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文科系のための情報科学 授業資料(5)

道具としてのコンピュータ

ここからのテーマは、
「コンピュータは道具である」
ということです。

コンピュータは、人間がそれを使って、人間ができないことをやる、あるいは人間の能力をより拡張するような「道具」です。
道具にもいろいろ種類があって、機械製品として造られているものも、基本的には道具ですが、他にも文具や遊具、調理器具など、「具」という言葉が付いているものは、全て道具でしょう。

まず、機械製品として考えてみます。
コンピュータよりも馴染みのある機械と、コンピュータを比較してみましょう。

例えば、冷蔵庫はどの家庭にもあると思います。

・考えてください。
コンピュータと冷蔵庫はどう違いますか?

この授業は、「情報科学」ですが、例えば「冷蔵庫科学」という授業は聞いたことないですよね。
コンピュータは学ぶことが多くありそうですが、冷蔵庫はまず学ばないのは何故でしょうか。冷蔵庫だって、相当すごいことをやっていますよ。

冷蔵庫

冷蔵庫は、冷やすという機能しか持ちません。ですので、誰が使っても冷蔵庫です。お母さんが使うと、冷蔵庫は電子レンジになるなんてありえません。
しかしコンピュータは、人によって使いみちが違いますし、何より使う人のスキルによって、機能が変わって行きます。

〇リテラシー

コンピュータは、使う側の人に、ある一定の能力、スキルを必要とします。
一般に、道具を操作するスキルのことを、「リテラシー・Literacy」と言います。

Literacyという言葉ですが、読み書きの能力、識字能力という意味ですが、常識という意味もあります。接頭語の[LIT][LITE]は、[letter] を語源とするもので、文字に関係する言葉になります。
例えば、literatureは、文学、文芸を意味します。

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特にコンピュータを操作する能力のことを、コンピュータリテラシーや情報リテラシーと呼ぶことが、一般的です。
これらの内容は、深めて考えませんが、タイピングの能力から、ネットワーク、SNSの使い方まで、いろいろな考え方があります。

・小課題です
あなたにとって「コンピュータが使えること」とはどういうことを意味していますか?
つまりあなたの「情報リテラシー」を定義してください。

さらに考えてもらいたいことがあります。
何故、コンピュータは「リテラシー」を必要とするのでしょうか?
このテーマについて、しばらく考えていきましょう。

他にリテラシーがいる道具には何がありますか?

大きく2つあります。
  ①道具として単純な場合
  ②複雑な道具の場合
の2つです。

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まず、単純な道具の場合です。
例えば、箸、刃物、鉛筆などは、道具として余りにも単純な構造を持っているので、人間の能力によって補う必要があります。

例として、箸について考えてみましょう。
あなたはお箸をきちんと持って使えますか?
使えない子供はたくさんいます。習得するまで、相当な時間を掛けているはずです。

・考えてください
「箸」はなぜ「使いにくい」のでしょうか?
箸は、なぜそこまでの時間を掛けねばならないのでしょう?

箸は、モノを掴むということに対して、道具の構造が単純過ぎます。
果たして2本の棒を見て、その機能を想像するのは容易でしょうか。
ですので、習得に時間が掛かります。
但し、箸は利用目的が限定的で、操作の仕方が、ずっと変わりません
おそらくこれからも長い時間、箸は食事を中心に使われて行くはずです。
ですので、端的に言えば、労力を掛けて学ぶ価値があるということになります。

コンピュータは、利用目的が限定的ではありませんし、操作の仕方は、どんどん変わって行きます。前にも述べたように、今はキーボードが操作の主流ですが、元々コンピュータのために生まれたものではありません。そういう意味では、箸とは違います。

後者の、複雑な道具の場合でも、いくつかの種類があります。

道具そのものが単純ではない場合、例えば機械などは、確かに操作能力を必要としそうです。
①大型機械など、機械の機構そのものが複雑な場合
まず能力は必要です。
工作機械や建設機器などは、普通の人間では操作はできないでしょう。

②機械の使用状況が複雑、危険な場合
例えば自動車や飛行機があります。
自動車で言えば、おそらく運転操作自体はそれほど難しくはないでしょうが、公道を走るという場合には、危険性が増加します。

要するに、
①機構が複雑(大型機械など)
②使用状況が複雑、危険など(自動車、飛行機)
の2つの場合、確かにリテラシーを必要とします。

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コンピュータは、今は決して大型機械ではありませんし、機構自体はそれほど複雑と言うわけではありません。さらに、使っていて危険なことなどはありません。

もう一つ、複雑な道具には、③操作部と機能部が分離しているモノがあります。具体的に人間が操作をする部分と、その道具が実際に何か機能を果たす部分が、違う場合です。

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道具としてのコンピュータの最も特徴的な点は、ここにあります。
道具を直接操作する部分を、インタフェースと呼びますが、その操作が、必ずしも道具の操作に結びつかない道具のことです。
箸は、操作をする部分と機能する部分は、一本の棒の両端にあります。
握るという操作は、そのまま箸を操作することに結びつきます。

しかし、コンピュータの場合、キーボードのタイピング=コンピュータの操作ではありません。自分の操作が、どう機能して行き、どういうことが行われるのか、知識として持つ必要があります。
さらに、その操作はどんどん変わって行きますので、ここではモデルの必要性を示しました。

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〇教育とマニュアル、デザイン

このように、リテラシーを必要とする道具が使えるようにするためには、3つの手段があります。
  ①教育
  ②マニュアル
  ③デザイン
の3つです。

まず教育という制度があります。
例えば、包丁は明らかに使用者に能力が必要です。危険性は高いですし、道具としての機能も単純です。そのために、誰かから教わることがありますし、料理学校なども存在してます。
その道具を教える学校を想像した時に、違和感がない場合は、リテラシーを必要とすると言っていいでしょう。
コンピュータの学校はあり得ますが、冷蔵庫の学校はあり得ないでしょう。

もう一つの手段には、マニュアル、説明書があります。
マニュアルに関しては、広くその道具の操作を記述したものですが、以下のことを考えてみてください。

①最も少ないマニュアル(説明書)には、どの道具の何がありますか?
②逆に最も多くのマニュアルのある道具は何でしょう?

図を見てください。これは過去、本授業の履修者の方が指摘してくれたもので、ペンに付着している説明書きです。確かに、これは道具の操作を記述したもので、マニュアルと言っていいでしょう。

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そう考えると、例えば、この写真に見るように、レバーやドアノブの横などに書かれている説明書きも、マニュアルと言えるかもしれません。

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多くのマニュアルがある道具としては、機能が複雑なものは確かに想像が付きます。
有名な話ですが、1970年代に、米海軍で文書の電子化が進められたそうですが、艦艇に搭載する紙マニュアルがあまりに多く、重すぎるからとのことだったという話があります。
最近では、2011年に、ユナイテッド航空では、パイロットが使用する運航マニュアルをすべて電子化して、iPadに置き換えると発表したというニュースがありました。

ネット上には、そのニュースが残っています。

「従来は1人のパイロットが平均で12,000ページ、約17キログラムもの運航マニュアルを持ち運んでいたという。約700グラムのiPadに置き換えることで、年間約123万リットルの燃料節約になり、紙の使用を年間で約1,600万枚減らすことができる。これは約1,900本の木に相当するとのこと。」

だそうです。

このように、道具の機能や規模に従って、マニュアルが多くなるのは当然ですが、実は、もう一つ多くのマニュアルのある道具が存在しています。

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想像付きにくいと思いますが、それは電話です。
携帯電話でも固定電話でも、何も操作説明を必要とはしていないと思うでしょうが、そのまま操作できますか?
電話番号がわからなければ、通話はできません。
その情報を持っているのが、電話帳です。電話帳は、電話を操作するために必要とするマニュアルと言っていいでしょう。

もう一つ、この図を見てください。

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例えば自動車のノブは、手を差し込んで手前に引くというのは、説明が無くても操作が出来ます。
先ほどの、最も少ないマニュアルを思い出してほしいのですが、ここには「引く」と書いていなくても、誤操作はしないと思います。
これは、デザインによるリテラシーの支援の例です。
この3つの手段によって、道具を使うために必要とするリテラシーを、低下させて、使いやすい道具にしていると言えるでしょう。

では、コンピュータのリテラシーについて、より詳しく考えてみます。


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