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ワーケーション先進地域の白浜町にはなぜ続々と企業が集まるのか?

2023年2月1日(水)〜3日(金)の2泊3日で観光庁のワーケーション推進事業であり、JTB&パソナJOB HUBが企画・運営する経営層向けの南紀白浜ワーケーション体験会に参加しました。
体験会を通じて感じたワーケーション先進地域白浜の特徴や強み、特になぜ企業が続々と白浜にやってくるのか、について考察します。

この記事は以下の方におすすめです。

  • 観光庁のワーケーション推進事業に興味がある方

  • 南紀白浜のワーケーションに興味がある方

  • 経営層向けのワーケーション体験会に興味がある方

観光庁のワーケーション推進事業について

観光庁は、ワーケーションを旅行需要創出の手段として取り組んでいます。また働き方改革や企業の経営課題への対応、地方創生のための取り組みとしても推進をしています。

その中でも今回の経営層向けプログラムでは、企業の経営層にワーケーションを体験してもらって、企業での実施効果を経営層が理解、制度導入に向けた検討につなげることを目的としています。

なお推進事業の背景には、企業においてワーケーション制度の導入が進まない、観光文脈以外でのワーケーション効果を企業に普及できていない、体験機会が少ないという課題感があるとのこと。

観光庁のワーケーション推進事業で実施されるプログラムでは、フリーランス向けや企業人事担当者向け、事業責任者向け、経営層向けなど色々な方を対象にして、複数の地域で実施されているようです。

南紀白浜ワーケーション

南紀白浜空港隣接のコワーキングスペース「オフィスクラウド9」とオーシャンビュー

白浜ワーケーションの推進者で、地域のHUBとなっている南紀白浜エアポート 誘客・地域活性化室の森重室長は、
「世間のワーケーションと和歌山のワーケーションは異なる」
と言います。

一般的なワーケーション:個人の観光+テレワーク
和歌山のワーケーション:越境体験による企業変革ツール

和歌山ならではの生きた地域課題や人と触れ合うことで、日常の勤務環境では得られにくい手触り感のある社会課題の実感や異なるノウハウの出会いによるイノベーション創出、働き方の選択肢の拡大によるエンゲージメント向上を越境体験から得られると。

その結果、「個人のウェルビーイング向上」「企業の人的資本経営シフト」「地域の経済活性化」を同時実現するツールである、と語っていました。

上記は和歌山に限られた話ではなく、企業がワーケーションを実践する上での共通する目的だと思いますが、和歌山は県と民間が一体となってワーケーション推進を率先し、4年間で150社、2,000件超の実践事例から、「地域課題解決型」「ダイバーシティ型」「SDGs型」「DX型」「キャリア型」「健康経営型」など目的に沿って「型」化し、効果を出してきているというのが違いではないかと私は思います。

和歌山県といえば企業誘致を目的とした白浜サテライトオフィスに入居したセールスフォースの事例が有名ですが、セールスフォースはインサイドセールスチームが営業成績を30%向上させたり、NECが空港を中心に地域13事業者+JALと連携した地域まるごと顔認証IoTおもてなしDXサービスを実現するなど、企業によるリアルな効果をいくつも生み出しています

ここ数年、日本中の多くの自治体が企業誘致の手段として、ワーケーションに関心を示し、推進しようとしています。
では、和歌山県の企業向けワーケーションは何が違うのでしょうか?
成功している要因はなんでしょうか?

本記事の後半では、今回のワーケーションプログラム体験を通じて感じたこのあたりのことにも触れてみたいと思います。

経営層向け南紀白浜ワーケーションプログラム

その前にまず今回の南紀白浜プログラムについてご紹介します。プログラムの特徴としては以下の通り。

  1. 白浜の地元企業経営者の講演・対話会(アドベンチャーワールド)

  2. サテライトオフィス進出企業の地域連携プロジェクトの学び(ウフル・NECソリューションイノベータ)

  3. コワーキングスペースでのWORK(オフィスクラウド9)

スケジュールは以下のような流れでした。

<1日目>
午前:移動(羽田→南紀白浜空港)
午後:コワーキングスペース(オフィスクラウド9)でオリエンテーション→地元企業(アドベンチャーワールド)訪問→サテライトオフィス(白浜第2サテライト)見学→地元進出企業(ウフル)訪問→地域の方との交流会

<2日目>
午前:オフィスクラウド9でリモートワーク
午後:地元進出企業(NECソリューションイノベータ)訪問→振り返りワークショップ

<3日目>
午前:オフィスクラウド9でリモートワーク
午後:引き続きリモートワークまたは、地域DX体験ツアー(IoTおもてなしサービス実証)

地域交流や学びのインプットを中心とする前半パートと、リモートワーク体験を中心とする後半パートがあり、参加者も1泊2日の前半組、後半組と、私のような全日程参加組の3グループがいました。

企業向けということで観光地視察やアクティビティ参加のようなコンテンツではなく、地域交流やリモートワーク体験に比重を置いた最近のツアーに多い構成だったと思います。
企業訪問は全員参加が条件でしたので、1日目にリモートワークをする時間がほとんどなく、せめて1,2時間でもリモートワーク時間を取れるようにするか、参加を任意にできると柔軟性が増して更に参加しやすいプログラムになったのでは。

参加者は経営者や責任者など意思決定者の方々だったので、企業規模や業種の異なる目線でのワーケーションに対する捉え方や期待値を知ることが出来たのもこのプログラムの特徴だったのではないかと思います。

1.白浜の地元企業経営者の講演・対話会(アドベンチャーワールド)

株式会社アワーズ(南紀白浜アドベンチャーワールドの運営会社)の山本社長

企業訪問の1社目は地元企業である株式会社アワーズ。
アワーズはディズニー、USJに次ぐ国内4番手のテーマパークである「アドベンチャーワールド」を経営・運営する会社です。
創業一族であり3代目山本社長から、経営で大事にされている「理念経営」についてお話しを伺いしました。

理念経営では企業の軸(理念・パーパス)と自身の軸(理念・パーパス)の重なり合う部分がないといけないということで、「会社とは、関わる人の自己実現の場」という言葉が印象的でした。

理念を浸透させることは難しい

理念共感型の採用制度や、定期的な理念研修を実施し、社内コミュニティやSNSの場を作っても、理念を浸透させることは難しい。
人を変えることはできない、と山本社長は言います。

理念から普段のアクションにつながるよう業務のフォーマットを見直したり、理念の具現化に資する社内アワードといったアシスト制度を用意したりと理念浸透のための工夫点や失敗談を参加者との意見交換の中で語る山本社長。特に今回の参加者は経営者が多かったので、共感する部分も多かったのではと思います。

2.白浜進出企業経営者の講演・対話会(ウフル)

株式会社ウフルの園田社長

地域課題をビジネスに

株式会社ウフルはIoTを中心とした事業を展開する、社員数233名のIT企業です。
先に白浜に進出していて、取引先でもあるセールスフォースに引き寄せられるように、ウフルは2019年に白浜第2サテライトオフィスにオフィス開設しています。

まずはCTOが移住し研究開発拠点としてスタートしていますが、
オフィス開設の同じ年に「手ぶら観光サービスβ版」をリリースしていて、オフィス開設がふわっとした地方創生の探索などという曖昧なものではなく、確実にビジネス上の成果を目的とした戦略であったことが分かります。

そして現在では白浜町を飛び越えて、全国の自治体や地場企業と連携することでスマートシティやデジタル田園都市国家構想に資する事業を展開しています。

和歌山でのユースケース

白浜町では観光ポータルサイトをアプリ化し、地元企業と連携することで二次交通のリアルタイム所在地発信やイベント情報の発信など行動変容を促進するアプリケーションを展開していますが、
白浜町以外の地域課題をビジネスしている例としては、
和歌山市において応急給水ポータル開発や中央卸売市場DX、すさみ町でのドローン物流や検温カメラ、太地町のモビリティプラットフォームなどを紹介。

和歌山県太地町の自動運転車両(引用:ウフル社サイト

人口減少の中で観光・防災の維持をしないといけない、高齢化の中で健康を維持しないといけない、という地域課題にフォーカスした解決策をビジネスとして進めている」と園田社長。

特に太地町の自動運転カートは道路にRFIDを設置し、ヤマハと協業することで和歌山で唯一の定期巡行を実現。今年の4月以降にはリアルタイムな位置情報を病院などの公共期間に設置するオープンサイネージも計画しているという。
 
「健康寿命を延ばすために、高齢者を外に出すために。地域の利用者からも喜ばれている」

これまでは10万人以下の市町村を主なターゲットに、地域課題ビジネスの横展開に取り組んできたウフルは、
これからはパートナリングにより地域DXをプラットフォームしていくとともに、グローバルにも展開をすべくサウジアラビアでのスマートシティ・環境技術分野における業務提携も発表しています。

ウフル園田社長が考えるワーケーションのメリット

  • 非日常の中で視点が変わる

  • 地域の課題が見えてくる

  • ユニークな発想につながる

実はウフルにはワーケーション制度はなく、全社員233名のうち、白浜オフィスに来たことがある社員は50名程度とのこと。
ワーケーションは法的な裏付けが特に無く、個人の捉え方で意味合いも変化するということから無理に制度化することはしていないと。
ただ、園田社長としては、ワーケーションはチームでやることによって仲良くなる、好きになる、共感するといった効果もあるのでポジティブに捉えられていました。

2.白浜進出企業の講演・対話会(NECソリューションイノベータ)

NECソリューションイノベータも2016年(セールスフォースがオフィス開設した翌年)に白浜にサテライトオフィスを開設した初期からの進出企業です。

本オフィスでは、総務省による「ふるさとテレワーク推進事業」の採択を受け、当社社員が移住または長期滞在し、白浜町ITビジネスオフィスに本社機能の一部を移転して業務を遂行するテレワークの効果検証を行います。また、昨年同オフィスにテレワーク拠点を開設したセールスフォース・ドットコム社と共に、白浜町の特性やニーズを鑑み構築した生活直結サービスの更なる展開を行い、当社クラウドサービス事業における協業も推進していきます。
当社は、本オフィスを先進的テレワークモデルとし、地域における継続的な事業の遂行と地域との連携による新たなビジネスの創造を行うことで、ICTを活用した地方創生の実現を目指します。

公式サイトより

テレワークの効果検証を主としながらも、やはりビジネス創出も目的としています。
これまでは積極的な地域交流や社内ワーケーションを受け入れつつ実証実験などを進めてきたと言いますが、今年で8年目になる今でも、新規事業創出の探索が活動の主ということで、地域でビジネスを立ち上げる難しさも少し垣間見えた気がしました。

白浜リビングラボをオープン

地域共創の活動の場として2022年9月に新しく、「白浜リビングラボ」をNECソリューションイノベータの入居する白浜第1サテライトオフィスにオープンしていました。

白浜リビングラボ

木の温もりとメカニカルな床が調和した内装デザインで、キッチンがあり鍋パもできる地域コミュニティの場、と責任者の中尾さん。

アイデアハッカソンや生活者の視点で研究開発している拠点だそうだ。

これまでのオフィスがどちらかというとテレワーク拠点に近いとすれば、こちらは最初から交流を目的とした拠点ということで、地域交流を次のビジネス創出につなげるエンジンにしたい、ということだと思います。

3.コワーキングスペースでのWORK(オフィスクラウド9)

滞在期間中のリモートワークは、主に南紀白浜空港隣接の空港公園内に新しくできたシェアオフィス「オフィスクラウド9」で実施しました。

オフィスクラウド9の中の様子

紀州材など国産材を使ったエコ&温かみのある内装でリラックスしてリモートワークをすることができます。
(ちなみに写真右側の壁の模様は白浜の観光名所、三段壁をモチーフにしたデザインとのこと)

施設外観
施設入り口からは海が見える

白浜サテライトオフィスも第1〜第3まで順調に埋まっているとのことで、オフィスクラウド9は第4のサテライトオフィスとして位置付けられ、
オフィス専用エリアには7室、入居可能になっていました。

また、この施設が最も大切にしているのは「交流によって生まれる新しい発見」ということで、地元の方や出張者などが利用し交流できるようにドロップイン(一時)利用も可能。

特に出張者にとっては、白浜から出発する場合も、到着する場合も、空港から徒歩数分圏内にあるアクセスの良さは非常に便利だと思います。
有料で個室や会議室もあるので、オンライン会議やグループでの対面会議も出来るので隙間時間の調整だけでなく、長時間滞在も出来るのは大きい。

日中はがっつりリモートワークをして、定時後にプライベートで地域を散策する、などの一時拠点としても重宝しそうです。

ワーケーション先ではまだまだWi-Fiや電源など基本的なインフラ設備が整備されていないところも多々ありますが、さらに最近ではオンライン会議が出来る個室やブースも設備に必要な条件になってきていますので、オフィスクラウド9のような施設がもっと増えてほしいものです。

企業向けワーケーションとサテライトオフィスの関係性を考察する

さてここまでワーケーション体験に触れてきましたが、ここで冒頭にあげた問いを振り返りたいと思います。

和歌山県の企業向けワーケーションは何が違うのでしょうか?
成功している要因はなんでしょうか?

問い:和歌山県の企業向けワーケーションの違い(特徴)は何か?
考察:県の企業誘致のためのサテライトオフィスPRのサブセット

筆者作成

そもそも白浜のワーケーションはセールスフォースのサテライトオフィス入居をきっかけに和歌山県が事業化したことが始まりです。そこからNECソリューションイノベータやウフルも入居し、三菱地所がワーケーションそのものを事業目的としてワーケーション施設を開設しました。

参考:ワーケーション年表を以下の記事で紹介しています。

企業にはなぜその場所に行く必要があるのかという明確な目的が必要なため、自然や景色、観光要素だけでは来てくれません。
研修や合宿も一時的なものになりがちです。
白浜町の場合は、旅行や出張の一時的な滞在だけではなく、地域密着型のサテライトオフィスを起点としたワーケーションのエコシステムが出来ています。
そしてその企業活動の拠点としての成功事例を、うまく「ワーケーション」というキャッチーな言葉にラッピングしてマーケティングやプロモーションをしているのです。

問い:成功している要因(強み)は何か?
考察:官民一体となった活動と、強力な地域コーディネーターの存在+距離

最近では企業誘致の手段としてサテライトオフィスに力を入れる自治体も多いですが、その中でも和歌山県が成功している要因(強み)のひとつとしては、官民一体となった活動がまずはあげられるでしょう。

和歌山県は2017年のワーケーション事業開始から積極的に広報活動を推進し、オフィス見学やワーケーション関連のイベントでの情報発信も積極的に行ってきました。また2019年にはワーケーション自治体協議会発足を長野県とともに率先しています。

合わせて民間としては南紀白浜エアポートの存在が大きい。
南紀白浜空港は2019年に民営化され、株式会社南紀白浜エアポートによる運営が開始されました。

その中で誘客・地域活性化室の森重室長のミッションとしては、企業ワーケーションこそが、オフシーズンの空港利用者を増やし、ひいては空路の増便につながる可能性のある手段に映ったのです。

森重さんは約2万人の白浜町民全員と出来るだけつながりを作るべく、日々出掛けていって交流をしていると言います。
会う人は農家の方もいれば小学校の先生もいれば様々という。
この多様性とネットワークの広さ・深さと理解があるからこそ、地域外から来た企業を紹介するときも地域の課題と企業のマッチングが的外れにならず、的外れにならないから不信感や警戒感を持たれずに受け入れられる、という好循環を生み出しているのだと思います。

これは企業ワーケーションに限ったことではないですが、ワーケーションが盛り上がっている地域には、こうした強力な地域コーディネーターが必ずいます。
旅行関係の方もいればコワーキングスペースのコミュニティマネージャーの方もいれば、スナックのママ的な方もいて業種や職種は様々ですが、
「その人に言えば(その人を介して)、つながる」
というような地域のHUBとなる人がいるかどうかがポイントとなります。
白浜町で言えば、森重さん。または和歌山県職員でワーケーションを担当する坂野さん。
こういった地域コーディネーターが行政にも民間にもいてワーケーションを推進することが、最重要ポイントではないかと感じます。

また内のコミュニティだけでなく、外のコミュニティとのコーディネートも大事で、
特に企業向けをターゲットにする場合は、法人チャネルに強い事業者とのネットワークがないと、誘客は難しい。
今回、私はパソナJOB HUBさん経由でお声がけいただき参加しましたが、企業向けの場合はターゲットが明確であることからそういった人脈や顧客リレーションがある事業者との関係作りができていることも、和歌山県の強みではないでしょうか。

あとやはり距離的優位性はどうしてもあります。
南紀白浜空港は羽田空港から60分で到着し、各サテライトオフィスへも車で5分〜10分の距離にあるというのはやはり強い。前後の移動時間や待機時間を考慮しても2時間少しあれば到着するくらいの心理的・物理的近さが東京に対しては、あります。
仮に白浜に拠点を設け、たまに東京に出張するという頻度であれば全く苦にならなさそう。

一方、大阪からだと車でも鉄道でも4時間弱かかるため、めちゃめちゃ遠い距離感があり、東京以外からのワーケーションにおいてはハードルになるかもしれません。

最後に(観光DXとピラミッド)

最後に、申し訳程度に地域実証事例であるIoTおもてなしサービス実証のご紹介。

ホテルシーモアの受け付けにある顔認証。実証対応の客室ではキーレス利用ができる。
DXとは関係ないがホテルシーモアの無料足湯や日帰り可能な温泉は眺めが最高です。
観光名所三段壁の顔認証によるキャッシュレス決済。
三段壁の洞窟内(DX関係ないけど)
クラフトビール「ナギサビール」工場のキャッシュレス決済も顔認証可能
ワーケーションツアーに全然関係ないですがとれとれ市場から見えるピラミッドぽいもの
(実は近隣ホテルのレストランらしいです)

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