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資本主義社会のすきまに咲く『聴く』の可能性

投資家はいつも、社会の未来を見ている。2021年早々、そんな言葉を耳にしました。では投資家はどうやって、未来を見ているのでしょう?

エール株式会社では、2020年12月、はたらくFUND(新生企業投資グループ及び一般財団法人社会変革推進財団が運営)と株式会社アカツキを引受先とした第三者割当増資により、2億円の資金調達をいたしました。

エールが掲げている「聴く価値」について、投資家たちはどのように思っているのか。「聴くこと」が、社会の未来にどうつながっていくのか。なぜ、投資をしたのか。投資家の見る「聴く」の可能性を3社に投げかけてみました。

投資を通じて社会的リターンも経済的リターンも追求する

「投資先と共に汗をかき、事業の創生と成長を支援します」――新生企業投資が掲げるビジョンです。銀行系投資会社として、規律ある合理的な判断のもと投資を行っています。ベンチャー企業の成長をサポートする「ベンチャー投資」、事業継承を軸とした中堅中小企業への「バイアウト投資」を中心に、グローバルに事業展開しています。そうした中で、同社は2017年1月から邦銀グループとして初のインパクト投資ファンド(通称:子育て支援ファンド)を立ち上げ運営をスタート、2019年6月には2号ファンド(通称:はたらくFUND)を設立し、多くの機関投資家を巻き込みながら、日本におけるインパクト投資のエコシステム構築を目指しています。

今回のエールへの出資も「インパクト投資」として実行されました。そこで、投資担当者の高塚さんと山田さんに、お話をうかがいました。インタビュー動画とともにご覧ください。

――「インパクト投資」とは、どのようなものなのでしょうか?

山田さん:新生企業投資は、社会課題を解決するという社会的なリターンと、経済的リターンの両立を目指す投資スタイルで、「社会課題解決型のベンチャー企業」に対する投資を行っています。また、2号ファンドである”はたらくFUND”では、投資を通じた「多様な働き方・生き方の創造」を目指しており、「子育て」「介護」「新しい働き方」関連の事業領域で事業を行う企業を主な投資対象としています。

高塚さん:社会課題を解決するには、国からの補助金や寄付だけでは限界があり、民間資金のさらなる活用が求められます。インパクト投資はあくまで「投資活動」ですが、課題解決するべき分野へのお金の流れをつくることで、社会的リターンと経済的リターンの両立を実現しようとしています。「社会をより良くしたいという明確な意図を持った会社を応援したい」という投資家が増えれば、より素晴らしい世の中になっていくのではないか・・・そんな想いのもとに立ち上がったのが、当社のインパクト投資チームです。保守的なイメージの強い金融機関である「邦銀系グループ会社」から世の中を変えていこうとするのは一つのチャレンジですが、新生銀行グループとしても、昨年12月に「ESG特化型銀行」を目指すと宣言し、この分野に注力しています。

――その「インパクト投資」に、エールが選ばれたわけですね。YeLLの第一印象はいかがでしたか?

山田さん:エールは、「人が自分らしく生きること、働くこと」ことを肯定してその理念を広げていく革新的なサービスかもしれないと思いました。現在1on1ミーティングをやる会社が増えていますが、基本的には企業の中で「上司と部下が行なう」ものなので、本音が話しづらいといった課題も理解できます。そのような中で、YeLLの「相性のいい第三者をマッチングし、本音を言える関係をつくっていく」というコンセプトに新しさを感じましたし、すでに800名以上のサポーターが集まってサービスを提供していたこと、大手企業への導入実績があり継続率が高い点にも可能性を感じました。エールの「聴く」という提供価値やビジネスモデルは独自性を感じさせるものであり、最初にお話を伺ったときから気になっていました。

世の中に隠されている課題に目を向ける

――なるほど。ではエールのサービスや「聴く価値」についてご理解いただけた背景には、どのような理由があったのでしょう?

山田さん:貴社の個人や企業のお客さまの満足度の高さはデータでも拝見していたのですが、実際に「聴くこと」「聴いてもらうこと」で何が起こるのか、その価値を体感できたのは実際にサービスを使ってみてからです。相性のいいサポーターさんに毎週30分話を聴いてもらうことによって、自分がどう在りたいか、自分の仕事とどう向き合いたいか、将来どのようになっていたいかなど、短期間で思考が深化されていくことを実感するとともに、「誰かに話を聴いてもらい、応援してもらえることが、こんなにも人の心を前向きにするんだ」と驚きました。この「聴く価値」は、インパクト投資の主軸である「社会的リターン」ともつながります。メンタル不調やリモートワーク下でのコミュニケーション不全など、今起こりつつある社会問題を解決できるかもしれませんし、悩んでいない人でもさらに自分らしい在り方に近づけるのではと思いました。

高塚さん:「困っている人がたくさんいて、今すぐにでも手を差し伸べないと命が危ない」といった社会課題ならば、ニーズもわかりやすいですよね。ただ働く人たちが抱えている”困りごと”は、人それぞれで見えにくい。一方で、きちんと対応していかないと、ただでさえ労働人口が減少していく日本において、またリモートワーカーが増えてお互いが物理的に見えにくくなっている中で、社会全体が沈んでいってしまう恐れがあります。顕在化している「保育所不足」といった課題への対応も不可欠ですが、より根本的に、もっと働き方が柔軟になったり、家事代行サービスが普及して家庭の在り方が変化したり、そうした複数の対策が積み重なっていけば多様な人材の活躍がもっと進むかもしれません。社会課題解決に単独のソリューションがある訳ではなく、複数レイヤー(層)で対応していくイメージです。「聴く価値」もそうしたレイヤーの一つであり、働き方への意識を変えていく上で必要だと感じました。潜在的な課題を掘り起こして解決に導いていける。その可能性を「聴く価値」に感じました。

――エールへの投資は決してローリスクではないと思います。その上で、エールに投資する経済合理性をどう判断されたのですか?

山田さん:経済合理性を考えるときは、リスクとリターンのバランスが取れているかを確認します。「聴く価値」が経済的リターンに結びつくのか、顧客企業が拡大していくかという点に対して、すぐには答えが出ませんでした。そこで人的資本に着目する世界的な潮流や、国内上場企業の組織開発の動向など、まずは経済的リターンの背景となる外部環境情報を徹底的に調査することから始めました。その中で、エンゲージメントサーベイやモチベーションサーベイを行う企業が国内で年々増えていること、そこで課題が表出した企業にとって、エールのサービスが解決策になりうることなどが確認できました。
また、エールのパートナー企業や実際にサービスを体験されているお客さまにヒアリングをして、YeLLのサービスへの生の声を聴かせていただけたことも役に立ちました。印象的だったのは、YeLLを使ってみた会社の方々が、今ではエールのファンになっていることです。「このサービスは、世間に広げないと!」と、エールの社員でもないのに熱弁されている方もいました。口コミでサービスの良さがどんどん広がっていて、何よりリピート率も高い。この反応の良さは、投資を検討していくうえで自信にもつながりました。
一方、サポーター人材の採用という面で、「兼業・副業人材の増加」もエールにとっての追い風と考えます。キャリアカウンセラー、コーチングなどの資格取得者は年々増えていますが、彼らが仕事として活躍できる受け皿はまだまだ整っていません。エールはその受け皿に十分なれますし、市場規模も高まりつつあります。
顧客ニーズ(需要)と、サポーター人材獲得(供給体制)の背景を理解できたことが、経済的リターンの合理性へつながったと思います。

高塚さん:ポイントは2つありました。「聴く」という行為自体は、とても抽象的で分かりにくい。「聴くって素晴らしい」というだけでは、投資はできません。「聴く?聴いてどうなるの?」という質問に答えられることが大事です。「聴く」ことで具体的に顧客のニーズにどう応えていくのか。あえて経済的な感じで言うと、マーケットや顧客のペインがどこにあると捉えているのか。顧客企業がYeLLのサービスを導入しようとする際の判断軸・差別化はどこなのか。これらの問いに対し、エールには「聴いた結果、顧客・組織はこうなったのか」という事例があり、またサービスの価値や方向性についても櫻井さんと篠田さんとの対話を通じて確認できたことが後押しになりました。
もう1つは社会性の検証です。今のエールが持っているリソースが、個々人の意識変容・行動変容にとどまらず、組織や社会のためにどう活かされていくのか。さらにそうした方向性が3年後、10年後の事業成長につながるサービス設計になっているのか。そうした点を詳しく伺って、社会的リターン・経済的リターンの双方がしっかりリンクしトレードオフにならないであろうと見立てることができました。社会課題解決度合いの拡大を目指すにあたり、経済合理性が比例相関する形で働くと思ったので、投資をしようと判断できたんです。

組織のエンゲージメントを高める優位性への注目

――素晴らしいチームワークですね。やはり最終的に「投資をしよう」と判断するには苦労されたのですね。

山田さん:ファンドの投資委員会をはじめ、YeLLのサービスを体験していない方に「聴く価値」を理解してもらうのは、とても難しいんです。そこでYeLLの1on1と「モチベーションや組織エンゲージメントの相関関係」について調べました。すると、YeLLで1on1を行なったユーザーのモチベーションやエンゲージメントは上がっており、より良いパフォーマンスが発揮されているという結果が出ていたのです。組織の状態を可視化するツールはこれからもどんどん出てくるでしょう。一方、可視化した後に「改善のために何ができるか」について大規模に支援できるサービス設計が難しい中で、エールの先行者メリットは活かせる。拡大するマーケットに接続できる強いサービスであることが説明できました。

投資検討の過程で特に思い出に残っているのは、経営陣である櫻井さん・篠田さんと行ったオンラインでの「半日合宿」。これからエールが何を目指すのかについて、今まで蓄積してきたデータをもとに話し合いました。そこで、「人材紹介会社を使って転職をする時、自分のキャリアについて振り返って話をするけど・・・仕事が決まればそれっきりだよね」という話題が出てきました。エールは「利害関係のない第三者が話を聴く」、それ自体に価値があるビジネスモデルです。職場や環境が変わっても伴走して個人を応援し続ける存在になれる。これってすごいことですよ。代えがたい存在になり得ると気づいた時に、未来がとても明るく見えました。

高塚さん:半日合宿は「エールの持つ社会性について、掘り下げてみよう」というテーマでじっくり考えました。篠田さんがおっしゃっていた「YeLLのサービスは賢者の盲点をついている」という言葉が、印象に残っていますね。今現在「賢者の盲点」をついて先行者として走り始めたエールが、引き続き先行者としてマーケットをどのようにリードしていくのか、エールにとって重要な課題だと感じています。すでにYeLLとして未来予想図が描けているので、実現できるはずですし、実現してもらいたいです。

――高塚さんもYeLLの1on1サービスを体験されていますが、いかがでしたか?

高塚さん:私はもともと「こうすれば上司との関係が良くなるよ」みたいな、ノウハウ系が苦手です。「どうすれば良くなるかは、人それぞれ」と思っています。今回は3回セッションを体験しましたが、当初は「3回で何が分かるのかな」と、正直やや疑問に思っていました。ところがセッションを終えた時にまず感じたのは、「聴いてもらう=自分が今、何を考えているかを改めて意識し、相手に伝えている」ということでした。”聴く”というのはあくまで切り口。自ら言語化しているうちに、「自分は、何があれば幸せ・成功体験と感じるのか」についての判断軸が自分の中から出てきたんです。こうした「聴いてもらう=言語化」をもし習慣化できれば、自分の中に既にあるけど気付いていない多様な発見があるかもしれない。仕事やプライベートで柔軟かつクリエイティブに発想していくことが求められる中で、「聴いてもらう」ことがその起点である「チェンジメーカー」になっていくことを実感しました。

サービス価値の「可視化」がビジネスの成功を左右する

――今後のエールにどのような期待を寄せていますか?

高塚さん:「自分たちもエールと同じ船に乗っている」という気持ちですので、エールの事業が目指すミッションの実現に向け、この船を一緒に前進させて大きくしていきたいです。そのために投資家として事業成長をサポートするのはもちろん、社会課題の解決をエールがどのように導いていくかについても、引き続き可視化していきます。エールに携わるすべての人が、「働く人のために聴き続けたい」という気持ちを持ち続けるためのお手伝いができれば嬉しいです。そうなれば、きっとエールが社会課題を解決できたという「インパクト」も評価・可視化できるようになり、その共有と共感が、エール自身のさらなる成長につながると感じています。

山田さん:同感です。YeLLのサービスは言語化が難しいからこそ、「YeLLを使ってユーザーや組織がどう変わったか」という指標が測りにくい側面も持っています。私たちが社会的インパクトを定量的・定性的に測定し、評価・可視化できるようになれば、営業活動の拡大や人材採用等にあたってより良い判断材料を提供でき、貢献できると考えています。私たちインパクト投資ファンドとしても、可視化が難しいビジネスを成功に導いていく一つの好事例とできるよう、お手伝いしていきたいです。

新生企業投資さん記事内写真


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