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クビの配達引き受けます #4

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「む」

 気付くと、モリスは椅子に座っていた。
 ゆったりとしたソファ。辺りは狭くも広くも無い、まっさらな部屋。
 思わず、肘掛けから腕を浮かす。見慣れた手――いや、左手首のホクロが無い。いつも袖に隠れている、メディアに露出しない、ちょっとした秘密。同時に得心する。

「仮想空間か。機器とマルチアームで接続してた以上、こういう芸当が出来る事自体は、なるほど不思議じゃあないか」
「はいその通りでございますお察しが早くて助かります」

 気付けばデスクを挟んだ反対側、同型のソファに奇妙な男が座っていた。
 ストライプのスーツ。白い手袋。忙しない手付き。だが何より目を引くのは、男の顔そのものだった。
 ザジが装着しているアンリミテッド・アーマー。その頭部分が、男の顔なのだ。ただし現実のそれとは違い、なぜか眼鏡をかけている。

「まずはハイ改めて自己紹介させて頂きますとワタクシはアンリミテッド・アーマーNO-30の統括AIでございますユーザーはサンジュと呼んでおりますハジメマシテ」
「ああ、うん、始めまして」

 多少面食らいつつ、滑らかな会釈を返すモリス。同時に感心する。

「しかし大したものだね。これ程の――」

 ちらと、モリスは己の胸元を見やる。
 白を基調とした、ラティナ家の儀式装束。あの時の恰好。配信記録からでも再現したか。寸分違わぬ造りだ。現実《そと》は今まさに戦闘の真っ最中だろうに、このAIはそれをやってのけている。

「――演算を、苦も無くやってのけるとは」
「いえハイそれ程でもと申しますか全盛期の性能とくらぶれますれば百分の一未満のみすぼらしい演算能力でございますがマアこの程度であればお茶の子さいさいでございます」
「そうかね」

 半分以上聞き流すモリス。得技の一つ。頬杖を突く。試すように、サンジュを見やる。

「ならば、だ。僕がどうしてあんな姿で無様に逃げ回っていたのか、概ね予測がついてるんじゃあないか?」
「ええまあハイその通りでございますがその前に確認させて頂きたいのですけれども」
「なんだい」
「どんなに言葉を尽くしましてもモリス様のプライベートへ踏み込むような予測予察予想思い込み知ったかぶりを並べるような状況になってしまうのでございます申し訳ありませんそれでも」
「構わないよ」

 ぴしゃりと。
 AIの戯れ言を、モリスは一言で遮った。

「その予測の正確性をもって、改めてキミ達の実力を測らせて貰おうじゃないか」

 モリスは、手を組んだ。笑った。
 やわらかく。朗らかに。
 しかし、どこか冷気を滲ませる。そんな笑顔であった。

【続く】

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