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連作短歌

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#現代短歌

連作短歌「詩と息」(12首)

コンビニを出れば夜。このコンビニは卒業したら来ないコンビニ いきものの夜の星座のしずかさの川の蛇行の夜のいきもの 虫時雨おおきなあくびをしたあとに君とみおろす北斗七星 ゆめのなかでゆめをみているゆめをみた他人に興味がないのがばれた 遠い窓 座っていると見えなくて立つとほんのり匂う木犀 水筒のフタがコップになるようにいまも天真爛漫ですか 後ろから読む短篇集そのように昨日と今日が全く違う 埋めるのはかんたんなこと満たすのはむずかしいこと 花を買わない 風化してしま

連作短歌「メンスト」

メインストリートのことをメンストと呼ぶのもなんか許せなかった 二階から入って一階から出れば昨日と同じ人が立ってる 自信あるふうに話せばだいたいはなんにも考えなくてもいけた 人類学の講義を受ける元カレも今カレもいる大教室で 水筒にコーヒー入れているけれど水ですよって噓ついちゃった 新横浜駅の円形歩道橋みんなハッピーで終わる昼ドラ 地震の揺れ、そのうえを走る電車の揺れ、そのなかにフリーターである俺 雪の絵の紺色きれい ごめんなさい在廊時間は避けて来ました 木綿でも

連作短歌「共有」

夜光る宮下パークの階段の前の横断歩道の体温 夜更かしを自由さみたいに言ってくるやつと結婚したらだめだよ 半袖で東横線へ消えてゆく夢から夢へ乗り継ぐように

連作短歌「倫理」

ともだちの少ない人にありがちなジェラシー的なものの苦手さ きらわれてゆく快楽を認めつつサラミを舐めてきらわれてゆく 合理的だった世界のひびわれをすみかにしよう首をすくめて

連作短歌「起伏」

京都タワーの良さを語っている人に隠してしまう生まれた土地を むずすぎてむずいですって言ってしまう棄てられている姿見に雨 不安定さという言葉だせなくて遠回りしてしまった論理

連作短歌「もしもし」

友達の友達からの着信を一旦スルーして掛け直す 優しさに取られるように好き勝手やってるように見られるように 風呂上がりなのでといって待たされているベランダの悪くない風

連作短歌「めもり」

憶えてるときははっきり憶えてるって言ってくれなきゃ泣いちゃうからね 記憶力に自信があったはずだったわたしをこえて振り向くあなた おにぎりの海苔がぽろぽろ夜中でも明るくなってしまってからも

連作短歌「むかつかれてみる」

俺ならば自慢するしか有り得ないところが触れてはいけないところ 届かない想像力のその先を生活の場としている日向 一か月くらいのうちに複数のズレがうまれて希望と違う

連作短歌「みえっぱり」

きみ君きみ君が出てくる毎晩の夢で全然なかよくなれない どんなことだっていいから中華屋で自慢話をきかせてほしい 天袋あけるのこわい わたしには私のことがよくわからない

連作短歌「まくらもと」

そうなったからこうしてるという説明を夢のあなたに聞かせてもらう あまりにも素朴でクールな返信に普通そうだよねと思い出す すでに不利そうなルートを走りつつあるような気がするディスプレイ

連作短歌「空回り」

終わらせてこれでいいって思い込む技が熟練化してきている 気になっているというのが危なくて 勘違いってくるくるまわる 姓が同じとか名がアナグラムとかこういうことってなんで起こるの

連作短歌「異常震域」

非対称的な興味の持たれかた自体が心地いいということ 言葉いらんって思えている人へ 走る時だけ出る声で歌う 何人もの俺が散りばめられているこの島に空 むらさきの空

連作短歌「三年」

世間知らずなボクだけど三年が一瞬なことはわかってきたわ ご無沙汰な人の日記をひょんひょんひょんひょんなことから読んでしもうた もうちょっと男に刺さる歌とかも作ってみたいような気がする

連作短歌「蛹」

詩歌系の友だちとして再定義されてゆくから男も愛す 喧嘩して仲直りして的なやつ誰かやり方教えてほしい 俺だけが溶かして解してあげられるはずという久しぶりの誤解