
テクノロジーが拓く自然の新たな姿「テクノバイオフィリア」が広げる創造の可能性
私たちYLでは、デザインの可能性を広げるため、常に新しい視点やトレンドを取り入れることを大切にしています。今回の「テクノバイオフィリア」をテーマにした記事は、YLでデザインとアニメーションのインターンをしていたLila Zucconniが自ら執筆したものです。2024年にフランスから参加したLilaは、自然とテクノロジーが交わるこのコンセプトに魅了され、その魅力や可能性をこの記事を通して紹介しています。
はじめに
「テクノバイオフィリア」という言葉を聞いたことはありますか?
これは、イギリスの作家スー・トーマス博士が2013年に提唱した概念で、生命や自然への本能的な関心が、テクノロジーにも向けられる傾向を指します。彼女の研究によれば、デジタル社会においても人々は自然とのつながりを求め続けています。
特にコロナ禍以降、バーチャル空間でが人々の新たな交流の場として注目される中、自然の癒しをデジタルで体感する機会が増えました。自然を自由に探索できるゲームや、環境とテクノロジーが融合したデジタルアートを通じて、私たちは新しい形で自然と触れ合っています。さらに、IT用語にも「web(クモの巣)」「spider(クモ)」「mouse(マウス)」「cloud(クラウド)」のように、自然を比喩とした言葉が多く含まれているのも興味深いポイントです。
この記事では、自然とテクノロジー、そしてクリエイティブがどのように交わり、新しい可能性を生み出しているのかを探ります。

デジタルアートでの革命
コロナ禍で、美術館やギャラリー、劇場などの文化施設が閉鎖された際、多く人がオンラインでアートに触れるようになりました。バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)のプロジェクトはを駆使したプロジェクトは、物理的制約を超えた新たな体験を提供しています。例えば、2020年にできた「Museum of Other Realities」では、訪問者が仮想空間内でアート作品を体験できる場所です。この仮想空間では、現実世界では体験できないような非日常的なアートやインタラクティブな要素が楽しむことができます。

ゲームもまた自由を提供する場として注目を集めました。たとえば、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』や『あつまれ どうぶつの森』といったゲームは、ユーザーが自然の中を自由に探索する体験を提供し、現実世界では制限された自由や冒険心を満たす場として人気を博しました。
さらに、バーチャル空間でのイベントやコンサートは、人々の集団的なつながりを再定義しました。VRChatやFortniteのようなプラットフォームに加え、Apple Vision Proの登場も大きな話題となりました。このデバイスはリアルとバーチャルの境界を融合させ、より没入感のある共有体験を実現することで、物理的な距離を超えた新たなつながりの可能性を示しました。

自然とテクノロジー、新しい形の融合
コロナ禍を経て日常が戻りつつある中、私たちのアートとの関わりはさらに進化しています。その一例がフランス人アーティスト、ピエール・ユイグのプロジェクト「Variants」です。
このプロジェクトは、ノルウェーのキストフォス美術館のために制作され、自然とテクノロジーを独自の形で融合させています。彼はまず、美術館がある島の生態系、石、植物、樹木、水流、音、香りなどを徹底的に調査し、その後ポイントクラウド技術を使って島全体をスキャンし、3Dモデルを作成しました。
このモデルはリアルタイムシミュレーションとしてデジタルスクリーンに投影され、島の上に設置されています。そして、気候センサーと連動することで、リアルタイムデータと連携して変化するシミュレーションとして展示されています。

「Variantsは知覚し、生成し、変化を加える多極的な存在であり、それは同時に一つの島であり、その島が別の現実でどのような姿を持ちうるかでもある」
テクノロジーとバイオフィリアを融合させることで、アーティストたちは私たちの環境の境界を探求し、拡張する新たな方法を見出しています。テクノバイオフィリアは、自然との関わりを振り返るきっかけを与えてくれるものであり、自然を置き換えることを目的としていません。このようにして、アートは私たちの現実の「代わり」ではなく、「延長線上」にあるものとして存在しているのです。
デジタルと現実世界:新しい創造の時代へ
「テクノバイオフィリア」は、自然とテクノロジーの境界を探るだけでなく、それらを相互に補完する関係性を見出しています。また、デジタルアートが物理的空間に戻る「脱バーチャル化」のトレンドも進行中です。3Dプリンターでバーチャル作品を現実化したり、ARを使ってデジタルイメージを空間に投影したりと、仮想と現実を超えた新たな表現が次々と生まれています。
これは、私自身が作り上げたデジタルとフィジカルの世界を融合させた作品です。自然の中にひっそりと置かれた遺物のような石を中心に、輝く幽霊のような液体ドラゴンが囲む3Dデジタルシーンを作成しました。仮想の神話からインスパイアを受けた存在のうち、一体を3Dプリントしてアクセサリーとして形にしました。そして、それを岩の上に置き、デジタルな創作物を実際の世界に溶け込ませました。

テクノバイオフィリアは、私たちの創造性を広げる鍵となる可能性を秘めていて、デジタルと自然の関係を見つめ直す視点を提供しています。これからの時代、デジタルと現実世界がどのように融合し、それがクリエイティブ業界にどんな影響を与えるのか、注目したいところです。
Writing: Lila Zucconni
Editing: Juri Ito