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違約金の支払いや損害賠償の約束

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 昔むかし、事務所のボスから、飲み会の席でした約束は絶対に守らないといけない、シラフの時の約束よりも十分な注意が必要だよ、と言われたことがあります。

 しかし、アルコールが入って盛り上がっていると、できもしない約束や軽々しい約束をしてしまい、寝て起きたらすっかり忘れてしまうこともあります。

 そこで、飲み会の席で約束した時には、その瞬間にメモを残しておくようにしました。

 翌日、手帳を開いたら、解読困難な字で約束事が書かれていることに気付き、約束を実行に移すのです。

 こうして私は、飲み会の席での信頼をなくすことなく生きてくることができました。
 むしろ、酔っていたはずなのに覚えていてくれた、とか、こんな約束を本当に実行する人は始めてです、などと喜んで貰えることの方が多くて、とても得した気分になります。
 といっても、私にも守れていない約束も結構あります・・・ごめんなさい。

 約束を守るのと破るのとでは雲泥の差ですから、十分気を付けたいと思います。

 反対に、約束を破られる方はどういう気持ちになるでしょうか。

 私生活上の約束なら、「あの人は約束を守らない人だから気を付けよう」と信頼を失って終わりですが、ビジネスではそうはいかないこともあります。

 特に、時間とお金を投資してきた従業員が約束を破ったりすると、なんとかしてそれを取り戻したいと考えるでしょう。

損害賠償額の予定の禁止

 民法では、例えば、約束を守らなかったらそのバツとして100万円払います、というような、損害賠償の約束をすることができます。

(賠償額の予定)
第420条 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。

 しかし、労使の関係においては、労働者が弱い立場にあるのを良いことに酷い約束をさせられるのを防ぐため、労働基準法で、損害賠償額を予定することを禁止しています。

(賠償予定の禁止)
第16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

 遅刻したら罰金、契約が取れなければ罰金、社長の機嫌を損ねたら罰金・・・なんて、一昔前には普通にあったように記憶しています。

 最近では、権利意識の高まりやSNSの普及などにより、あまり酷いケースは少なくなっているうよに思います。

費用返還請求

 一方で、従業員に費用を負担して資格を取らせたのにさっさと会社を辞めてしまったとか、資格取得費用を出しているのに何度受けても合格しないとか、留学させるために業務の量を減らしたり休ませたりしたのに留学も行かずに会社を辞めてしまったなど、留学させたのに帰国早々退職してしまった、というような時に、その費用や損害の賠償を請求できるかどうかがよく問題になっています。

 東京地方裁判所平成9年5月26日判決(長谷工コーポレーション事件)では、「被告は原告に対し、労働契約とは別に留学費用返還債務を負っており、ただ、一定期間原告に勤務すれば右債務を免除されるが特別な理由なく早期退職する場合には留学費用を返還しなければならないという特約が付いているにすぎないから、留学費用返還債務は労働契約の不履行によって生じるものではなく、労基法16条が禁止する違約金の定め、損害賠償額の予定には該当せず、同条に違反しない」としました。

 ただ、この裁判では、簡単にいうと、従業員側の会社に対する不義理が認定され、留学費用の全額返還請求が認められました。

事情によりけりの返還約束

 従業員のための投資は確実なリターンを期待してしまいますが、事情によっては取りっぱぐれることもあります。

 それを覚悟の上で、あくまでも投資は投資、と割り切って従業員育成をすることも必要かもしれませんね。


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