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結局コミュニケーションなんですよね。「振付稼業air:man」の杉谷一隆さんが考える、ダンスと人の関係。【よなよなビアファンド】

笑顔を生み出す多様性人材“よなよな人(びと)”へビールで投資するプログラム「よなよなビアファンド」。様々な分野で活躍する人をよなよなエールで支援するこの取り組みのキャッチコピーは「出る杭に心打たれる」です。

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よなよなエール/ヤッホーブルーイングのよなよなビアファンド公式アカウントです🍺知性と偏愛を持った愛すべき変わり者(=よなよな人)をビア投資で応援しています。よなよな人との活動や、ビアファンドプロジェクトの様子などを発信。
「出る杭に心打たれる。」愛すべき変わり者であふれた世界をつくりたい。

...そう、よなよな人の共通項は心を奪われるほどに突出していること。自分の興味を探求する「知性」と、それに情熱を傾ける「偏愛」とを併せ持つ、愛すべき変わり者です。

「振付稼業air:man」の杉谷一隆さんもまた「よなよなビアファンド」が敬愛してやまない、よなよな人のひとり。テレビコマーシャル(CM)、ミュージックビデオ(MV)、アーティストのライブツアーなど、年間で1000作品もの振り付けを世の中に送り出す振り付けユニット「振付稼業air:man」を牽引する杉谷さん。世界的な広告アワード「カンヌ国際広告祭」でグランプリを受賞したユニクロのCM「UNIQLOCK」(2007年)も、映画館で流れるマナー広告「映画泥棒」も、そしてあのプリキュアまで振り付けてしまうという幅の広さ…。今回はさまざまな振り付けが生まれたスタジオにお邪魔して、杉谷さんにお話をお聞きしてきました。振付師という職業を確立させるため、とめどないクリエイションを放出し続ける杉谷さんの「知性」と「偏愛」の仕組みを探す旅へ、さっそく出かけてみましょう!

<聞き手=ライス、ヤッホーブルーイング・よなよなビアファンドスタッフ> 

[写真左] 杉谷一隆さん、[写真右] 菊口真由美さん

【プロフィール】杉谷一隆(すぎたに・かずたか)さん
「振付稼業air:man」主宰。
1972年、京都生まれ(福岡県育ち)。立命館大学在学中から演劇を始め、卒業後は東京でイベントのオーガナイズや演劇集団の主宰などを経て、2004年に菊口真由美と「振付稼業air:man」を結成。CM・MV・TV番組・アニメ・映画・舞台・イベント・ワークショップなど様々なジャンルで活躍。2015年にOK Goの『I Won’t Let You Down』で手掛けた振り付けが「MTV VMA 2015」でBEST CHOREOGRAPHY賞を受賞、日本人初の世界一の振付師となる。 2014年にはDVD付きダンスの教科書「振付稼業air:manの踊る教科書」を出版。

振付師という職業を開拓。

▼とにかく猛烈な数のお仕事をこなされていますが「振付稼業air:man」の現在地点を教えてください

結論から言うと「その日の案件に明確に答えること」。それが常にずーっと続いているというのが現在地です。CMやMV、ライブなどの撮影は毎月平均で20案件、それに対して5パターンぐらいの振り付け案を出すので、年間で1,000パターンの振り付けを考えています。だから、今まで合計で20,000パターンの振り付けをつくってきた計算になるのかな。振付師は英語ではコレオグラファー(choreographer)と呼ばれていて、職業としても確立しているんですが、日本ではまだ途上にあるんですよ。たとえば、振付師って「のれん分け」のシステムがない。でも、スタイリストさんやヘアメイクさんみたいに「アシスタントを経て独立します」っていう“規定の道”が一切ない職業なので、裾野が広がっていかないんですよね。振付師だけで稼いでいる人はまだ国内には10人ぐらいしかいないんです。そんなことがあるので、振付師という職業を世の中で確立することが最大の希望です。ひとつの職業として振付師に興味を持つ人が増えてくれるといいな。

ダンサーと振付師。

でも、いっぽうでダンスが確立しないままダンサー人口が増えていることに危機感は感じたんです。2008年にはダンスが中学校の保健体育で必修科目になった。そもそも学校教育の中のダンスって何? ダンスって必修っていわれてやるようなものでもないし、むしろ、好きだからやる、友達と踊って楽しいからやる、そういうレベルから始めるものであって。あくまでもダンスは楽しいものだというイメージを伝えるためにも教科書的なテキストがあったほうがいい。踊りは楽しむものだし、教育のツールとしても本物が必要だ。ということで、書籍を出版することになった。それが「振付稼業air:manの踊る教科書」です。今のうちにダンサーではなく振付師という職業を確立しておかないと、10年後には「ダンサーってあまり意味ないな」みたいに思われちゃう可能性だってある。これはまずいぞと。

振付師ってどんな職業?

▼そもそも振付師ってどんな職業なのですか?

振付師って“踊らせる”のが仕事なんです。一見すると同じことのように見えますが「踊る」ことと「踊らせる」ことは明確に違うんです。たとえばダンサーと振付師、これは本当に真逆。やっていることが圧倒的に違います。ダンサーは踊る人。つまり表現する人。踊って表現をしなければならないというパッケージがあるんです。だからダンサーが誰かに振り付けをすると、自分の表現を相手にコピーさせる可能性を内包してしまいます。それに対して振付師は踊らせる人。表現させる人。演者にどうすれば踊ってもらえるのか? この人がどう踊れば目的が達成されてみんながハッピーになれるのか? その方法論を考えていくのが振付師。

▼まずは「考える」ところから振り付けを始めるという点が面白いと感じました。「問い」と「身体」はどのようにつながっているのでしょうか? 具体例を交えて教えてください!

身体を動かすことから振り付けを始めてしまうと、自分の身体の動き以上の動きは提案できないじゃないですか。そうすると新しい発見もない。自分の体の得意な動きを人に写すという単純な作業になるんですよね。

まずは「問い」からスタートする。

CMの振り付けの場合は、クライアントさんがいてタレントさんがいる。そして制作チームが掲げたテーマがある。仮に「かわいい」というテーマで製作するCMがあったとしますよね。で「かわいい」を売りにしているタレントさんが起用されていたとする。それを受けて「かわいい」という振り付けについてどう思う? という問いからスタートするんです。自分は今年50歳になるんだけど、最年少のメンバーは14歳。全員でディスカッションすると、50歳の自分が「かわいい」と思った振り付けは、14歳にとっては全然「かわいい」からかけ離れていたりするんです。なので、複数の「かわいい」をたくさんアイデアとして出して、じゃぁ今回の案件にとっての「かわいい」はどの「かわいい」だろうね? という感じで下準備をするんです。そうじゃなくて、いきなり身体を動かして「かわいい」を表現し始めてしまうと、それはもう「自分のかわいい」でしかないんです。

振り付けでコミュニケーションする。

人間の関節の可動範囲は決まっているので「あるところまで」しかできない。自分の表現をやっても自分の可動範囲の中でしか表現できないんです。だからこそ、考えることが必要なんですよね。CMであれば全体のプランや監督の演出意図を踏まえて、そのときのテーマや題材に合わせて、いちばんかわいい振り付け、いちばん嬉しそうな振り付け、いちばん楽しそうな振り付け、いちばん怒っていそうな振り付け…というように問うことから始める。そして演者には「あなたにこういう踊りしてもらうことによって、このCMのメッセージを初めて伝えることができる。これはそのための振付なんだ」っていうことを、決して怠らずに伝えます。

数学脳でつくり、文系的にアウトプットする。

振り付けって完璧に数学脳を使う仕事。みなさん「表現=文系」と思われていると感じることが多いんですが、振り付けは基本的に数学で、アウトプットを文系にもっていくというタイプの表現。その塩梅というのがパズル解きのようで楽しいんです。CMの場合は、商品カットが入って、タレントさんのアップが入る。踊りを見せられるのは実際は数秒という世界。15秒CMだと、振り付けが活躍できるのはだいたいマックスで8秒なんです。その秒数にどんな動きがハマるのか? しかも1秒とかそれ以下の尺でカットチェンジする可能性もあるので、そのつなぎがしっかりとできていて、なおかつコンセプトに合う振り付けができるかどうか? そこがポイントになります。だからパズルなんです。CMの場合は商品が売れることでしか評価されないと思うんですよね。だから、振り付けが好評でも悪評でも、その振り付けがめちゃくちゃ話題になることがクライアントさんにとっての喜びだと理解しています。商品力やタレントさんのパワーに並んで、もしかしたら振り付けもその役に立っているのかな?と思えれば嬉しいんです。

言葉とダンス。

▼人とダンスの関係についてどのようにお考えですか?

NHKのドキュメンタリーで西アフリカのセネガルに行ったことがあるんですよ。なんでもヒップホップの源流がセネガルにあるという一説があるんだそうで「人はなぜ踊るのか?」を探しにいったというわけです。西アフリカにはグリオと呼ばれる伝達者集団がいて、太鼓をはじめとした楽器を扱いながら、遠隔地の情報とか、歴史上の英雄譚とか、各家の系譜、生活の教訓なんかをメロディーに乗せて人々に伝えるんです。少数民族の集まりみたいな国だから、クルマで2時間ほど離れた場所に行こうものなら、僕らの間に4人ぐらい通訳を入れないと言葉が通じない、なんてこともあった。だからこそ、言葉ではなくて、音、歌、ダンスでコミュニケーションしてきたのではないか? と思ったりしました。で、そのグリオのリーダーみたいな人に直接訊いたんです「人はなんで踊るんでしょう?」と。そうしたらものすごく普通に「え?おまえはなんで踊らないの?」と訊き返されました(笑) で「日本では誰かが亡くなると歌って踊るという風習を持つ地域もありますが、こちらではどうですか?」と訊けば「悲しいときは泣くだけだよ」と。嬉しい、楽しい、一緒にいたい。だから踊るんだ。と。……そういうことだよなぁと。

ダンスを嫌いにならないコツ。

盆踊りってみんなやるでしょう? 自分は福岡で育ったから黒田節も炭坑節も馴染み深いんですが、曲に合わせた振り付けが必ずあるんですよね。たとえば炭坑節なんかは、月が出たのを見上げたり、トロッコを押したり、というパントマイム。それでいいと思うんです。言葉を体の動きで置き換えるだけ。西アフリカの人たちと同じで、何かコミュニケーションが必要なときに、言葉と同じぐらいに踊りがある。で、ダンスを難しく考えたり、ダンスに対して苦手意識がある人にとっては、踊りは言葉と同じコミュニケーションの道具だと考えると、激烈ハードルが低くくなるんです。うまく踊ろうとか恥ずかしいとか考えたらダメ。コミュニケーションツールのひとつでしかない。言葉で置き換えるというのが、ダンスを嫌いにならないひとつのきっかけかもしれません。

(最後に)お酒とダンス♥

▼踊ることとお酒も古代文明の頃から近しいところにあるような気がします。それについてはどのようにお考えですか?

言葉とダンスとの関係とは少し違う気もしますが、ともにコミュニケーションツールですよね。踊っててお酒飲む。飲んでて気持ちよくなって踊る。結局、人と人とのコミュニケーションであるというのが軸なんだと思います。踊りが先か、お酒が先か、…いや人とコミュニケーションしたいというのが先にあるんじゃないのかな?

ダンスは思ったよりハードルが低い

自分の感情や言葉を身体で表現するのが得意な人や当たり前のように身体が動く人がいるいっぽうで、踊りが苦手で生きるという過程で踊るということをしてこなかった人もいます。踊るということに対する距離には世代差や個人差があるのはどうしてだろう? そんな疑問に対して、人間なら誰しも持っている「誰かとコミュニケーションしたい」という欲求とダンスをシンプルにつないでくれた杉谷さん。振付師という職業は、人と人とがコミュニケーションする方法を振り付けによって伝えるという役割を担っているのかもしれません。

「よなよなビアファンド」では、これからも新しい“よなよな人”の発掘や、“よなよな人”への支援を行っていきます。これからの「よなよなビアファンド」も、お楽しみに!

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よなよなエール/ヤッホーブルーイングのよなよなビアファンド公式アカウントです🍺知性と偏愛を持った愛すべき変わり者(=よなよな人)をビア投資で応援しています。よなよな人との活動や、ビアファンドプロジェクトの様子などを発信。
「出る杭に心打たれる。」愛すべき変わり者であふれた世界をつくりたい。

(おわり)

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