僕の彼女はミノムシvol.5ミノムシの能力

土曜日の午後、僕は持ち帰った仕事の資料作成をしていた。今日は雑用がはかどるジャズ、ジブリの「風と森のジャズ」がかかっている。ありがたい。

まだ夏の日差しが残る中、秋のひんやりとした風も吹いてきた最近。今日は台風18号が接近していて、室内も長袖で過ごしている僕。

僕の部屋のチャイムが鳴った。ミノムシが蓑である布団から出てテレビインターホンに出てくれた。

『はい』

画面には初老の男性と、その後ろに真面目そうな顔をした男の人が立っていた。

「セールスではないんですけれどね、聖書のご案内なのですが」

『ご苦労様です。うちは結構ですので』

「奥様お忙しいと思いますが、一分間のビデオがあるのでそれだけでもご覧になっていただけませんか」

『すみませんが、家事をしている間ですので』

「丁寧にありがとうございました。失礼します」

『ハイ、失礼します』

画面が消えた。

僕はミノムシに聞いた。「そのセリフ、どこで覚えたの?」

『お母さんが、うちは結構です、って言っていたの。それだけじゃ引き下がらない人もいるから、発展させたの』

ミノムシはお母さんのことを「よそ行きがうまい人だったの」と言っていた。ミノムシがどんなつもりであるにせよ、それは本当は誉め言葉だ。複雑な親子関係だったにせよ。

「ねぇ」僕は声をかけた。

『何?』

「今度一緒に服見に行こうか」

『えっ!?いいの!?』

「君が服断るところ見てみたい」

『えっ。買っちゃダメなの』

「どうやって買うんだよ。今月あとは食費しか残ってないんでしょ」

ミノムシは財布を二つ持っている。食費用と、その他日用品、美容、御小遣い。しかし、月の半分で、食費用の財布しか持ち歩いていない。

ミノムシはおしゃれである。どこでそんな服を買ってきたんだ、というようなものを持っている。ハイブランドには手が出せない。ブランドにも手は出せない。駅ビルに入ってるアパレルメーカーでちらほらと買っているようだけれど、流行りを追ってるわけでもない。今のやり取りを聞いていて、ミノムシが時々話す、「仲良くなった店員さん」のお店で「見るだけにしてきた」というのをどうやって断っているか見てみたくなった。

ミノムシは「私仕事できないもん」というけれど、昔みたいに"不器用すぎた葵ちゃん"から脱出した今の『ミノムシ』だったら、コミュニケーションの取り方で、仕事そのものはできなくても、何とかやっていける気がする。

がんばれ、ミノムシ。道のりは長いが、いつかは社会復帰をしよう。

それか、ミノムシのかく、絵か、詩で仕事ができるといいね、ミノムシ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?