ととのいの爆弾(2)

前回までのあらすじ

 大学時代のサークルメンバーたちに、目的も告げられずに静岡県清水市に呼び出された俺。謎のシャトルバスに乗せられて連れてこられた場所は「駿河健康ランド」(通称"するけん")と呼ばれる巨大温浴施設だった。単なる健康ランドと思っていたらやや強めの思想を持った施設であるという事が判明し、俺はあわや改宗かとおそれ、わななくのだった。

オーシャンビューサウナ良き哉

 「するけん♪ するけん♪ ここは駿河の健康ランド~」と、駿河健康ランドのテーマソングを口ずさみながら、ヨータさん、ヤスミ、A吉達は軽快な足取りで浴場に向かっていた。先ほど見せられた目がヤバい感じのプロモーションビデオの映像には気圧されたものの、曲がりなりにもカタギの商売である。そこにいかなる思想があろうともサウナはサウナ。俺はただ、まっすぐにととのうだけ...と言い聞かせ、彼らの後を追った。

  するけんのフィンランド式サウナはごくごくオーソドックスなそれで、温度はおよそ80℃程度でゆっくり蒸し上げるタイプだった。ただ、窓から見える駿河湾というオーシャンビュー形式のサウナというのはとても贅沢なもので、「景色」というものが基本的に存在しないサウナにおいてこれはかなり独自性があったかと思う。普通、目を開けて見えるものはテレビとおっさんのちんちんくらいのもんですからね。

 汗が玉を作り始めてからもう数分あたためて、サウナ室を出て水風呂へ。じゅうぶんに熱を取り去ってから、外気浴のため露天風呂のスペースへと移動する。外に出る扉を開けると、勢いよく身体を吹き抜ける風! こっ、これはなんだ...気持ちいい...!! 駿河湾からの、熱気を帯びた強い浜風が全身を撫ぜた。まさしくこれは「外気の入浴」といって差し支えない。鼻孔をつく磯の香りもまた、たまらなくフレッシュだ。街中の銭湯での外気浴といえば、漂ってくるのは澱んだにおいであるものだから、「いいにおいのする外気浴」というものにまず大きな驚きを感じた。

 オーシャンビューサウナとオーシャンビュー外気浴、特にこの外気浴に関しては今までのサウナでは得られなかった貴重な体験だ。「この風を浴びるだけで、ととのってしまう」という感覚について話すと、確かにするけんの外気浴には目を見張るものがあるという賛同を得る事ができた。

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 入浴の後は館内の中華レストランへ。地ビールと共に食う激辛麻婆豆腐という組み合わせで食事でもトリップ!

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  麻雀部屋も完備で隙が無い。旅先でやる麻雀ってなんでこんなに楽しいんだろうなあァ...と、ひとりごちながら3時間タップリと遊んだ。そして麻雀が終わればまたサウナ! 贅沢ここに極まれりである。

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 夜は焼肉! 最近振り込まれた特別定額給付金が物凄い勢いで溶けていく音が聞こえますね。もう考えるのはやめよう、温浴、冷浴、焼肉!

 サウナで絞った身体に肉とビールを流し込んで気持ちよくなっている時、おもむろにヨータさんがメモ帳とペンを取り出して、「じゃあygくん...ここまでの感想を言って貰いましょうか」と言い出した。い、一体何が始まったのか? ヤスミ、A吉の方を見遣ると、二人もまたメモ帳とペンを持っている。俺なんか、謀られちゃった感じッスか...!?

 あまりプレゼンは得意ではないが、ここ駿河健康ランドで味わったサウナの良さについて拙いながらも懸命に語った。開放的なオーシャンビュー、心地の良い潮風の外気浴、入浴後もととのいを受け止める施設の素晴らしさ...一通りを語り終えたのち、続いて「では、ygくんが我々のサ活に対して貢献できることは?」と質問が。俺にできることってなんだろう...ええと、noteが書ける? ええはい、俺には文才がある! 「noteでサウナ活動を全国に発信することができます!」就職活動以来の自己アピール!!

 「なるほど、では今日見えた景色の事をこのメモ帳に書いてもらえる?」とメモ帳とボールペンを渡された。なんだか知らないが俺は今めちゃめちゃに試されている。ここをなんとか乗り切らなければ! 強い気持ちで俺はペンを走らせた。

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これが俺が外気浴で見た光景だ!!!

 「まんまじゃねーか!」 辛辣なクレームが殺到! しまった、なんというか多分これ、「わたしはサウナでこんなに気持ちよくなりました」を表現しないとダメなやつだったか。険しい目つきでヨータさんはA吉に「お前も描いて見せろ」と指示をする。A吉はさらさらとメモ帳に、するけんを通して見えた光景を書きだし始めた。

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(A吉の頭に浮かんだ光景のスケッチを再現したもの)

 「完全にキマってる人じゃねーか!」 辛辣なクレームが殺到! これはこれでダメなんだ...

 「審査はここまで! これから、ygくんのサウナ部への入部可否を決める採点の時間です」とヨータさん。曰く評価の軸は、「ygと一緒にサウナ活動がしたいか」「サウナ部へ貢献できそうかどうか」という2点。ていうか今回の旅行、俺のサウナ部入部テストを兼ねてたのか! そもそも、サウナ部ってなんなんだよ...! めぐるめく状況の変化に戸惑う俺の前で採点が行われる。そして間もなく、結果が発表された。

 ◆A吉の評価:第一観点 〇 第二観点 〇

 ◆ヤスミの評価:第一観点 × 第二観点 ×

 ◆ヨータさんの評価:第一観点 〇 第二観点 ×

「3対3の引き分け! よってこの旅、継続!!」

「継続」ってなんだ「継続」って! 「いやぁygくん助かったね、ここで失格だったらこのまま大阪に帰ってもらう所だったからね。明日も引き続き入部試験だから、よろしく!」 相変わらずこの人らはむちゃくちゃするなぁと、げっそりしてしまった。

 こうして明かされた静岡旅行の真の目的。おれは果たしてサウナ部に入部することができるのか!? そもそも、俺はそんなにサウナ部に入りたいのか!? そして次回に待ち受ける新たな「ととのい」とは? 次回もお楽しみに! !

(つづく)

 

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