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ゴミの日

毎週月曜日と木曜日は「燃えるゴミの日」だ。

指定されたごみ袋には「当日の朝8時までに必ず出してください」と書いてあるが、うちの地域に限ってはそんな時間に回収しに来た試しがなくて、大抵早く来てもお昼前。多分回収のトラックが8時出発だから明記してあるのだろうけど。

もっと言うと、指定された時間を守り捨てに行くとカラスに狙われて、置き場がえらいことになってしまう。うちの近辺を縄張りにするカラスは頭がいいので、最近は防護ネットが効かないばかりか「御馳走はこちらでーーーす」とばかりに「カーーーァ」と一声あげて仲間を呼び寄せてしまう。カラスだって生きるために必死だ。

だったら「早くて朝8時には回収される地域がありますので、間に合うように出してください」でいいんじゃないか。

そんなことをうだうだ考えながらゴミを抱えて階段を降りると
カラスではなく、おばあちゃんが立っていた。

(門番?)

昔住んでいたところでは、きちんと分別されているかを自主的に見張る(門番)と呼ばれる人が立っていて、透けたゴミ袋をのぞき込んで「あなた!これはプラなんだから別の日に捨てなさい!」と勝手にゴミ袋を開ける人がいたのだ。最後は警察に連れていかれたが。

片手にはコンビニでもらう小さなビニール袋。暑い中、日傘も差さずに立っていた。
プラチナヘアーに花柄の前掛け。
(なんだろう…)と思いながらそこにゴミ袋を置いてネットを掛けた。

気になって階段の踊り場からのぞくと、私がさっき捨てたゴミ袋を開けていた。

(!!)
個人情報は粉々にしてから捨てているが、万が一と思い様子をみると、先ほど手にしていたビニール袋をその中に入れ、元通りに袋を閉じて去っていった。

最近ではゴミ袋でもお金がいる。
10リットルしないようなゴミしか出ないから、多分独居か少人数。慎ましく静かに暮らしてる情景がその丸めた背中から浮かび、

すっと、切なくなった。

週に1回ペースでそのおばあちゃんを見かける度に段々と(ああ、今日も元気で良かった)と勝手に安心するようになった。

なんなら口を縛らずに持って行って、おばあちゃんが入れるまで待っててもいいくらい、おばあちゃんが待ち遠しくなっている自分がいたが、それはそれで本人が気恥ずかしいであろうと思い、そのまま知らないふりをしてゴミを置いていく。

開けやすいように、少し緩めに口を縛って。

そうして何か月か過ぎたある日
おばあちゃんが来なくなった。

程なくして、ポストには「アパート解体のお知らせ」と書かれたA4用紙が入っていて、騒音に対する事前の謝罪文が書かれていた。

更地になり、アパートだったところに目をやると、青く飾られた陶器の破片が散らばっていた。

その夜、なぜか母親から電話があった。
「お盆くらい顔出しなさい!」

あのおばあちゃんにも、そんな風に言える人がいることを願いながら「なんか飲みたい酒ある?」と私はめんどくさそうに返事をした。


(ゴミの日-Fin-)


読んでいただきありがとうございました。これをご縁に、あなたのところへも逢いに行きたいです。導かれるように。