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発酵、腐敗、醸造、熟成の違い

 さて、色々話す前に少し定義をしっかりしていこうと思います。『発酵』『腐敗』『醸造』『熟成』、なんとなく似たような言葉ですが、それぞれ意味が違う言葉です。

まずは『発酵』と『腐敗』の違い

 というわけで、まずは、いきなりですが、辞書を引いてみようと思います。デジタル大辞泉だと次のように出ています。

発酵:微生物の働きで有機物が分解され,特定の物質を生成する現象
腐敗:有機物が微生物の作用によって分解され、有毒物質を生じたり悪臭を放つようになったりすること

 文章の言葉の前後関係が違いますが、前半は同じですね。『微生物』が『有機物』を分解することが共通しています。違いがあるのは後半、『特定物質』か『有害物質』か。

 さて、『特定物質』と『有害物質』の違いってなんでしょう?それって、誰が決めるのでしょう?それは、結論から言えば『作る私たち次第』です。

 発酵か腐敗かを決めるのは人間の価値観です。それによって、同じ現象でも『発酵』になったり『腐敗』になったりすることがあります。

 たとえば、豆に納豆菌が生えて、納豆が出来る現象。これが、八丁味噌を造るために豆で麹を造っていたのに納豆になってしまったのなら、『腐敗』ですが、納豆を造っていたのなら『発酵』です。

 逆に、大豆にコウジカビが生えて緑一色になってしまった。これは、豆麹を造っているなら『発酵』ですが、納豆を造っているなら『腐敗』です。

 つまり、現象そのものに善悪があるのではなく、あくまで、作業者側の目的通りかどうかで『発酵』か『腐敗』かは分かれるんですね。

『発酵』と『醸造』の違い

 さて、それでは『発酵』と『醸造』の違いですが、こちらも辞書を引きましょう。辞書には

醸造:『発酵作用を応用して,酒類・醤油・味噌などを製造すること』

と、あります。

 つまり、辞書に従えば『発酵』の応用が『醸造』になるわけですね。ここは明確な定義があるわけではないですが、アルコール飲料や醤油や味噌など一定の人間の操作が加わり微生物の成長に人為的な関与が高いものや、複数の微生物が関与するもの、発酵によって得たい生成物が多岐に亘るようなものを、一般に『醸造』と言うことが多いようです。

『発酵』と『熟成』の違い

さて、残るは『熟成』ですね。こちらも辞書を見てみましょう

熟成:物質を適当な温度などの条件のもとに長時間置いて、ゆっくりと化学変化を起こさせること。


 はい、ここでは『微生物』という文字が消えました。熟成は微生物を必要としない化学変化なのです。「えっ?でも、味噌とかワインとか熟成するじゃん!」と、お思いの方もいるでしょう。私も思います。

 実は、『熟成』と呼ばれている現象は、微生物が産みだした化学物質が互いに反応し合っている状態(その時点では微生物は死んでいたりすることさえある。)なのです。微生物が生きて直接関与するわけではありません。

 例えば、味噌で言うと、発酵の過程で出た微量のアルコールが味噌樽のなかで他の物質と結びついて香りの要素になる物質となる現象は、この現象自体には微生物が関与していないので『熟成』となります。あるいは、味噌がだんだん茶色くなるのは、糖とアミノ酸(←これ自体は発酵で生じる物質です)が、もはや微生物の手を離れたところで結合する際の反応として茶色くなります。(専門用語ではメイラード反応と言います。)

 酵素が関わると言うこと

 さて、じゃあ、何を持って『微生物』が関わっているか関わっていないとするのか。その一つのカギが『酵素』になります。

今までは大辞泉という一般的な辞書を紐解いてきましたが、『発酵工業用語辞典』(技報堂)を紐解きましょう

発酵:微生物の作用で複雑な化合物が酸化還元により比較的単純な物質に変化すること
熟成:発酵によって生成した成分が、貯蔵中において、非酵素的に、つまり、化学的に分解・結合(合成)・重合し新たな成分に変換することである。これによって、調和した香り、味、色が生成される

 と、あります。酸化還元とか、重合とか、難しい言葉が出てきています。(ついでをいうと『科学的』と『化学的』は違う日本語です。このあたりの話も後々のnoteで。とりあえず今は無視してください。)

 ここで重要なのは、熟成のところで『非酵素的』と出ていることです。つまり、酵素が関わらないということになります。逆に言えば、『発酵』には酵素が関わると言うことになるようです。

 どうやら、この『酵素』というのが『発酵』を理解するキーポイントになりそうですね。それはまた別のnoteでお話ししましょう。

最後に、今日のまとめを図にしておきます。

発酵腐敗醸造熟成

 それでは、また次回をお楽しみに(発酵のことを必ずしもやるわけではないですが、、、)

 

※また、今後のこのnoteですが、なるべく『辞書』『教科書』とされているモノに準拠していきます。基本的には『中学生の理科や社会の授業ぐらい』を目指しますのでよろしくお願いします。

※本稿作成に当り下記の資料を参考にいたしました

一般社団法人東京味噌会館「みそを学ぶ」2014年

最後までご覧いただきありがとうございました。 私のプロフィールについては、詳しくはこちらをご覧ください。 https://note.com/ymurai_koji/n/nc5a926632683