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大輔命の特異なアイドル感

「大輔命」というとんでもなく自信満々なタイトルのファーストアルバムを出した男がいる。◯◯命というのは当時よく使われていて、例えば銀蝿一家でも紅麗威甦の曲名で「俺達最後のRock'n Roller〜ロックンロール我命」という曲があったり、ステッカーでも「大輔命」や「銀蝿一家命」みたいなものをみんなカバンやカンペンに貼っていた。

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自分の名前に命をつけるというこの大胆なタイトルのファーストアルバムをリリースしたのはもちろん嶋大輔だ。仮に大輔のことが命だというほどでもないライトなファンでさえもこのアルバムを手にした時点で半ば強制的に「大輔命」となるわけで、大輔やそれをバックアップした横浜銀蝿の自信に満ちた顔が浮かぶし、そこには確かな狙いが見て取れる。

当時の暴走族の落書きなどでも命はよく使われていた。好きな女の子の名前で◯◯命みたいな落書きも学校でもよく見られた。特に不良でちょっとマセた奴ほど堂々と付き合っている彼女の名前で◯◯命と書いていた傾向が強い。また、この当時◯◯命ってのはアイドルのファンにとってのお馴染みのフレーズだった。好きなアイドルの◯◯命とプリントされたハチマキをして応援したり、シブがき隊のヒット曲「ZOKKON命(ラブ)」とか。そんな自分も岩井小百合命のマチマキをして学校の運動会へ出て怒られた記憶が…

嶋大輔はただ単にこの暴走命的な暴走族用語を意識してこの命を使ったのであろうか?おそらくそれは違う。暴走族用語としての意味合いもアイドル用語としての意味合いも双方向に対して、自ら命とつけて発信したのだ。ツッパリ・不良だけではなく、アイドル好きの女子に対してもアピールするという、なんとも幅の広い戦略でデビューを飾ったのである。

アイドルとは一線を画す横浜銀蝿・銀蝿一家は知っての通りツッパリ・不良少年のシンボルだ。その不良自らアイドル用語にもなっていた命を使うというところにかなりの戦略を感じる。そしてその戦略は大成功をおさめる。背が高く、なんたってカッコいい不良だ。当時一番モテたタイプじゃないだろうか。当時クラスで人気があったのは、スポーツ万能少年かルックスのいいツッパリだった。

そんな大輔はとにかく人気があった。その人気はまさにアイドル級。しかしアイドルの正統派であったジャニーズのアイドル達とは全く異質な人気だった。ジャニーズの中でもヤンチャなイメージで売っていた近藤真彦。そんなマッチのヤンチャなイメージともタイプの違う不良感とアイドル感を大輔は持っていたのだ。それはもちろん横浜銀蝿の弟分という特殊な立ち位置にいたことが関係している。

真っ白な特攻服を着て、リーゼントにキャッツアイでポーズをとる大輔は本当にいかしていた。男から見ても憧れるカッコ良さだ。そこに甘いマスクと声、さらには愛嬌の良さまで持ち合わせていたわけだから、女子たちが夢中になるのもうなずける。大輔はこのワルとアイドルのバランスをうまくとりながら、芸能界という荒波に飛び出していったのだ。

このアルバム「大輔命」を通して聴くと、横浜銀蝿に感じる不良感をあまり感じない。不良やワルの要素よりもロックンロールを一生懸命歌っている好青年といえば分かりやすいかもしれない。

全10曲入りのアルバムで、横浜銀蝿の曲のカバーが5曲。シングル曲が2曲。アルバム用に書き下ろしたと思われる新曲はわずか3曲というのが残念なところ。紅麗威甦でもファーストとセカンド辺りで若干感じたが、どうもデビュー時にまだオリジナルの曲が揃ってない感がある。なんとか銀蝿の曲のカバーで埋めているというのが実際のところだった。おそらくそれはタイミングの問題で、この時全盛の横浜銀蝿の弟分としてデビューさせる最適なタイミングだったのだと思う。そのため、オリジナル曲を揃うのを待つ時間はなかったのではないだろうか。また、横浜銀蝿のファンがすんなりと弟分達を受け入れるための作戦もあったとも考えられる。

本来であれば、アルバムを埋められるだけのオリジナル曲が揃い、あわよくば自分で作詞作曲もできるだけの準備ができてからのデビューの方がアーティストとしては長生きできたのかもしれない。しかし、あの時の銀蝿の人気度を考えると、さらに銀蝿一家として次々と弟分を増やすことが最大のテーマだったように思う。そう考えると、ボーカリストとしてはまだ小粒だったが、あのタイミングで一気に売り出したことは大輔にとっても結果的には大成功だったのだろう。

正直に言うと大輔は歌は上手くない。声も優しすぎて銀蝿のカバー曲はどれも本家の銀蝿には及ばない。やはり翔くんのような渋く男らしい声が銀蝿の曲には合っている。しかし、その優しくマイルドな声を男くさい渋い声にしようと無理をしていないところは好感が持てる。結局これが大輔のオリジナリティなのだから。

そんなマイルドな声に合っているのはオリジナルの3曲だ。なによりカバー曲よりも新鮮さがあっていい。カバー曲だとどうしても翔くんと比べてしまうから勝てっこないのだ。それにしても「潮風さがしに」はなかなかB級感が満載。嵐さん作詞のこの曲。

  俺とお前 飛ばすぜ All Night
  今夜はReady 朝までLady
  だ・き・し・め・た・い・ぜ!

悪くはないけど今聴くとちょっと微笑ましいくらいにB級感のある歌詞だ。曲が足りなくてなんとか数合わせ的に作ったような曲で笑える。しかし右も左もまだ分からなかったであろう大輔はなんとか一生懸命に歌っているところがまた微笑ましい。

横浜銀蝿のカバー曲に物足りなさを感じ、オリジナル曲も突貫工事で作ったようなB級感が漂ってしまっているこのアルバムの中で、やはり抜群に完成せれているのはシングル曲の「男の勲章」だ。やはりこの曲の頭抜けた曲の良さは圧倒的だ。なんたって今聴いても心にしみるんだからとてつもない名曲だ。結局、アルバムの最後に「男の勲章」がくることでアルバムの印象はかなりいいものになって終わるのだからこの曲の出来の良さはさすがである。ちなみに横浜銀蝿のカバーでは翔くんには敵わないと書いたが、「男の勲章」では横浜銀蝿によるカバーより原曲の大輔のバージョンの方が個人的には好きである。


このアルバムで個人的に一番好きな曲は、このアルバムのために作られた「Rock'n Rollでお祭り気分」だ。この曲は非常によく出来ている。TAKU作詞作曲のこの曲は非常にTAKUらしいナンバーだ。ホーンセクションや女性コーラスも入りタイトル通りにお祭り気分でハッピーな曲調が陽気な大輔にぴったりとハマっている。


  We're gonna Rock'n Roll
  おちょうしずいてる夜はサ
  はめをはずして Rock'n Roll
  あいつもこいつも
  Rock'n Rock'n Rock'n It's all right!


  We're gonna Rock'n Roll
  ハッピがわりにいかす
  革ジャンはおって Rock'n Roll
  Rock'n Roll night
  It's just Rock'n Roll tonight!


この曲は土曜の深夜に紅麗威甦、嶋大輔、麗灑が出演していたラジオ番組「パノラマワイド〜土曜の夜はロックンロール」のエンディングテーマだった。この曲が流れると今週の放送もおしまいかぁとちょっと寂しくなった思い出もあったりする。個人的にはこの曲だけでもこのアルバムを聴く価値はあると思っている。

それにしてもこのアルバム、10曲入りなのにとにかく短い。A面B面フルで聴いても30分という収録時間だ。さらには横浜銀蝿のカバー曲が多くアルバム用の新曲が3曲しかないから、とにかく不完全燃焼となってしまうアルバムだ。そこがとにかく残念。逆にいうと横浜銀蝿を知らない人が聴いたら全曲嶋大輔の新曲という風に聴こえるからこれでもいいのか?いや、よくはない。このタイミングでデビューさせたかったのは理解するけれど、もう少し中身は作り込んで欲しかったのが正直なところ。もしかしたら、しっとりしたバラードが一曲でも入っていたら、アルバムの印象もかなり違ったものになったのかもしれない。

そして最近気づいたことだが、大輔の曲はどれもギターの音量が異様に小さい。イントロ、間奏、アウトロにはリードギターが飛び出してくるが、どの曲もAメロやBメロのバックのギターが極端に寂しい。うっすらカッティングギターが入っている程度だ。銀蝿や紅麗威甦と比べてもそれは顕著で、おかげでバンド感が圧倒的にない。もしかしたら、これは嶋大輔というボーカリストを引き立たせるためにあえてバンド感を薄めたのかもしれない。これは戦略のひとつなのかもしれない。好みは分かれるかもしれないが確かに歌が聞きやすい印象はある。

改めて今この「大輔命」を聴いてみると、大輔って実は優等生なんじゃないか?と思うほど、声だけ聴くとやはりどうしてもツッパリ・不良の要素がない。大輔が実際に不良だったかどうかはどちらでもよい。結果的にはこの後銀蝿一家の枠を越えて戦隊モノのヒーローをやったり、バラエティ番組でお調子者を演じたりと活躍の場が広がったわけだから、不良っぽさがなかったことが実は良かったのかもしれない。なんだかんだと言っても大輔がここまで成功したことで銀蝿一家があれだけの巨大勢力として大躍進したことは間違いない。

このコラムのはじめに書いたが、大輔は不良のイメージとアイドルのイメージを両方を持っている。声はアイドル、風貌は不良という棲み分けがきちんとされている。ジャケ写でバイクにまたがってこちらを睨め付ける姿にはドキッとするし、なんといっても封入されているジャケットサイズのブロマイドのような写真は抜群にカッコいい。今のライザップでの大輔しか知らない人が見たらびっくりするんじゃないかというくらいカッコいいのだ。

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このルックスもさることながら、やはりアルバムタイトルが「大輔命」だ。これはやっぱりどう考えてもかっこいい。当時発売された時に「そうきたかぁやられた!」と思った。こんな短いワードで嶋大輔の世界を言うにはこの「大輔命」が一番しっくりくるし世の中にも伝わる。そう考えると「ぶっちぎり」「ヨロシク」「大輔命」「マブダチ」など銀蝿一家のアルバムタイトルはどれもワード一発のインパクトがあっていい。

このインパクトのあるアルバムと「男の勲章」というまさに勲章的な名曲をひっさげて芸能界を爆走していった大輔。その走り出しとしては100点満点に近いスタートだったのではないだろうか。

学校の机に彫る時も、黒板にチョークで書くときも、好きな子の名前を書いて◯◯命と書いていたあの時。大輔の名刺がわりの一発となった「大輔命」は、ビジュアルやアルバムタイトル、そしてリリースのタイミングを考えると、不良とアイドルを上手いバランスをとって大量のファンを獲得したことは間違いない。あれだけ売れたということは横浜銀蝿を聴いてこなかった層まで取り込んでいたわけだから。大輔のこの活躍がなければ後が続かなかったであろう。やはり大輔の躍進なくして銀蝿一家の成功は考えられない。銀蝿一家がツッパリ・不良の枠を超えて一般層にまで評価されたのは嶋大輔の存在が大きい。この不良とアイドルの要素を持ち合わせた特異なアイドル感が嶋大輔の最大の魅力だったのだ。


it's only Rock'n Roll

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