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「ベンチャーでバリバリ働きたいです」から1年経ったけど

「大手は考えてないですね。20代のうちはがむしゃらに働いて成長したいので、ベンチャーの方が自分には合っていると思います。」

あの日、僕は確かにそう言った。

就活中の僕は、「ベンチャーで働く社会人」は仕事熱心で、毎日時間を忘れて仕事にのめり込んでしまうような、そんなワークアズライフな人間だと思っていた。

けれど実際の僕は、終わらないタスクに毎日追われ、休日も頭の中は仕事のことでいっぱいで休んだ気にならず、束の間のアルコール摂取で何とか我を保てている、そんな有様だった。


裁量権を持って働きたい。

若手のうちから責任ある仕事を任せてもらいたい。

経営陣と近い距離で仕事をしたい。


あぁ、すごい。全部実現してる。

大手に就職した同期と比べたら自由な環境だし、責任のある仕事も任せてもらってる。社長とだって気軽に喋れる。

これが、ベンチャーでバリバリ働くってことなのかもしれない、そう思えるくらいには、確かにバリバリ働いていると思う。


自分が本当に欲しかったものって、これだったっけ。

休日もカフェでパソコンを広げて仕事をしたり、同期と久しぶりに会ったときにドヤ顔で近況報告したり、周りと違う人生を歩む自分に酔い痴れてみたりとか。

もしそうだとしたら、あまりにもコスパが悪すぎる。

休日はちゃんと頭の中をシャットダウンしたいし、同期と会ってドヤ顔できるのなんて最初だけで、ボーナスの金額を聞いたら惨めな気持ちになるし、周りと違う人生ってハードモードだし。何なら、今は「安定」が恋しいまである。

だいたい、「人と違うこと」なんてできやしない。

そもそもベンチャーで働く人なんて世の中たくさんいるし、表面的に見たらオンリーワンの人生なんて存在しない。周りと同じように生きていくことがどれだけ楽か、安定しているか十分思い知った。

「どうコミットするの?」

「今のままだとKPIに届かなくない?」

「急なんだけど、明日までにフィックスしてくれない?」

何かもう、こういうのが疲れた。

若手のうちは上司の言われたことをマニュアル通りこなして、それで評価される、そんな世界があるなら羨ましい。

就活中の僕は、思考停止状態で仕事するなんてあり得ない、そんなん自分が腐ってしまう、会社の奴隷はごめんだと思っていたけれど、そっちの方がよっぽど楽な気がする。

というか、どれだけ思考したって今の自分の意見なんて到底通るわけがなくて、思考が浅いことを思い知る日々だし、事業がどうとかKPIがどうとか今の僕には全然イメージできない。結局上司の言われるがままに仕事をしている、これってかつて僕が忌み嫌っていたことじゃないか。

なんだ、ベンチャーで働く選択をしたのに、蓋を開けてみたら、大手で働こうがベンチャーで働こうがあまり変わらないのかもしれない。何という皮肉。

がむしゃらに働いていれば、道は拓けると思っていた。

ベンチャーという変化の激しい環境で耐え抜き、並大抵のことでは動じないマインドが身に付いて、周りよりも早いスピードでスキルも身につけられて、いざ転職をしようと思った時には自分の市場価値は高く、選択肢がたくさんあって。

残念ながら、そんなビジョンは見えていないし、今の僕は、明日のミーティングのことしか考えられないくらい目の前のことで精一杯だ。

そういえば、サイクリングとゲームが趣味だったっけか。

目的もなくどこかへふらっと行く気力も、モンスターを狩って発散する気力も、気づけばなくなっていた。

あれ、もしかして自分って今何も充実してないんじゃないか。

仕事はがむしゃらにやっているけれど手応えがないし、趣味にも没頭できてないし、彼女との関係もマンネリ化している。

全部中途半端になるくらいなら、趣味や人間関係、せめて休日だけでも充実していた方がマシだったよなぁ、なんて思うことも増えた。

働き始めた当初は、SNSはインプットと発信の場だったのに、1年経った今では弱さを見せるだけの場へと変わってしまった。心なしか、1年前と比べて語尾に「...」を使うことが増えた気がする。

このままで良いのかな?と思うけど、向き合う時間も、考える余裕も正直ない。

あーあ、逃げ出す理由なんて挙げたらキリがないほどたくさんあるのに、"逃げ出したい"理由がないんだよな。

どれだけ、先輩や上司との差を思い知ったり、うまくいかないことが続いたり、自分って本当クソだなと思っても、成功の喜びをチームで分かち合えたり、文化祭前夜みたいな空気感とか、自分にはまだよく分からないけど自分たちのサービスが徐々に社会に認められつつある感覚とか、みんなで一喜一憂できる感じとか、そういうのが好きだし、もっと知りたいし感じてみたいんだよな。

365日中350日くらいは晴れない気分だし、自分の無力さとか、貢献できてない辛さとか、早く追いつきたい焦りでいっぱいなんだけど、思わずそれらをチャラにしてしまうような、大きな体験があるのが醍醐味なんだよな。

すがりつきたいだけかもしれないし、未熟な自分を受け容れられていないだけなのかもしれない。

それで言うと、この1年間で得たものといえば、強いて挙げるなら「諦めの悪さ」だと思う。

諦めの悪い自分は、案外嫌いじゃない。


待ってろよ、もう1年後の自分。


※本作品はフィクションです

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