見出し画像

「アカデミックな人」に憧れますか?

今、私のnoteを読んでくださっている方は、様々な業種や職種、年齢の方がいらっしゃることでしょう。
直接いただいたメッセージには「センスメイキング理論」「SECIモデル」といった内容がちょっと難しい、今の会社ではなかなか活用できる機会がない等というお話もありました。確かにそうかもしれません。

ビジネスパーソンは多くのことを学ばなければなりませんが、あくまでもそれは活用して始めて実感し習得していくものだと私は思います。学術的に学んでいるだけだと、ビジネスに生かすことができないのも然りです。

学術的な「学び」

かくいう私ですが。何を隠そう...以前こちらでお伝えしたように野中郁次郎先生から直接学びを得ましたが、実はあの頃ピンと来ていませんでした。

今思うと、私が当時在籍していた博報堂が"広告代理店"であり、広告・コミュニケーション主体のビジネスモデルであったことにも起因していたのかもしれません。企業全体の活動をダイナミックに捉えないと「 SEC Iモデル」や「センスメイキング理論」を本当の意味で実践し、理解することが厳しかったのだと思います。

それ故に「黒木マーケティング室」として独立して野中先生からの学びを初めて理解することになったのです。

実践として「学び」 -パーフェクトTV事例- 

独立して早々にご縁あって「パーフェクトTV」導入に関するマーケティング指南役のような役割に携わりました。
ご依頼を受けたのは当時三井物産の副社長だった故・内海昭氏で、私の講演をたまたま聴いてくださったきっかけで興味を持ちお声がけいただいたようです。

「私たち商社はいわゆる最終顧客を知りません。衛星を民事利用したいので放送を事業として活用する方法を考えてくれませんか。多チャンネルと顧客との2wayでどのようにビジネスになるのかを知りたい」というのが、彼の開催する朝食会に呼ばれた初日の相談でした。インターネット普及前であり、オンデマンドの活用と市場ポテンシャルを知りたかったのだと思います。

私にとってもこの依頼は、ゼロからの事業立ち上げをする、今でいう"スタートアップ"をする大きな機会を得たチャンスとして鼻息が荒くなりました。若かったですね。しかしながらこの機会は想像以上の苦難の日々の始まりでもありました。

当時パーフェクトTVは、株主である三井物産、伊藤忠商事、住友商事、T B S(のちにフジテレビやソフトバンクも参入)の複数の企業の寄合企業でした。その為に株主から派遣/出向してきた社員は、それぞれの母体企業になんらかのメリットをもたらすような使命があるので会議をしていてもそれぞれに思惑があり、共通の理念やビジョンなど作りだすこと、共有化することは至難の技だったのです。

当時私の使命は、"ユーザーを3年で300万人達成すること、コミュニケーションや販売方法、顧客管理システムを有機的に結びつけること"。パーフェクトTVの事業コンセプトを作成し、まずは個々の思惑ある100以上の放送事業会社を調整しなければなりません。はてさてどうしたものか、そんなことを考え模索し続ける毎日でした。

そんな中で、これら作業を推進していく際に真藤豊氏(当時のパーフェクトTV常務)とは、膝をつきあわせながらメンバー全員と深夜遅くまで、徹底的に対話を繰り返し行っていました。具体的には組織内の集団、部署がバラバラであった時に、潜在顧客や現在の顧客からのニーズやウォンツを引き出す作業にフォーカスしていたのです。そしてこれが私にとって"目的の共有化と共感を引き起こすまで知的コンバットをする"という野中先生の「SEC Iモデル」をリアルに具現化した最初のリアル経験となりました。ビジネスでこうして活用できるんだ、という実感の時です。

その後サービス開始はできたものの、実際に導入後も苦難は続きました。初期ユーザーは、まだまだイノベーターだったので、キャズム(新しい商品やサービスを浸透させる際に発生する大きな壁)を超える為にインサイトを掘り起こす方法をパーフェクトTVメンバー全員で「センスメイキング理論」を活用しながら販売方法、コミュニケーション方法、独自の商品開発をするまで、三年かかりました。

パーフェクトTV導入に参画して...

結果として、私のパーフェクトTV事業での経験は、
①顧客コミュニケーションだけでなく顧客管理方法の創出
②アンテナを販売する家電量販店との販売方法についての設定
③コンテンツ提供をする放送事業主との番組編成の指針づくり
④郵政省や通産省などの役人との交渉
⑤衛星の打ち上げし、管理するJsatとの交渉
等、同時に有機的に結びつける会議と作業を実践することになりましたが、この作業ひとつひとつにこれまでの学び「SECIモデル」を活用していたのだと思います。ようやく野中先生のお考えに本当の意味で近づけた、そんな風にも感じました。嬉しかったなー。

ここでもう1つ。
前述の真藤氏が繰り返しされていたのは「目的の共有化」でした。「新しい日本を創ることをしよう。必ずやメディアはマスメディアではなく、デジタルになり2wayになる。放送と通信は融合するはずだ」、そう彼は言い続けていました。
インターネットもSNSも普及する前の時代、20世紀末の時代です。今思えば、これぞまさに昨今話題になる「パーパス経営」のはしりでもあったでしょう。その意において、素晴らしい時間を彼とは共有できたと思っています。

その頃、グローバルで起きていたこと

一方、視点をグローバルに広げてみると、全く同じ頃にAmazonの創始者ペゾフ氏が「書籍販売から音楽や映像配信、さらに日用品のオンライン販売」を始めていました。しかも彼は放送や配信や書籍だけでなく「顧客を豊かにする」という物販・情報・知識・物流まで包含したコンセプトを掲げていたのです。
ああ、あの頃の私に伝えたい!時代を開拓する人というのは視点の次元を超える、日本はまだまだ、、、、そんなことを後々思ったりもしましたがふと思うと「大ぼら三兄弟」と呼ばれている一人、日本電産の永守氏は世界が相手のビジョン推進をしていますよね。隣国の韓国だってエンタメでは世界を相手にしている。ビジネス構築の時には自国だけなんて狭い視点だけではなく、いつでも時代を変えるくらいの気負いがないと気持ちで負けてしまうのかもしれません。これは今の私のチャレンジでもあります。

まとめとして

こうして。私が現在、クライアントとのお仕事の中で実践している「センスメイキング理論」は、野中先生の「 SECIモデル」と西田幾多郎氏の「純粋経験」の活用をベースにしながらも、「博報堂→スカパー→・・・現在」までの現場実績によって構築されてきたと言えます。

頭の中、机上で考えるだけではなく、現場に足を運ぶ、顧客と対話する。
できないかもと考え躊躇するのではなくまずは活用してみる、トライすることから始めてみる。間違ったら軌道修正したらいいんです。

そして忘れてはいけないこと。視点はいつでも伸び縮みした方がいい。
この瞬間も大切だけれど先の10年、20年も大切。目の前のお客様も大切だけれど、海の向こうにいるお客様の未来も大切。
あなた自身の決意ひとつで、いつでもスタートすることはできますよ。自信を持って突き進んでください。

              ***
本日も最後までお付き合いありがとうございました。
また次回。

(完)