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読書メモ #4『春、戻る』瀬尾まいこ

『夜明けのすべて』が好きで瀬尾まいこさんの他の作品をなんとなく買ってみた。

帯に 泣ける! とあったので、泣くつもりで読んだけど、想像していた感じではなかった。
こう、ぶわっとくる感動ではなくて、徐々にあったかい気持ちになるような物語だった。

とにかく登場人物全員がいい人だった。
さくらも、山田さんも、さくらの家族も、おにいさんも。
年下なのに兄を名乗るおにいさんの正体はもちろん気にはなったけど、作中のさくらと同じように、別にいいかなとも思った。どんな背景があろうと、おにいさんの出現はさくらにも、山田さんにもプラスになっていた。

それでも最後おにいさんの正体がわかり、ふと表紙のイラストを見返した時にうわぁぁってなった。
おにいさんの服装や、後ろの観覧車や、そこに並んでいる人達に。
父親に認められたくて無駄な努力とも言える手品の練習をしていたおにいさんが、最後やっと救われた気がした。

おにいさんが自分の家庭環境や父親のことを徐々にさくらに打ち明けていくところは、私自身も両親や幼少期に嫌な記憶があるからか、泣きそうになってしまった。
つい自分の家庭環境を照らし合わせて、おにいさんの父親をぎゃふんと言わせるような展開になってほしいと思ってしまったくらいだ。
結果そうはならなくて、むしろ、おにいさんの両親はすごく愛に溢れた人だった。
だからといっておにいさんが幼少期に感じた圧力が嘘だったわけでないと思うけれど、少し時間を置いて離れたとこから見てみたら、私の両親も私が思うほど悪い人では無いのかもしれないと、そんな期待をしている。


あと単純だけど、和菓子が食べたくなった。
結局水まんじゅうは自宅で作れるのだろうか?

あの時間だけで妹だと思えるおにいさんには正直驚かされたけど、あの日がそれだけ重要なものだったということが同時にわかる。
ずっと開けられなかった扉を開けてくれるのは、案外初対面の人だったりするのだ。

校長先生のさくらに向ける感情が本当に美しい。
田舎特有の人間関係なのかもしれないが、6年間も気にかけてくれているなんて、校長先生自身の温かさとしか思えない。

ワクワクしたりハラハラしたり、そういう展開ではなく、ひとつの大きな疑問点がありつつもなぜかそれを受け入れることができる不思議な物語だった。

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