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「誇りを預けてくれてありがとう。」4年目のデニムブランドが老舗工場にいま伝えたい感謝の思い

「ナイロンデニムを開発しました!」

EVERY DENIM創業当初からお世話になっている岡山・児島のテキスタイルメーカー「ショーワ」さんからそんな話を聞いたのは、昨年のことでした。

「ナイロンデニム?なにそれ、デニムってナイロンでつくれるの?」

それが僕の最初のリアクション。

デニム生地をつくるうえで用いるインディゴ染料は、ナイロンのような合成繊維には固着しないのが常識。もちろんこれまでも僕自身一度も目にしたことがありませんでした。

「いやー商業化できるまでに3年かかりました。今回の開発は特許もとったんです。」

新しい素材を生み出したことへの誇らしさから、いつも会う以上に熱意を持ってナイロンデニムのすごさを語ってくれるショーワさん。

やっぱりこの企業にはものづくりの血が流れているんだなあと嬉しく聞いていた僕はとても素朴な質問をしました。

「早くそのナイロンデニムを見てみたいです。で、どういうふうにこの生地を広めていくつもりなんでしょう」

「それが、つくることに一生懸命になりすぎて、、、」

「えっ、、、」

思わず戸惑いました。


正直な話、いまの繊維産業の現状で、工場がいちから新しい素材を開発するのは、資金的にも時間的にも並大抵のことじゃない。一部の大企業メーカーじゃない限りそんな体力は持ち合わせていません。

工場がこれからも経営を続けていくためには、すでに世の中で評価され売れ続けているものを、これからも淡々と作り続けていくこと。もしくはアパレル企業に買い取ってもらえる前提で委託された生地を開発すること。

それが本当に妥当な手段です。

だから僕もてっきり、ナイロンデニムも売り先が決まっていて、どこかのアパレル企業が専用で使うのだろうなと、そう思っていたんです。

「なんでナイロンデニムなんて開発しようと思ったんですか?」

「いやあ意地ですね、意地。やっぱり我々はテキスタイルメーカーとして他にないものをつくっていかないと」

意地!

予想を裏切る答えに素直に驚いたとともに、何かこれまでには感じたことのないような不思議な興奮に包まれたのです。

これだけ新しいものをつくるのが難しい環境にあって、ギリギリの体力を使ってでもまだ世にない、しかも売れるかもわからない素材を生み出そうとしているショーワの姿勢に心が惹かれました。

そしてもっと嬉しかったのは、何よりこんなタイミングで僕らEVERY DENIMに声をかけてくれたこと。テキスタイルメーカーとして挑戦心を持って素材をつくった、同じように、これを服にして届ける挑戦をしてほしい。

そんなふうに言われているような気がして、とても心が踊ったのです。


思い返せばEVERY DENIMが初めて製品を企画したのは2015年9月のこと。クラウドファンディングでブランド立ち上げも含めたリリースとして僕らはスタートしました。

そのときつくった1stモデルは「 Bengala」。工場の職人さんが地元岡山への想いを込めて考えた「ベンガラ染め」という技術をぜひ製品化したいと思い、お願いしてつくっていただきました。

以来、2ndモデルから現在に至るまで、EVERY DENIMの製品企画は一貫して「現地に足を運び、想いある素材や技術を見つけること」から始まっています。

どの製品にも軸となる素材や技術があって、さらにその後ろにはつくり手の想いがある。僕たちが僕たちの目線で僕たちなりに良いと思う原石を見つけ、デニムという形にしてきたつもりです。

だから今回このように、工場の方から新素材開発の報告を受け、使ってもらえないかと提案いただいたのは本当に本当に本当に嬉しかった。

4年目を迎える僕らのこれまで。EVERY DENIMを続ける中で、工場の方々との関係性が少しずつ深まり、このような話をいただけたのだと思っています。

デニムを届け続けてきてよかった。今回の出来事をきっかけに、心からそう実感できました。


さっそくショーワさんでナイロンデニムを見せてもらいました。文字通りこれまでに見たことのないキレイな風合い。特性としての速乾、軽量性。

「今すぐにでもこの素材で製品をつくりたい」

そんな気持ちとともに、改めて片山会長・副会長へお話を伺い、ショーワの歴史とものづくりの姿勢、これからの在り方について学びました。


副会長はおっしゃいました。「これまでになかったものをつくって、褒められるのが一番嬉しい」と。

会長はおっしゃいました。「技術的な価値より、文化的な価値を。つくるとともに、次世代に引き継いでいかないといけない」と。

片山会長はショーワの4代目。これまでずっと引き継がれてきた瀬戸内・児島の繊維産業は、形を変えつつも、いまこうして残っている。

想いを想いのまま継いでいくのは難しいけれど、ありがたいことに僕たちにはデニムという形がある。ナイロンデニムは一つの象徴として、いち瀬戸内繊維産地のテキスタイルメーカーの誇りとして存在する。


この新素材を使用したEVERY DENIMの新製品に、僕らは「Pride(プライド)」という名前をつけました。

いまの繊維産業で、プライドを原動力にものづくりできる企業の存在がどれだけ貴重か。

心の底から広めたいと思っているものを持っていることがどれだけ大切か。

創業78年。新素材を生み出し続けてきたショーワが新たに生み出すナイロンデニムに、僕は紛れもないものづくりへのプライドを感じました。

まずは、ショーワのプライドに対するリスペクトの想いを込めて。

そして、そんなプライドを僕らに託してくれた感謝の想いを込めて。

EVERY DENIMは「Pride」という製品を通じて、ショーワの想いを届けていくつもりです。


この場を借りて、ショーワのみなさんにお伝えしたいこと。

大切なプライドを預けてくれて、本当にありがとうございます。

改めてこれまで続けてきて良かったという思いと、自分たちがこれからもっともっとやっていくんだという気が引き締まりました。


ここからは僕らの番。

そういった気持ちで今日を迎えました。

このプライドを少しでも繋いでいくために今回のデニムシャツはあります。 

「Pride」を通じて、身につける人それぞれにとっての誇りを考えてもらうきっかけになれば、デニムブランドとしてそれ以上の喜びはありません。


All Photo by Kenta Kaneda