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キーエンスとSalesforceは何故、営業を単なる営業と呼ばないのか

今回は、キーエンスやSalesforceが何故、営業を単なる営業と呼ばないのかについてまとめてみました。

この記事を書くきっかけとしては、営業のヒアリング力向上について研修やアドバイスを行う際に、単なるヒアリングのノウハウやTipsを伝えるだけではなく、そもそもなぜ、ヒアリングを行うのかを説明する事が、非常に重要だと感じているからです。

「なぜ、ヒアリングを行うのか」

その一つのヒントが、キーエンスやSalesforceが営業の事を単なる"営業"と表現していない事にあると思っています。

キーエンスとSalesforceでは営業を何と表現しているか

採用情報から2社が営業をどう表現しているかを見てみましょう。
なお、両社とも社内では営業のことを下記のように呼称しています。
キーエンス:営業
Salesforce:アカウントエグゼクティブ
但し、下記を営業のあるべき姿として掲げています。

▼キーエンス:コンサルティングセールス
お客様の真の課題を把握し、その課題を解決するアイデアを売るのがビジネス職です。高い付加価値をクリエイティブな思考で生み出すことが大切です。
※キーエンス採用情報より抜粋
▼Salesforce:Trusted Advisor
顧客の課題解決のみならず、顧客が将来実現したい姿や、あるべき姿をTrusted Advisorとして提案していただきます。
※Salesforce採用情報より抜粋

あえて表現することには、必ず何らかの意図があります。かつ、この2社には共通点があることが分かります。

キーエンスとSalesforceの営業のあるべき姿の共通点はどこか

両社の内容からは

「真の課題」
「課題解決のみならず、将来実現したい姿やあるべき姿」

というように、表層的な課題だけではなく、更に深い潜在的な課題解決を行う事が求められていることが分かります。

これが、営業を単に営業と呼称しない理由なのです。

表面的な課題しか発掘できないような目的意識の無い単なるヒアリングでは、表層的な課題しか見えてこないため、付加価値が生まれない、顧客の信頼を勝ち取れない状態になってしまいます。
営業には、より深い顧客理解、顧客を超えた提案により、高い付加価値を産み出していく事が求められています。

弊社、A1Aでも顧客の潜在的な課題解決を行う事を重視しており、全員がTrusted Advisorになる事を求めています。
その意識を全社員が持った結果、自社製品だけでは解決出来ないお客様の潜在課題をWhole Productという発想で解決する事に成功しています。

キーエンスやSalesforceでも同様に自社製品以外の周辺提案を含むトータル提案により信頼を勝ち取る事や潜在課題の解決を行っていました。

製品力が非常に強い会社でも、お客様の真の課題を解決するためであれば、トータル提案を行うので、まだまだ製品力に大きな伸びしろのあるスタートアップの営業は絶対に行うべきだと思います。

営業のあるべき姿は、顧客のあるべき姿を描くこと

営業というと、やはり自身の目先の売上にとらわれてしまうイメージがあるかと思いますが、キーエンスとSalesforceの共通点から分かるように、これでは営業が強い組織にはなりません。
営業とは、顧客を更に超えた、顧客のあるべき姿を描ける状態が理想像なのではないでしょうか。

この理想像に達すると、場合によっては自社製品を勧めないこともあります。今のタイミングで自社製品を導入することがお客様のメリットにならないことも、もちろんあるからです。

皆様の経験でも、相手のメリットにならないと分かっているのにがっつり製品説明をしてしまった、されてしまった経験などもあるのではないでしょうか。

お客様のあるべき姿を描くために、弊社、A1Aでは営業活動を下記のように位置付けています。
「お客様の現況を正確に把握し、お客様をリードしながら、課題解決へ向けた、投資判断の後押しをすること」

これが一つの、「なぜ、ヒアリングを行うのか」という問いの答えになると考えています。ヒアリングはお客様のあるべき姿を描くための1つの手段となります。

なぜ、ヒアリングを行うのか

お客様のあるべき姿を描き、Trusted Advisorとなるためには、下記の2つの要素が必要です。

1. お客様の現況を正確に把握する
2. お客様をリードし、課題解決へ向けた、投資判断の後押しをする

この1.と2.を行うのがヒアリングと位置付けています。
お客様目線からしても、1.と2.が行われない限り、営業を本気で信頼することは出来ないのではないでしょうか。

つまり、より高い付加価値を提供するために、ヒアリングは行われるべきなのです。単純に営業に都合のよい内容を聞くのは本質ではありません。

そのため、弊社ではインサイドセールスの段階では、いわゆるBANTと呼ばれるような、お客様目線でメリットのない情報を聞くことは求めていません。予算を聞くとこもありませんし、承認者を聞くことも無ければ、現在ニーズ、導入時期を聞くとも求めていません。

1. お客様の現況を正確に把握する

▼お客様の現況を正確に把握する
1-1. お客様の現況の概要を把握し、正確にするための準備を行う

お客様の現況を正確に知るためには、ヒアリングだけではなく、事前情報が重要です。

キーエンスで常々言われてた事として、
「営業は常にお客様の時間を奪っている。その奪った時間以上の価値をお客様に提供しなくてはいけない。」
という言葉があります。

キーエンスは時間を非常に大事にする会社で、社内で使う言葉に「時間チャージ」という言葉がありました。社員一人一人が1時間に稼ぐべき利益額という概念なのですが、この意識がビジネスパーソンとして根付いているからこそ、お客様の時間も非常に貴重な時間だという認識がありました。
※これも本当は組織を作る上で非常に大切な概念なのですが、今回は割愛します。

もちろん本当に正しい内容はお客様に聞くことが最も早いのですが、事前情報として取得可能・仮説立てが可能な事は全て事前情報を行うべきです。
自社の上長に話す際に何も調べずに聞くことは無いですよね?それが営業だと起こってしまう事が多々あります。

ヒアリング前の準備として、いわゆるPEST分析・3C分析・SWOT分析・バリューチェーン分析などのフレームワークに代表されるような、市場状況・企業状況・競合の状況・製品・お客様の部署・立場の状況などを調べます。

これはヒアリングを行わなくとも、お客様のホームページで情報収集を行う事が可能です。情報が薄い場合には、競合のホームページや採用ページも非常に参考になります。

また、時間は有限ですので全件をフレームワークに当てはめて考えるわけではないですが、フレームワークの基本を抑えておくと1件1件が無意識的に行うことが可能です。もちろん、しっかり全件準備出来る事が理想です。
下記がまとまっているので参考にしてください。ビジネスパーソンとして基本スキルなのでフレームワークの本を何冊か買うこともオススメです。

加えて前回の記事でもあるように、社内ナレッジも活用して準備を行うべきです。お客様は基本的に自社製品に関連するお客様なはずですので、社内の人間が最も詳しいはずです。

社内ナレッジが蓄積できていない組織でも、初対面や先輩後輩関係無く、質問出来るような風土を作る事が非常に重要です。

▼お客様の現況を正確に把握する
1-2. 準備した情報を元に、正確な現況を把握する

準備して立てた仮説を元に、顕在化している課題だけではなく、真の課題やお客様のあるべき姿はどのような姿なのか、をヒアリングを通して自分自身の理解と現状をすり合わせていきます。

これがいわゆるコンサルティングセールスという言葉が表す営業活動なのだと思います。

コンサルティングセールスを通して、お客様の現況を正確に把握する事ができ、お客様のあるべき姿、真の課題を把握してから、やっと自社の製品に目を向けるべきなのです。

場合によっては、このヒアリングを重ねる中で、お客様と共に理解が深まるケースもあると思います。

これがヒアリング力の有無が最も成果に直結するポイントです。このヒアリング力向上の方法についてはSPIN営業術という手法がありますので、後述させていただきます。

2. お客様をリードし、課題解決へ向けた、投資判断の後押しをする

お客様のあるべき姿、真の課題を正確に把握してから、自社製品に目を向けると申しましたが、ここからがお客様をリードするポイントとなります。

自社製品や周辺提案で真の課題がどの程度解決しうるのか、具体的にどのように解決するのか、これらの事を、お客様と同等かそれ以上に説明出来る状態がTrusted Advisorには必要不可欠です。

営業がお客様の立場になった際に、自社製品導入のための稟議書を書き、社内プレゼンを行い、関係者を集めて稼働まで持っていく事が出来る状態でなければ、真に付加価値がある状態とは言えません。

また、仮に自社の製品では解決できない場合、それをしっかりと伝えることがTrusted Advisorには必要です。

今のお客様の現況では自社製品を導入すべきでは無くとも、お客様の状況や自社製品の状況は変わるものです。条件が変われば、導入すべきタイミングも来るはずです。

これらのことから、お客様をリードするという事が非常に重要です。

キーエンスとSalesforceの研修でも使われる、ヒアリング力強化の手法、「SPIN」営業術

ヒアリングを重ねる中で、お客様と共に理解が深まると申しましたが、そのプロセスを体系化した本がSPINという営業術・話法です。

私が知ったのは下記の本がキーエンス入社時に課題図書として指定されていた為ですが、中途で入社したSalesforceでも研修で使用されていた本です。そのため営業職の方であれば全員が読むべきとも思っています。

▼SPINとは?
簡単にご紹介しますが、英語の頭文字をとったもので、下記の4つのタイプの質問を表します。

S:Situation Questions <状況質問>
P:problem Questions <問題質問>
I:Implication Questions <示唆質問>
N:Need-payoff Questions <解決質問>

これをS→P→I→Nの順に質問を進めていくと、受注率が高まるという趣旨の内容です。詳しい内容は本をお読み頂くか、下記のNoteをご参照ください。

ポイントとしては、このSPINを使うポイントです。
前述の、準備した情報を元に、正確な現況を把握するというフェーズでこのSPINを行うべきです。なぜ、ヒアリングを行うのか分からずに手法だけが先走りしてしまうと、SPINがうまく行かない理由も明確化できません。

営業の目線で売上を最大化させるというという観点では、全てのお客様は下記のどこかに位置します。下記のどのゾーンにお客様が属するのか、を判断する時に行うヒアリング手法がインサイドセールス時のBANT確認です。

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BANTを聞くことにより、お客様が現在上記の図のどの位置にいるのかを明確化出来、どの程度リソースを掛けるべきなのかを判断し、営業のリソース配分を考える事が可能なので非常に有用ですが、コンサルティングセールスやTrusted Advisorになるために必要かと言うと、そうではありません。

どの場合に、どのようなヒアリングを、何のために行うのか。という理解を営業組織の全員が深く行う事で、営業があるべき姿を理解できると共に、単なる営業ではなく、コンサルティングセールス・Trusted Advisorになれるのではないでしょうか。

特に営業組織を作っていく段階だからこそ、当初から全員が意識したいポイントとして掲げています。SaaSというサブスクリプションのビジネスモデルでもそうですし、既存顧客からの売上を見込むような営業組織では必要不可欠な観点かと思います。本質的な意味で、真にお客様の事を考え、リードする、そんな営業組織を作っていきたいと思います。

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