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俳句チャンネル ~字余りシリーズ【下五字余りなプレバト俳句たち】~

【はじめに】

この記事では、2020年10月1日、YouTube『夏井いつき俳句チャンネル』にアップされた動画『【字余り】名句から学ぶ、下五の字余りの効果とは?』を、筆者(Rx)の意見を交えつつ紹介していきたいと思います。

今回ご紹介する動画については、こちら( ↓ )から是非ご覧ください。

1.「字余り」についてのおさらい

まずは、「字余り」について緩い認識を持っている初心者・中級者に向けて夏井組長から冒頭有難いお言葉がありましたので、ご紹介します。

家藤正人
「そもそもの字余りの大原則といいますか、心意気というか。」
夏井組長
「入れたい中身が入らないから無理やり入れ込む(字余りにする)というのは、本来の字余りではないのです。」
「その内容に似合っているということ、それから字余りにすることで何らかの効果を手に入れることが出来る。本来の字余りはプラスα(アルファ)

そして、前回の私の記事に掲げた3ステップも再掲させてもらいます。

(1)【初心者】無理やり五七五に入れて日本語としておかしくぐらいなら字余りにした方が“マシ”
                 ↓
(2)【中級者】下五・中七を字余りにするぐらいだったら、後半にリズムを取り戻しやすい「上五」を字余りにする方が“無難”
                 ↓
(3)【上級者】「字余り」とはテクニック(俳句の技)の一つだから、『俳句の内容が濃く・深くなる時』にだけ使うのが“理想”

この3ステップを念頭に置き、まだ初心者・中級者のレベルに達していない方は、上に示した基本的な「字余り」への考え方を押さえておきましょう。

2.下五の字余りの名句

それでは本題に入ります。下五の字余りの句を見ていきましょう。

(1)花衣ぬぐやまつはる紐いろ/\   杉田久女
(2)みちのくの星入り氷柱われに呉れよ 鷹羽狩行
(3)みちのくの鮭は醜し吾もみちのく  山口青邨

いずれも「5→7」と俳句の定型で来ますが、最後が「6~7音」の字余りになっている句です。やや古い作品で読みづらい句もあるので、敢えて、「分かち書き」をして音数を確認しましょう。

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《 下五字余りの音数確認 》
(1)はなごろも ぬぐやまつわる ひもいろいろ
(2)みちのくの ほしいりつらら われにくれよ
(3)みちのくの さけはみにくし われもみちのく

小学1年生の頃に戻ったかのような平仮名の文字列ですww

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そして、それぞれ音数を1音ぐらいなら省略できそうです。比較句として、

(1)' 花衣ぬぐやまつはる紐あまた
(2)' 
みちのくの星入り氷柱われに呉れ

などが動画でも出てきて、比較句と対比して「原句の良さ・効果」が詳しく説明されています。簡単に言うと、
(1)は「いろいろ」とすることで、『花衣』とも呼応して、文字通り、紐の種類だけでなく、色も種類が様々あって華やかな様子が直接的に描ける。(2)は「われにくれ」と言うのに比べて、敢えて1音「よ」を足すことで偉そうor高圧的な印象を和らげているのではないか と鑑賞していました。

いずれにせよ、俳句の名人達が『効果を狙って、敢えて字余りにしている』ということを確認して頂ければと思います。

さて、ではここからは「プレバト!!」で披露された俳句の中から、(添削後も含めて)『下五字余り』の俳句たちを鑑賞していきましょう。

3.6音だけどリズミカルで気にならないタイプ

まずはここで音数的には6音だから字余りなんだけど、リズミカルだったりして余り気にならないタイプの「下五字余り」な句をご紹介していきます。名人・特待生や才能アリの句からピックアップしましたが、恐らく漏れもあろうかと思います、ご了承下さい。

冬空や商談前の缶コーヒー/松尾駿
馬の仔の立ちて未明の缶コーヒー/鈴木光'
ふらここを待つ子を見つつ飲むコーヒー/千原ジュニア'

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春の星ギターケースに絆創膏/松岡充
接木には月光仮面の絆創膏/三遊亭円楽'
運動会父とお揃いバンソウコウ/宮田俊哉

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「缶コーヒー」や「絆創膏」のように、「2音×3=6音」っぽい単語は、3拍を取りやすいこともあってか、指折り数えず音読する限りでは殆ど気にならないかと思います。寧ろ2音ずつ1拍に置かれてリズミカルになる印象です。

プレバトでは上五字余りに比べ、下五字余りは少ないのですが、過去の才能アリの句などを並べて見ると、「漢字3文字6音」の単語を最後に据える、「体言止め」ならば高評価となるケースが多いようです。列挙してみます。

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・雑煮の香雨の銀座の生中継/竹内涼真&鈴木亮平
・大槌の風の電話や梅一輪/馬場典子
・さみだれやこころも濡れる明月院/熊谷真実
・初恋と秋の陽香る古書百円/相田翔子
・走り終えサンダル探す運動会/波乃久里子

「明月院」は固有名詞で、「運動会」は季語で、「梅一輪」は季語+4音の形容です。「古書百円」は仮名8文字で6音の単語、3+3音での描写で、一番上の「生中継」は6音の一般名詞と捉えて良いでしょう。
属性はいずれも違うのに、漢語表現の体言止めが共通している点は興味深いですね。そしてどの句も音読しても違和感なく読み終えられると思います。

4.6音の名詞による下五字余り

ではここからは、6音の名詞などを据えた句をご紹介していきます。まずは固有名詞から行きましょう。

撮り鉄の汗拭いけり103系/千原ジュニア
畳まれるマダムの日傘三越前/小籔千豊

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固有名詞は他に置き換えづらい側面がありますが、一般名詞を据えたケースは更に増えます。例えば、北山特待生の実感の籠もった句。

秋の夜や母の怒号とピアスホール/北山宏光

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これ「ピアス穴」とすればピッタリ定型に収まりますが、「ピアスホール」と若者の気取った表現を敢えて使うことによるリアリティを感じますね。

他にも、下五に一般名詞を置いての添削例をご紹介しておきましょう。

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電球にかざせる秋の有精卵/梅沢富美男'
菊花賞今日三度目のATM/岩永徹也'

そして、季語にも幾つか6音以上のものがありまして、それを下五に据えた作品もありました。(春巡業は厳密には微妙ですが)ここに分類します。

居残りの鉄砲響く春巡業/御嶽海久司
村営バス逃してくてく探梅行/藤本敏史'
あの人のよからぬうわさ麦熟れ星/筒井真理子

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特に「麦熟れ星」は音数的にもすんなり読めず、字余りであることを印象づけられますが、余韻と言いますか作者の思いが滲み出た下五だと感じます。

5.名詞以外での下五字余り

一単語の場合と異なり、複数の単語を組み合わせているのケースでは、より強い意図をもって作者が下五字余りにしていると思われます。例えば、

亡き友よ星河(せいが)を渡れ我れジョバンニ/渡辺えり'

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「プレバト!!」で自由律俳句と言えばこの人! と言った感じのある渡辺えりさんの句。2016年の七夕シーズンに詠まれたこの句は73点と高評価でした。

直されたのは「星河(ほしかわ)」→「星河(せいが)を」にするとバランスが良くなるという点だけで、下五字余りには手が付けられませんでした。上の方でご紹介した「吾もみちのく」に似た構図で、主たる存在を強く印象づける句だったのだなと改めて思います。

ただこれは数少ない成功例でして、名人・特待生であっても「下五字余り」は添削されることが多いです。具体例を見ていきましょう。

・春昼の鳩の目ん玉見ゆる殺意/東国原英夫
・秋の蝶1グラム足す風の重さ/秋吉久美子
・いさばのかっちゃスカーフはあけびの色/梅沢富美男
・新歓の部室カップ麺の匂いかすか/鈴木光

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それぞれ思いを込めて字余りにしているのですが、例えば梅沢名人であれば「あけび色」と、字余りにしない方がスッキリしますし、全部で20音という大胆な字余りに挑戦した鈴木光さんも、「かすか」を外せば17音の器にピッタリ収まると手直しが入っています。(これは浜田さんも言っていました)

最後に、1音削られて字余りにしていれば「2ランクアップ」だったという筒井真理子さんの作品をご紹介しましょう。

長き夜や黄身ゆるやかに殻を離る/筒井真理子'

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特待生の5級でありながら『長き夜や黄身ゆるやかに殻を離るる』という句で大胆な破調に挑戦。そのことを先生からも絶賛され「1ランクアップ」となった作品が原句です。(当初は7音の字余り)

ただ、文法的には「離るる」という連体形では後ろに何かが付く(続く)様に感じてしまうので「古語での終止形・離る」にした方が良いと1文字だけ添削が入りました。

筒井さんは意図して『殻から離れる瞬間』を丁寧に描写した訳ですが、この様に「字余り」は意図をもって、効果を目指して作ることが本来の姿なのだそうです。(大事なことなので何回も言いますよー?)

6.7音以上の下五字余り

先ほどの「殻を離るる」などのケースもありましたが、実際、7音以上での字余りとなると下五ではかなりレアケースとなります。最後に、プレバト!!での数は少ないですが、2句拾っていきましょう。

秋声に褪する石灰 最終種目/ミッツ・マングローブ

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夏井先生は「1ランク昇格」の評価を下していましたが、個人的にはいささか中途半端かなとも思った同句。ただ7音の「最終種目」を下五に据えて、わざわざ「たすきリレー」「ムカデ走」など字余りを感じさせにくい5音的な種目名を挙げず「最終」の2字を加えて、秋の寂しさを演出しようとした意図は良く伝わってきます。

扇風機首振りゆっくりトーベヤンソン/藤本敏史

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最後はフジモン名人が「特待生昇格試験」で1つ前進した作品。5+8+7と、全部で20音ありますが、『ゆっくり』が「首振り」にもトーベヤンソン(ムーミンを手掛けたフィンランドの作家)にも影響してると褒めました。

夏井先生は「偶然できる場合もある」と名人10段を半分疑っていましたが、かなりの上級者にならないと「下七」以上の字余りは使い熟すことが難しい型だと言えそうです。

【おわりに】

「字余り」シリーズの第1段(上五字余り)↓ に続いて、

今回は「下五字余り」についてお話ししてきましたが如何だったでしょう。上五字余りに比べて、最後の「余韻」などを演出する意味で、より意図が色濃く出る印象のある「下五字余り」は、上五よりワンランク難しい型であるような印象を受けます。(故にプレバト!! でも作句例が少ないのでしょう)

家藤正人
「下五の字余り、なんか作るの難しそうですね。(本音)」

夏井いつき
「これ見てる人ちょっと挑戦してみたいなと思い始めてますよ? やってみましょう、失敗しても元々ですから、練習しないと上手にならないからやってみましょうね。」

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これは、以前お話しした『20週俳句入門』でもありましたが、型は身に着けないと使いこなせないので作句するのも一つ大事だということでしょう。

『失敗しても元々』『練習しないと上手にならない』のは、どんな芸事にも共通して言えることだと思いますので、芸能人の皆さんの俳句なども参考にしつつ、ぜひ皆さんも機会があれば「下五字余り」の句、挑戦してみてください!

それでは次回、「中八の字余り」……シリーズはいつになるか分かりませんが、次の記事でお会いしましょう、夏井Rxでした、ではまたっ!

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