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プレバト!!の俳句だけで『歳時記』作ってみた〔夏〕

【はじめに】
プレバト!! から「俳句」に興味を持ちはじめ、夏井いつき組長のラジオ番組に投句するようになった 私(俳号:Rx) が、『歳時記』を作っちゃおう!と思い立った『Rx俳句歳時記』というタイトルの記事です。

今回は〔夏〕編(分冊)です。

【時候】

まずは、【夏】から参りましょう。夏の情景を描いた句が並びます。

【夏】
・緑青のカラン石けんネット揺れて夏 梅沢富美男
・青き日の煌めく雫夏薫る      橋本直
・青い夏記念写真の歯の白し     田中瞳’
・紙で切る指やその血に醒める夏  犬山紙子'
・夏の旅 荷棚揃いの紙袋      内海崇’
・ウミウシの彩り豊かなる夏よ   二階堂高嗣'

ここから、まずは「夏」の始まりの句をご紹介していきます。

【立夏】 夏立つ、夏にいる、夏来る
・夏立ちぬバタークリーム強情で 梅沢富美男
・乙女摘む一芯二葉夏は来ぬ   梅沢富美男

藤本名人が4段に昇格した際の句は、まさにフジモンワールド全開。口語体が非常に良く利いています。

【初夏】
・はこね号これより初夏に入ります 藤本敏史
・制帽は白はつなつをラッパ飲み  市川右團次’

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【若夏】 沖縄の季語
・若夏やTシャツという戦闘服 梅沢富美男
【真夏】
・モンローや真夏の夜のコーク・ハイ 武田鉄矢'
・お昼よ!の声と真夏のカレーの香 小島瑠璃子'

夏は暑い日中の時間帯の印象が強いですが、夕方、夜にも季語があります。

【夏の夕】
・空き瓶は一本五円夏の夕   馬場典子’
・ケーキ五色家族五人の夏の夕 津田篤宏'
【夏の宵】
・おみやげのケーキを選ぶ夏の宵 北乃きい'

フジモンがタイトル戦上位に進出した一句。「夏休み」らしさをリアリティ細部に宿らせて。短夜のワクワク感を巧く表しています。

【短夜】
・短夜や付録ラジオの半田付け  藤本敏史
・巡業の短夜のなほ持て余す   梅沢富美男'
・短夜やロングアイランドアイスティ ミッツ・マングローブ

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そして短夜が明けると、夏の暁(あかつき)へと移ろっていきます。

【夏の暁】 夏暁(なつあけ)
・夏暁や封蝋のいま固まりぬ 松岡充

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【夏の朝】
・夏の朝丸太をもってはおろしては 高岸宏行

夏井組長が『やっと新境地を切り開いたかも!』と語り、タイトル戦ならば優勝していたと絶賛した、永世名人・掲載21句目にも詠まれている【朝焼】も夏の季語です。

【朝焼】 朝焼雲
・読み終へて痣の醒めゆくごと朝焼 梅沢富美男
【夕焼】
・夕焼や波打ち際のペアシューズ 本田望結'
【七月】
・七月のジム意気込みの空回り 塚田僚一'

そんな夏も終わりに近づく季節は【夏の果】などと形容されます。こちらも炎帝戦で上位に入った東国原名人の句。倦怠感を七・五・五で演出です。

【夏の果】 夏終る、夏惜しむ
・夏の果ボサノバと水平線と 東国原英夫

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【天文】

夏の天文の季語は沢山ありますが、まずは、「梅雨」シーズンを含んでいることもありますし、「雨」関連の季語から行きましょう。

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【夏の雨】 夏雨、緑雨、青時雨
・夏の雨に光るおろしたてのサンダル 生見愛瑠’

【夏の雨】は、特定の雨を指すというより、「夏」の季節に降る雨全般を指すイメージの季語です。
ここからは【梅雨】関連の季語を纏めてご紹介していきましょう。

と言いつつ最初は【梅雨】に入る前の季語です。【迎へ梅雨】は、新暦5月の終わり頃、梅雨めいた天候になったことを指しています。

【迎え梅雨】(走り梅雨)
・追憶やつま先濡らす走り梅雨 別所哲也
・梅雨の音猫が眺める洗濯機  中川翔子

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南西諸島では陽暦5月、本州では6月上旬に気象庁によって「梅雨入りしたと見られる」と発表されます。それと別に太陽黄経が80°に当たる6月11日ごろを指す表現でもあります。

【入梅】 梅雨入り、梅雨の入り、梅雨に入る
・後毛の柔く撓ひて梅雨に入る 武井壮
(後毛の撓ひて梅雨に入る街角)
・味噌汁は熱し入梅(ついり)の片頭痛 二階堂高嗣'

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【梅雨】
・梅雨はメゾフォルテ銀座の物語   葉加瀬太郎’
・チーママの裾はしょりたる梅雨の夜 ミッツ・マングローブ
・やりくりも万策尽きて梅雨ごもり  加藤登紀子

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【五月雨】とは、陰暦五月の季語であり、現在の暦に当てはめればちょうど【梅雨】のことを指します。少し趣深く言いたい時などに使われる印象。

【五月雨】
・紙袋にビニール五月雨と知る 千原ジュニア’
・五月雨や茶室に花の匂い立つ 馬場典子’

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雨雲に覆われた【梅雨の空】も夏の季語です。

【梅雨空】
・梅雨空にジャズの流れて夢二の画  石倉三郎
・梅雨の空とりどりの傘チャイム待つ 高橋ひとみ

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そして、特に梅雨の始め頃は、雨が降って「肌寒さ」を感じることも。

【梅雨寒】 梅雨冷
・梅雨寒しコンビニは麻酔の匂ひ  東国原英夫
・梅雨寒やジャズレコードの傷拾う 岩永徹也
・タクシーは来ず梅雨冷えの靴ぴえん 若槻千夏'

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少し梅雨が落ち着いて来たかと思った梅雨の終わり頃に、再び大雨が降る。【送り梅雨】など様々な表現で季語

【送り梅雨】 返り梅雨、戻り梅雨
・送り梅雨船員送る千の傘   東国原英夫
・歩行量調査 戻り梅雨の無言 藤本敏史
・犬吠える梅雨の戻りの軒しずく 宮田俊哉'

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年によっては、梅雨の雨量が少なく、農作や生活に影響を及ぼすことも。

【空梅雨】 旱梅雨(ひでりづゆ)
・赤錆の乾く傘立て旱梅雨 皆藤愛子
(ビニール傘の骨の赤錆旱梅雨)

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そしていよいよ【梅雨明け】を迎えます。本州では、意外と遅く7月後半、海の日の前後、夏休みに入る頃が一般的です。

【梅雨明】
・梅雨明けはいつかと空をあおぐ猫 柴田理恵’
・梅雨明けやモジリアーニの歩く街 立川志らく

そして、夏の後半の雨の印象が強い【夕立】も、平安時代以降は夏の印象。あまりにも多くの表現がありますので、歳時記や辞書を引いてみて下さい。

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【夕立】
・夕立や尻っぱしょりを犬が追う 三遊亭円楽
・夕立の粒木霊する高架下    皆藤愛子
(夕立の全てが木霊高架下)
・夕立も楽しウォーキングの歩幅 高島礼子'
・夕立や形見の背広濡らすかえ  霜降り明星 粗品
・夕立の軒よパン屋と知る香り  橋本直'
・百均の傘は夕立の相合傘    武田真治’
・夕立の匂うかまどよ母恋し   研ナオコ'

(驟雨(しゅうう)
・エルメスの騎士像翳りゆき驟雨 村上健志 [人]
・潮浴びの頭驟雨で洗いけり   千賀健永


【雷】
・まだマシなTシャツを貸す夜の雷 村上健志
・遠雷の夜汽車カカオの奴隷史   横尾渉

喜雨は、中国由来の季語だそう。日照り続きで農作物に被害が出ようとしている頃にようやく降り始める待望の雨。だから「喜」の字が含まれるそう。

【喜雨(きう)】 雨喜び
・鯉やはらか喜雨に水輪の十重二十重 梅沢富美男 [優]
・濡れ鼠せめてどこぞの喜雨であれ  伊集院光

【慈雨(じう)】
・宵宮の慈雨は屋台の人波へ 千賀健永

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ここまで「雨」の句を中心にご紹介してきましたが、やはり夏の太陽、晴れな季語も忘れられません。

【梅雨晴】
・梅雨時の晴れ間を猫のあくびかな   中島健人’
・梅雨晴間 構図決まらぬファインダー みちょぱ’'

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【五月晴】
・五月晴れだから空色ワンピース 藤田弓子’
・揺れ楽し電車は五月晴を行く  中村梅雀’
【夕立晴(ゆだちばれ)】
・行間に次頁の影夕立晴 村上健志 [秀]
・夕立晴れ二時間待ちの帰郷シーン 吉本実憂

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ここからは「季重なり」に注意な夏の季語たち。【夕焼】も実は夏の季語。

【夕焼】(梅雨夕焼) (!)季重なり注意
・コロッケの香る踏み切り梅雨夕焼 山﨑ケイ

そして同じく【虹】も夏の季語です。うっかりの季重なりにはご注意を。

【虹】 (!)季重なり注意
・道ばたの花束ひとつ虹立てり   梅沢富美男
・夕虹やデビュー知らせし茶封筒  横尾渉
・トランクの下の水たまりにも虹  梅沢富美男
・朝虹の全紙一面 One Team     田中史朗
・おもひではぽろぽろ 遠い二重虹  横尾渉
・担任からのモーニングコール夕の虹 工藤美桜
・夕虹の補欠合格パイ焼く香    パックン'

【夏の空】という季語の大きさをうまく活かした句で、名人・フジモンは、第1回炎帝戦を制しました。

【夏の空】
・セイウチの麻酔の効き目夏の空 藤本敏史 [秀]
・百本ノック蛇口に映る夏の空  河合郁人
・石段を200数えて夏の空     岩永徹也
(二百段目の夏空がそそり立つ)
・躓いて割れたスマホや夏の空  犬飼貴丈

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【夏の空】には様々な雲が浮かびますが、例えばいわゆる「入道雲」の様に雨が降り出しそうな不安感が募る雲もあります。

【夏の雲】
・病む父へ逸る心や夏の雲 柴田理恵’
【雲の峰】
・夏の雲ぼくらは日陰探検隊 横尾渉'
・波際の異国の瓶と雲の峰  篠田麻里子
・父語る敬遠五つ夏の雲   横尾渉
(敬遠五つ父にあの日の雲の峰)

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ここからは、そんな夏の空気感をフォーカスした季語からまずは初夏の頃。

【薄暑(はくしょ)】 軽暖
・喪服の吾行く日常といふ薄暑 梅沢富美男’

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【炎天】
・炎天や塔の影行く人力車  千賀健永'
・満タンの声炎天の肩まくり ミッツ・マングローブ
・炎天のミミズ診察券のシミ 立川志らく

【炎天下】
・取っ手ちぎれる炎天に母の影 松丸亮吾’
【日盛り】 日の盛り
・日盛りや母の二の腕は静謐  犬山紙子
・検診結果封切る刃先 日の盛り 皆藤愛子

当時、特待生3級だったNON STYLE・石田明が、大胆な対句表現をもって、炎帝戦2位となった優秀句。【溽暑】と【潮騒】の対比が絶賛されました。

【溽暑(じょくしょ)】
・喧騒の溽暑走り抜け潮騒      石田明 [優]
・カレー蕎麦にただいま溽暑なる成田 馬場典子'
・故郷の干物ゆらめく溽暑かな    犬山紙子
・原子炉と溽暑に眠る町しづか    梅沢富美男

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他にも、字面だけで、夏の暑さが再現されそうな夏の季語が並びます。

【油照り】
・油照り毛糸のような犬拾う  立川志らく
【熱砂】
・堂々と熱砂蹴散らすオスプレイ ISSA
【西日】
・Tシャツの干され西日の消防署     東国原英夫
・湯捨つれば西日のシンク鳴る「ボコン」  梅沢富美男’
【風死す】
・風死すや現場検証 顰め面   千原ジュニア
(現場検証風死せる日の顰め面)

真夏の暑さの中でも、あるいは「一服の清涼」を感じ取れるかも知れない、夏の風に関する季語を続けてご紹介していきます。

【風薫る】 薫風
・風薫る初のマニキュアは百円 山之内すず
・この店もこの町の景 風薫る  加藤諒
【青嵐】 風青し
・青嵐 黄綬受章の父の眉 東国原英夫
・ホールケーキ籠にギア上げ青嵐 塚田僚一'
・驀進の棋士は少年青嵐 岩永徹也
【夏至夜風】
・夏至夜風余ったコーラで煮る角煮 篠田麻里子

梅雨の時期に吹くのが【黒南風(くろはえ)】で、その梅雨が明けて吹く、爽やかな季節風を【白南風(しろはえ)】と対表現で言ったりします。

【白南風(しろはえ)】
・Yシャツ眩し白南風の丸の内     伍代夏子
・白南風に揺れ干すシャツにバニラの香 向井慧

夏の風に敏感だった全国各地の人々は、今であれば天気図やレーダーを見て調べる天気を肌で感じ取っていました。その土地土地に「風」の表現があって、例えば、北陸の季語の名手・柴田理恵が平場時代に詠んだ【あいの風】も夏の風の季語。鉄道の名称にもなり、全国の歳時記にも収録されてます。

【あいの風】
・降り立ちて夜のしじまにあいの風 柴田理恵

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夏の夜空に光る星たちも、季語になっているものがあります。そんな中で、夏井組長の『絶滅危急季語辞典』に収録されている「麦熟れ星」というややマニアックな季語を使って筒井真理子は待望の特待生昇格を決めました。

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【梅雨の星】 麦星、麦熟れ星(むぎうれぼし)
・あの人のよからぬうわさ麦熟れ星 筒井真理子

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夏の星を詠んだ句で「炎帝戦」を優勝したのが、梅沢名人。初優勝でした。旱の夏に光る(赤い)星のことを指す【旱星】は、晩夏の季語です。

【旱星(ひでりぼし)】
・旱星ラジオは余震しらせおり 梅沢富美男 [秀]

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【夏の月】 月涼し
・歩きつつ噺の稽古月涼し 瀧川鯉斗

【地理】

続いて、「夏の地理」の季語。まずは、ずばり「海」です。旧特待生である【福澤朗】が80点という高得点を叩き出した一句。

【夏の海】
・診察を終えて広がる夏の海 福澤朗

凍る冬を除いて一年中流れている【滝】ですが、マイナスイオンというか、涼しさを感じる観点から、近代に入って「夏の季語」となっています。

【滝】 滝壺、瀑、瀑布
・滝壺に向かい白龍まっしぐら  藤本敏史’
・白雲を吸い込み放つ大瀑布   藤本敏史

同じく、山は一年中ありますが、【夏の山】とすると、その青々とした感じが際立つように感じます。

【夏の山】
・故郷にあらねど同じ夏の山 ケンドーコバヤシ’

【暮らし】

夏の生活、子供達にとっては「夏休み」が大きな楽しみの一つです。2020年の炎帝戦では、(季語ではないですが)【ラジオ体操】に夏休みの思い出を託した句が披露されました。

【夏休み】
・ラジオ体操おおおなもみのある空地 藤本敏史
・ラジオ体操歯抜けの判や夏休み   千賀健永'
・図書館でうたた寝遠き夏休み    大友康平'

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暑さと共にある夏の暮らし。【汗】単体でも「夏の季語」となります。

【汗】 (!)季重なり注意
・ゆるキャラの汗の匂いとファンの音 千原ジュニア
・土産買い汗拭き乗り込む6号車   宮田俊哉
・学校の朝ぞ寝る子の汗の首   渡辺満里奈'
・買い物や浮かるる母と汗の僕  宮田俊哉’

夏の暑さを凌ぐために身につけるものも、「夏の季語」となっています。

【夏帽子】
・ベル鳴りて立つ七色の夏帽子 ミッツ・マングローブ
・夏帽子夜行列車の網棚に   横尾渉
・男坂追い抜かれ行く夏帽子  森公美子

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夏の強い日差しを防ぐことなどを目的にかける【サングラス】。ただ、目元を隠したり、敢えて外すシーンを描写することも、季語の本意の一部です。

【サングラス】
・サングラス外して対す海の青 横尾渉
・調停の席着く妻のサングラス 東国原英夫
・サングラス外して探すカードかな 三遊亭円楽
【日傘】
・畳まれるマダムの日傘三越前 小籔千豊

【白日傘】
・ジェラシーを折ってたたんで白日傘 森口瑤子

【砂日傘】

・嬰児の寝息の熱し砂日傘     梅沢富美男
・ガンジーのような足が出る砂日傘 立川志らく

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夏の行楽で、海やプールなどのレジャーは代表格。

【カヌー】
・光るシャツひるぎの森を行くカヌー 千賀健永
【海の家】
・海の家香るカレーは★3つ ゆきぽよ

人によっては欠かせないアイテムの一つ【浮き輪】は身近な夏の季語です。

【浮き輪】
・アメリカの歯磨き粉色した浮き輪 藤本敏史

【水着】(海水着、海水帽)も勿論、夏の季語ですが、【裸】もそうです。ミッツ・マングローブ特待生の、本戦に出場していれば優勝も狙えたというプールの競泳を詠んだ夏らしい一句です。

【裸】
・50のターンひた蹴る裸 浮くを待つ ミッツ・マングローブ’

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【サンダル】単体では夏の季語となりませんが、一方、【裸足(はだし)】は前述の季語と似たイメージで「夏の季語」となります。

【裸足(はだし)】
・ぶかぶかのサンダルに飽きもう裸足 濱家隆一’
・サンダルの熱し跣足の痛きまで   栗原恵’
【白靴(しろぐつ)】
・帰国の日アガシの白靴の悲し 梅沢富美男'
・並べある父より大きなる白靴 高田万由子'
・白靴の老女冷ゆ生鮮売場 ミッツ・マングローブ
・婚祝う白靴のスタッズ眩し  横尾渉'

夏の行楽は、海・水辺だけではありません。山開きがなされた後の【登山】も、夏の季語であり、夏ならではレジャーです。

【登山】
・豪雨の登山これより先は神の庭 立川志らく
・登山列車近づく空はラムネ色  宮田俊哉

そうして夏を満喫した後にやってくるのが【日焼】で、これも季語です。

【日焼】
・水玉の模様クロックスの日焼 梅沢富美男
・光束ねるごと 日焼子ら走る 中田喜子 [優]

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ただし、あまりはしゃぎすぎたり、或いは汗をかいたままにしておくと、「夏風邪」をひいてしまいます。夏の風邪は長引くと厄介です。

【夏の風邪】 夏風邪
夏風邪や祖母の特盛ハンバーグ 朝日奈央'

日常生活にも、夏の季語は溢れています。まさに「夏」を感じる季語だと、【風鈴】はまさに昔から生活に密着してきた季語です。

【風鈴】
・滂沱たる風鈴の音や市の朝 梅沢富美男

夏の風の涼しさを取り入れようとするものとして洋風に言えば「ベランダ」なども夏の季語です。

【露台】 バルコニー、ベランダ
・二枚目はベランダで読む手紙かな 村上健志

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【団扇(うちわ)】
・焼き鳥屋の団扇に相田みつをの詩 立川志らく'

時代が少し下って【扇風機】も季語として認められる様になりました。

【扇風機】
・給茶機の上の軋めく扇風機 村上健志 [優]
・扇風機首振りゆっくりトーベヤンソン 藤本敏史
・南国の果実色してハンディファン 梅沢富美男'
・開演の舞台袖なる扇風機  小林幸子'
・見張るかに回るデスクの扇風機 鷲見玲奈'

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以上のような涼み方と合わせて、夏の蒸し暑い昼の時間帯に「昼寝」をすることで、暑さ対策をしていた経緯があります。それが故に、「昼寝」単体で夏の季語となっていたりもします。

【昼寝】 (!)季重なり注意
・昼寝覚子のクレヨンの置き手紙    藤本敏史'
・子と昼寝顔に日よけの「ぐりとぐら」 菊池桃子
・子ら三人昼寝縦横斜め逆      梅沢富美男'
・昼寝少し怒涛の日々に立ち向かう おいでやす小田'


【百物語】
・百物語最後の鏡に映る物 梅沢富美男

さて、裏千家の【夏点前(なつてまえ)】を詠んだ句。馬場典子・特待生は、「風、庭、朝」など、夏点前を清しいと感じた物にフォーカスすべしとの添削を受けました。

【夏点前(なつてまえ)】 洗い茶巾
・ささらめく洗い茶巾や朝清し 馬場典子'

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千原ジュニア名人が、切ないペットの飼い主あるあるで予選1位通過した、こんな今風な『暑中見舞』の句は如何でしょう?

【暑中見舞】 夏見舞
・ 亡き猫に病院からの夏見舞 千原ジュニア

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【行事】

暦の上ではと良く言われる立夏とほぼ同じ、陽暦5月5日の「端午の節句」は、夏の季語に分類されます。

【端午】
・母となり手帳に記す端午の日 中村仁美

そして、端午の節句を最も象徴するのが【鯉のぼり】ではないでしょうか。

【鯉幟(こいのぼり)】
・青く濃きさつきの空を行く大魚 千賀健永’
・雲がゆき又雲がすぎ鯉のぼり  林家木久扇’
・鯉のぼり挿され五つのランドセル 藤本敏史
・窓枠の狭しと風の鯉幟     石田たくみ’
・逆風を飲み込み昇る五月鯉   千原ジュニア
(山風を飲み込み昇る五月鯉)
・街の空狭しと風の鯉幟     西川貴教’
・鯉幟さいのかわらの空如何   東国原英夫’

季節は夏本番、特に梅雨明け以降などを迎えると、全国各地で【花火】が、夏の風物詩として親しまれます。

【花火】
・手花火の火に手花火と手花火を 千原ジュニア
・黒き地の正体は海揚花火    千賀健永 [優]
・光る影火の粉を走る花火師よ  藤吉久美子’
・渋滞や花火の映るボンネット  千原ジュニア
・遠花火音のみ響くビルの底   梅沢富美男
・火まみれの遠州男児筒花火   梅沢富美男'
・大花火五臓六腑を鷲掴む    松岡充'
・まなざしや句読点なき恋、花火 中田喜子'

大きな花火だけに限らず、手花火や花火が終わった後の余韻も、詩心をくすぐります。

・牛おらぬ牛舎の闇に手花火す  東国原英夫’
・消しゴムに彫刻刀の彫る花火  千原ジュニア
・花火果て星のひとつを探し行く 杉山愛
・花火果て電車空く間のデンキブラン 森口瑤子
・制服のキス揚花火いまひらく  河合郁人'
・花火終へ湖上にひらく大三角  藤本敏史’

【祭】単体は、陽暦5月15日の「葵祭」に限らず、その他のお祭りも含めて「夏の季語」とされています。

【宵宮】
・宵宮の慈雨は屋台の人波へ 千賀健永
【夜店】
・百均は大人の夜店目に楽し   松原智恵子’
・夜店の灯言葉交わさず下駄の音 小宮璃央'
・君と見たかった夜店の灯に一人 白岩瑠姫(JO1)'
・ジャズを聴くモナリザに似た夜店の人 立川志らく

他にも、夏の催し物は様々。梅沢永世名人は【夏芝居】を思い出したそう。

【夏芝居】
・おひねりの飴よ硬貨よ夏芝居 梅沢富美男’

戦後、日本でも行われる環境が整った「ナイター」は、夏の季語として積極的に詠まれ、定着することとなりました。

【ナイター】
・ナイターの売り子一段飛ばし来る 梅沢富美男

そして、お盆や原爆忌、終戦の日などは、立秋を迎えた後なので、分類としては「秋の季語」とされますが、季語の分類上【夏】となるこの句を最後にご紹介いたしましょう。

・固きベンチに影と張り付く夏の駅 筒井真理子

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【動物】

続いて動物のパート。春の季語となっている動物が、夏に入って別の季語となるケースから見ていきましょう。

【老鶯(ろうおう)】
・老鶯や墓前の莨(たばこ)と缶コーラ 筒井真理子

初夏を過ぎても鳴く鶯(うぐいす)が「老鶯(ろうおう)」です。

そしてもちろん、夏に見かける動物たちの多くが季語となっています。

【あめんぼ】
・蹲のあめんぼ揺らす零雨かな 鈴木光
・プール開き前のプールを水馬 藤本敏史'

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蛙も種類によって、生態や鳴き声も様々。しかし蛙の鳴き声が聞こえると、グッと夏が来たという印象になります。

【蛙】
・白線や蟾(ひき)みじろがぬ雨後の夜 中田喜子'

【雨蛙】
・子の傘に透ける窓あり青蛙 梅沢富美男

夏は好かれる動物だけでなく、虫も活動的になる時期。こんな“あるある”を詠んで特待生昇格を決めた女性2人の句を続けて紹介しましょう。

【ががんぼ】 蚊蜻蛉、蚊の姥
・ががんぼのゆくえ目で追う女子トイレ 皆藤愛子

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【カナブン】
・カナブンに撃たれて起きる郷の駅 光浦靖子
【蛾】
・蛾の骸掬うポイントカードの端 村上健志'

ただ、夏の昆虫の代表格といえば、やっぱり【カブトムシ】でしょう!
夏休みの自由研究などでも選ばれがちなものは、俳句でも良く登場します。

【甲虫(かぶとむし)】
・ずぶ濡れのシャツより甲虫取り出す 中田喜子’

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鳴き声で大きな存在感を示すのが【セミ】でしょう。

【蝉】
・朝まだき町家蝉しぐれのボレロ   梅沢富美男’
・蝉歌う僕らの「さんぽ」の歌にのせ 北山宏光’
・蝉の声怖くて父の背に隠る     峯岸みなみ'

そして、蝉の抜け殻のことを【空蝉】と呼んで、別の季語の扱いです。

【空蝉(うつせみ)】 蝉の殻、蝉の抜殻
・空蝉の転がるベンチ海の駅   中田喜子
・今日も空蝉を拾らふだけの朝か 立川志らく
・ふるさとが我が子育てよ蝉の殻 勝俣州和’

耳で夏を感じる【蝉】に続いては、目≒光で夏を感じる昆虫の【蛍】です。

【蛍】
・ポイントでもらつた蛍なほいきる 東国原英夫'

また、昆虫と共通点・相違点がそれぞれある【蜘蛛】も、夏の季語です。

【蜘蛛】
・謎解きの頁に蜘蛛は果ててゐる 森口瑤子
・新品の靴よりちび蜘蛛のギラリ 的場浩司'

昆虫以外にも夏の生物の季語は沢山。“とかげ”も“やもり”も爬虫類ですね。

【とかげ】
・石段を帰る石竜子や星一つ  松岡充
・老猫や背筋を伸ばし視る蜥蜴 東国原英夫
【やもり】
・百円玉とヤモリがオレの守り神 東国原英夫

炎天との季重なりであり、ミミズをカタカナ書きしていて、季語の力は殆ど死んでいますが【蚯蚓】も夏の季語です。

【蚯蚓(みみず)】
・炎天のミミズ 診察券のシミ 立川志らく

【植物】

夏の植物の季語のうち、まずは「全般」的なものから。
初夏の若葉の頃を指す【新緑】は、「新」の字の印象が分かりやすいです。

【新緑】 緑、緑さす
・鎌倉の新緑すくう柄杓かな   髙田万由子’
・高尾山新緑歩むハイヒール   井上裕介
・扇川また見失い緑さす     村上健志
・飛び込みの波紋広がりゆく木陰 東国原英夫
【若葉】(若葉風)
・若葉風 寝言は母国語の庭師    村上健志
・若葉風部下にあわせるタコライス 柴田理恵’
・百円でケンカしたよね若葉風   柴田理恵'

【青葉】とすると新緑や若葉よりも少し青緑色の深まった印象でしょうか。

【青葉】
・窓外を300km/hで青葉行く カズレーザー
(窓外300km/hの青葉青葉)

王安石の詩に登場する表現を用いる形で、“中村草田男”が詠んだ名句である「萬緑の中や吾子の歯生え初むる(1940年作)」によって季語として一気に定着することとなりました。

【万緑(ばんりょく)】
・万緑に提げて遺品の紙袋  春風亭昇吉
・万緑や風巻き込みて轟く水 梅沢富美男’
・万緑を穿つや赤き列車来ぬ 梅沢富美男’

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【草茂る】
・草茂る洞窟のこと他言せず 東国原英夫

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春、花を満開にした桜は、夏、【葉桜】に変わって季語となります。

【葉桜】 桜若葉
・葉桜やグラスに融氷のかすか 北山宏光'
・廃校の風に葉桜たたずめり   柴田理恵’
・花は葉に彼女は匂はしき妻に  岩永徹也'
【若楓(わかかえで)】
・台本を抱いて車窓の若楓 東野絢香'

続いて、梅沢富美男永世名人が、昇格後初めて「掲載決定」となった一句。

【桐の花】
・桐の花いつかは来ない紙袋 梅沢富美男
【花栗(はなぐり)】
・ツアーロゴ張り付く花栗の真昼 北山宏光'

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そして、夏、特に梅雨の時期を印象づける花を紹介しましょう。プレバト!!でも何度も兼題として登場している【あじさい】です。

【紫陽花】
・あじさいや三日続けて昼は蕎麦  武田鉄矢[優]
・紫陽花が綺麗ね今日はバスチーを かたせ梨乃'
・紫陽花の迫る車窓や待つは海   今井華
・紫陽花の蒼きよ雨にはぜる蒼   梅沢富美男'
・紫陽花の泡立つ車窓午後の雨   梅沢富美男
・爪音や紫陽花火照る白日夢    三田佳子
・土砂降りのシャッター通り濃紫陽花 山口真由
・傘とりどり紫陽花寺に吸い込まれ  立川志らく’

今度は梅雨明けの真夏の季節を象徴するような花である【ひまわり】です。向井真理子・特待生が、初登場で83点という高得点を叩き出した優秀句は、発表から5年近く経った2020年に、優秀句としてベスト50入りを達成。

【向日葵(ひまわり)】
・向日葵の波に逆らひ兄逝きぬ  向井真理子 [優]
・ひまわりや廃線沿いのラーメン屋 横尾渉 [優]
・仏壇の向日葵までもくたばりぬ  森口瑤子
・ひまわりの瞳まばゆし学ぶ日々  安藤美姫'
・向日葵の真下僕らの秘密基地   井上裕介’

「箱根」を兼題とした回で、偶然2人の中田さんが選んだのが【箱根空木】の花。この植物に限らず、「花」と明記しないと季語にならないものがあるので、そこへの注意は怠らずに。

【箱根空木(はこねうつぎ)の花】
・雨後の空箱根うつぎの咲う径 中田喜子’
・箱根空木咲く登りきし君の頬 中田有紀’

そして、番組史上の最高得点、1位(88点・杉山)、2位(85点・又吉)を叩き出した2014年の伝説の回に披露された2句です。

【水芭蕉】
・空の底強き風恋ふ水芭蕉  杉山愛
・号令も風となりけり水芭蕉 又吉直樹

植物の最後に紹介するのが【藻の花】です。綺麗な川などに、“さやさや”と生えている藻の花。名前があったんだ、と知る方も多いかも知れませんね。

【藻の花】 花藻
・ペットボトル冷えて藻の花さやさやと 梅沢富美男’

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【食物】

まずは「初」が付く夏の季語から、海の夏を想像させる季語【初鰹】です。

【初鰹】
・縁側の父よ初鰹の頃か 河合郁人

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次は、自由研究などで夏野菜を育てた経験のある人もいるかも知れません。この句では「夏野菜」としては季語ではない(夏が季語という扱い)ものの、イメージしやすい句かと思います。

・夏野菜もぎて紙袋の重さ 髙田万由子’
【トマト】
・カレーにトマト浮かべて夏昼の鮮やか マヂカルラブリー村上'

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【玉葱(たまねぎ)】
・玉葱やこの人結局死んじゃうの 東国原英夫
・玉葱を刻む光の微塵まで    梅沢富美男

香木の伽羅(きゃら)のような黒色に染まっていることから【きゃらぶき】と呼ばれる、「野蕗を醤油」などで煮付けた料理。

【きゃらぶき】
・段葛 きやらぶき弁当かかへゆく 中田喜子

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果物の中には、夏の季語になっているものもあります。現代では、「春」の印象もある「苺」は、路地ものは少し季節が下って「初夏」の頃に、赤く、そして甘くなります。だから夏の季語に分類されてきました。

【苺(いちご)】 (!)季節注意
・住み込みの夜のケーキの苺かな IKKO
・とぅるとぅるの求肥に透けている苺 千原ジュニア

一方、「桃」は秋の季語ですが、「早桃」は夏の季語となります。

【早桃(さもも)】
・デザートは早桃支援の食事券 中田喜子'

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植物に由来する飲食物の中でも強く夏の思い出が蘇る【麦茶】。味、匂い、色すべてが俳句の材となりましょう。

【麦茶】
・補助輪を外し三周麦茶の香   河合郁人
・凍りたる麦茶逆さに溶かし飲む 鷲見玲奈’

飲み物を季語に採録するかは、歳時記によっても見解が分かれますが、この【サイダー】は明治時代には作られ、戦前から庶民に親しまれていたこともあり、現代の歳時記の多くに夏の季語として収録されています。

【サイダー】
・三ツ矢サイダー三島由紀夫の覚悟 立川志らく

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【ラムネ】
・うたた寝の本をラムネに濡らしけり 宮田俊哉'
【レモン水】
・1000本ノック浴びし日のありレモン水 馬場典子’

勿論、味の付いていない【氷水】も、夏の季語。味が付いておらず、甘みがつけられていないことで、他の飲み物との差別化が図られています。

【氷水】
・決戦の熱冷めやらぬ氷水  土屋太鳳
・氷水に匙直立すライスカレー 梅沢富美男'

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そして、思わず「夏」を感じる食べ物【かき氷】です。

【かき氷】
かき氷密かに崩す銀河の夜  千賀健永
・かき氷思ひ出に色加へたり  岩永徹也’
・路地裏の記憶をたどるかき氷 徳光和夫
・削氷の音や光れる波に消ゆ  中田喜子’

それに関連して【白玉】も夏の季語になっています。

【白玉】 氷白玉、白玉ぜんざい
・氷壁崩落 白玉を掘り出す 三遊亭円楽

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【アイス】や【氷菓】の方が、平成に入ると、コンビニなどで買えて身近な季語になってきているかも知れません。

【氷菓】 氷菓子、アイスキャンデー
・八月十五日 アイス溶け続け    立川志らく
・スイカバー隣に君のいない海   春風亭昇吉
・リハ帰りのプラットホーム氷菓子 朝日奈央
・八合目のドラム缶風呂シャーベット 横尾渉
・手に氷菓 なかなか終わらない電話 玉森裕太'
・甥っ子が仕舞うアイスの当たり棒 篠田麻里子
・毒々しと思ふ氷菓も人も吾も   森口瑤子
・氷菓ぎっしりアンディウォーホルの色彩 北山宏光
・真夜中のアイス愛するキミ愛す  藤ヶ谷太輔'
・朝の牧場仕込むアイスのバニラの香 千賀健永'
・溶けてゆく ソフトクリーム・雲そして 嶋佐和也'
・落ちたバニラ職蟻たちのフェロモン ミッツ・マングローブ
・イートイン氷菓の子らのカルキ臭 藤本敏史


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【おわりに】

ここまで「プレバト!!」で披露された俳句の中でも、夏の季語、そして夏の空気感を共有できる句を中心に『ネット歳時記』の体裁にしてみました。

続編となる〔秋〕分冊も作りましたので、↓ こちらからお楽しみ下さい。

俳句初心者にも馴染みのある季語を中心に収録する恰好になりましたので、ぜひ作句時などにご覧頂ければと思います!

それでは、貴方と同じ「プレバト!!」から俳句に興味を持った初心者:私(俳号:Rx)でした。ではまたっ!


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