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【日常系ライトノベル #5】奇妙なゴーストライター

※PCで表示したときに読みやすいように改行されています(スマホの方は読みづらくてすみません)

AKB48のことなんてこれっぽちも興味がない自分にとって
読みたくなるような記事だった

“東京都現代美術館×小栗有以”
美術館をもっと身近に感じとってもらおうという狙いが
思わぬところで専門家からご意見頂戴しましたといったところだ
 
要は女性をそういう価値として扱うことが敏感に反応されたのだ
それにしてもジャンダーレス社会がうたわれたのは結構前のような気がする
 

あっ、自己紹介が遅れました

手越がボクの苗字
名前はここでは明かせない
 

数年間の現場勤務を終え、ようやく本社勤務となって
どんな仕事なのかワクワクしたのにほんの少しだけガッカリした
 

「手越くん、今日から本社勤務だね。現場の人から色々聞かれると思うけど
 情報を安易に落とさないように気をつけてくれよ。」


「はい。宜しくお願い致します!」

「まずは社長のところに挨拶へ行った方がいい。
 社長室はわかるかな?」

「あっ、いえ…わかりません。」

「それはそうだよな。社長室なんて滅多に入れるところじゃないからね。」
そういうと人事部長は自分をドアの前まで案内してくれた
 
社長と顔を合わせるなんて緊張してしまいそうで、
連れていかれる途中の景色は何も思い出せなかった
ただ、階段の踊り場で話をしている声だけは聞き取れた
 
「新しいお店のコンセプトはブランディングが重要なんだよ。
わかる?
社長の想いがそこにつまっててそれを上手く伝えるのが
広報の・・・(あとは聞こえなくなった)」
 

現場から来た手越にとって同じ会社とも思えないほど
カルチャーショックを受けていた


人事部長はドアの前まで案内すると、後は自分で挨拶してねという
素振りを見せるといつの間にか姿が見えなくなってしまった

社長室のドアに前に一人だけ立っているのも何だか恥ずかしくなって
隠れたい一心でまるで聞き耳を立てるかのようにドアへ身体を寄せた


心の中でこうつぶやく
(最初の一言は何て言う?あー、もういいや、
 とにかく中に入ってしまってから考えよう)


「トン・トン・トン」


「はい、どうぞ」
甲高い声にもかかわらず、何だか癒されるような優しい声が返ってきた


「失礼致します!」と元気よく言って、開けたドアに吸い込まれるように
中へ入り込んだ


「本日から本社勤務となりました手越と申します。宜しくお願い致します!」
言葉を発しながら深々と頭を下げたため、その時の社長の様子を見ることは
出来なかった


心の中でまたつぶやいた
(しまったあ。最初からやらかしてしまった…。挨拶した後にお辞儀を
 するはずだったのに)


・・・


自分のデスクに戻ったのも束の間、すぐに社長に呼び出された


「手越さんは文章を書いたりするのは得意なほう?」


優しそうな社長の顔がこちらを覗いてニコっと微笑んでいる 


「得意ではありませんが、書くのは好きです」
 そう答えた


「あのね、毎月社内報が発行されているのは知っているよね?」


「はい、存知あげております」

社長がフレンドリーに聞いてくるのに対して、
自分自身がカチコチになって答えている、その違いが恥ずかしかった


「社内報に社長メッセージという枠があってね、
 毎月そこを考えて欲しいの。」


社内報の社長メッセージといえば、現場にいるときも読んでいたし、
社長の想いを知ることが出来ていいなと思っていた枠だ


またまた心の中で一人会話をする
(うん?あれって誰かが社長の言葉を書き下ろしてるのではないんだ)


「社長メッセージなんだけど、忙しくてなかなか書けないの。
だから、たたきを書いてもらってそれを添削してるのよ」


「承知いたしました。過去のメッセージを
 わたくしなりにもう一度読み返して参考に致します」


こうして手越は本社勤務の業務の1つとして社長の想いを
伝えるゴーストライターを兼ねることになった
 

それは希望ではなかったものの、忙しい社長を支えることが
出来るという喜びであった
 

実は自分自身のことは分かっているようで分かっていないことが多い

自己分析というのが苦手な人は多いはずだ

そもそも自己分析するときには気づかないことを周りから
気づかされることだって多い


手越はまだゴーストライターとして何もアウトプットを出していない
それよりも支えることが好きという性格が合っているように気づかされた


こうして社長の目線で書くためのネタを探すようになったのだが、
1つだけ奇妙なゴーストライターとなる


それは…


社長が女性ということだ


ジェンダーレスとはいえ、
特に頭の中や心の中まで男女の区別がない世界になりそうな予感だ

ありがとうございます。気持ちだけを頂いておきます。