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連作短歌

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2021年4月の記事一覧

連作短歌「悪」

悪いことしているような緊張の感じがひさしぶりの徘徊 悪いことばかりじゃないよ連休の初日に手洗いするデニムシャツ 悪戯な歌詞を綴って埋めておく だれかが曲をつけてくれると

連作短歌「そんなわけがない」

すこし早いですが本日はここまで ボトルシップが割れてしまった 言い方がぜんぶ違うねあなたたち言いたいことはおんなじなのに 満杯のごみの袋を捨てるときみたいにそれを強く結んだ

連作短歌「彼はガソリンを入れた」

人格みたいなものが形成されていて気持ちが悪いきもちがわるい 高台のサービスエリアから電話してきてソフトクリーム自慢 個室にこもる個室にこもる個室にこもる三回唱えて個室にこもる

連作短歌「ショートケーキの降る夜に」

とけあってそれからふたり地上ゆきエレベーターよ無限に昇れ 甘すぎる文庫本からはみだした絵と字と写真、ずっとなでてよ マジカルのジがヂだ それは愛っぽいなにかで一万年の暗号

連作短歌「あの感じ」

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの帰り道ポムの樹でオムライスを食べる 壁を見る 心臓がキュッとなるような空模様 わかる 夜の不安さ  ベージュしか塗らない爪の、さっきから隣りで黙っているだけだけど

連作短歌「上の空」

広島に緒方と尾形がいたころの友だちみんな結婚してく 人を喜ばせるのが得意になってぼーっとするのが苦手になった 帰り際、駅まで一緒に歩くやつ、やりたくなったといって呼ばれる

連作短歌「恋人は三人称」

セックスを「したくなくて」足がふるえてる「したくて」ならば定型なのに 調律が狂ったままのレがあって悲しいことの引き金になる 「必ず」という口癖が気になっておそらくそれで別れてしまう

連作短歌「Emerald」

物語が破綻してくる瞬間に立ち会えていて逆にラッキー いい匂いがするのは単にいい匂いのするものを塗り込んでいるから エメラルドグリーンのセレナ停まってるここに来るときいつも土砂降り

連作短歌「スケッチ」

あなたから影響された性格がわたしの中にはまだあるのかも あのときなぜ四国旅行にいったのか憶えてなくて電話をしたい 耳鳴りを聴かせてあげる くっついて 昔のことでひとつ噓つく

連作短歌「話しかけたかった」

霧の中で眼鏡を捨てる僕は君に話しかけられないままだった 青い服着ている君に近づくとナショナルジオグラフィックのパーカ 死んじまってからの時間は早かった思い出とかも特にほとんど

連作短歌「テレスコープ」

靴下のつるっとしてた質感が妙にリアルでかなりエモいな 皮膚と皮膚 気持ちと気持ち 遠くから来てくれたから今日は優しく コンタクトレンズを捨てて水を飲む 優越感は譲ってあげる

連作短歌「セントジョンズ」

夕方の赤い星たち数えつつ無意識に撫でてあげてた背中 祝われて泣きそうになる恋なのかこれが好きってやつなのかしら ハイウェイをひた走るとき轟音に掻き消されゆく、さよなら、またね

連作短歌「スクリューボール・コメディが好きだった」

仲直りしてみたいからまず喧嘩してみませんか、とかおもってた 僕が立って君が座ってする会話 どんどん人が降りてくバスで 離れれば離れるほどに強くなる遠心力のなかの泣き声

連作短歌「アリススプリングス」

抽象的なものとは何かと考えていたら何もなくなった シャワー浴びながらが一番思いつくあとはそれをどう憶えておくか お土産にくれた木製ブーメラン全然うまく戻ってこない