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理想って?

私が生まれ育った街の風景には、常に富士山があった。朝起きて南向きの窓から空を眺めると、安定の富士山。富士山には色々な形の雲がかかることも、9月ごろになると頂上付近に雪の帽子を被り始めることも、息をするのと同じくらい普通のことだった。そしてずっしりした雲は、車みたいに人間が上に乗って遊べるものと信じていた幼い頃の私。今は大人になってしまった娘が幼い頃に読み聞かせた、「ぐりとぐらとくるりくら」の中で、皆が楽しそうに雲にのっている絵を見て、とても懐かしく思いました。

私の中にある最も古い記憶の一つは、富士山五合目が舞台。それは、私の夢がいとも簡単に壊された事件でもあります。
夏の終わり、家族でドライブがてら富士山五合目まで行くことになりました。富士山に近づくにつれ雲行きが怪しく霧が立ち込めはじめ、運転していた父が、
「きっと富士山に着く頃には、雲に覆われていて何も見えないだろう」みたいなことを言ったと思います。
昔からそうなんですが、私は、人の言ったことをなんでも自分に都合よく解釈する癖があり、この時も、富士山に雲がたくさんあるなら、雲の上に乗れるんだ!とワクワク感マックスでした。

実際、5号目の駐車場に着いた頃には、霧が立ち込めていて肌寒く、幼い弟は、車から出たくないとか言って泣いていました。私は、この霧の中のどこかに、わたあめのような雲があって、その上に乗れるものとばかり信じていたので、車から出て向こうに行ってみよう、と乗り気のない家族を急かし、ぶつぶつ文句を言う兄や、お母さんに抱っこせがむ弟など御構い無しで、とにかく登山口方面に向かいました。登山道と思われる(詳細は、子供だったんでよくわからない)凸凹した道を歩いても歩いても、霧しか見えないので、
「なんで、雲がないの?」
「この霧は、遠くから見ると雲に見えるんだよ。これが雲なんだよ」
と、大人になった私の目線から見ても、普通にまともなことを父が言いました。
「え、曇って、ふんわりしていて、上に乗って孫悟空みたいに飛べないの?」
と、私の本気の質問に
「それは、絵本やお話の世界だけのことなんだよ」
「。。。。。。。。。。。。。」
この瞬間、父のことが大嫌いになった私でした。
その後、登山道にて五合目と六号目を行き来する馬を見たのと、五合目のお土産屋さんでラーメンを食べ、溶岩の形をした、溶岩あめを買ったということまで鮮明に覚えています。多分、人生初めてと思われる、トラウマ的な傷心が感覚として体に刻まれることによって、それらの思い出もセットで覚えているのだろうと、勝手に分析しています。


さてさて、相変わらず長ーい前置き話ですが、今日は、理想という魔物について考えてみたいと思います。

理想って、、、霧みたいなもののようなものじゃないかな?(そのための前置きでした)目の前にあるんだけど、現実性に欠ける。

ああなりたい、これが欲しい、こうだといいな、

想像するときは、心ウキウキして力がもらえるけど、いつの間にか消えて無くなってしまう。瞬発力はあるんですよね。


しかしながら私たち人間には、肉体という物質が備わっています。その物質を継続的に動かすのには、瞬発力でなく持続力ってものが大事。残念ながら持続力ってつまんない地味なものなんで、なかなか注目を集めませんよね。


でも、よくよく考えてみるとね、私たちは生きていくために、栄養(食べ物)、雨風凌げる場所(住居)、そして裸では生活できませんので、季節や状況に合わせた衣類(衣)は、最低限確保しなければいけませんね。その最低限の必要なものを無理なく持ち続けることが、持続力。それを基礎として、そこから、少しづつ上乗せしていきます。食べ物をヘルシー志向にアップグレードしてみたり、住居関連にこだわりを加え、衣は、自己表現みたいな感じで、理想を使うことができれば、理想は、怪物化されません。

現在社会は、SNSでたくさんの情報に無限的にアクセスできてしまいます。平気で数時間、スマホやPCの画面を見続けることだってできちゃいますから、そうなると、自分の枠を超えた理想というものをどんどん作り上げちゃうことが可能になりますよね。これは、私たちに無意味な消費をさせる仕組みです。消費というのは、金銭的消費の他に、エネルギー消費も意味します。人々からエネルギーがなくなると、思考能力が低下していきます。そのような脳の状態を作ると、割と簡単に人にものを買わせたり、お金を使わせたりということができちゃうんですよね。よく、真夜中に訳のわからないものを、ネットでポチッと買っていた、ってことありませんか? 


私も常に心がけているのことですが、理想や願望に振り回されるのを防ぐためには、とても地味で、忍耐のいる作業かとは思うけど、まずは自分の生活の中でのお金と労力の流れを見極め、余力(最低限の支払い後の残高や、日々の自由になる時間、休日)がどのくらいあるのかを知ることで、その余裕をどんな理想に変換できるのか、じっくり考えて行動に変えること。この習慣が身につくと、自分の人生、しっかりコントロールしているなあ、と自己肯定感が強くなります。


もし、理想だけが先走りして、自己嫌悪に陥っていらっしゃる方がいるなら、まずは、ご自身に備わっているのもの(自由の利く体、気持ちを高めてくれる所有物、蛇口をひねったら出てくる水、スイッチ一つで暗がりが明るく照らされる)ってことを奇跡と思って、見つめ直してみたら、案外、ああ、満たされている。って感じるかもしれません。なんと言っても、隣の芝は、青々としていますから。

Sat Num


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