宇露戦争雑感

繁栄の足元に埋もれた敗者の死

まず最初に、戦争、ことに侵略戦争とは何かという議題がある。

他国の領土が持つ、地形的利点や、資源、そもそも領土、つまり土地、その他いろいろを、我が物にせんとして、武力で奪い取る行為。
ひとのものを奪ってはいけない。ましてや暴力で奪い取るなどもってのほか、というのは、今や日本に住む私、それに、私達と呼べるだろう大多数の人間にとって、当たり前の感覚だと思う。
けれど、人類有史をさかのぼれば、国というものが勢力を大きくするのは、およそ例外なくこの侵略戦争によるもののはず。
他国（今は自国になっている多くの小国）を戦って倒し、勝てば官軍で手に入れた繁栄の上にのうのうと生きている。

これを、歴史に出遅れ、貧しい自国を繁栄させようと打って出た国（が、あるとして）に、指さして指摘された時に答えられるか。
「自分たちは獲るだけ獲って気が済んだからって、同じことをする後発者を、人道だのといって止めるのは都合がよすぎる」と言われて、反論できるか。

たとえ、答える言葉がなくとも、それでも「それでも駄目だ」と言わなければいけないのだと思う。
指をつきつけて言われてはじめて「そういえばそうだった！」とならないために、自分は正しくて相手は間違っている的な、無思考の前提正義一般人であってはまずいなと、噛み締める。

民主政治と一般市民への攻撃

ちょっと病み始めてるなと思うくらい、毎日ウクライナとロシアについてのニュースをついつい見ている。
起きていることの悲惨さは言語道断で、こんなことは早く終わって欲しいし、しかも自国のことを考えれば、ロシア現政権には、次は自分が…と、よからぬことを考える国が「ああはなりたくない」と再考せざるを得ないような終わり方をしてもらいたいところだけど。

侵攻がはじまったかなり早い段階から、日本に住むロシア人やロシア文化に対する攻撃があるのが本当に、本当に心の底から残念に思う…
そうやって、口実さえ与えられれば関係のない一般の人をいそいそ攻撃しにいく、その発想こそが、どんな国で戦争があっても、どこかで虐殺が起きる原因だわ、と脱力する。
平時だろうが戦時だろうが、一般市民を攻撃してはいけないし、何なら日本は平時なのだから、相手が犯罪者でも殴ったら傷害罪だ。
法的な問題ではなく、暴力は悪であるというのは、この“考え方”だと思う。

侵略戦争を始めた国だろうが自分の敵国だろうが、一般人を攻撃してはいけない。
虐殺に関わった兵士達は、今のあなたと同じ顔をしていただろうに、くらいは思っている。本当に。

それと、プーチン大統領を選んだのはロシア国民なのだから、国民すべてに責任がある、と、主張するのはいいけども、今のロシアに異を唱えているロシア人に鬼の首でも取ったように言い散らかすのも、見ていて恥ずかしい…
この、色々問題はあるとはいえ、一応はれっきとした民主制の国なのにクソザコ投票率の日本人が、今まさに民主制を踏み躙られた独裁制に抵抗の意を示している彼らに、したり顔で民主制を説くの、ほんとにほんとに恥ずかしい…
どうしてもロシアに民主制を説きたいのであれば、話すべき相手はプーチン政権の支持者だし、それがもっとも多くいるのは日本ではなくロシアのはず。
ロシアに行って一軒一軒戸口を叩いて今と同じ主張をすれば、それは本当にほんの少しかもしれないながら、プーチン政権に傷をつける効果があるかもしれないから、できるならやればいいんじゃないかなと思うけど、できないにしても、せめて相手を選んではどうだろうか…

それに、投票制である限り、政策の悪も国民の責任だというなら、北方領土が戻ってこないのも、消費税増税も、他国にさらわれた人が帰ってこないのも、離島領土に侵入されまくるのも、国民の責任かと。
それは政府のせいで、プーチンの決定はロシア国民のせいだと言ったら、ダブルスタンダードにならないか。
普通に、そんな簡単な話ではないと思う。

わたしたちの国の行く末

雑感なので特に結論もないのだけど。
ソ連の首長として知っている最初の名前はゴルバチョフというくらい古い人間の私から見て、プーチン大統領が、ここまであからさまに失敗し、隙を見せるのは初めてのように感じる。
ロシアにとっては、もしかしたら（無責任は承知の上で）脱プーチン、脱独裁制の千載一遇の（二度はないかも知れない貴重な）チャンスなのかもしれない。
日本在住のロシアの若い女性が、侵攻があって間もない頃「わたしたち終わったかもね」と言い合ったという胸の痛むようなツイートが記憶に残っているのだけど。
未来はあなたたちのものだし、重いに決まっているけど、あなたたちがどうするかで未来は決まっていくものなので、愚かな老害たちに負けないで、どうか頑張ってほしい。

というのは、実際、現実的に他国の話だ。
日本に山積する問題は、他国の戦争がどう動いても別に解決しない。悪化することはある。
でも、そうだなあ…
今回のことを身に引き寄せて考えるとしたら、自国の政治を国民があきらめることはこんなに怖いということだと思う。