多田洋一
VOL.12寄稿者&作品紹介09 姫乃たまさん
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VOL.12寄稿者&作品紹介09 姫乃たまさん

多田洋一

昨日(2022.4.30)はLOFT9 Shibuyaにて、姫乃たまさんの活動13周年記念ライブ開催。1年半ぶりのステージ。天気にも恵まれ大盛況だったようで、SNSにもファンの声がたくさんアップされています。ウルウル系のコメントも散見されるのは...なんだか「やっと日常が戻ってきたなぁ」という、ここ数年の鬱屈とした世の中の空気から解放されての感慨、みたいなものもあるのでしょうか。でっ、LOFT9のスケジュールを見ると、明日(5/2)も「姫乃たま 春待ちツアー&『ヘア・ヌード』出版記念展 打ち上げトークイベント」があるようですよ。そんな姫乃さんの小誌への登場は第6号に掲載した「21才」、第7号掲載「そば屋の平吉」以来、6年ぶり。先日下北沢にいったら、姫乃さんと最初に打ち合わせをしたMOIS CAFE(モワカフェ)は跡形もなくなっちゃってて時の流れを感じましたが、しかし、ちょっと大人っぽい書き下ろし新作で姫乃さんがまた寄稿してくださったこと、発行人として嬉しい限りであります。あっ、上記の2作品を未読の方、Witchenkare STOREでバックナンバー入手可能ですので、ぜひぜひ(今号P251ご参照)!

寄稿作の主人公「木田いずみ」は、30代半ばの女性。昨今はルッキズムetc.諸々でものごとの表現にセンシティヴィティが必要なことを承知していますが、作品を読む限り、このいずみさんはまちがいなくナチュラル系の美人。20代半ばまでいくつかの恋をして、その後しっくりくる男性と巡り会って結婚していまに至るという、世間一般のもの言いに合わせれば、まあ「幸せな人」。そんな女性の思い出や日常生活を淡々と描いているのですが、ある些細なできことがきっかけとなり、夫・草太との関係性について、いずみさんの心に微かな翳りが。

自由が丘、クランベリージュース、ミルフィーユ。神楽坂、桜餅、抹茶。掌編の前半にしか登場しない「母」の言葉が、物語全体を見渡した呪文のように響いています。たとえばいずみさんが自身の不安を言葉にして草太に伝えても、返ってくるのは「そんなことないよ」「考えすぎだよ」といった答えに決まっていて、それを聞いたらいずみさんは、ますます不安になるはずで...この負のスパイラル、「美人であること」「幸せであること」の裏返しというか、仇みたいなものにも感じられて、これは引き波のように抜け出せないぞ、と。そしてこんな心象をさらりと書いてしまう作者の筆力に鳥肌が立ってしまいました。

 運ばれてきた和菓子は桜餅で、黒文字の太い楊枝が添えられていた。
 添えられているということは、楊枝を使って食べるべきなのだろう。それで桜餅を切り分けようとしたが、葉の部分がどうにもうまく切れない。いっそ手で持って食べてしまいたくなったが、礼儀に反する気がして周りの目が気になった。
 ここに草太がいたら、と思う。きっと「切り分けてあげるよ」と言って、きれいに切り分けてくれるだろう。もしくはなにも気にせず、半分齧ってくれるかもしれない。残りはいずみが楊枝で食べられるように。

〜ウィッチンケア第12号〈クランベリージュース〉(P050〜P053)より引用〜

姫乃たまさん小誌バックナンバー掲載作:「21才」(第6号)/「そば屋の平吉」(第7号)

【最新の媒体概要が下記で確認できます】


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多田洋一
文芸創作誌「Witchenkare」(ウィッチンケア)発行人。東京都町田市在住。 フリーランスのライター/エディター。