけですから、成約率はかなり低くなります。しかし、それでも成約率を高くする方法がないわけではありません。こうしたダイレクトメールであれば、私なら「手紙手法」を選択します。

士業は、やはりほかの業種と違う特殊な商売です。どうしても「敷居が高い」「格式がある」「偉そう」といったイメージがありますから、そこにスーパーマーケットのようなチラシをつくって送ると、それこそ「イロモノ」として捉えられかねません。

そうではなく、まずは真剣に想いを伝える手紙を書きます。セミナーへの集客を目的とするダイレクトメールであれば、「なぜ、そのセミナーをしようと思ったのか」「どのような内容で、どのようにお役に立ちたいと考えているのか」など、あなたの真剣な想いを手書きでしたためます。

さらに、その手紙だけではあなたがどのような人かわかりませんので、あなたのプロフィールを記載したものを同封します。

また、どんなセミナーかを紹介するために、これまでにあなたのセミナーを受講した方の「お客様の声」を入れます。ファーストコンタクトになるので、あなたの自己紹介だけでは足りません。客観的な第三者の声を入れて信憑性を高めます。

そして、申込用紙も同封します。申込用紙を入れないと、どのように申し込んでよいのかわかりませんから、記入してそのままファックスが送れるような申込用紙を入れるなど工夫してください。

まとめると、「お客様への手紙」「プロフィール」「お客様の声」「申込用紙」の4つを入れて、1通のダイレクトメールとして送付するのです。

送付方法にも気をつけたいところです。さまざまな方法がありますが、一人ひとりのお客様を大事にするという意味では、宛名は手書きで、個人名までしっかり書くべきだと私は考えます。もちろん大変な手間ですが、印字された宛名で、しかも「事業主様」などと記載してあるダイレクトメールを、私自身、ほとんど開かずにゴミ箱に直行させているからです。また送付方法も、メール便より、切手を貼って送るほうが「大事な手紙」であることが伝わるでしょう。

アナログ営業で気をつけたいこと
ダイレクトメールを送るだけではなく、手渡し用のチラシをつくっておき、経営者の集まりや異業種交流会などで配布するのも1つの集客方法です。

こういった手渡しチラシでアナログ営業をする際、気をつけるべきことはただ1つ。「売り込みだけで話を進めない」です。

「自分のセミナーに来てください」だけでは、人は動きません。むしろ不快に思う人も多いでしょう。「参加すると、こんなによいことがありますよ。だから来てください」と、必ず相手にとってのメリットを伝えたうえで誘ってください。「仕事が増える人脈ができます」「あの○○さんがいらっしゃいます」などと、できる限り具体的にメリットを伝えるのがポイントです。

その際には、セミナーの内容はことさら説明しなくてもかまいません。内容は細かくチラシに記載されていますし、あまりくどくど説明すると自慢と取られかねません。また、売り込み臭も出てしまいます。

なお、手渡しチラシで教材販売まで持っていくのはまず無理です。セミナーの集客に留めておきましょう。

成功する資格起業家は、商品開発を怠らない
集客から信頼構築、そして販売へとつなげるマーケティングプロセスを詳しく解説してきました。このようにすれば、スムーズに「資格起業家としてのビジネス」を拡大できるはずです。

そうしてある程度軌道に乗ったら、今度はいつまでも同じテーマのコンテンツを提供し続けずに、常に新しいコンテンツの開発に励んでください。なかにはロングセラーとなるテーマもあるでしょうが、やはりほとんどのテーマは、前述の「流行り・すたりのサイクル」から逃れられません。

常に時代の先を見据え、そのときどきでもっとも求められている新しいコンテンツを開発し続けていくスタンスを持ってください。それこそが、「資格起業家」の歩むべき道だと、私は考えます。

第6章 「所長」として組織を大きくし、チームで勝ち抜く意識を持て!

組織をつくって幸せになれる人、なれない人
「資格起業家メソッド」によって、1段階目の派生事業も、2段階目の士業本来の業務も増やしていくと、次第に売上が伸びていきます。

ギリギリ1人でもこなせるのは、年商1000万円ぐらいまででしょう。そこからさらに売上を伸ばして商品開発をしたり、業務を大量受注したりしていくには、どうしてもスタッフを採用する必要があります。

ただ、スタッフを採用する前に、1つ自問自答してほしいことがあります。それは、「自分は、本当に人を雇ってもよいのだろうか?」ということです。

この自問自答をする際には、金銭的な事情ももちろん考慮しますが、それよりも「あなた自身がスタッフを採用したときに、幸せな気持ちで事務所経営ができるか?」という点を重点的に考えてください。

バブル経済の頃までは、日本の社会では「競争」が絶対でした。サラリーマンは出世争いをし、経営者はこれでもかと成長を目指しました。あらゆる事業は、「拡大するのが当たり前」と考えられていたのです。

しかし、20年とも30年とも言われる「失われた」低成長の時代を経て、最近では日本社会の価値観は多様化しています。事業に関しても、「何がなんでも拡大する」ことだけがすべてではなくなっているのです。

もし現在、あなたの士業事務所が経営的に安定しており、個人としての経済状況も満足できるものなのであれば、あえて事務所を大きくせずに、自分1人でハンドルできる商売の大きさに維持しておくのも選択肢の1つです。

また、独立開業する前に大企業に所属しており、そこで人間関係に悩んできた方なども、スタッフの採用には慎重になるべきでしょう。

1人悠々自適に事務所を運営していくことに大きな幸せを感じるのであれば、無理にスタッフを採用せずに仕事量を落とし、自分1人で何とかできるレベルにまで調整すべきなのかもしれません。それも、幸せな事業体の1つのあり方であり、士業のなかにはこういうタイプの方も結構いるはずです。

とにかく、最初のスタッフを採用する前には、あなた自身にとっての「幸せな事業のあり方」とは何か、先に考えてみることが必須です。

スタッフの採用には、メリットばかりがあるわけではありません。事務所の売上が落ちたとき、自分の給料を削ることは簡単にできますが、スタッフの給料を削ることはなかなかできません。雇用形態にもよりますが、いったん雇ったら労働関係法令の対象となり、すぐに辞めてもらうことも難しくなります。もちろん、人間関係で悩むこともありえます。

スタッフが増えていくことで必然的に発生してくる、こうしたデメリットに関しても自分が許容できるかどうか、まず自問自答してください。

「仕事の喜び」は、人と分かち合うと最大になる
ただ、もしあなたが「多くの人たちと一緒に成功したい」あるいは「自分のチームで成功したい」と一度でも考えたことがあるのであれば、リスクがあってもスタッフを採用してほしいと私は考えます。なぜなら、「仕事の本当の喜び」というのは、人と分かち合ったときに最大限に味わえるものだからです。

私自身、前職の会社をリストラされたのを機に独立開業したわけですが、スタート地点が低かったので「個人事業主として、とにかく食えればいい」というのが最初の希望でした。つまり、組織をつくるつもりは一切なかったのです。

しかし、ある出来事が私に組織化を決意させました。その出来事とは、上場企業での初めての講演と、処女作の出版です。

2005年、ある上場企業から、それまでの実績を認められて講演の依頼を受けたのです。社名を告げれば、誰でも知っているような巨大企業からのオファーです。自分の価値が認められたようで、本当に嬉しかったことを今でも覚えています。

ところが、講演を終えて自宅兼事務所に帰っても、その喜びを報告できる仲間はいませんでした。ブログにその経緯を書き、読者の方から祝福のコメントをいただいたりはしましたが、やはりそこはインターネットの世界。もちろん嬉しかったのですが、感動まではしなかったことを覚えています。

その頃、同時に初めての出版が決まり、執筆活動を一心不乱に続けていました。

「執筆活動」というのは非常に孤独な作業のように思えますが、実際にやってみると決してそうではないことがわかります。編集者をはじめ、紙面データの制作者、校正者、デザイナー、印刷業者、そして営業担当者に書店の販売員などなど、1冊の本の裏側には常にたくさんの人々が動いています。

編集者から指示をもらい、校正者にチェックをしてもらい、デザイナーに装丁や本文のデザインをお願いする。さらにはその販売促進に多くの人たちが動く。こういったさまざまな方たちの力を借りて、仕事というのは成立しているのだなぁ、と強く感じたのです。

おかげさまで時流に乗ったテーマが受け、処女作は2万部を超えるベストセラーになりました。後日、関係者で実施した打ち上げは本当に楽しく、「1つのことをチームで成し遂げ、喜びを分かち合うこと」がどれだけ素晴らしいのか、強く感じた仕事でした。

もう一度お伝えしましょう。

もしあなたがスタッフを採用するかどうか迷っているとしたら、ぜひ採用する方向で考えてみてください。スタッフを採用することによって、「経営者」としての自覚や責任感も増しますし、なにより、チームで行う仕事はとても楽しいものだからです。

採用の前に、「作業」と「仕事」を分けておく
具体的な採用活動に入る前に、一度、現在あなたが行っている仕事の整理をしてみましょう。

採用をしたあとになってもっとも焦るのが、「スタッフにお願いする仕事が見つからない」という状況です。士業の本来業務は、最初からスタッフに丸投げして任せられるほど簡単なものではありません。そのため、たとえ仕事はたくさんあったとしても、スタッフにお願いできる仕事がない状況が発生してしまうことが、しばしばあるのです。

スタッフを採用して事務所に来てもらっているのに、実際には任せる仕事がないというのは、時間とお金の大いなる無駄です。そうならないよう、事前に仕事の内容を整理しておきましょう。

どのように仕事を整理したらいいかと言うと、まずすべての仕事を、「どうしても自分でなければできない仕事」と「誰かに任せてもよい仕事」に分類します。前者を「仕事」、後者を「作業」と呼び分けてもかまいません。

高度な書類作成や、執筆、セミナーなどの仕事は、当面はあなた自身にしかできませんから、これは「仕事」です。それに対して、郵便物の送付や切手貼り、掃除や書類整理などは誰でもできる仕事であるため、「作業」です。

このように「仕事」と「作業」をできる限り正確に分けて、そのうちの「作業」をスタッフにやってもらうのです。たとえ「自分でしたほうが早いな」と思うような業務でも、「作業」であればとにかくスタッフに任せてください。

そうすることによって、次第にスタッフは成長していきます。

そうすれば、「仕事」のなかから徐々にスタッフに任せられる業務の数も増えていき、所長自身の負担が軽くなって、あなた自身はより高度で生産的な業務に集中できるようになるわけです。

もし、現在自分が行っている仕事を整理したときに「作業」が少ないようであれば、たとえスタッフに来てもらっても、取り組んでもらえる仕事が見つからない恐れがあります。自分1人で仕事を抱え込みすぎていないか、あるいは、本当に今スタッフを採用しなければならないのか、改めて検証することが必要になるでしょう。

フルタイム採用がすべてではない
採用の是非を考える際には、お金の面もシビアに考える必要があります。「毎月の給料なんてとても払えない」という考えがまず出てくるでしょうが、なにもスタッフの雇用形態は「フルタイムの正社員」だけではありません。例えば、週2日、週3日などのアルバイトとしての雇用からスタートしてもよいのです。

時給1000円でスタートしたとしても、週3日勤務なら月10万円程度の人件費で採用できます。まずは週3日程度勤務してもらい、慣れてきたら勤務日数を増やしていく、というやり方もできるわけです。

アルバイト採用の場合の給与については、士業業界では歩合制にする事務所が多いのですが、私は、採用後しばらく(半年~1年程度)は時給制で十分だと思います。

なぜなら、時給制は誰の目にもわかりやすい基準だからです。歩合制となると、どうしても経営者の裁量の余地が入ってきます。スタッフにとっては不明確な基準なので、まだお互いの信頼関係が確固たるものになっていない間は、不安や不信を引き起こす原因となりかねません。特別な理由がない限りは時給で給料を支払い、お互いの信頼関係ができてきたら部分的に歩合制を取り入れるという方法が、最初のスタッフ採用に踏み切る事務所には丁度よいのではないかと思います。

スキルよりも人間性を重視して
具体的な採用方法についても解説しておきます。

あなたが「即戦力」のスタッフを求めている場合、当然ながら、入社希望者のこれまでの経験やスキル等を重視して採用活動を行うのが常識です。しかし、事務所がまだ小さな頃の採用では、実務ができる「即戦力人材」は、なかなか応募してきてくれません。

では、どうすればよいのか?

最終的にはそれぞれの所長さんの考え方次第ですが、私は、「資格起業家メソッド」を採用している事務所では、実務のスキルよりも「コミュニケーション能力」や「所長との性格の相性」を重視して採用するのがよいのではないか、と考えています。

「コミュニケーション能力」については、ある「質問」に対して、適切な「答え」ができるかどうかをシンプルに見ていきます。例えば、「A社の書類作成は終わりましたか?」という質問に対して、「今はB社の書類をつくっています」と答えるタイプのスタッフと長いことやっていくのは、非常に骨が折れます。

この「B社の書類をつくっています」という返事は、「今はB社の書類を作成しているので、A社の書類はまだできていませんよ」という意味なのでしょうが、毎日こんな推理ゲームみたいなことはやっていられません。大きな企業であれば、そういう人材と気長に付き合う余力もあるのでしょうが、小さな事業体では無理です。

立派なプレゼンができるとか、ディベートが強いなどといった高度な能力は必要ありません。ただ単に、社会人としてまともな会話ができるくらいのコミュニケーション能力を持っているかどうかを見極めて、採用する人を決めてください。それだけのことなのですが、意外に多くの候補者がこの段階でふるい落とされることでしょう。

そしてもう1つが、所長であるあなたとの性格の相性です。

小さな事業体ですから、所長と顔を合わせ、話をすることがとても多くなります。そこで性格が合わなかったら、お互いに地獄です。

私は、面接の最後に必ずこう伝えています。

「今日は面接に来ていただきありがとうございました。今日、いろいろとお話させていただきましたが、もし性格的に私(横須賀)と合わないと感じたら、遠慮なく辞退してください。性格が合わないのに一緒に仕事をしても不幸ですから」

このように、採用に当たって、私はどちらかというと人間性を重視します。もちろんスキルがあるに超したことはないのですが、スキルは後からつけることが可能です。

しかし、入社後にコミュニケーション能力を上げたり、性格を変えたりするのは至難の業です。特に事務所が小さなうちは、人間性重視で採用を行うことを強くお勧めします。

スタッフは「士業事務所」で働くつもりで来ていることを忘れずに
「資格起業家メソッド」を導入した士業の事務所では、さまざまな種類の仕事を行います。例えば私の会社であれば、行政書士の本業である書類作成業務から、セミナーの会場手配やレジュメ制作、宣材の発送作業、ウェブサイトの更新作業、メルマガの発送業務、顧客リストの作成と管理などなど、士業の本業関連の仕事と、セミナーやコンサルティングなどの派生事業関連の仕事が入り乱れています。

こうした仕事の実態は、雇用する前に入社希望者にあらかじめ知らせておき、入社後にどのような仕事をするのかしっかり意思疎通しておきましょう。さもないと、あとで大きく揉める原因となります。

「資格起業家メソッド」は少しずつ士業の業界に浸透してきており、これからこの業界に入ってこようとする人たちにも、次第にその方法論が知られてきています。

しかし、やはり入社希望者のほとんどは、実際にはまだ業界の実態を知りません。ですから、今でも大多数の人は、伝統的な「士業事務所」に勤務して、「士業の実務をするのだ」と考えて採用試験に応募してきます。

特に士業業界ではいくつかの資格で、一定期間の実務経験を積んで、それから独立することがごく一般的なこととされています。ですから、自身の勉強のためにできるだけ早く、いろいろな種類の士業本来の業務を経験したいと考える人が多く応募してきます。

「資格起業家メソッド」を採用している事務所で、入社後に実際にやってもらう仕事の多様さを十分に事前説明しないままこういう人を採用してしまうと、入社してから、「こんなセミナーや物販(あるいは、メルマガやウェブサイト)の仕事をするために、『士業事務所』に入ったんじゃない!」ということになって、衝突したりトラブルになったりしやすいのです。

「資格起業家メソッド」を実践している事務所では、士業の本来業務以外にもさまざまな業務を行うのは必須です。当然、スタッフにもそれを手伝ってもらうことになります。

採用の際には必ず、「当事務所では、士業の実務以外の仕事もやってもらうことになる」と明確に伝えましょう。

私の場合も、「ウチは普通の行政書士事務所ではありません。もしあなたが士業の実務だけをしたいと考えているなら、ほかの事務所のほうが合っていますよ」と率直に伝えるようにしています。

業務マニュアルはあったほうがよい
実際にスタッフを採用してからの教育方法についても、少し言及しておきます。

まずは、士業本来の業務にも、またそこから派生するセミナー等の事業にも、「業務マニュアル」を事前につくっておきましょう。

マンツーマンで手取り足取り教える部分ももちろん重要なのですが、「業務マニュアル」があると、それだけでスタッフに最低限の安心感を与えられます。「マニュアルのない会社」というのは、一般の求職者にとっては結構不安なものなのです。

と言っても、詳細なマニュアルをつくる必要はありません。
①事業全体の流れがわかるマニュアル
②実務に関するマニュアル
③社内のルールをまとめたもの

最低、この3つだけをつくっておけば、とりあえずは十分です。

弊社の場合、1ヶ月間とおしての流れを解説したコンサルティング業務のマニュアル、行政書士の本来業務の全体像がわかるマニュアル、社内のルールを取り決めたマニュアルの3つを、新しく採用したスタッフに渡しています。

この場合の「社内のルール」とは、出社時間や昼食の取り方、備品の使い方などの日常的なルールのことです。「そんな日常的なルール、わざわざマニュアルにしなくてもわかるだろう」という意見もあるかと思いますが、スタッフは何もわからないところに来るわけです。しかも、個人事務所での採用となると、事務所設備や雇用条件等も、一般企業と比べたら見劣りするのが実情でしょう。その場合に、せめて「働く環境はしっかりしている」と思ってもらえるように、業務マニュアルの整備は最低限行っておきたいわけです。

また、スタッフの人数が10人に満たないうちは、通常は就業規則も用意していないでしょうから、その代替手段としての実際的な意味合いもあります。

「仕事は盗め」ではスタッフは成長しない
スタッフを採用し、マニュアルを渡し、士業の実務をはじめさまざまな仕事をしてもらい始めると、スタッフはあなたにさまざまな質問をしてくるようになります。「この書類はどう書いたらいいですか?」「この法律はどういう意味ですか?」などなど、最初の頃は毎日質問攻めに遭うこと間違いなしです。

この時点ですでに、あなたには何年もの経験の蓄積があるはずです。ですから、一つひとつの質問に対して答えを教えるのは難しいことではないでしょう。ただ、ここで問題になってくるのが、スタッフに対してのあなたの姿勢です。

どうしても、「教えてあげている」という“上から目線”になりやすいのです。

もちろん、あなたが上司なのですから、あなたのほうがスタッフより偉いのは当然です。しかし、よく考えてみてください。福利厚生やオフィス環境、給料など、もっと充実した会社は世の中に多数あります。そのなかで、「あなたの事務所で働きたい」と言ってくれたスタッフに対して、あなたが横柄な態度を取り続けていたら、スタッフはどう感じるでしょうか? 少なくとも、気持ちのよいものではありません。

士業相手のコンサルタントを手がけているため、私は多くの士業事務所の実態をお聞きします。そのなかで、実際に士業業界でスタッフが事務所を辞めてしまう理由は、待遇や仕事内容への不満よりも、「所長の考え方や態度についていけなくなった」という理由のほうがはるかに多いことを痛感しています。ですから、あなたがスタッフに対して横柄な態度をとり続ければ、せっかく採用したスタッフも遅かれ早かれ辞めていってしまうことは間違いありません。

そのくらい、事務所の「所長」であるあなたが持つ、スタッフへの影響力は強いのです。あなた自身が、それをよく認識しなければなりません。

私自身も、スタッフに対してはまず、「当社に来てくれたことに感謝する」という姿勢で臨むようにしています。スタッフからは疑問の声が上がるかもしれませんが、少なくとも「常にそのようにしよう」という気持ちは持ち続けています。

特に事務所が小さいうちは、こちらが人材を選ぶと言うより、人材のほうからこちら側を選んでくれているのです。ほかにもいくらでもよい会社があるなかで、あえてあなたの事務所を選んでくれたこと。その事実にもっと思いをはせれば、心理的な抵抗を覚えることなく、親しみやすい態度でスタッフに接せるはずです。

人材が定着しないのは、99パーセント所長の責任
そもそも、スタッフが会社を辞めてしまうのは「職場に不満があるから」です(もちろん、寿退社や病気など特別な場合は例外です)。つまり、「働いていて幸せな環境」であれば、スタッフは退職や転職をしようとは思わないということです。

それなのにスタッフが辞めてしまうということは、会社側に何か問題があるのです。士業事務所の場合で言えば、絶大な影響力を持つ所長自身に99パーセントの責任があります(1パーセントくらいは、スタッフ側にも問題があるでしょう)。

もし、あなたの事務所で人材の定着に問題があるなら、まず改善しなければならないのは「所長」である自分だということを忘れないようにしましょう。

この点に気づかないと、永遠に「最近は使える人材が来ない」とぼやき続けることになります。常に採用活動をしなければならないため、その費用もバカになりません。

私も、最初の頃はそれに気づかず、スタッフの考え方や気持ちを変えようと一所懸命でした。結果、多くのスタッフが私の事務所から離れていきました。しかし、正解は違ったのです。

「ほとんどすべての原因は、自分にあるんだ」と気づいてから採用したスタッフについては、今のところ全員に長期間勤めていただいています。「スタッフが自社に来てくれていることに感謝すること」「人材が定着しないのは、ほとんどすべてが所長の責任」……所長であるあなたがこう考えられるようになると、たとえ小さな事務所でも堅い結束力が生まれるようになります。

スタッフの独立を応援するくらいの器を持とう
士業は、独立志向の高い人たちの集まりです。そのため、面接時にすでに「将来は独立したい」と考えている入社希望者が非常に多くいます。所長さん自身もそのことをよくわかっているので、「どうせ独立してしまうのだから、手間をかけて業務を教える必要はない。ひいては、スタッフの採用自体できればしたくない」と考えているケースがよくあります。

確かにそういう考え方もありますが、私は、それは少し“器が狭い”と思います。

将来、自社で修行したスタッフが独立し、自社ともよい関係を維持してくれれば、ウィン・ウィンの関係をつくることは難しくありません。また、同じ業界で切磋琢磨できる、気心の知れた仲間をつくることは、自らにも刺激となり非常に有益です。

少し心を広くし、自社のスタッフが独立を目指しているなら、それを応援するくらいの器の広さを備えてほしいと考えます。

士業の仕事は、枝葉より森を教えよう
実務の仕事を指導するときに気をつけたいのが、教え方です。

私の資格の行政書士なら、申請書類は1カ所でも不備があると受理されません。そのため、細かい箇所の指導が必要不可欠です。そうすると、どうしてもスタッフの細かいミスをいちいち指摘して、注意することに意識の大部分が向いてしまうのですが、それよりも先に、業務の全体像を教えることがより重要なのです。

例えば、私の事務所では会社設立の手続きを主に扱っています。新しいスタッフにこの仕事を指導する場合、細かい定款の記載方法やその他の書類の記載方法を教える前に、まずはそもそもの「会社」の仕組みについて解説します。

「会社には株式会社や有限会社、合同会社などいくつもの種類があって、法務局に登記することによって法人として成立する。その前段階として、公証役場や法務局に行き、これこれの手続きをする必要がある……」といった感じです。

こうして先に全体像を教えておかないと、細かい部分を指導するときに、「今、何のためにこの書類をつくっているのか」がわからなくなります。この基本の部分がわかっていないと、応用も利きません。

例えば、定款の作成が完了したら、公証役場に認証を受けに行くわけですが、その全体像を教えていなかった場合、スタッフには定款の作成が終了した時点で仕事が終わるように見えてしまうのです。

会社設立手続きの内容を全体的に知っている人にとっては、定款作成の次のステップが「公証役場で認証を受けること」だというのは、当たり前すぎて、むしろ意識しないとそれを指導するのを忘れてしまいがちです。しかし、全体像が見えていない人にとっては、「公証役場に電話をして、予約を取る」というところまで気が回るわけがありません。ですから、こちらが教えない限りは、定款をつくったところで仕事が終了になってしまうのです。

そして、それを見た所長が「定款の作成は終わったのか?」と聞くと、「はい、終わりました」と返事が返ってきます。次に「公証役場には連絡したの?」と聞くと、「まだ連絡していません」となります。

全体像がわかっていれば、「次は公証役場に連絡をする、ということでよいでしょうか?」と進んで聞いてくれることもありえるのですが、教えていないと「気が回らない人」に見えてしまうのです。

ここで、「なんで公証役場に連絡しないんだ!」と叱っても、スタッフはなぜ叱られるのかがわかりません。それは、全体像を教えられていないからで、スタッフに責任があるわけではなく、むしろそれを教えていない所長に責任があるのです。

まずは仕事の全体像を伝えてから、細かい手続きを教えていく。この順番を、間違えないようにしてください。

直接指導↓間接指導↓直接指導
全体像を教えたあと、士業の本来業務を指導する段階では、スタッフが経験者でもない限りは、最初はつきっきりで教える必要があります。当然、最初は時間がかかります。未経験者のスタッフに実務を教えるときは、まずは粘り強く教える覚悟を持ってください。

そして、「ある程度能力がついてきたな」と思えたら、そこで一度突き放します。わからない部分が出てきたときの相談相手を、「所長」であるあなたではなく、「役所」にするのです。

士業の仕事には、多かれ少なかれ法律が絡んできます。そして、法律の細かい部分に関しては、実態としてそれぞれの地域の役所が裁量で運用しています。たとえ「標準的」とされる方法・書式で書類をつくっても、地域によっては受理されなかったり、指導が入ったりするのです。

ですから、たとえ「所長」であるあなたの方法で実務を教えても、役所でそれが通らないことがありえます。ならば、最初からスタッフ本人に電話をさせたり、実際に窓口まで行かせたりして、役所と直接連絡を取ってもらったほうが、二度手間を避けることにつながります。要するに、所長が教える「直接指導」から、役所に代わりに教えてもらう「間接指導」に切り替えるのです。

これにより、そのスタッフの実務能力もさらに磨かれますし、指導にかける手間も省けます(もちろん、細かい法解釈を議論する必要があるなど難しい案件に関しては、臨機応変に所長自らサポートをするのは当然のことです)。

そうして、しばらくは役所を相手にさせて実力を伸ばし、さらに高度な仕事ができるようになったら、今度はもう一度直接指導に切り替えて、共同で実務をしていくスタンスをとります。この段階まで来たら、すでにそのスタッフは完全な「即戦力」に育っているはずです。

 このように、士業の本来業務に関しては、「直接指導↓間接指導↓直接指導」の順にスタッフ教育をすると、たいへん効率がよくなります。
 実際に、弊社でもこのように指導することによって、実務未経験者を数年で「ビジネスパートナー」といえるレベルにまで引き上げています。

あなたと同レベルの能力など、スタッフが持っているはずがない
さて、スタッフを指導し始めると、多くの方が不満やストレスを感じます。その大半は、「なぜ、このスタッフはこんな簡単な仕事ができないのだろう?」というものです。

確かに、あなたが5分で終らせるような仕事でも、スタッフに任せると30分も1時間もかけている、なんてことはよくある状況です。そんな仕事ぶりを見ていると、そのスタッフに不満やストレスを感じるのも無理はありません。

しかし、スタッフとあなたは、能力も経験もまるで違うということをあらためて認識してください。すでに独立開業に成功し、スタッフを採用する段階にまで事業を拡大させてきたあなたと、これから士業としてのキャリアを積んでいこうとするスタッフとでは、ビジネスの素養や仕事の能力に大きな差があって当然です。

すでに大きな結果を出している自分と、同じレベルの能力をスタッフに求めてしまうと、永遠にストレスを抱え続けることになります。

長い目で見れば、スタッフも現在のあなたに近いレベルになってきます。しかしその頃には、あなた自身ももっと能力を高めているでしょう。

どこまでいっても、あなたとスタッフとの間には多少の実力差が残るのです。最初からそう考えておけば、自分よりも仕事が遅いスタッフたちともストレスを抱えずに仕事をしていけるでしょう。

士業の仕事は3ヶ月もすれば飽きてしまう
また、スタッフを指導していく際には、「士業の本来業務は、3ヶ月もすれば飽きてしまう」というポイントを意識することも必要です。

士業の本来業務は、それぞれの資格に法律で定められた仕事です。そのため、どうしても定型で同じ内容の手続きの繰り返しになりがちなため、ともすれば飽きてくる可能性が高いのです。

私たち実務家から見れば、それぞれの書類にお客様の歴史や想いがあり、1つとして同じ仕事はないと感じることができるのですが、例えば社内で書類作成だけに没頭しているスタッフなどには、「また同じ書類か」と感じられることがあるのです。

もちろん、士業事務所に未経験で来たスタッフにとっては、最初はすべてが新鮮です。役所に行くことも、書類をつくることも、どれもこれまでにない体験なので、すべてが新鮮な体験に見えて、モチベーションも非常に高いです。

しかしながら、3ヶ月から半年くらい経過してある程度実務ができるようになってくると、ふと「さっきの書類も、この書類も、細かいところは違っても結局は同じことの繰り返しだなぁ」と気づき、「もしかして、この仕事はずっとこの繰り返しだけなのだろうか…」と、モチベーションが揺らぐ瞬間が訪れます。

モチベーションが下がれば仕事の質が落ち、ヘタをすれば大きなミスを引き起こしかねません。そうした事態を避けるために、スタッフが仕事に慣れてきたタイミングを見計らい、仕事の難易度を少しずつ上げていくよう心がけましょう。

例えば、お客様との打ち合わせに同席させたり、お客様とのやりとりを少しずつ任せてみたりするなど、徐々に扱う仕事の質をレベルアップさせていき、その内容にも一定の幅が出るようにしてあげます。

そうすることによって、仕事にほどよい緊張感ができ、仕事に対する「飽き」を防ぐことが可能になります。もちろん、いきなりレベルを上げてしまうと仕事が辛くなってしまうので、徐々に上げていくことが大切です。

また、「資格起業家メソッド」の場合には、士業の本来業務以外にもさまざまな業務が発生するため、それらの仕事を順次任せていくことで、スタッフが仕事に飽きないような工夫をしてください。

立派なオフィスはいらないが、努力する姿は必要
事務所がまだ小さなうちは、立派なオフィス環境を整えることは困難です。

私も、自宅兼事務所からのスタートでしたから、スタッフを採用することになって初めてオフィスを借りました。

最初に借りたオフィスは、交通の便はよかったものの、スペースは非常に狭く、快適なオフィス環境とはとても言えないところでした。本当に、今振り返ってみても、当時のスタッフがよくあの小さなスペースで仕事をしてくれていたものだと感じます。

もしあなたが、当時の私と同じように劣悪なオフィス環境の問題に悩み、スタッフにも負担をかけていると感じているのであれば、まず「今は無理でも、将来的にはオフィス環境を改善したい」という強い意思表示をすることが必須になります。今はこのような環境だけど、いずれよいオフィスにするという努力の姿勢だけは、最低限見せる必要があるのです。さもないと、時間が経つごとにスタッフのモチベーションが落ちかねません。

そうして、しばらくの我慢をスタッフにお願いしたうえで、実際に最大限の努力をし、しっかりと結果を出して徐々にオフィス環境を整えていきましょう。

また、狭いオフィスでも、ちょっとした工夫で快適さを上げることが可能です。例えば、私は意識的に観葉植物を入れたり、音楽をかけるようにしたり(スタッフの自由にする)、服装を自由にしたり、冷暖房の調整を女性のスタッフに任せたりするなどの努力をしてきました。細かいことですが、こういった「オフィスが広くなくてもできる努力」をして、スタッフの労働環境に配慮する姿勢を見せてきたのです。

もともと、手厚い福利厚生や快適なオフィス環境を求めて求職する人は、この業界にはほとんどいません。どちらかと言えば、実際のオフィス環境よりも所長がどう考え、どう行動しているか、そして、どんな未来像を描いているか、そういったことを見て、スタッフたちは「このままこの会社にいてもいいのだろうか?」と自問自答しています。そのことを、所長は常に意識しなければなりません。

なぜ、あなたの事務所が存在するのか教えられるか?
事務所の売上が伸びていくのは、非常によいことです。売上が伸び、給料が上がることによって、喜びを感じるスタッフもいるでしょう。売上が伸びることによって、事務所全体の雰囲気がよくなることは間違いありません。

しかし、最近はこういった「成長」だけではなく、違った側面に喜びを求める人材が増えています。そういった傾向を持つスタッフは、給料が上がることももちろん喜ぶのですが、それ以外にもプラスアルファを求めます。

そのプラスアルファが何かと言えば、答えは「存在意義」です。

つまり、「今自分が働いていることに、なにか価値があるんだ、ということを感じたい」「誰かの役に立っていることを実感したい」という人材が、急激に増えているのです。

ですから、あなたの会社がなぜ存在するのか、「当事務所には○○という存在意義があり、社会の役に立っている」と教えられるようにしておきましょう。

特に士業の業界では、「なんとか資格を取ることができたから、脱サラして独立した」という経緯の人が非常に多く、創業にストーリーがないことが多いのです。創業にストーリーがないということは、会社の理念も特にない場合が少なくない、ということです。

一般の企業では、その会社が存在する意義を謳った「経営理念」がたいていあります。お飾りのようになっている場合もありますが、それでも、経営理念が存在するだけで、その会社が存在する意義とは何なのか、従業員が迷うことがなくなります。

私は、士業の事務所でも、こうした経営理念があったほうがよいと考えます。

確かに、個人事業主として、自分だけの事務所でそこそこの成功を目指すのであれば、経営理念にはほとんど出番はないのかもしれません。しかし、スタッフを採用し、組織化した事務所を構えて商売を長く続けていくつもりなのであれば、やはり「自分たちが、そもそも何のために仕事をしているのか」をはっきり示す経営理念が求められてきます。

スタッフの数が増えてきたあとに後付けで理念をつくって押しつけても、格好悪いですし、スタッフも驚くだけでしょう。個人でやっている「1人事務所」や小さな規模のうちに経営理念をつくっておくと、事務所の経営にも1本背骨が通るように思います。

おわりに あなたの資格人生で成し遂げたいことは何か?

さて、最後にもう一度「目的」について考えておきましょう。大げさな言い方をすれば、この目的意識1つで人生が変わります。

私が23歳で就職した最初の会社では、目的は特にありませんでした。ただ無難に仕事をすれば、まずはいいだろう。そのくらいのものでした。結果、当時我が強かった私は社長と衝突。初めての社会人経験は、リストラによってたった1ヶ月で終わってしまいました。

「もう雇われたくない」と考え、持っていた行政書士の資格ですぐに独立開業しましたが、当初の目的は「食べるため」でした。ですから、がむしゃらにどんな小さな仕事でも受けました。報酬価格もどんどん引き下げ、苛酷な安売り競争のなかでとにかく食べるために必死に働いたのです。

そうして、なんとか行政書士で食べられるようになると、次の目的は「好きなお客様と仕事をし、成功者の仲間入りをすること」になりました。結果として、起業家・経営者という夢のあるお客様とともに成長させていただき、成功者の1つのステータスとされる「商業出版」を25歳のときに果たしました。

その次の仕事の目的は、「資格業界に恩返しをし、資格業界を人気業界にすること」になりました。

私自身、資格がなかったら、とてもここまで人生を逆転できなかったでしょう。「だからこそ、この業界のために何かがしたい」。そう考え、できるだけ安く、そして役に立つ経営情報を士業に提供することを目指しました。そうすれば恩返しになりますし、なにより士業がもっと自立し、稼げるようになるはずです。当然、士業はもっと人気の業界になります。

それを経営理念とし、2007年に「経営天才塾」を創設しました。経営天才塾はもう創設5年目を迎え、現在までに延べ1000名以上の士業が、「ただの士業」から「資格起業家」へと脱皮すべく、経営能力の研鑚に励んできました。

このように、私はそのときどきで、常に仕事の「目的」を考えてきました。

「いったい今、何のために動いているのか?」

この質問ができるかどうかで、普段の一つひとつの行動が変わってくると思うのです。

そして、士業のなかで成功できない方の多くが、この「目的」を間違えてしまっています。「士業でいること」が目的になってしまっているために、自分自身の本来の目的を見失っていることが多いのです。

もともと、なぜ資格を取ったのか? そして、何を目標にしていたのか? そういった最初の部分を、忘れてほしくないと考えています。

この業界は、「士業純血主義」でいることが美徳とされています。しかしながら、本書でお伝えしたとおり時代は変わってきています。これまでの常識を捨てて、新しい経営スタイルに取り組むことが必要不可欠なのです。

もう、資格だけでは食べていけません。しかし、資格がダメになったわけでは決してありません。

あなたの気持ち1つで、資格は強烈な武器になります。私たち経営天才塾では、徹底的に資格起業家になるためのサポートをしていますから、もしあなたが変化したいと考えているなら、ぜひ私たちのウェブサイトをご覧になってみてください。


2010年、私たちの会社は新たなスローガンを立てました。それは「SMART CONSULTING & FUN COMMUNICATION」です。略して「SMART FUN」というものであり、「格好よく、楽しく仕事をしよう」という意味です。このスローガンの下に、士業向けのサポート・コンサルティング会社としてもっともっと成長していきたいと考えております。

そして、もう1人に感謝を。それは、本書を手にとって買ってくださった「あなた」です。これも何かの縁です。1冊の本との出会いは、あなたが思っている以上に人生を変えます。ぜひ、「あなた」とお会いできる日を楽しみにしております。

それでは、最後の最後。本書を読み終わってくださったあなたに質問。

 「あなたは、誰のために仕事をしていますか?」
 「あなたは、何のために仕事をしていますか?」

目的によって、人生は本当に変わります。あなたの資格起業家人生か良きものになりますよう、祈念しております。

2011年春 横須賀輝尚

※掲載されている内容は、作品の執筆年代・執筆された状況を考慮し、書籍販売当時のまま掲載しています。

「もう、資格だけでは食べていけない」は本記事ですべて読むことが可能ですが、書籍でも販売しています。手元に置き、書籍として読みたい場合は、こちらからお買い求めください。




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