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連作短歌

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2020年8月の記事一覧

連作短歌「派手じゃないけど」

月の低い夜に口ずさんでいたのは君だったっけ僕だったっけ この夏の終わりを言祝いでいたよね派手じゃないけど僕たちなりに 何度でもきかせてほしい 何度でもハモったねってよろこんであげる

連作短歌「固有名」

固有名ひとつも出さずに会話する はやく二時間終わらないかなあ 水を差す、そう水を差す、晴れすぎて誰も来てない公園に来て 公園に公園に来て居ないけどそのころ私はもう居ないけど

連作短歌「もういちど会う」

もういちど会いたくさせてよ弱いセリフなんか言ってたね忘れちゃったよ 一年で髪短いしタバコやめてるし痩せてるし  髪、似合ってるし この風はもしや秋かも鴨せいろ一緒に食べた遠くでちかくで

連作短歌「未体験のこと」

からだからぬるぬるとした液体がいらないものなりのひかりかた くらやみのなかでだれかに触れられるように聴こえてくる愛という 香水の色を眺めて本来の心身なんてもうわからない

連作短歌「水色のライター」

ふえすぎた約束のように輝きを湛えて海に二度目の冬は あの頃の手癖も三十日経てば完全消去される必然 魔法かと錯覚したよでもあれは君が持ってた水色のライター

連作短歌「プライベーツ」

先客がいるとちょっぴり悲しくて朗らかすぎる男と暮らす 私には二人しかいないようなひとが十人ぐらいはいるのだろうな さよならの数歩手前の約束をずっとしている喫茶しらはま

連作短歌「コーデュロイ」

秘密基地つくったりした公園の近くに今もまだ住んでいる こんなにも親しみのない地下鉄を思い出としている人もいる 静電気たまるばかりで愛がないスカートは嫌いだから履かない

連作短歌「すぐ飽きないでよ」

奨学金を海に浮かべてさようなら文字通り汗をかきつつ生きる まだこんなところにいるよ トポフィリア 早い者勝ちにはいつも負け 古着屋のださいTシャツひらめけば東京に来るまえの表情

連作短歌「モンブラン」

食べるのがもったいないと言いながら君が崩してゆくモンブラン ティーバッグ持ち上げる指やさしくて君は生まれて夕焼けが好き 梅雨明けの夜風あまくて君とだけ共感できていればそれでいい

連作短歌「湿り気」

真剣に観ているきみの肩越しのドラマがぼくもちょっと気になる 何故こんなことをしなくちゃいけないのとか言ってたら時間が過ぎた 湿ってるような感じがすこしありそこから先は覚えていない

連作短歌「真夏日」

夏の夜の七時半とかそのくらい少し笑っている顔が好き 会ったことなかったのにさ見た瞬間それが君だとわかったんだよ ローマ字で鶯谷と書いてありちょっと嬉しくなった真夏日

連作短歌「ヒッヒッヒ」

暑いねえ現代人である俺はクーラーキンキンわーいわーい すこしずつ俺が勢いづいてきた頃に飽き始めているお前 栞として使用してきたキラキラのお菓子のおまけのシールなくした

連作短歌「🐦」

信じるよ君の絶対音感を いまの信じるよはどうだった? 音が涼しい、みたいなことをすんなりと言われてそれきり忘れられない 夜なのにアイスコーヒー飲んじゃおう あざといくらいに鳴る波の音

連作短歌「帰ろっか」

まだこんなにあるのにいつか底をつく日のことを考えてしまうな 別にお酒を飲みたいわけじゃないので昼にどっかのカフェで会おうよ ねえちょっと散歩してから帰ろっか なんだかんだで君くらいかも