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職業体験づくりは、高度な「学びの編集」だった。仕事旅行社に"越境"して僕が学んだこと。

社会人向けの職業体験プログラムを提供する「仕事旅行社」の代表・田中翼さんの本がこのほど発売されました。

僕は2018年5月に仕事旅行社の編集ライターのインターンに参加して以来、本業のキャスティング業と並行しておよそ2年近くライターの仕事をやらせてもらってます。

仕事旅行社には「編集職人」と称される外部ライターが30名弱いるのですが、その中でも僕は仕事旅行社のサービス自体への興味が強く、編集会議以外の打ち合わせにも首を突っ込むようになった結果、いまでは準レギュラーのようなポジションとして何かと意見を求められる機会が多くなりました。社会人キャリアの大半を広告キャスティング業に費やしてきた自分からすると、キャスティング以外でいろいろと相談を受けたり頼られたりすること自体が新鮮で、おかげでグッと自分の幅が広がりました。本業が一人会社で孤独なだけに、自分にとって仕事旅行社は、いまやかけがえのない居場所になっています。


サービスの方向を変える大手術を行った仕事旅行

そんな仕事旅行社は、昨年春に大きなリニューアルを行いました。

それまでレジャー色の強かった仕事旅行社のサービスを、明確に「学び」を提供するサービスと再定義し、それに合わせて企業スローガンやロゴも刷新。さらに、仕事旅行で得られる学びの価値を明確にするため、経済産業省が提唱する12の「社会人基礎力」を元にした6つの「はたらく力」を編み出しました。

★はたらく力を診断する自己分析ツール「仕事旅行NAVI」を使って、是非いまのご自身のはたらく力を確かめてみてください↓

さらっと紹介していますが、ここまでの道のりは非常に険しいものでした。リブランディングのためのミーティングはいつも激論が交わされ、上手く議論をアシストできない自分自身に心底失望する瞬間が何度もありました…。

それだけに、この1年近くの苦闘の結実とも言える本書の発売には、準レギュラーの僕にとっても並々ならぬ想いがあったりします。

越境学習をキーワードに掲げる仕事旅行社に”越境”してみた僕だから言えること


仕事旅行社は「越境学習」を学びのキーワードにしています。

越境学習とは、普段とは異なる環境に身を置くことで自らを相対化させ、新たな知見を身につける学び方のこと。職業体験は日頃なかなか接点のない仕事の現場にお邪魔して新しい気づきを得るプログラムであり、そういう意味ではまさに越境学習の一つと言えます。

さらに、具体的な経験を振り返って汎化させる「経験学習」の要素が入ってくることが、仕事旅行での学びを特徴づけています。このあたりの詳細は是非本書をお手にとってご覧ください。

冒頭でも触れましたが、僕自身が異分野の本業を別に持ちながら、仕事旅行社に”越境”した身です。

岡目八目という言葉もあるように、片足だけ突っ込んでいる第三者のほうが、当事者よりもクリアに物事の真価が見えるということはしばしばあるもの。彼らがずっと取り組んできた職業体験づくりは、部外者から見ると想像していた以上に大変で、それゆえにとてつもなくエキサイティングな営みでした。

以下、越境者なりの視点で、職業体験づくりについて学んだことをまとめてみようと思います。
(あくまで一編集職人としての個人的な見解ですので、その点は誤解なきようお願いします)


仕事旅行社の職業体験づくりは「学びの編集」である


体験づくりと聞くと、体験の場のコーディネート=場づくりをイメージされる方も多いかもしれません。僕も最初はそんなふうに思っていました。1day〜数時間という短期間でいかにワクワクする体験を作るか、というところに面白さがあるのではないかと。

でも実際には、その体験で得られる学びが何か?を突き詰めることに多大なる労力が注ぎ込まれていました。複数ある学びのフックを取捨選択し、これだ!というものにフォーカスを絞って、それに基づいて体験の企画と記事を構成していく。まさに「学びの編集」と言える行為が、職業体験づくりの根幹を成していました。

なぜ、学びの編集が必要なのか?

それは、仕事旅行社が本質的に提供するものが、体験そのものではなく、体験での学びを通して「自己を振り返る機会」だからです。一言で言えば、「リフレクション・トリガー(内省のきっかけ)」といったところでしょうか。いま思いつきました。ふふ。

ここが単なるワークショップと仕事旅行との違いで、体験をして”あ〜面白かった!”だけで終わらせず、”体験から何を学び、それをどう活かすか?”という内省のエンジンを起動させるのが仕事旅行なのです。抽出された学びのエッセンスは、内省の際の拠り所となり、体験先のホストにとっても、体験現場を進行する上での補助線として機能します。体験しっ放し/教えっ放しという勿体ない事態を防ぐためにも、学びの編集は必要不可欠なものといえます。


また、学びのエッセンスを抽出することで体験記事のアングルも定まります。仕事旅行は参加者が体験費を払って参加するものであり、提供価値を明確に提示しなければ売り物になりません。仕事旅行の記事はどれも質が高く、一見するとインタビュー記事のように見えますが、実態は商品のPR記事と同じなのです。

したがって、どの体験でも最初にきちんとターゲットの設定を行い、彼らの背後にある世の中の文脈も意識しつつ構成を組んでいきます。仕事旅行のユーザーは20代〜30代の男女が大部分を占めており、女性が多いのが特徴です。社内で別途設定しているペルソナも参考にしながら、誰がその学びを必要としているかについて考えます。世の中のはたらき方やライフスタイルについても広くアンテナを張り巡らし、その学びの時事性や有用性を訴求することも欠かせないポイントです。


職業体験づくりの難しさ


職種が多種多様でなかなか定型化できない

タイトルでことさら「高度」と強調したのはこれが理由です。仕事旅行のホストは、職人系から販売系、オフィスワーク系など実に多種多様であり、そこから取り出せる学びも千差万別です。似ているものはあっても、全く同じものは一つとしてない。その職業をめぐる社会的背景も異なれば、ホストのキャリアストーリーもそれぞれ違った起伏を持っている。過去の類似案件を参照することはもちろんありますが、それでも毎回毎回個別具体で考えています。

ただ、そうした課題は昨年春のリニューアルの際に出来上がった6つの「はたらく力」によって、今はそれなりに解消されてきているのが実情です。

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※仕事旅行社の「仕事旅行NAVI」から抜粋

これができたことで学びのアングル設定が大分楽になりましたし、ホストのコンセンサスを取る際にも有効に働いています。


doではなく、beを見る

仕事旅行には、具体的経験から内省→抽象化→実践という「経験学習」の側面があります。簡単に書いてはいますが、具体的な経験から内省以降のステップに進むことは、人によってはハードルが高いものです。なので、職業体験づくりの段階でなるべく具体的体験を噛み砕いて飲み込みやすいものにすることを個人的に意識しています。これが先述の学びのエッセンスというやつですね。

ただ、実際に仕事旅行を作っていると、事業内容を見ているだけでは学びのエッセンスが浮き上がってこないときが多々あります。

そんなときは、ホストのdoではなく、beに着目するとスッと視界が開けてくることに、あるとき気がつきました。

たとえば、スターバックスをホストに仕事旅行を作るとしたら、得られるものは「美味しいスペシャリティコーヒーを入れる技術」というレイヤーが第一層目。つまりdoの領域ですね。これはこれで特定のスキルが得られるわけですし、立派な学びと言えます。

しかし、仕事旅行的にはさらに踏み込んで、「”サードプレイス”を実現させるためのホスピタリティ」を学ぶ、というbe(あり方)のレイヤーが必要なのです。思いやりを持って働いているか?という問いは確実に内省を促すでしょうし、どんな仕事でも必要とされる、汎化しやすいマインドと言えます。

これは突き詰めると企業のビジョン・ミッションに踏み込むことであり、仕事旅行づくりは企業ブランディングの側面もあるなぁと気づかされる場面が何度かありました。

本当の旅先は、自分自身の内側

仕事旅行のユーザーボイスとして、「視野が広がった」とか「自分見つめ直すきっかけになった」という声が結構あります。

現在およそ170職種に渡る旅先があるわけですが、結局のところ、本当の旅先はじぶんの内側なんだなぁとつくづく思います。

内省という言葉をたびたび使ってきたのも、越境学習×経験学習の効果を最大化するには、やっぱりそれしかないと考えているからです。こうして僕が記事を書くのも、一つの内省といえますね。

昨今社会の複雑さばかりが取り上げられますが、よくよく考えたら僕ら自身が複雑怪奇で未知の可能性を秘めた”VUCAな存在”といえます。その内側は、世界地図なんかよりもずっと広いはず!

言うなれば、仕事旅行は自分自身という広大な土地を縦横無尽に旅するためのコンパスなのです。決して「はたらく」という領域に留まるものではない、もっともっと僕らの可能性を押し広げてくれるポテンシャルを秘めたサービスだと信じています。

非連続な成長のためのソリューションとして、多くの方が仕事旅行を選んでくださることを願ってやみません。

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