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みんなで動かない(毎週ショートショートnote)

遮るものは何一つない。
窓という窓に明かりが灯るビルも、もくもくと煙を吐き出す煙突備えた工場も、夕餉は何だろうと心くすぐる匂いが漂う住宅も。
仰ぎ見る空は雲一つない。
月は既に西の彼方。一面に広がるは星、星、星……
降るような星とは、このような空のことなのか。
夜空へと落ちていくような、あるいは吸い込まれるような。
手を繋ぎ、輪となり立ち並んでいたのに、いつしか春待ちのタンポポのように地面に横たわる。
遮るものが何もないここに、幾つもの音楽、溢れんばかりの歓声、弾ける笑い声…… そういった音は聞こえてきやしない。
ただ張り詰めた空気が満ちあふれている。
仰ぎ見る空は雲一つない。
月は既に西の彼方。一面に広がるのは星、星、星……
――星が流れた。
また、流れ星。
思わず胸の前で手を組む。
願うことは、ただ一つ。
祈る、祷る、禱る……
みんなで動かないで、
祈る、祷る、禱る。
当たり前にあった、あの平穏な日々を。



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2022•7•4 加筆修正