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【日常系ライトノベル #4】同僚から恋人へ

※PCで表示したときに読みやすいように改行されています(スマホの方は読みづらくてすみません)

受話器の奥からかぼそい声で聞こえる声
 

「だ・か・ら・ さあ...、好きになったんだよ」
 

純平は小さく、ゆっくりとした照れくさそうな声に喜んだ
 

すぐには理解できないフリをするいじらしさを憎まれそうだけど、
純平の肯定的な返事はもっと先にしようと思っている
 

「えっ、でも由香が出張に行っている間だけの約束でしょ。
だって、その間だけが恋人同士。そう言ってきたのは由香の方だよ...」

 
二人は携帯電話を耳に当てたまま、
自分の心拍のみが動的で残り全てが静的な”沈黙”が流れる
 

こういうときの時間はすごく長く感じる
 

次の言葉は見つかっているのにタイミングだけが見つからない
もどかしい・・・
 
由香の方が先に我慢できなくった様子で
「だからさ~、最初はそのつもりだったんだけど...。
 
毎日、メールとか電話で話しているうちに
何だか本当に好きになってしまったんだよ。」とつぶやく


純平は素直に嬉しい。
けれど、その喜びをストレートに表現することには後ろ向きな自分がいる
 

携帯を持った右手にはどれだけの力が入っていたのだろう...
 
肩から先がものすごく重たく、とても痛い
 
長電話した後のあの痛さと同じ
 

純平は女性に「好き」と言わせてしまったという罪悪感を感じながらも
自分の気持ちをようやく伝えることが出来そうだ
 

「実は・・・、毎日が楽しくて、
そして楽しみで由香と付き合えたらいいなと思ってたんだ

 
でも、出張前の前日の電話で一度は振られているからね(笑)
 
だから、由香の出張中に自分の思いを抑えきれずに
やっぱり好きだなんて言えない

 
そんなことをしたら、楽しい毎日が崩れ終わりそうで・・・、
 

何だか怖くて、その思いを隠して「約束した、恋人同士のごっこ」を
するのが精一杯だったよ。」
 

辛かった気持ち、嬉しい気持ち、
そして素直な気持ちがどんどんと上書きされていく
 

決して用意した台詞ではない、愚直な気持ちだったのかもしれない
 

どちらかの気持ちが一方通行のときって、とても苦しい
 

その中にもどこかに期待しているところもあって・・・
 
1日がもの凄い早さで過ぎていく・・・

 
諦めようって自分に言い聞かせて楽になったり、
タイミングや言葉を選ばずにストレート過ぎる気持ちをぶつけたり・・・

 
もし二人がうまくいくとすれば、その呼吸が何処かで見出せるときかもしれない
 

純平はそう感じながら、木製の暖かみのある部屋の扉を開けると
コーヒーを買いに自販機に向かっていた
 

夜遅い時間にぱらぱらと降る小雨
 

その一滴一滴が上着に張り付いてくる、急いで戻ろう


いつもよりも軽やかなステップで蹴飛ばされた砂利たちから一言
 

「おめでとう」


ようやく始まった遠距離恋愛
 

このあと二人はどうなるのだろうか・・・

【終わり】

ありがとうございます。気持ちだけを頂いておきます。