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就業規則と普通解雇の関係

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 私は、比較的小規模な会社からの相談を受けることが多いのですが、小規模な会社では、何かトラブルが起こった時でも、就業規則がないために、その解決方法に迷っておられることがあります。

 そこで、本日は、就業規則と普通解雇の関係についてお話したいと思います。

就業規則の制定義務

 就業規則は、労働者が従うべきルールを定めたものです。

 職場における安全で効率的な業務遂行のために、多数の従業員を賃金や処遇において公平に扱い、従業員の賃金・処遇を経営政策に沿った形で制定したものです。

 就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する使用者については必ず作成して、労働基準監督署に届け出なければなりません。

 就業規則には、何があろうと次の項目は必ず定めなければなりません(労働基準法第89条)。

① 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
② 賃金(臨時の賃金等を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③ 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

 また、以下の事項については、定めをする場合には定めてください。

③の2 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
④ 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
⑤ 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
⑥ 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
⑦ 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
⑧ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
⑨ 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
⑩ 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

就業規則がある場合の普通解雇事由

 労働基準法には、絶対に定めなければならない事項として、「解雇の事由」が挙げられています。

 したがって、就業規則がある場合には、解雇の事由を必ず定めなければなりません。

 では、就業規則に定めていなかった事態が発生した時、それを理由として解雇することはできるのでしょうか。

 就業規則に規定した解雇事由は、そこに規定した事由のみに限定されるのか、それとも、就業規則に規定した事由は、解雇できる場合を例示的に示しただけで、規定されていない事由でも解雇することができるのか、という問題です。

 裁判例の中には、就業規則に定められた解雇事由に該当しないものであっても、客観的に合理的な理由があれば解雇することができる、というものがあります(ナショナル・ウエストミンスター銀行事件(東京地方裁判所平成12年1月21日判決))。

 他方で、使用者が自ら解雇事由を規定したのならそれに縛られるはずだとして、規定されていない事由での解雇はできない、とする説もあります。

 しかし、通常、就業規則には、解雇事由を並べた上で、最後に「その他前各号に掲げる事由に準じる重大な事由」を解雇事由の1つとして記載しています(記載されているかどうか、確認しておいてください)。

 ですから、この包括的な条項を使えば、だいたいの重大事案について解雇処分をすることは可能ということになります。

 他方で、就業規則に記載されていさえすれば、どんな些細なことでも解雇することができるか、というと、そうではありません。

 労働契約法に、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」という規定があります(第16条)。
 これは、解雇権濫用法理と呼ばれるルールで、就業規則に定められた解雇事由であっても、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ解雇することができないことになっているのです。

就業規則がない場合の普通解雇事由

 常時使用する労働者の数が9人以下で就業規則を作っていない使用者の場合、就業規則に基づく解雇はできません。

 しかし、だからといって、一切解雇できないということではありません。

 また、常時使用する労働者が10人以上の場合で就業規則を作成していないことは、労働基準法違反ではありますが、だからといって一切解雇できない、ということにはなりません。それとこれとは別問題です。

 その点が問題となった事案で、就業規則作成義務違反によっても解雇権はあるとした裁判例があります(東京地方裁判所昭和46年11月1日判決(秀英社事件))。

 被告が労働基準法上、就業規則を作成して行政官庁に届け出、これを労働者に周知させる義務があり、右義務違反は罰則の適用を受ける違法行為だとしても、被告が前示不作為の故に当然にその従業員を解雇できなくなるいわれはない。また、当時被告会社にはいかなる形においてにせよ従業員の解雇基準がなかったことは、弁論の全趣旨に徴し明らかであるが、使用は予め定められた解雇基準によらなければ労働者を解雇できないという理由もない。

 なお、懲戒をするときは、就業規則にその行使権についての根拠規定が必要ですので、懲戒解雇は就業規則がないとすることができません。

就業規則の作成を!

 常時使用する労働者が10人以上の場合は当然ですが、9人以下の場合でも、できるだけ就業規則を作成しておくようにしましょう。

 就業規則には、職場における効率的な業務遂行を可能にする、従業員の処遇を公平にする、長期勤続を促すなどの効果があります。労働者の側からしても、従うべきルールが明確な方が働きやすいはずです。

 ただし、就業規則の制定が義務づけられていない使用者であっても、一旦就業規則を制定すれば、以下の効力が認められますので、ご留意ください。

① 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による(労働契約法12条)。
② 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない(労働契約法7条)。
③ 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない(労働契約法10条)。

 

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