ALTのジョニー先生

ジョニー先生、あの夏のことを覚えていますか?

修学旅行の帰りに森の中に取り残されたあの夏のことです。

崖に面したあの道で私たちのバスは動かなくなってしまいましたよね。

でもあの時誰もその理由を知りませんでした。私たちは全員寝ていましたからね。

異変に最初に気がついたのは、シュン君でしたか?コウタ君だった気もしますね。

私が目を覚ましたのは、窓ガラスが割れてミサキちゃんが即死したあの瞬間でした。

その時でしたよね、ジョニー先生が走ってバスに戻ってきたのは。

「戦争が始まったぞ!!ドイツ軍だ!!」あの言葉は忘れられませんよ。しかもあれは英語で、私以外は誰も理解できていませんでした。

しかしミサキちゃんの死体を見た数人、中でも彼女の幼馴染だったアヤナちゃんなんて大声で泣いていました。

センソウなんて言葉久しぶりに聞いた気がしました。中学校の時沖縄に行ったときに聞かされた戦争の話以外で、私は戦争のことをほとんど知りませんでしたからね。

私たちはジョニー先生の大声と同時に、驚くほど俊敏にバスから逃げることができました。あれは人間の死への恐怖という本能的な俊敏さでした。

森の中でしたから身を隠すことは容易でした。私は大きな木の陰に隠れました。

バスから逃げるときに死んだリサちゃんの死体を見たとき、はじめてわかりました。ミサキちゃんは飛んできた槍で死んだんだってことです。ドイツ軍は崖の反対側から大量に槍を投げてきましたよね。

ジョニー先生は隣に隠れる私に言いました。「戦うしかないんだよ!」

そういって先生は無謀にもドイツ軍がいる反対側のがけまで走っていきました。迂回してたどり着こうとしたんですか?必死すぎて記憶にありません。

後に国連軍がたどり着いたとき生き残ったのはたったの四人でした。もちろん先生も死んでいると私は思いました。

でも数年たった今、先生が生きていると聞いて私は嬉しいですよ。

今度お茶でもどうですか?