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懲戒解雇の場合の退職金支給

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 従業員を懲戒解雇にするときには退職金は支払わなくていい、と思っている経営者がいらっしゃいます。

 しかし、退職金を支払わなくていいかどうかは、解雇方法の形式だけで決まる問題ではないので、注意が必要です。

退職金の性格

 退職金は、長年働いてくれてありがとう!という気持ちを込めて払うもの、というイメージがありませんか?

 そういうイメージだと、懲戒解雇になったような従業員には退職金は支払わなくていい、という気持ちになりますよね。
 だって、「ありがとう!」どころか、「なんてことをしてくれたんだ!」という怒りの気持ちの方が強いですもんね、懲戒解雇になるような人には・・・

 しかし、退職金には、賃金の後払いの性格も含まれています。

 “賃金の後払い“と“功労報償”という2つの性格を持っているということです。

 したがって、退職金支給の基準が決まっているにもかかわらず、会社の経営状況が悪いからという理由で、退職金を支給しないことにすることはできません。

 では、懲戒解雇の場合はどうでしょうか。

懲戒解雇と退職金

 懲戒解雇の場合に退職金を支給しないことにするという定めを、就業規則や退職金規程などに定めておけば、一応、懲戒解雇の場合に退職金を支給しないこともできます。

 しかし、労働契約法7条には、「使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」と定められています。

 退職金を不支給とすることが“合理的”であることが必要なのです。

 退職金の性格の2つの側面から考えると、退職金を不支給とするには、労働者のこれまでの勤続の功を抹消してしまうほど酷く信義に反する行為があることが必要です。
 そのような場合には、退職者のこれまでの功を労う意味は失われるでしょうし、また、賃金の後払いを認めない(既に発生した賃金を没収するという構成をとる説もありますが、退職時に初めて発生する請求権であると考えれば、退職時の賃金支払い請求権を認めないという構成になります)ことも合理的だといえます。

 逆にいえば、労働者のこれまでの勤続の功を抹消してしまうほど酷く信義に反する行為があったとまではいえない時には、懲戒解雇処分自体は有効でも、懲戒解雇処分自体を理由とする退職金全額不支給は合理的ではない、ということです。

任意退職後に懲戒解雇事由が判明した時

 よくある相談として、従業員が任意退職した後に横領や取引先とのトラブルなどの懲戒解雇事由が発覚した場合に、退職金を不支給とすることができるか、ということです。

 既に退職してしまっている従業員を重ねて懲戒解雇することはできませんので、懲戒解雇を理由とする退職金不支給はできません。

 しかし、就業規則等において、“懲戒解雇に相当する行為”について退職金を不支給とする旨の定めがなされていれば、任意退職者についても退職金を不支給とすることが可能です。

 ただし、既に退職金を支給してしまった後には、会社の被った損害の賠償を請求すると共に、退職金相当額を不当利得として返還請求する他ありません。この場合、いったん支給したものを吐き出させるのはかなり難しいでしょうから、退職金を支給してしまっている場合は諦めざるを得ないのが実状でしょうね・・・

就業規則等の整備を

 就業規則は、従業員との関係をスムースに進めるために大変有用なツールです。

 これまでにも何度も何度もくり返して言っているのですが、自社の就業規則を再度見直し、会社と従業員のために必要な項目が整っているか確認しておきましょう。

 もし、漏れや矛盾があるなら、早めに修正をしておきましょう。

 何はさておいても、労使関係をコントロールするルールの整備はしておくべきです。

 そして、作ったルールは従業員に周知徹底し、ルールの意味をしっかり教育して理解しておいてもらいましょう。

 懲戒処分そのものをしなくていい組織を目指すことが大切です。


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