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パリジェンヌの女子会

〜エイヒレの焦がしバター添え


前作で書いた通り日本に行ってきた。

到着した日に早速友人のシャンピ(これはニックネーム)からメッセージが。

今回の日本旅行はあまりにも突然決めた為殆ど誰にも告げていなかった。
ましてや彼女はリール市というパリからTGVで一時間少々かかるところにずっと住んでいてもうかれこれ3年以上会っていない。

「何で日本にいる事分かったのかなあ。」

答えはその反対。

「ククー、レ・フィーユ!」
彼女のメッセージはいつもこう始まる。
英語だったら「ハーイ、ザ・ガールズ!」
で、肝心な内容にはビックリさせられた。
一週間後の金曜に会社の集会でパリに来るから3人でディナーしようというのだ。

日本とフランスの間には現在7時間の時差があるのだが、私がメッセージを受け取ったのは木曜日でディナーは次の週の金曜日。私はギリギリ日本に戻っている。
そう、私は金曜の早朝に我が家に到着の予定。

なんて我々はついているのだ!勿論OKだよー。

その時は急いでいたのでサッとそれだけ答えておいた。

もう一人のナット(これもニックネーム)は私より先に答えていた。

「勿論OK.」

彼女は今回のチャンスを一番待ちわびていたはず。
一度シャンピが我々に声をかけてきた時にたまたま都合悪かったのだ。
また、シャンピはリール市でジャン=フランソワ・ミレー展があったときにお茶でもと思ったらランチに招待してくれた。

というわけでナット抜きで2人で2回会って食事をした事になる。

特に、リールのレストランは市内一番と言われていたところ。

内装も大人のイメージで広々としていて、味付けにも非の打ち所なし。
落ち着いていて安心感のあるサーヴィスも良かった。
パリからやって来た友人をもてなすのに市一番と言われているレストランをサッと予約してくれる本当に感じの良い子なのだ。

しかしながらつい最近そのレストランが閉店してしまったという話を聞いて世の中間違っているとつくづく思った。

とにかく私としてはその一日を最高の気分で過ごしてしまった反面、ナットに申し訳ない気分もあった。

せっかくリール市に行くのにシャンピに声をかけないのも感じ悪いし、何より私はシャンピに会いたかったのだ。
と、そのときはそれしか考えなかったのだが、後から思うとナットにしてみればやはり寂しい思いをしたのだろうな。

3人組の中で結婚してお母さんになったのは今のところシャンピのみである。
リール市に家を建てて仕事も続けている。一番若いがしっかりしている。

本当の事を言うと今回の日本でのスケジュールはお土産渡しできつかったし、パリに着いてからも一週間は人と会うことで毎日、特にお茶だけならともかくランチなりディナーなりが続くのは楽しいけれどルイ14世になったわけでもないし、お腹が膨れて苦しくもあった。

正直なところ健康の問題が懸念された。
この女子会にしてもただでさえ大食漢の二人と上手くバランスを取って付き合うのは至難の業である。
食事最中に相手に不快な思いをさせてはいけないのである。

10月7日朝1時パリのシャルル・ド・ゴール空港でタクシーに乗る。勿論料金はここ数年の間に値上がっていた。
何時に寝たかは全く覚えていない。
ほんの束の間の睡眠の後、約束があったのでオペラに9時頃到着。

その後再び自宅に昼過ぎに着いた。
爆睡。
そして目が覚めたのはなんと17時30分!
2人との約束は18時30分であった。

レストランは我が家からすぐのバスティーユ、普通なら20分もあれば楽勝だがこの時期夕方は下手すれば1時間かかる事もある。

いつもならパスで直ぐなのに〜、来ない!
時間を見たら既に約束の時間。
あわてて二人に遅れる事を伝えるメッセージを送った。
それに追い打ちをかけるようにナットからメッセージが!
店の前に到着という内容の知らせである。
これは待っていたら洒落にならない。
もうタクシーしか手段は頭に浮かばなかった。
幸い目の前に一台。
私 挙手!
止まってくれた!
「ボフィンガーまで!」
ドライバー「あいよー、デイナー?」

すぐにわかってくれた。
有名なレストランなのだ。何の補足説明もいらない。シャンピに感謝。

そう、確かにこのレストランはバスティーユの駅から近いし、でも実は今まで行ったことなかったのだ。


到着。店内は凄い行列。
結局30分の遅刻であった。
その辺の店員に3人のうち2人はもう中で待っている旨を説明すると、まあその人が忙しいのは分かるけれど、「自分で探してくれる?」と一言冷たくあしらわれた。

そんなふうに言われたの初めて。
と、あっけにとられていると他の店員が「ああ、あれじゃない?」と、それぞれスマホを手にして自分のチャットに夢中になっている二人が目に入った。

近寄っていくとまずシャンピが気がついてくれた。
「Yokoちっとも変わってない。」と、そしてシャンピはキール、ナットはアルコール抜きコクテル、私は生ビールで乾杯。
ほんのり温かくてフワッと柔らかいプレッツェルがついてきた。

軽い塩味がいける。

プレッツェル


メインディッシュのチョイスは<エイヒレの焦がしバター添え>が満場一致で!
いや、別に同じでなくともよいのだけれど、でもエイヒレはどのレストランにも必ずある料理ではないのだ。
せっかくの再会の機会を祝って3人お揃いで行ってみようということになった。

フランス料理の中でも賛否両論の一品というのがある。
例えば以前ご紹介した<ランプロワ(ヤツメウナギ)>のようにそのお姿もお味もキョーレツなものもある。興味のある方には以前の記事を是非。

この記事の中にはランプロワ様のお写真があり、そのお姿に見惚れる人と目を覆う人と二通りである。

さて、では今回のエイはどうかというと写真ではなく、18世紀の偉大なる画家であるシャルダンの力を借りよう。


シャルダン(1699-1779)
エイ
1725-1726ころ
ルーヴル美術館


これを見て食欲が湧く人は少ない。
私はといえば最初にいつどこで誰と一緒にいたときに食べたのか全く覚えていない。でもおそらくシャルダンの絵の中の姿を食前に見ていたら手を付けなかったかもしれない。

料理のサーヴィスのタイミングは最高でアツアツ状態。日の通り具合も理想的であった。クルトンが入っていた。バターをすっかり吸収して、全体にリッチなまろやかさを与えた。
グリンピースもこの料理には必ず入っているものではないが、ケッパーとバランスよく混ざりあっていた。

実に美味であった。3人共満足。
その場の雰囲気を盛り上げてくれた、
サーヴィスに関しても、最初は感じワルーと思ったが、段々と良くなってきた。
二人にそう言うと「賛成!」と声を揃えて一致であった。

あとは会話を楽しむしかない。

そこへ隣のテーブルに2回転目の客到着。この店は殆どのテーブルが2回転しているようだ。
男性の方が斜め向かいのナットに
「君達は何を食べたのかね?」と聞いた。
すかさず3人で答えた。
私達の説明は説得力があったと思う。


さて、私達は「あの人は今何をしている。」やら、「あの時あれはこうだったよね。」など、他人から見ればどうでも良い話しに目を輝かせながら口も動かせていった。

ほんのひと時だけど思いっきり若返った私達…、だがお肌だけは正直者であった。ハハ。
私も日本旅行の疲れが隠せなかった。

注目のお隣のメインディッシュが到着。
女性の方はエイヒレだったが男性はそうではなかった。

すかさずナットが問い詰めた。

「私はエイヒレは苦手で…。」と男性は少々困った様子で答えていた。
そして私に「貴女はどこの国のご出身ですか?」と聞いてきた。

その一言で、アジア人っぽく見えるけどエイヒレを喜んで食べるとは一体何者か知りたかったと思ったと言っているらしいことが読み取れた。

繰り返すようだがエイヒレは(しかも火が通っているし)日本だって美味しく食べるし、と思うのだがあの容姿がこの男性の中で固定観念として残ってしまっているのかと思うと残念。

「貴方は一度でも試したことがありますか?」のセリフが出かかった。

ナットだって鶏肉は食べるけれど鴨肉は食べない。なぜなら鴨は可愛いからと言う。

人は皆それぞれ好き嫌いがあると思うが、私は子供の時はきな粉が駄目であったが今では死ぬ程好き。
一度ピエール・エルメがきな粉味のマカロンを発表したときに食べそこねて未だに根に持ってるくらいだ。

更にシャンピぐらいになると味も見た目も無敵なのだ。量に関しても彼女が残すのを見たことがない。
他の人が残すのを片付けてくれる位だ。

…、ところがその時ふと私はシャンピの皿を見て気がついたことがある。

ミニ・トマトが端っこに寄せられていた。

そう、シャンピはトマトが嫌いなのだ。
が、今まで一度もトマトが嫌いという言い方はしたことがなかった。

「トマトが悪い。トマトのせい。」と、常に私達は聞かされていたからである。

私から言わせると、あんなに美味しいものは無いのに。

食の世界も面白いものだ。




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