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【読書メモ】_おとなの自閉スペクトラム

 Twitterで紹介されていてピンとくるものがあり購入&読了しました。11月1日に出版された出来立てホヤホヤの本です。
 依存症者は、定型発達者であっても、背景に信頼障害があるため、出会った頃は強烈な不信感を向けられるのが普通です。その壁を乗り越えるのに、年単位、時には10年単位の時間がかかることもあり、しんどい想いをすることもままあります。
 しかし、一度、壁を乗り越えてしまえば、強い治療的な愛着関係が形成され、支援者としての甲斐を感じる機会も多いのです。壁を超えるために自助グループに繋がることが有効であり、先日参加した断酒会の全国大会の雰囲気が、まさにそれでした。
 一方、AS(自閉スペクトラム)が背景にある場合、子ども時代から、特性ゆえに生き辛く、抱えている心理的苦痛への対処としてアディクションを利用している部分があります。なので、依存症の支援を行う際、いきなり集団療法をメインとして行おうとすると、ドロップアウトされてしまうことが少なくありません。

 自助グループに繋がっていて断酒を続けていても、以下のような話を聞くことがあります。

<参加することが断酒に役立つことはわかるので繋がっているが、例会(ミーティング)の前後のおしゃべりの時間は苦痛。どう振舞えば良いか困ってしまう。コロナ禍で対面からオンラインに自助グループが切り替わったのを嘆く仲間も多いが、自分にとっては、前後のおしゃべりの時間がなくなったので楽になった>(複数の人から伺った内容を合成しています)
  
 ASDの特性はあっても、診断基準を満たすほどではなく、依存症にならなければ、医療を必要とすることはなく、仕事上では特性を活かしていたりする人達です。
 断酒の目的はQOL(生活の質)を高めることですが、そのための行動がQOLを低める影響を与えている場合があるわけです。
 こういった方々への臨床能力を高めるためにも、ASD(自閉スペクトラム症)について、当事者と臨床家の両方の視点からもっと知りたいと考えていて本書に巡りあいました。

 本書の特徴は、ASD(自閉スペクトラム症)より広い概念であるAS(自閉スペクトラム)について書かれていることです。
 Disorder(障害)になっていないと研究対象になりにくいのですが、当事者にとっては悩みのタネだったりもしますし、精神障害のリスクを上げる背景にもなりえますから、メンタルヘルス、セルフケアの観点でのニーズは大きなものがある領域だと思います。

 本書の<はじめに>には以下の記載があります。
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 2000年代に入ってから、「自閉」をめぐっては大きく2つの視点から意識の変革が促されてきている。1つはスペクトラムの視点であり、もう1つは「ニューロダイバーシティ / ニューロトライブ」という視点である。これらは表裏一体をなしながら、着実に広がってきた。
 その結果として、「自閉」の特性を有しながらも、それを疾患と見るのではなく、多様なヒトの変異のあり方というニュートラルな捉え方で見る人たちが、いま加速度的に増えている。
 そこで本書では「自閉スペクトラム症(ASD)」ではなく、「自閉スペクトラム(AS)」をキーワードとすることにした。ASDと異なり、ASは診断概念ではなく明確な定義や基準があるわけではないので、著者によって用法にばらつきがあることはお許し願いたい。
 ただ、医学的な疾患概念ではなくヒトの認知や思考のあり方としての自閉スペクトラムに思いをはせながら、それに魅了され、かつ社会的な困難さに心を痛める気持ちを文章に込めていただけたのではないかと思う。
 今、課題となるのは、ASというニューロトライブに特有なメンタルヘルス学の構築なのではないだろうか。生活の様々な場面で困難を感じている当事者と、それを解決する方略を求めて試行錯誤する臨床家にとって、切実な問題である。これまで「定型発達」(この言葉自体、いまや怪しいかもしれないが)の視点のみで作られてきた精神医学を、AS的視点から構築し直す必要があると筆者は考えている。それは刺激的であり、ASに関心を寄せる研究者にとって究極の目標と言えるのではないだろうか。
----(太字部分は私の判断による)
 
 本書の巻末には監修者と分担執筆者が参加した座談会が載っており、皆さん、ASであることを開示しており、臨床家としてだけでなく、当事者としても目標としていることに多いに共感しました。
 というのも、私自身もASの特性があるからです。
 特性のために悩んだことも多々ありますが、強みとして活かして精神科医をやれている部分もあります。依存症臨床に携わるようになり、しばらくして、「この患者さん達は、どうも自分と似た香りがする人が少なくない」と感じるようになりました。当時は、その理由がわからなかったのですが、今は、患者さんにAS特性を持った人が少なからずいるからだとわかります。この感覚がなければ、20年も依存症臨床を続けることはできなかったのではと思います。
 ちはみに、ASの人の代表的な趣味といえば鉄オタですが、私も子ども時代から乗り物の中では鉄道が一番好きです。本noteにも端々に写真を載せています。
 こんな記事を書いたこともあります。時間のある方は御笑覧ください。
【コラム】いすみ鉄道~「ローカル線療法」の旅~(1)
【コラム】いすみ鉄道~「ローカル線療法」の旅~(2)
【コラム】いすみ鉄道~「ローカル線療法」の旅~(3)
いすみ鉄道の名物社長が退任 廃線寸前から人気路線へ
 
 ちなみに、記事で取り上げたキハ28は11月27日で定期運行を終えると告知されています。