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『心理学を遊撃する』

書籍情報

研究が再現されない,だと!? 心理学の屋台骨を揺るがす再現性問題が勃発。どのような課題があるのか? 攻略する糸口とは? 心理学はこれからどうなるのか? チャンスをうかがい試行錯誤しながら,さまざまな課題にアプローチしていく1人の研究者の冒険活劇(ドキュメンタリー)。

上記リンク先より

なぜ読んだか

心理学において再現性の危機が叫ばれ、有名な実験も再現ができずに問題になっていることは知っていた。そんな中、この本をXの誰かのポストで知り、面白そうだったのと、再現性の危機問題についてもう少しちゃんと知りたいと思い読んでみた。

記憶に残ったこと

本書全般にいえるのは、著者のちょっとちょけた文体である。
問題自体には非常に真摯にむきあいつつ、それを単に堅く語るわけではなく面白い例えや小噺を挟むことで、心理学を学んでいる訳ではない私でも読んでいて飽きない内容になっている。

有意性ハックする方法

本書では統計的有意性をハックする方法も最初に紹介される。
P値ハッキング、チェリーピッキングなどよく聞くものから、HARKingといった聞き馴染みのないものまである。
HARKingとは「有意な結果を知ったあとで、それに都合のよい仮説をあとから作る」ことらしい。
中国ではこういうのを「事後諸葛亮」と呼ぶらしい。(なかなかおもしろいスラングw)

構造の話

著者は単純に「再現性のない研究はけしからん」などとだけ声をあげるのではなく、その状態が生まれてしまう構造自体をきちんと分析している。
研究者の評価の力学から始まり、追試をやることのインセンティブのなさなどそういったものに向き合いつつ、どう打開するかを真剣に考えていることが伺える。

所感

これは勉強になった。
学術の世界の論文も、何も考えずに信じられるものではないということも改めて実感できたし、それが発生してしまう仕組みレベルの問題も少し垣間見ることができた。
そして何より、この筆者の文章はポップで面白かったので、読んでいて単純に楽しかった。問題を不適切にわかりやすくさせたポピュラーサイエンスっぽくしないで、こういった形で難しい部分をそのままにしつつ、その語り口調で敷居を下げたような本は有意義だと思う。

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