0から1を生み出せないなら
私はピアノを弾くことを生業としている。
まずは当たり前に気をつけていることは、原曲の雰囲気を壊さないようにすること。
遡ると、私は3歳くらいからピアノを習っていたのだが、とにかく先生から楽譜どおりに弾くことを徹底された。その理由はずっとわからなかった。
それなりにいろいろな曲を弾けるようになると、
「ここは段々ゆっくりしていって寂しさを現したいなぁ」とか、
「ここはちょっとクレッシェンドして盛り上げちゃおう」とか、楽譜に書いていないことをやりたい欲が出てくる。
先生に猛烈に怒られた。
「楽譜どおりに弾きなさい!!!!」
「そこの音が違う!!!」(これはちょっと恥ずかしい)
「どこにritが書いてあるの!!!!」
ずっと楽しくなかった。
しかし楽典を習ったり、弾いてみたい曲に出会った時、(私はリストのハンガリー狂詩曲第2番だったのだけど)一つ一つの音が計算されて書かれていることに気付いた。
そして完成されたこの美しい曲を、自分が勝手に加工することは許されないと気付いたのだった。
最近、趣味で楽器をやっている人に「それってなんで?書いてあることをそのままバカみたいに弾くなんて楽しくなさそう…」と言われた。
違う。絶対違う。今はわかる。
0から1を作り出すことができないなら、確実に後世に繋いでいかなければいけない。
物を生み出すことに憧れたけど自分にはできないのだと、その歯痒さに向き合った人にしか想像もできないし、わからないのだと思った。
楽しくなさそうだねという評価でも良い。
人の褌で相撲をとる側にはならないよ。
せめて私は誰かが苦しんで生み出した曲に、誠実に向き合いたい。
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