李克強

中国人民元の行方

日経ヴェリタスに、フランスのエマニュエル・トッド氏が「人民元は覇権を握れない」との見解を示しています。

トッド氏は、数年前のフランスと欧州内のテロの問題、移民問題、ブレジクット、EUへの懐疑などで論陣を張る左派寄りの人口社会学者ですが、日本でいう左派とはちょっと性格が異なる感じです。保守に近い感じすらする。また、日本の安全のためには「日本は核武装すべき」と主張しています。

彼の視点や価値観は別としても、中国人民元が覇権通貨、世界の基軸通貨になれる可能性は極めて低い、と考えています。

アジアインフラ投資銀行(AIIB)をはじめ、途上国などへの積極的な人民元投資は、一帯一路の壮大な構想と相まって、人民元の国際化に寄与しそうです。また、20年以上前から、人民元はモンゴルやチベット、ミャンマーなど、中国の周辺国との国境付近ではかなり利用されてきました。

また、SDRに採用されて、名目的にも世界通貨の認知を受けたような印象も与えている。

でも、決定的な問題は、トッド氏の見解に加えて少なくとも3つあると思っています。

一つは、中国が基本的に鎖国経済にあることです。貿易面では確かに自由貿易のメリットを重視していますが、こと通貨や決済システム、さらには金融政策は、13億人の巨大で孤立した市場のものとしての機能が最優先。グローバル経済に使い勝手が良い人民元、というよりも、中国経済発展のための人民元、なのです。つまりドメスティック通貨なのです。

二つ目は、中国国内のキャッシュレス取引の急伸の背景には、自国通貨への信頼が十分でなかったことがあります。つまりこれまでの中国の通貨システムは、自国内でも必ずしも盤石ではなかった。それがグローバルに通用するのだろうか、という疑問です。

三つ目は米国の姿勢です。米国が絶対守るものは、ハイテク技術や領土とともに金融です。米ドルが基軸通貨であることが、どれだけ米国を利しているか(だからかつての日本は円の国際化を目指しましたし、ユーロも国際通貨の地位を高めようとしたし、中国はさらにそうです)詳細はあちこちで議論されているので省きますが。米国は基軸通貨の地位を決して離さないでしょう。

以上から見て、中国人民元が世界の基軸通貨になることはまずない。それには、政治、統治のシステムや考え方についての大きな転換をも必要とするでしょう。

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