Webとマーケティング 授業資料(12)
改めてペルソナ
前回、ソーシャルメディアから特定の人を選んで、その人の繋がりを抜き出しました。その人をペルソナと考えるわけではなく、ペルソナを作るためのリサーチをするための起点と考えるわけです。
そこから、その人を含んだデモグラフィック属性を持った人々の繋がりを追いかけて、そのクラスター(広義です)の情報を集めていくわけです。
単純にその人のソーシャルメディア上の情報を収集、分析しても、例えば一人の女子大生のストーカになってしまうのは、以前述べた通りです。
そこから抽象化をしてペルソナ化をして行きます。ソーシャルリサーチをしてペルソナ作りをする理由は、マーケティング活動に適用することにあります。
ペルソナ設定の意義を改めて確認しておきます。
言うまでもありませんが、販売側B側は、消費者側Cのことを全て理解しているわけではありません。特に現代は、多くの商品と多くの情報が溢れ、多様な価値観を持った人々が、自由意思で消費活動を行っています。
恐らく、売る側としては「物はいいはずなのに、どうして売れないのだろう?」、「いい商品・サービスが思いつかない」、「そもそも商品が売れない」等々、我々消費者としても想像できるような疑問を持っています。
そのために、B側ができる解の一つとして、顧客をより深く、具体的に理解するための策を講じるということが考えられます。
現代社会では、様々な人々がいますので、我々は効率よく情報処理を行うために、ステレオタイプを利用します。
例えば、以前炎上したCMの例を上げましたが、そこで扱われているステレオタイプが、反感を受けたということでした。ステレオタイプと言えば、かなり極端な例に思えますが、むしろ「一般的イメージ」と言った方がいいかもしれません。
それが炎上したりしてしまうということは、とりもなおさず消費者の多様性を意味していると言えるでしょう。
つまり、ペルソナとは、ステレオタイプ、一般的イメージではなく、顧客を理解するための手法だと言えます。
その製品を買い、それによって何かメリットを得ることができる人は誰なのか?、それをマーケティングの世界では「ペルソナ」と呼んでいるわけです。
その前提として、「その人に好かれる」イコール「売れる商品」という仮説、仮定があります。
そして、ここも重要なポイントですが、ペルソナに設定した人以外に訴求しなくてもそれを「売れない商品」とは考えません。
ペルソナ作りに関係しそうな問いかけには、例えば以下のようなものがあるでしょう。
属性:
何を勉強しているの?
通学時間はどのくらい?
家族構成は?
どういう友達がいるの?
恋人はいるの?
どこに住んでるの?
故郷はどこ?
行動:
平日と休日は何をしているの?
放課後は何している?
明日は何するの?
最近観た映画は?
最近どこに遊びに行ったの?
誰と行ったの?
アルバイトはしてる?
新聞は読んでる?
テレビ、何時間くらい見てる?
趣味は何?
どこからどのくらいの収入を得ているの?
貯金はいくら?
興味関心:
最近楽しかったこと、嬉しかったこと、ムカついたこと、悲しかったことは何?
何に興味を持っているの?
大事なことって何?
好きなテレビ番組は?
どんな本を読んでるの?
どんな音楽が好き?
趣味は何?
好きな食べ物は何?
お酒は飲むの?
最近何を買ったの?
将来何したいの?
自分に一番影響のあったできごとって何? 等々
これを特定の人に対する問いかけと考えると、まさに好奇心でしか過ぎず、ストーカー一歩手前に見えてしまいますが、実は本当にB側が知りたいのは、
✖✖という商品は欲しい?
✖✖という商品をどう思う?
という問いに尽きるはずです。
しかしそれをダイレクトに問いかけたとしても、企業側に有益な回答は得られないでしょう。その商品をどう思うか、欲しいかどうか、それでは、その商品だけのことしかわかりません。
B側としては、どういう属性を持った人が、どういう理由でその商品に対してそう思うのか、少なくともそういったことが、本当に知りたいことなはずです。
リサーチによって「どういう行動をするか」がわかっていくわけですが、そこから「どうしてそういう行動をするか?」を導き出していくわけです。
ペルソナを用いた商品開発の成功例は、様々に公開されています。
ここでは、以下のサイトでも取り上げられていますが、あるビールについて示します。
星野リゾート代表が創業したヤッホーブルーイング社が2012年に発売した「水曜日のネコ」というビールがあります。
最盛期は1週間に8000ケースも売上げ、現在でも定番商品の地位を占めています。
同社は、女性向けのホワイトエールとして開発するにあたって、以下のようなペルソナ作りをしたそうです。
ペルソナ化:
・30歳前後の女性
・責任ある仕事をこなすOL
・休日は朝からヨガ
・住まいは東横線、日比谷線沿い
・駅は中目黒、自由ヶ丘
・独身又は既婚で子供がいない
・お酒や美味しいもの好き
・ファッションや持ち物の拘りが強い
・帰宅してお酒を飲んで素になる
・雑誌はOggi, Ginger, Crea
こうしたペルソナから、「世の中に影響力がある、30歳前後のオピニオンリーダーの女性」をターゲットとし、彼女たちが「仕事終わりにオフタイムでリセットするビール」として商品開発を行いました。
実は、リサーチ結果として、そもそもこのような人物像は、普段あまりビールを飲まないというとが明らかになったそうです。
普通、こうした場合マーケットは存在しないと考えがちですが、以前データの見方でも述べましたが、データが存在しないということの意味を考える必要があります。
「普段あまりビールを飲まない」のならば、そこには手を付けていないマーケットが存在する可能性があるとも考えることが出来ます。
こうした、開拓がなされていないマーケットには、もちろん競争相手もいないため、もし市場の開拓に成功すれば、大きなシェアを獲得することが出来ます。
こうした競争のない未開拓市場を「ブルー・オーシャン」と呼びます。それに対して、既存の競争の激しい市場を「レッド・オーシャン」と呼んでいます。
こうした市場開発に纏わる競争手法である「ブルーオーシャン戦略」は、欧州経営大学院のW・チャン・キムらにより提唱されており、旧来のマイケルポーターによる競争戦略に、新たな視点を付け加えたものと言えます。
ブルーオーシャン戦略では、商品から何かを「減らす」あるいは「取り除く」、特定の機能を「増やす」、新たに「付け加える」などによって、企業や顧客に対する価値を向上させる「バリューイノベーション」と呼ばれる手法が必要となります。
このビールでは、「週の真ん中で一息入れるためにリフレッシュする」というコンセプトで、週末ではなくあえて水曜日という要素を付加します。そこから、翌日の仕事に差し支えないように、アルコール度数や味覚が軽めという品質が明らかになって行きます。
さらにリフレッシュをするものとして、女性がホッとするものであろう「ターゲットの心を動かす」ものを考えると、このペルソナから、キャンドルやアロマ、自然、そしてネコが思いついたと言われています。確かに、ネコが採用されているビールは見当たらないので、採用されたそうです。
これは、ペルソナから導き出された、見事なブルーオーシャン商品開発の例と言えるでしょう。
ペルソナ作りと、その根拠となるリサーチデータの収集は、決して単なる好奇心などから行うわけではありません。ある学生が、ソーシャルリサーチを、「下心があったらアウト」とか抜かし、いや言っていましたが、そもそも学問や経済活動に下心などという概念を持ち込む方が誤っています。
収集するソーシャルメディアユーザのデータは、個人に対するプロファイリングではなく、それを抽象化したペルソナに対するプロファイリングとして行っているということを理解してください。
女子大って、めんどくさい。
では、人の繋がりの性質を掘り下げていきましょう。
※トップ画像は、「ビール」をテーマにした「いわあゆ」さんの写真をお借りしました。飲みたくなるような写真が気に入っています。感謝申し上げます。
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