砂時計【短編】
砂時計
静かな午後、陽の光が窓辺に差し込み、部屋全体をやわらかな光で包んでいた。
リビングの中央にある古びた木製のテーブルに、砂時計が一つ、ぽつんと置かれていた。砂時計は、まるで何世代にもわたって時を見守ってきたかのような、風格を漂わせていた。
その砂時計は、祖母から母へ、そして母から娘へと受け継がれてきた家宝だった。現在の持ち主はミユキという女性。彼女は幼い頃からこの砂時計を見て育ち、時間というものの意味を考えるようになっていた。
ある日、ミユキはいつものように砂時計を手に取り、砂が静かに流れる様子を眺めていた。
しかし、その日はいつもと違っていた。
砂が落ちるたびに、彼女の心の中で何かが変わっていくのを感じた。次第に彼女は砂の一粒一粒が、まるで人生の瞬間を表しているかのように思えるようになった。
ミユキは幼い頃から、この砂時計が家族の歴史を見守ってきたと信じていた。そして今、砂時計は何かを伝えようとしている。そう彼女は感じていた。砂時計をじっと見つめながら、みゆきは祖母が語ってくれた古い言い伝えを思い出した。
「この砂時計は、時を超える力を持っていると言われているのよ。」
と祖母はいつも言っていた。
「もし心から願うことがあれば、この砂時計がその願いを叶えてくれるかもしれないわ。」
ミユキは心の中で静かに願いを込めた。
「時間が少しだけ戻せたら…。」
彼女には後悔していることがあった。母のこと。母は唐突に亡くなった。それ故に、ミユキは母に感謝を伝えることができなかった。
突然、砂時計が不思議な光を放ち始めた。ミユキは驚き、手から落としそうになった砂時計を慌てて握りしめた。光は部屋全体に広がり、彼女を包み込む。眩い光に、ミユキは思わず目をつむった。
うっすら目を開けると、そこは昔の家のリビングだった。母がまだ元気だった頃の家。ミユキは驚いてあたりを見回す。母が台所で夕食を作っている音が聞こえた。
「お母さん…」
涙が溢れそうになるのを堪えながら、ミユキは母のもとへ駆け寄った。
「お母さん…!」
ミユキは叫び、母の腕に抱きついた。母は驚いた顔をしながらも、優しく彼女を抱きしめ返した。
「どうしたの?」
ミユキは涙を拭いながら、ただ一言、「ありがとう」と言った。
その一言にありったけの感謝と後悔を込めて。
母は何も言わず微笑み、彼女の髪を撫でた。まるで、全てを理解しているように。
その瞬間、砂時計が再び輝き始め、ミユキは現在の自分の部屋に戻っていた。彼女は手に砂時計を握りしめ、しばらくの間、涙をこぼしていた。
砂時計の中の砂は、まだ少し残っていた。
ミユキはそれを見つめながら、人生が有限であることを深く実感した。そして、今を大切に生きることを心に刻んだ。