ぼと、ぼと、
ある冬の夜のことです。
私は友人宅の宴会に招かれた後、いつものあの道を通って帰ろうとしていました。
比較的車の多い大通りをしばらく歩いた後、コンビニを左に曲がるあの道です。
例の一軒家は真夜中だというのにいつも明かりがついています。
「割と新しくてきれいな家が多い通りで目立ってるなこの家」といつも思っていました。
その家は二階建てで、ぼろぼろです。小さな駐車スペースには古びたミニバンが前時代を引きずるように止まっていました。表札には13-5の文字です。カーテンはありません。あの女はいつも二階のベランダにしゃがみこんでいました。
その夜の私は少し陽気で、いつもはすぐに目をそらす二階の風景をしばらく凝視してしまいました。
するとあの女はただしゃがみこんでいるだけではないことがわかってきたのです。あの女は茶色いツボを抱えていました。和式の便所を使うときのような格好で前にツボを抱えていたのです。
少し気味が悪いと思い足早にその家の前を通り過ぎました。
その時です。後ろから「ぼと」という音が聞こえました。
後ろを振り返りましたが何もありません。
さらに足を早めました。また「ぼと」という音が聞こえました。
後ろを振り返り、暗がりの地面をよく見ました。
そこには梅干しが二つ転がっていたのです。