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レコ屋のジャズ担当が選ぶ、2020年個人的ベスト

今年で三回目の”レコ屋のジャズ担当が選ぶ個人的ベスト”です。多くの人が既に語っていることですが、コロナが世界を襲い、BLMが世界中に拡散され、ミュージシャンもそれに反映/呼応した作品が目立った2020年。今年もジャズやその周辺の音楽は素晴らしいリリースが多くて選ぶのが大変でしたが50枚に絞りに絞って選びました。雑誌や音楽メディアの年間ベストに数多く載っているベストテン的な作品は意図的に除いてありますので、あくまで”個人的”なベストとして楽しんでもらえればと思います。

今までAtoZで載せていたのですが、今年は作品と作品の繋がりが見えてくるような並びにしてあります。基本的には簡単なコメント付きですので、聴取のヒントにどうぞ。

■Oded Tzur / Here Be Dragons
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今年一番聴いたのがイスラエル出身のサックス奏者のECMデビュー作。バンドメンバーには同郷のピアニストのニタイ・ハーシュコヴィッツ、ペトロス・クランパニス、ジェイムス・ブレイクが参加。レビュー書いてるのでぜひ読んでください。

■Slawek Jaskulke / Park.Live
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ポーランド一のピアニストによる同国の公園で行われたライブ盤。鳥のさえずりや子供の声とピアノの音が都合良すぎるくらいに調和していて、ポストECM的でクラシカルなスタイルな彼にパーソナルな別の表情を与える。

■Lucian Ban, John Surman & Mat Maneri / Transylvanian Folk Songs
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数多くの民族音楽の収集研修をしていたバルトークが集めたルーマニアのトランシルヴァニア曲集。全員がECMアーティストなわけだが、中でもピアニストのルチアン・バンは自身もトランシルヴァニア出身でこれまでもルーマニアの作曲家に挑んできたピアニスト。ポストECM的になると思いきや、かなり即興にさいているスペースが大きく、脚色しすぎない剥き出しな魅力が詰まっているよう。

■Elina Duni / Lost Ships
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アルバニアにルーツを持つシンガーソングライターと、今一番注目されているUKのギタリスト:ロブ・ラフトによる連名作品。フォークロアと二人の自作が並び、パーソナルなデュニの歌声と、どこにも属さないスタイルのラフトのギターが溶け合い、アルバニアや各地のフォークが新たな表情を見せる。2017年からコラボレートしてきた二人の結実。

■Rob Luft / Life is the Dancer
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そんなロブ・ラフトがEditionからリリースした2nd作は、小手先の技術に頼らず、パット・メセニーにも通ずるカラフルで多様な音楽性をコンポージングやエフェクトで魅せていた素晴らしい作品だった。ポストロックやインディーロック的な感性はもちろん、エレン・アンドレア・ワンの『Closeness』やエリナ・ドゥニとのコラボで見せていた北欧や東欧、しいてはユーラシア大陸すら感じる唯一無二のギタリスト。

■Pat Metheny / From This Place
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全ギタリストのリーダーによる、プロジェクト名を冠さないソロ名義かつ6年ぶりのスタジオ・アルバム。、ベースがリンダ・オーになったからの初作品でもある。ストリングを率いて、アントニオ・サンチェスの「Lines In The Sand」や「Bad Hombre」、リンダの「Aventurine」と相互に呼応する圧巻の音像を描く。

■Gregoire Maret / Americana
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ハンコックやメセニーらと共演を重ねるスイス出身のハーモニカ奏者と、インディー〜ポストロック的な感性のピアニスト:ロメイン・コリン、そしてフリゼルによるトリオ。いわゆるカントリーやフォークではなく、フリゼルとコリンが描く色彩感豊かなアトモスフィアと、語りかけるようにメロディを紡ぐマレのハーモニカで、シンプルな構成ながらアメリカへの情景と心象風景を鮮やかに描く。

■Dave Douglas / Overcome
*サブスク配信なし
フォークやトラッドを取り上げ続けてきたデイブ・ダグラスと、自身のバンド”カタルシス”で室内楽的なジャズをやってきたライアン・ケバリーのコラボレート。ヘイデンをはじめジャズミュージシャンも取り上げてきたプロテストソング”We Shall Overcome ”に始まり、アメリカーナが織り込まれた自作曲が並ぶ。フォーキーで美しいアンサンブルはもちろん、フェイ・ヴィクターとカミラ・メサの歌声により、混沌とした2020年でこそ優しく力強く響く。

■Bill Frisell / Valentine
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フリゼルが長年ライブを行い続けてきたトリオでの初作品。親密に会話を楽しむようにも、テレパシーとしか思えない息の合いまくった演奏は長年の結実そのものだが、あえて言及したいのは上記のDave Douglasの作品にも参加するドラマーのルディ・ロイストン。ブライアン・ブレイドや石若駿ら”歌っているように、伴奏を弾くように叩くドラマー”に位置付けられる存在だ。

■Rajiv Jayaweera / Pistils
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同じく”歌うドラマー”として今年良かったのが、スリランカにルーツを持つドラマーのデビュー作。伝統的な楽器やリズムを用いて自身のルーツを、メロディ、ハーモニー、アンサンブルに気を配り巧みに織り込む。シンガーソングライターとのコラボレートも多いアーロン・パークスのピアノもセンス抜群で素晴らしい。ヴォーカル入りの1曲目から良曲揃い。

■Christian Euman / ALLEMONG
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LAのサム・ウィルクスやサラ・ガザレク、ジェイコブ・コリアーらと共演するドラマー:クリスチャン・ユーマンのデビュー作。注目のヴォーカリスト:マイケル・マヨのフィーチャーした柔らかなアンサンブルの美しさが素晴らしく、現代ジャズドラマーのコンポーザー視点を感じる秀作。全編通してとても聴き心地がよく、クリス・バワーズが手掛けた映画:グリーンブックのサントラへの参加したことが生きているようにも思える。

■Thana Alexa / Ona
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アントニオ・サンチェスの諸作に欠かせない声であり、プラヴェートでのパートナーでもあるターニャ・アレクサの新作。女婿合唱団を交えエモーショナルを爆発させる1曲目から最高だが、⑥やベッカ・スティーブンス参加の⑧など器楽的な声の使い方やプロダクションは現代ジャズの中でも突出したクオリティ。そして今作はウィメンズマーチへの参加からインスパイアを得て作られたコンセプチュアルな作品であることを忘れてはいけない。

■Yumi Ito / Stardust Crystals
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スイスと日本のハーフであるヴォーカリストYumi Ito。ベッカ・スティーヴンス移行の柔らかで器楽的な声と、マリア・シュナイダー移行のストリングやホーンのアンサンブル、そしてビョーク移行のセンスが交わり昇華してゆく。ハープや弦のピチカートなど気が利いてて細部まで最高に心地よい。

■Lucia Cadotsch / Speak Low 2
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同じくスイスを拠点にしているヴォーカリスト:ルシア・カドッチェが率いるプロジェクトの一つ”Speak Low”の新作。ドイツの老舗enjaからフィンランドのWe Jazzに移籍してのリリース。ヴォーカル、ベース、サックスという編成が主従関係なく前景化したり後景化したりと等価に響き合い、そこにECMアーティストであるキット・ダウンズのオルガンがレイヤーされる。アメリカより、ノーマ・ウィンストンとジョン・テイラーがやっていたAzimuthと通じるヨーロッパ的な音像。

■Sara Serpa / Recognition
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これまでCleen Feedなど前衛シーンで活躍していたヴォーカリストが、ファビアン・アルマザンのBiophilia Recordsからリリース。ポルトガルの植民地時代を再考する映像のサントラ的な作品で、浮遊感があったりエクスペリメンタルだったする音像をセプラの器楽的とも電子的ともいえるヴォイスが結びつけ、デヴィット・ヴィレジェスら先鋭のインプロヴァイザーの演奏にミニマルミュージックやエレクトロニカ経由の感性を宿す。

■David Virelles / Transformación del Arcoiris
*サブスク配信なし
ECMでは異色なリリースだった「Antenna」の続編的なEP。音響的だったり、コラージュ的だったりと前作と地続きなところも多いが、ロックダウン中に製作されたこともあり「Igbó Alákọrin」で向き合ったキューバの喧騒や伝統的なリズムがよりフィーチャーされていたり、音響やコラージュ的なアプローチが一歩先に進んでいる。パーソナルで実験的な意欲作。

■Mary Halvorson's Code Girl / Artlessly Falling
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2018年のベストに入れた「Code Girl」から、トランペットがアダム・オファレルに入れ替わりサックスを加えた新体制に。エクスペリメンタルな楽曲にフォークを宿した音楽性は健在ながら、それを発展させつつ、ほぼ引退状態にあったロバート・ワイアットの客演からも感じられる、どこか悲壮的なムードを作品全体から醸し出している。

■Wendy Eisenberg / Auto
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ポストパンク的なバンドBirthing HipsのギタリストでありSSWのウェンディ・アイゼンバーグのソロ作。しっとりとしたウィスパーな歌声に、デレク・ベイリーやハルヴォーソンに通じる退廃的なギターとエクスペリメンタルな音響を合わせても、SSW的な人懐っこい作品にまとめあげる。Deerhoofのドラムで作曲家としても活躍するグレッグ・ノーニアのように、メインストリーム以外のオルタナティブな可能性を探るミュージシャンは見逃せない。

■Ongon / In Dispersione
[Apple Music] [Spotify]
これまでフリー系レーベルから前衛的な作品をリリースしてきたベーシストのAntonio Bertoniの別名義Ongon。チェロやモロッコの伝統楽器であるゲンブリを基調にしたシャーマニックで呪術的ですらあるリズムに、メロトロンやサンプラーでトランシーな音像をコラージュする。フランスの”No Tongues”や、LAのスピリチュアルやヒーリングミュージックへの傾倒ともリンクすると言ったら強引だろうか。

■Angel Bat Dawid & Tha Brothahood / Live
[Apple Music] [Spotify]
前作はざらついた質感のままエディットされた音響的でエクスペリメンタルな不思議な質感の作品だったが、今作はベルリンでのライブにさらにエディットを施したしたもの。鬼気迫る叫びと、ライブのアツさが伝わるそのままに編集され、シカゴのロフトジャズシーンの意匠を引き継ぎ、ベルリンで受けた黒人女性としての体験を反映させ、BLMとも呼応するエモーションが炸裂する作品に。

■Rob Mazurek – Exploding Star Orchestra / Dimensional Stardust
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シカゴのアンダーグランドシーンやポストロックなどのキーマン:ロブ・マズレクが率いるプロジェクトの新作。これまでは音響だったりフリーだったりエクスペリメンタルなバンドだったが、今作はプロツールス以降のエディット感覚で作曲/アレンジされたマズレクのキャリア集大成といえるアンサンブルに。シカゴのインターナショナル・アンセムとアメリカーナを取り上げ続けるノンサッチとの共同でのリリースでもあり現代だからこそ作れれ聴かれるべき作品。

■Webber/Morris Big Band / Both Are True
*サブスク配信なし
デイブ・ダグラスのGreen Leafから。主に即興シーンで頭角を表すアンナ・ウェバーとアンジェラ・モリスによる連名ビッグバンドで、メンバーもジャズや即興シーンに精通している面々が参加。MーBaseやミニマル音楽、フリーキーでエクスペリメンタルな要素が多くエモーショナルに尖った即興を見せる場面あるが、それらが偶発的じゃなくシームレスに繋がれて自然と聴かせている作曲性や編曲が素晴らしい。上記マズレクの作品とも繋がる新世代のアンサンブル。

■Tyshawn Sorey / Unfiltered
*サブスク配信なし
タイショーン・ソーリーがカッサ・オーバーオールの作品で一際異彩を放っているマルチ奏者モーガン・ゲリンやヴィブラフォン奏者のサシャ・ベルリナーら若手の新鋭と録音したセクステット作。映画監督と言っても過言ではない長尺の作品作りをするソーリーの中では異色で、曲名はなくともここには明確にテーマがあり、目立つソロがあり、狂乱とアンサンブルがあり、比較的オーセンティックなスタイルで演奏が繰り広げられる(と言っても収録時間は2時間越え)。リリースの後、若手の登竜門的クラブである”Jazz Gallery”の周年記念ライブでこのセクステットが五夜連続公演を行ったことを考えると、ショーケース的狙いがあったのかもと思える。タイトル通り、剥き出しの若手の才能を垣間見える。

■Morgan Guerin / The Saga III
[Apple Music] [Spotify]
気付けば色んな作品で名前を見るようになったマルチ奏者のモーガン・ゲリンによるSagaシリーズも三作目。チャーチで培ったマルチな才能、テリ・リン・キャリントンやカッサ・オーバーオールとは周波数が変えられるEWIで溶け込むように音を漂わせ、上記のタイショーン・ソーリーの作品ではエモーショナルで尖った演奏をみせる彼のポテンシャルの結実的な作品になっている。

■Aaron Burnett & The Big Machine / Jupiter Conjunct
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上記のジョエル・ロスが参加する若手サックス奏者アーロン・バーネットが率いるバンド”The Big Machine”の2年ぶり作品。前作は2018年のベストに入れたが、今作ではエレクトロニクスを取り入れたり、エスペランサのヴォイスがフィーチャーされていたり、抽象性なところも巧みに響かせバンドリーダーとしてコンポーザーとして一つ上の段階へ登った感がある。

■Lakecia Benjamin / Pursuance The Coltranes
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スティーヴィー・ワンダーやアリシア・キーズ、ピート・ロックとも共演するサックス奏者による三作目。前作はフュージョンやファンクやR&B的な作品だったが、今作はコルトレーン夫婦ソングブック。アリスのスピリチュアリティにヒントを見出すやり方とは別で、楽曲そのものにフォーカスを当て、豪華すぎるゲストの魅了が最大限生きるようアレンジを施し楽曲の別の輪郭を浮かばせる。

■Joel Ross / Who Are You?
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昨年最も注目された若手ジョエル・ロスの新作が早くもリリース。既に音楽性が確立されているのに驚きで、これからも目が離せない存在。

■Josh Johnson / Freedom Exercise
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ジェフ・パーカーの他、LA人脈から引っ張りだこなサックス奏者のデビュー作。プロデューサーには、ジェフ・パーカーの作品もでがけるポール・ブライアン。シカゴ音響やポストロックなどバックグランドをシームレスに鳴らしてる音像の上で、シルキーでメロディアスなサックスを聴かせる。今までもっと聴きたいと思ってたサックスにしっかりフォーカスが当たりつつ②とか⑩のように現代的なアプローチも。

■Jeremy Cunningham / The Weather Up There
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シカゴのドラマーによる新作は、上記のジョシュ・ジョンソンやジェフ・パーカーのほか、ジェイミー・ブランチやベン・ラマー・ゲイらInternatinal Anthemの面々など同郷の先鋭が集結。悲惨な出来事と向き合ったコンセプチュアルな作品ながら、美しい音像を描きつつ、ラディカルさも巧みにインサートし、そのスムースさは映画のサントラにも近いものが。ちなみにこの作品のリリースパーティの一部がカルロス・ニーニョとミゲル・アットウッド・ファーガソンの「Chicago Waves」だったりする。

■Marquis Hill / Soul Sign
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ロックダウンの最中、天体や星座、占星術などにインスピレーションを受け製作されたスピリチュアルかつコンセプチュアルな作品。17年の「Medhitation Tape」の続編的作品とも位置付けられる。とはいえニューエイジ的な趣向は薄く、ヒップホップのビート感覚にホーンをレイヤーさせるラップを乗せいて単純にかっこいい。

■Matthew Tavares, Leland Whitty / Visions
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BADBADNOTGOODの二人による作品。リーランド・ウィッティのスピリチュアル直球なモーダルなサックス、マシュー・タヴァレスのブラジル音楽への傾倒、インディーロック、スピリチュアルジャズが見事な楽曲ごとに見事なグラデーションを描き展開してゆく。タヴァレスは”Richard Dry”もよかった。

■Logan Richardson / Afrofuturism
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自身のリーダー5作目の作品は、今までの彼のキャリアの集大成的なともいえる壮大で記念碑的な作品に。ディアスポラのリズムやアイデンティティを落とし込む、クリスチャン・スコットのストレッチ・ミュージックの意匠が引き継がれているようにも思える。

■Derrick Hodge / COLOR OF NOIZE
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現代最高峰の技術を持つミュージシャンらが集結した3rd作。2キーボード、2ドラムが常に呼応しあい重厚で混沌した音像を描きつつも、さすが引っ張りだこのプロデューサー、プログレ化せず美しく移ろわせスムースな印象すら作り出す。同じく先鋭が集結していたアンブローズの新作とはアプローチは同じでも出口が異なり、現代のカンストした技術の使い方を感じさせる。

■Will Vinson, Gilad Hekselman & Antonio Sanchez / Trio Grande
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サックス奏者のウィル・ヴィンソン、巧みなエフェクター使いとインディーロック的な感性で引く手あまたなギタリスト:ギラッド・ヘクセルマン、ドラム一つでストーリーテリングな映画のサントラを作り上げたアントニオ・サンチェスらによるトリオ。ヴィンソンの18年作と同メンツながら、音楽性はハイブリッドに進化しまくったもの。ポスプロもされているが、ライブでも再現可能なレベルに留められて、ヘクセルマンがインディーロック的な感性と巧みなエフェクター使いで空間を作り、サンチェスが仕掛け、ヴィンソンは華麗に乗りこなす。お互い仕掛け合い、呼応し、調和し続けまくる圧巻の演奏。

■Nir Felder / II
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エリック・ハーランド、ベン・ウェンデル、キーヨン・ハロルドなど引く手あまたのギタリストによる6年ぶりの作品。かなりロック色が強く、ポスプロやエフェクターによる音響的なレイヤーのデザインがありつつもポストロック的になりすぎず、かといって非ジャズ的過ぎないという絶妙なバランス感覚。あくまでギタートリオの編成にこだわった感が強く、ライブも見てみたくなる作品。

■Nels Cline / Share The Wealth
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ウィルコのギタリストで、ジュリアン・ラージやクリス・シーリーなどコラボを続けてオルタナティブな可能性を探り続けているネルスの”シンガーズ”プロジェクトもBlue Noteからリリース。パーカッションのシロ・バプティスタや看板のブライアン・マルセラの存在感が増し、電化以降のマイルスバンドのライブを彷彿させる陶酔感とサイケデリックで狂熱的な即興を繰り広げる。

■Brian Marsella / Gatos Do Sul
*サブスク配信なし
前作はマックス・ローチのトリオに一瞬だけ存在した伝説のピアニスト”ハサーン”のトリビュートだったが、新作はブラジルのシロ・バプティスタを交えた本格的なラテンアルバムに。

■Billy Childs / Acceptance
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数多くのミュージシャンがリスペクトを寄せるピアニスト/コンポーザーによる2019年の「Rebirth」の同メンツによる作品。これまでも自身が取り上げてきたラテンのフィーリングが強く出ているのと、コンボであってもオーケストレーションを感じる楽曲や編曲の強さは今作でも健在。エドワード・サイモンらと通じる力強い音楽性。

■Manuel Valera New Cuban Express Big Band / José Martí En Nueva York
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自身のプロジェクト”New Cuban Express”を拡張したビッグバンドのデビュー作。ガレスピーからミシェル・カミロへと続くラテンジャズビッグバンドの発展であり、キューバ独立の英雄であるホセ・マルティの詩を取り上げたコンセプチュアルな作品でもある。その声に動かれてれファビアン・アルマザンが詩を描いたというチリのカミラ・メサを歌声に心を動かされる。デイブ・ダグラスのレーベルGreen Leafからのリリース。隙がない。

■Grégory Privat / Soley
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カリブ海のバルティーク島出身でフランスを拠点にするピアニストによるトリオ作。カリブのリズムを落とし込んだトリオの魅力そのままに、今作では彼自身の歌声がフィーチャーされている。アルメニア出身でヴォイスが重要な役割を担うティグラン・ハマシアンの諸作や、ブラジルのミナスとも通じる素晴らしい音楽性を披露している。

■Kurt Elling / Secrets Are The Best Stories
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次々とUSのアーティストと契約を交わし、年々注目を集めるUKのEDITIONとカート・エリングとも。パナマ出身のピアニスト:ラニーロ・ペレズとの共作で、ジャコ・パストリアスやウェイン・ショーターの曲や、黒人女性初のノーベル文学賞作家のトニ・モリスンに捧げる曲などが並ぶ。ポストECM的なクワイエットでエモーショナルな音像。

■Shabaka And The Ancestors / We Are Sent Here By History
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前作がバキバキのスピリチュアルジャズだったのに対して、彼の別プロジェクト”Sons of Kemet”や”Komet is Comming”との共通点も感じる今作はアップデートでありブラッシュアップに感じる。ヌバイア・ガルシアの「Source」と共にUKジャズの成熟を感じる作品。

■Nduduzo Makhathini / Modes of Communication: Letters from the Underworlds
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上記シャバカのアンセスターズにも在籍していたピアニストがBlue Noteからデビュー作をリリース。スピリチュアルジャズにおけるマッコイ・タイナーや、アフリカ出身のジャズミュージシャンの先駆者だったダラー・ブランドの意匠を引き継ぎた直系のスピリチュアルジャズ。マハティニやギタリストのシブシル・シャバを初めUKのジャイルス・ピーターソン経由で世界的に注目を集めているアフリアのジャズシーンはこれからも目が離せないと思う。

■Antonino Restuccia / Otro Camino
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南米ウルグアイ出身のベーシスト。前作はウルグアイの伝統的なリズムである”カンドンベ”を冠したラージアンサンブルだったが、編成は小さくなってもハーモニーやアンサンブルがブラッシュアップされていてハイブリッドなジャズとして響いている。フィリップ・バーデン・パウエルなど現代のブラジルのジャズシーンと合わせて聴かれて欲しい作品。

■Rejoicer / Spiritual Sleaze
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イスラエルのRaw TapesのボスがLAのStones Throwから早くも二作目。すっかり盟友のニタイ・ハーシュコヴィッツがほぼ全曲でシンセを弾いていたり、自身のレーベルメイトや、LAからはSam Wilkesが参加していたりと、彼のキャリアが自然と結びついた音がなっている。トランペットのアヴィシャイ・コーエンとECMの作品にも進出し、ますます目が離せないプロデューサーになっている。

■Oscar Jerome / Breathe Deep
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トム・ミッシュやマンスール・ブラウンなどUKを代表するギタリストの一人。ダンサンブルで音が重くなりがちな現代のUKのシーン周りで、重すぎず心地よい質感が漂う。ジャズもヒップホップの影響を感じるハイブリッドはギターミュージック。かなり聴きました。

以下はインディー/ポストクラシカル。New Amsterdamをはじめ刺激的な作品が多く、魅了された一年でした。
■yMusic / Ecstatic Science
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■Ryan Lott & Third Coast Percussion / Quartered
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■Sarah Kirkland / Mass for the Endangered
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過去の年間ベストはこちら

個人的には、情報の早さというCD屋の特権もほぼなくなって、音楽の配信開始日には早さ勝負でレコメンドが氾濫する中で、どうやって音楽に向き合うかみたいなことを考えた一年でした。配信日/発売日にとりあえずTwitterで手垢を付ける行為を個人でも店でもほぼやめて(単に生活について考えたり、他の仕事に謀殺されていたからというのもありますが)、一度飲み込んで考えてポップやレコメンドに反映するみたいなことをしてました。その中でセールスも聴かれることも、早さはあんまり関係ないことが分かって、大事なのは言葉や視点などアプローチの仕方なんだなと気づけたことが大きかったです。2021年はもっと良いクオリティでTwitterやnoteを更新できたら良いなと思ってます。

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